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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


魔道の遺産

■オープニング

 編集長のデスク前。
 呼び出された面子は編集長から、折り入って…の話を聞かされていた。
 …珍しい事に、取材命令と言うより、調査の依頼である。

 曰く、月刊アトラスの愛読者だったと言う御主人を亡くした未亡人からの電話が朝方にあったのだと言う。その電話によると、御主人の遺品の整理をしている最中、あまりにも恐ろしくなったので藁にも縋る思いでアトラスの編集部へと連絡を付けて来たらしい。…確かに、アトラス自体は世間的には些か際物に含まれる系統の雑誌だが、その出版社である白王社は月刊アトラス以外の出版物でも充分に社会的認知度のあるそれなりのところと言える。だからこそ彼女の方も連絡を付けてみる気になったのだろう。
 ともあれ、遺品の整理中、あまりにも恐ろしくなった、と言うその理由、内容の方だが。
 …勿論、怪奇雑誌である月刊アトラスの編集部に縋りたくなるような類の話である。
 曰く、何やら御主人の遺品の中から呪物の類と見られる物が次々出て来たとの事。それも…怪しげな文字が綴られた小箱、その中に乾涸びた何かの小動物や虫の死骸。蚯蚓がのたくったような文字が書かれた、呪符の類と見られるお札に…それぞれ別の人間の物と思われる頭髪らしき物が数本。見慣れない、彼女の夫が使っていた物とは到底思えない装飾品や日用品小物の類が幾つか。
 そして、見知らぬ人が撮影された写真が数枚。男女の別も年齢も様々。それらすべての裏に彼女の夫の筆跡で、それぞれやっぱり知らない名前が書かれている。写されている人物のものと思しき名前。また、写真の人物を調査したような、確りしたプロフィールが書かれた紙まで出てきた。
 不気味ながらも、何だろうと思い彼女はその名前の相手に、連絡を取る事を試みた。
 が。
 …連絡を取った時点で、その名前の人物の殆どが、亡くなっている事が判明した。
 それも、時期は統一性も何も無いが、すべて急死で、死因は心不全――とは言え死んだ人間の最終的な死因として心臓が止まる、と言うのは至極当然の事でもあり――即ち、本当は死因不明だったと言う共通点がある。
 その時点で未亡人の彼女は恐ろしい考えに辿り付く。
 …自らの夫が呪いを用いて、彼らを殺していたのでは無いか、と言う考えに。

 夫は優しい人だった、絶対にそんな大それた事が出来るような人じゃなかったんです、と電話口では震える声だったとの事。…ちなみに仕事は特に目立つ事の無い中小企業の会社勤めだったと言う。
 自分の考えが間違っているかどうか、本当に呪いで人を殺す事は可能なのか――そうは言っていても、本心では彼女は否定して欲しくて、編集部に電話を掛けて来たらしい。

 そこまで伝えると、編集長である碇麗香は、はぁ、と溜息を吐く。
「…そんな訳で…彼女に対して否定してあげたいのは山々なんだけど、これ…詳しく聞けば聞く程『本物』みたいなのよ。となると、うちで手に負えるような話じゃなくなってくるのよね」
 しかも、事件になってない事件な訳よ。怪奇絡みの。
 ならば――取材したとしても記事に出来ない可能性の方が俄然高くなってくる。が、だからと言ってアトラスの人間である以上そう簡単に放り出すのも気が咎める類の話。内容自体もそうだが、既に死亡しているとは言え我等が親愛なる月刊アトラス愛読者様の遺した品に絡む事、その愛読者様の奥さんからのSOS、となれば。

 …但し。
 碇麗香にしてみれば、この件でそれ以上に気になる事がある。
 それは…杞憂だと言われるかもしれないとは思う話だが。
 そしてこの杞憂と言われそうな事こそ、SOSのコールをして来た奥さんに到底言える訳もない話。

「…それからここが一番気になるんだけど、遺品の中に『楓か何かのような、五つに先が分かたれた葉の形が中に描かれた円』、が記してある物もあったらしいのよ」
 そうなると、ただの…と言うのも語弊があるけど敢えてそう言う事にするわ。そう、ただの呪術による連続殺人事件――それ以上に危険な可能性が思い付かない?
 …五つに先が分かたれた葉が中に描かれた円――それはまるで、『虚無の境界』により東京二十三区全域を覆うように敷かれたと思われる――用途不明の巨大魔法陣を連想させる紋様の。
「で、それの持ち主と思しき人物は――我らが月刊アトラスの愛読者だった、って言う訳」
 …これって、私の考え過ぎだと思う?



■調査の前

「うむ。考え過ぎだ」
「…きっぱり言うわね」
「無論。面倒臭いからな。物事はなるようになる。考え過ぎても良い事はない。もっと気楽に生きるが良かろう」
「…。…変に含みを持たせて悪かったわ。今論点にしたいのはこの件が『虚無の境界』が関係するかどうかと言う点なんだけど」
「そうかそうか『虚無の境界』が関係するかどうか、か…『虚無の境界』ねえ。…根本が根暗で好かんのだよな。もっと人生は謳歌せんと。…そもそも呪い自体が好かん。そんな面倒臭い事はやらないに限る」
「…『虚無の境界』や呪いそのものについて貴方がどう思っているかを聞きたい訳でもないのよね」
 はぁ、と溜息を吐きつつ碇麗香は思わずがくり。彼女のデスク前に居るのは二人――麗香と何だか噛み合わない遣り取りを続けていたのはその片方。いまいち性別の見当が付け難い程度の容貌に背丈で、体型でもあんまり区別が出来ない程度に細身のちょっと風変わりな人物――ラン・ファー。
 ぱたぱたと扇子で自分に風を送りつつ、何を絶望している? といかにも不思議そうに、がくりと項垂れた麗香の貌を覗き込んであっさり訊いている。…自分の反応のせいだとは思っていない。
「人選誤ったかしら…」
 頭痛でも堪えるようにこめかみを押さえて呟く麗香。…それは各方面の伝手を捕まえる為あちこちに電話を掛けたのは自分――斡旋業をしているなら何かよい伝手もあるだろうと思いこのランにも電話をしたのは自分。そう、確かに自分だが、そこで話をしたら…何故か斡旋業者当人が目の前に現れ、好き放題首を突っ込んでくると言う結果になっている。
 出している固有名詞や話題の方向からして、ランは誰かに伝手を付けアトラスに送り込んでくるのではなく自分でその調査に赴こうとしているのも何となくわかる。だがいまいちそのつもりなのかどうか確証がない…と言うかそこまでまともな話題にまだ辿り着いていなかったりする。…まぁ、このままでは済し崩しに一緒に調査となりそうだが。
 こうなるとラン以外のもう片方、フランスで店を持ち古書肆をしている魔女の方に期待を掛けるしかない――そう思った麗香の心を読んだようなタイミングで、デスク前に居るそのもう片方、白金色の髪を活動的に後頭部で結い纏めた二十代中頃と思しきパンツスーツ姿の女性――アデール・バラティエが口を開いている。
「何はともあれ、編集長の仰る通り確かに気になるお話ですわね。…特に、ご主人も亡くなっている事が気になります」
 ぽつりと言いつつ、考え込むように口許に指を当てている。
「死因を問うのは憚られるけれど、確かめなくてはなりませんわ。…そう、亡くなっていた方々と同様に心不全であったなら…」
 むしろ集団で呪術を行っていて、ご主人はその中の一人だったと言う可能性もありますわ。
 そんな中で、直接術式としてではないにしろこの魔法陣が残されていたとなれば…『虚無の境界』が何か大事を成す為に作った仕掛けと言う事も?
 そこまでアデールが呟くと、そうね、と麗香も同意する。
「集団の中の一人…そういう事もありうるわね。そこに気付くなんてさすが魔女だけあるって言ったら失礼かしら?」
 最後、悪戯っぽく、麗香。
 アデールはそんな事ありませんわと柔らかく微笑みを返す。
「いえ、構いませんわ。立場上、色々とその手の話が耳に入っては来る事は確かですもの――古書肆としてでも魔女としてでも。…ただ、魔女術には呪殺のような恐ろしい目的の術はありませんけどね」
「だから失礼かと思ったんだけどね。…でもオカルト系の古書肆だからと言うなら私だって怪奇雑誌の編集長な訳だし思い至らなかった事が何だか悔しくてね。ごめんなさいねアデールさん?」
「いえいえ。きっとその負けたくないと言う心意気が素晴らしい記事を生み出すのですわ。それが欠けては麗香さんらしくありませんもの」
 にこにこと続けるアデール。
 そこで、さて、とばかりにランの扇子がぱたり、と閉じられる。
「…にしても、呪いのみならず集団でやっている可能性とは…この梅雨空で鬱陶しい中更に鬱陶しい話だな…性根まで湿気ってそのまま腐り落ちてしまいそうだ。…時に魔女術とやらには呪いが無いと言ったが?」
「それは――人を殺すような恐ろしい呪術は行わない、と言う意味ですわ。魔女は物事を良い方に持って行く為のおまじないとか、薬の調合とかを旨とします。…童話や御伽話に出てくる「善い魔法使い」、の方のイメージと近いと思いますわ」
「ふむ。それなら楽しそうだな。…今度是非とも空を飛ぶところを見せてくれ」
「そうですわね…そういうイメージの絵が描かれたカードがあれば可能ですけれど…残念ながらそうでないと難しいですわ」
「難しいか…なら箒で空を飛ぶ魔女の絵が描かれたカードでも今度探しておこう」
 そうしたら飛べるな?
「ええ。その時は私の後ろにランさんを乗せて飛ぶ事も出来ますわ」
「おお、本当か。それは楽しみだ」
「楽しみにして頂けるなら幸いですわ」
 また、にこり。
 と、ランとアデールの二人は少し別の話題に花を咲かせてから、再び元の話題に立ち戻る。
 …何にしても――この懸念が確かなら、止めなくては。
 アデールはそう呟き、更に思考を巡らせる――デスク上に置かれたメモを眺めつつ。そのメモの内容は、麗香が依頼人から受けた電話の内容を取り敢えず書き付けたもの。呪物とその関連らしき遺品についての簡単な説明や、依頼人の思う疑惑の内容、調査して欲しい事、依頼人の連絡先。…電話口の声の調子からだけだが、麗香に感じられた依頼人当人の印象。ランもアデールと一緒に覗き込んでいる。…このラン、言動からしてあまり普段は意識しないが、黙っているところを見る限り結構美形な人物と言えるのかもしれない――黙っている時でもなければ恐らく誰にも気付かれないだろう。
 と、その背後からぼそりと声が掛けられた。
「…何やってんだ?」
 その声の主は――そこに現れたのは赤Tシャツの上に前の開いた学ランを引っ掛けている高校生程度の学生らしき少年と言うか青年。その服の着こなしに言葉遣いや不揃いな髪型もあってかややワイルド…と言うか粗野な印象。写真屋で現像して来たばかりの写真入りと思われる薄っぺらい紙袋を片手に編集長のデスク前まで歩いてくる。
 現れたその人物を認めるなり、編集長はちょうどよかったとばかりにぽむと手を叩く。
「…貴方って不動神祇陰陽宗家の後継者だったわよね」
 つまり日本系呪術のエキスパートになるとある一族の後継者。
「? それがどうかしたか? …つぅかこれ買うよな? 適当にその辺の連中降霊して撮った写真なんだけどよ」
 言いながら彼――不動修羅は、持っていた紙袋の中身を断りも無く麗香のデスク上にばらり。
 広げられたそれを計らずも視界に入れた途端、まぁ、とアデールが口を押さえて感嘆している。
「これ…どれもこれも随分と写りのいい心霊写真ですわね。…霊の姿をそれとわかるように綺麗にフィルムに残すのはなかなか難しいんですのよ。凄いわ!」
「そりゃまぁどれも本物だし被写体当人にも確りモデル頼んでっからな」
「ほう、お前はなかなか人生を楽しんでるようだな青年。『虚無の境界』のような根暗なのより私はこの方がいい。ずっといいな。うん」
「…何だあんた?」
「ん? 私か、私はラン・ファーと言う。ただの学生アルバイトから万屋、人外までありとあらゆる人材を需要に合わせて人から人へ斡旋する事を崇高な趣味としている者だ。…そう訊くお前は何者だ?」
「…。不動修羅ってんだけど。…高二の学生で降霊師兼業。つまりは今さっきここの編集長が言った通りの肩書きなんだけどな…ってどうだ編集長サマよ?」
 心霊写真の件。
「取り敢えず後にして」
「買うっつー事でいいんだな?」
「…まぁ貴方の持ち込みの場合外れがないのはわかってるけどそれぞれ検証記事も付けないと記事の役には立たないし金額については要交渉。それよりこっちを先に解決したいのよ。…どうせ小遣い稼ぎなんでしょ、手伝ってくれたら買い取りにも色付けるわよ?」
「その『先に解決したい』って件が今騒いでた話か?」
「そ。取材にはならないんだけど、うちとしてはあまり放っとけない電話貰っちゃってね」
 いいながら麗香はデスク上に広げられた写真の下からランとアデールに見せていたメモを取り、修羅に差し出しつつ改めて説明する。…依頼人の亡夫の遺品として残されていた呪物、それに伴う依頼人の切実な不安について。更には虚無の境界の印まで出て来た事について。アトラスに電話が来たのは依頼人の亡夫が月刊アトラスの愛読者だったからその雑誌の奥付を見、藁にも縋る思いで頼って来たらしい事。
 一通り麗香の話を聞き、だったらよ、と修羅。
「…何はともあれまずは依頼人の家に行こうぜ。現物を見ない事にゃ何も始まらん」



■依頼人宅、梶浦家

 と、そんな訳で――ラン、アデール、修羅の三人は依頼人宅に訪れた。
 表札には『梶浦』とある。
 詳しくお話を窺う為にアトラス編集部から来ましたと来訪するなり、我々が来たからにはもう心配無用だ、共に明るい未来を目指して歩こうでは無いか、とからから笑いつつアトラスに頼ってきた当の依頼人――梶浦真理絵の肩をばむばむ豪快に叩いているラン。…やや途惑って曖昧な笑みをランに返しつつ、目の方では他の二人を縋るように見る真理絵。と、ランさんの仰る事はその通りですが、奥様少し困ってらっしゃいますわとすかさず宥めに入るアデール。…一方、確実に視界に入っているのにそこの遣り取りを殆ど気にせず、邪魔するぜと短く声を掛けただけで一人マイペースに梶浦家邸宅に上がり込む修羅。
 三者三様の姿にやや途惑いつつ――と言うかむしろ三人が来る前より不安の度合が増しているような気もしつつ、それでも真理絵は三人を居間へ案内しようとした――が。
 件の遺品、見たいんだけど――と框を上がったところですぐに修羅が真理絵に訊いている。現物を見なければ何も始まらない。そう言い出したのは確かに修羅。そして彼の場合、その氏素性からしてか生粋の霊能力者であるが故か――特に何をしているでも無い状態であってもこういった状況になるとそれなりの威厳と言うか、発言に自然と説得力も出てくるもので。訊かれた真理絵の側でも何となく意識が切り換わる。
 真理絵は修羅に訊かれた通り、遺品が置いてある書斎にまず三人を案内する事にした。
 ランもアデールも否やはない。

 整理している途中なので散らかっていますがと案内されたそこは、六畳間の洋室、と言うか殆ど物置のような惨状――殆ど本棚で埋め尽くされている部屋だった。創刊号からごく最近までの月刊アトラスが一冊も欠ける事無くずらりと並んでいる棚があるのは圧巻。他にもオカルト系と思しき古めかしい本――特に東洋呪術系――は幾つか棚に見えた。アトラスと同業他社の雑誌も時々置いてある――特集によりその時々で買い求めているような感じになる。『日本の密教』、『陰陽道』、『東洋の呪術探訪』、『いざなぎ流を追って』。…しみじみ判り易いラインナップである。
 遺品は何処か――机の脇のダンボール箱の中。
 まずはそこを確認。
 ランがまず当然のようにダンボール箱の中から一番目立つ小箱を取り上げ、衒いなくぱかりと開ける。
「…干物か。これは保存状態が良くないぞ。きっと煮ても焼いても美味くなかろう」
「…」
 何だか色々突っ込みを入れたくなるようなランの発言に修羅は何か言いたそうな貌をしたが――取り敢えずそれはさておき小箱の中身をランの脇から確認。
「…干物、っつかそれが蛇の死骸だな。…んで、こっちが御札か…小箱にも貼ってあるな。封じてはあったのか?」
「…いえ、その御札は元々剥がれていました」
 そうじゃなければ箱を開けてみたりしません、と真理絵。…まぁ確かに、こんないかにもな御札がべったり貼り付けて封じてあるなら、中身への興味より気味が悪くて開けられない気持ちが勝つか。
 修羅は真理絵の話にそうか、と頷く。
「つぅと『箱の中身はいつでも外に出て行けた』って事になるな」
「…え?」
「いや。…気にすんな」
 真理絵の疑問をあっさり流し、修羅はダンボール箱の中に残されている御札を一枚一枚ぱらぱらと確認する。…何処かで見覚えのある御札かどうか一応。家の関係でこの手の御札は結構な数見知っているので念の為。取り敢えず心当たりの御札はない。…まぁ確かに、御札の種類の別と言うのは星の数だが。…それに修羅の場合降霊師――霊媒専門な訳で御札の知識は少々心許無い。…その辺は役行者や西行でも降ろせば何とかなるのであまり必要無いと言うのもあるが――取り敢えず今ここで彼らを降ろさなければと言う程の事でもなかろうと思う。
 一方のアデールは丁寧に真理絵へと断りを入れてからダンボール箱の中身に手を伸ばす。取り上げたのは紙製の簡易ファイルが一冊。
 ぱらぱらとめくると、その中には人物調査の結果と思しきプロフィールがファイリングされている。
 被写体本人に許可を得て撮った物では無さそうなスナップ写真もそこに手挟んであった。それぞれの裏を見る――走り書きのような斜めの文字で名前が書いてある。その名前はプロフィールの頭部分に記されてある名前と重なる。プロフィールの人物が、この写真の人物なのだろうとすぐに察しが付く形。実際に人数も重なっておりそれぞれ八枚――八人分ある。曰く春野優二郎、拝島義、米沢千晴、神前啓次、佐保菖蒲、坂城辰比古の六人が心不全で死んでおり、江波瑠維と上杉聖治の二人が存命と確認出来ていると依頼人の真理絵から伝えられた。
 碇麗香が引っ掛かった件――虚無の境界の魔法陣を連想させる印は、紙製ファイルの裏表紙の内側に黒インクで描いてある。但し、手書きの上にあまり丁寧ではないのでそのものとは言い切れない。が――重ねて描かれた円の中央に葉先を下向きにした楓の葉、円周に沿い『boundary of nothingness』の文字が描いてある事には――変わりは無かった。
 何らかの術として使用出来る――使用されている魔法陣かどうかを見るだけ見る。インクの種類。臭いや厚みを確かめる。それから描き方――この場合、術と言うより、どちらかと言うとサインに近い用途でこれを描いているような印象。…アルファベットと漢字では筆跡の比較は難しいが、写真の裏書同様依頼人の御主人当人が自ら描いたものである可能性も頭に置いておく。自ら描いていたとしたら、それは虚無の境界を意識していた――それも自分がそう名乗っていた、その意識があった事にまず間違いはない。
 アデールはそれらの事を表面に出さないように気を付けつつ、真理絵を見る。
「あの」
「…はい」
「とても伺い難い事なのですが…御主人はどうして亡くなられたのでしょう?」
「それは…」
 やはり、心不全だったのだと言う。
 …懸念が、一つ当たる。
 アデールが真理絵に聞いたその答えも耳に入れ、修羅がぽつり。
「…編集長に『箱に虫の死骸』って聞いた時点でそーだろーたァ思ってたんだが…やっぱり蠱毒じゃねぇのか」
「こどく?」
「ああ。虫三つの蟲に毒って書いて蠱毒」
 蠱毒――壺毒とも表記される事がある。
「簡単に言うとな、虫とかを壺の中で殺し合わせて生き残ったヤツを呪術の触媒にするんだ」
「その結果がこの干物か。これでは売り物にもならんぞ。買う気にもならん」
「…干物干物って食う訳じゃねぇんだっつの」
「ぬ。なんとお前は日本人だと言うのに干物を食った事がないのか!? それともお前は日本人のように見えるが実は地底人だったりするのか!? そうか? そうなんだな!?」
「…。…俺が悪かった少し黙ってくれ」
 ランから入る合いの手に何だか無駄に疲れたような気がしつつ修羅は今度は本棚を見る。創刊からごく最近に至るまで、膨大な冊数の月刊アトラス。何となくその視線の先を追い、ランもまた同じく月刊アトラスがずらりと並ぶ棚を見る。
「干物と違いこちらの保存状態はかなり良さそうだ。こうまで並ぶと圧巻だな。…とは言ってもこんな扱いになっているモノが月刊アトラスな時点で――アトラスを愛読していると言う時点でなんかもうアレだが」
「そーだな。…この扱いはまず間違いねーだろ」
 ――…その依頼人の旦那って奴は呪術にゃトーシロだな。プロは三流オカルト雑誌なんか集めないぜ。つまり、そいつの持ってたアトラスのバックナンバーを見れば御勉強の後が残ってるかもな。やろうとしてた術に関する記事に印とか覚え書きとかしてるんじゃねえか。
 …まだこの家に来る前、麗香から話を聞いた時点での修羅の発言その通りの状況である可能性がある。この雑誌の扱いは確かに編集長・碇麗香としては放っておけない話だろう…まず確実に上得意様である。何と言うか、故人からバイブルにされていた可能性すらあるような。…そしてバイブルならば手本にされている可能性がまた高い。
 そんな訳で、修羅は今度は雑誌アトラス自体に何か痕跡が残っていないか確かめ始める。関係しそうな特集の号を手に取りぱらぱらと確かめる――無闇に丁寧な保存状態からして直接の書き込みより付箋が付けられている可能性の方が高いか。
 ランもつられたのか修羅同様にぱらぱら開いて見始めるが、三冊程おざなりに見た時点で――当の雑誌を興味なさげにぽいと放り捨て、つまらん任せた。とあっさり。根気がない…いや、文字通り興味が無いのだろう。
 アデールは一度開いた紙製ファイルの内容――呪術、蠱術に寄る殺人の被害者及び被害者候補だったと思しきプロフィールをじっくり見ている。…そして、気に懸かったところを自分の手帳を取り出しメモし始めた。特に、存命者二人分のプロフィールを。写真もコピーを取らせてもらう。
 お。と修羅から声が上がる。開いて見ていたアトラスに付箋が付いているのを発見した模様――ランとアデールは修羅の横から文面を覗き込む。…『巫術――方術の暗黒側面』。
「…っておい、大陸の方まで行っちまうかよ」
 巫術とは所謂『道教で行われる魔術』こと『方術』の範疇で言う黒魔術の事になる――そこには当然のように蠱術も含まれる。そしてその記事には蠱毒に関する話が古い伝承と絡めて比較的多く書かれていた。
「それだと何か問題があるのか?」
「や…同じ蠱毒の系統になる術でも日本のより向こうの方が凶悪な伝承多いんだ」
 つまりは日本の民間呪術で言う蠱毒より各段にヤバい結果が多く記録に残されてるって事になる訳で…まぁ、何が言いたいかの想像は付くよな?
「ですけどやはりアトラスだけあって…ちゃんと気遣いはしてある内容ですわよね?」
 当然、直結で呪術を施せるような内容は書いてない。読者の興味を引くように冷静かつ知的興味を煽るように文章が纏めてあり刺激的な写真やわかりやすく解説した図も載せてはあるが、それでも冷静に見直し読み込むならば――怪奇雑誌の分相応に、結局毒にも薬にもならないような事しか掲載されてはいない。
「だがそれでもイメージトレーニングには役立つのではないか? …根暗な術を施すならば気分も根暗にならねばこなせまい」
「…。…っと。…聞き流しそうだったがランの言う事にも一理あるかもしんねぇな」
「うむ、そうだろう。…聞くところは聞いているな地底人」
「誰が地底人だ」
「勿論お前だ不動修羅」
「ンな訳ねぇだろ否定しなきゃわからねぇのかよ」
「違ったのか」
「…当たり前だろ」
「それは失礼した。日本人ではないとなれば地底人ではないのかとつい思ってな」
「………………何だその二択」
「ランさん、それ以前に修羅さん御本人が日本人と言う部分を否定していたようには私には聞こえませんでしたわよ?」
 それに麗香さんは彼が日本系呪術のエキスパートになる家系の後継者とも仰ってましたし。
「麗香の話は記憶しているがだからと言って日本人とも限るまいと思ったのだが…」
「…そう来たら素直に日本人だと思っててくれれば何もややっこしくねぇのによ…」
「なに、日本系呪術のエキスパートの家系だったら日本人だと手前勝手に思い込むのは良くないだろう。アメリカ人かもしれんしロシア人かもしれん、はたまた地底人かもしれんし半魚人かもしれん。そんな事はそれだけの情報ではわからんだろうが。これが私の素直な反応なのだが」
「…っつかその時点で充分手前勝手な思い込みだし。そもそもどうして引き合いが地底人なんだかが果てしなく疑問だが別に答えなくていいまたややっこしくなるから」
「む。…そうか。つまらん。…まあいい。それよりこの記事だが、巫術に方術となると――同様のテーマを記事にしている号が他にもあったと記憶しているぞ。確か昨年だったか一昨年の秋頃のアトラスだ。…両方だったかな?」
「…良く憶えてるな」
「うむ。アトラスは私も毎月愛読しているからな」
「…さっき全然興味無さそうに放り出さなかったか…?」
「細かい事は気にするな。ほらさっさと探せ。昨年か一昨年の秋だ」
「…自分では探す気は無ぇんだな…」
「面倒な事は他人にやらせるに限るだろう。私は読んだ時期が昨年か一昨年前の秋頃だったなぁと記憶しているだけでピンポイントで何月号だったか憶えている訳でもないしな」
「となると2005年か2006年の秋頃に発行されている号…発行の時期を考えると冬の月も入るかもしれませんわね?」
 今度はアデールが該当の号と思しき当たりを付けて棚から抜き出しぱらぱら。…付箋発見。
「ありましたわ」
「やっぱりその辺の術にここの旦那は興味があったって事か」
 ふぅんとばかりに記事を横から覗き込む修羅。
 と。
 恐る恐る、と言った様子のか細い声が聞こえて来た。
「あ、あの…」
 真理絵。
 そこで三人は――と言うか初めから気にするつもりのないラン以外の二人は――はたと気付く。
 …依頼人を置いていってしまった今のやりとりは当の依頼人を余計に不安にさせてはなかろうか。遺品の正体についても、来訪した三人の信用度についても。
 思い、すかさずアデールがにこりと依頼人の真理絵を安心させるべく微笑みを。
「大丈夫ですわ。こう見えても私たちこういった事には慣れていますの。本物なのかただその形であるだけなのかは――もう少し詳しく見てみないとわかりませんけど、きっと御主人も奥様のお心を悩ませる事などなさりたくなかった筈ですわ。だから、大丈夫」
 ああ、と修羅も同意する。
 それから、先程見ていた呪物と思しき遺品入りのダンボール箱をくい、と指で示した。
「…ところでこの呪物と思しき遺品だけどよ――折角だからダンボール箱ごと全部借りてくぜ」
「え?」
「まずいか?」
「いえ、構いませんけれど…」
「きっちり調べて来るから安心しろ。…まぁ、こっちで処分した方がって事になるかもしれねぇが」
 どちらにしろ、奥さんの疑問はなくなるようケリは付けてやる。



■思惑と調査/虚無の影

 そして――梶浦家を辞して後、三人は手分けしてひとまずプロフィールの人物を調査する事にした。修羅は借り出したダンボール箱――それと帰り際一応依頼人の旦那の写真も借りてきた――持参でアトラスに帰って適当に空いてる部屋借りて、降霊術を用いて『死んでいる方』の六人についての調査。アデールは『生きている方』の二人についての調査。ランは少し悩んだ結果、修羅ではなくアデールの方と同行する事に決めたらしい。…曰く、降霊術で降ろした連中と色々語り合うのも面白そうだが生きてる連中の側に行った方が色々とハプニングが起きそうで面白そうだ、との事。…むしろハプニングはない方がいいのだがその辺についてはランの意見は逆らしい。
 ともあれ、そんなこんなで――アデールとランは突撃取材を試みている。
 対象は、上杉聖治。
 年齢は五十七歳、自然食品販売の自営業者となれば――食品の安全性を考える、とかそちら側の取材と称して接触するのが楽かと考えた為。アデールは魔女と言う事で、ハーブ等上杉聖治の仕事と関係がありそうな分野の中にも詳しい物がある為、余計に取材を装い易かろうと言う思惑もある。
 彼の店に電話で連絡を入れ許可を取ってから、お邪魔する。



 月刊アトラス編集部。
 相変わらず忙しいと喧しいので空いている部屋がないかと思ったら、使いなさいと麗香に鍵を渡され何とか一部屋確保する事が出来た。持参した、呪物らしき遺品が詰まったダンボール箱を簡易テーブル上に置く。おもむろに中からチャックの付いたビニールパックを一つ取り出した。その中に入っているのは短い頭髪一本。それも実際に抓んで触れる。
 と、そこから湧き上がるように――目の前に壮年の男性らしき霊が出現した。
 その『彼』は自分を引き摺り出した――降霊した目の前の生き人を、途惑いつつも、見下ろす。
 その途惑い混じりの視線を受け、生き人は当然のように『彼』に声を掛けた。
「…よう、俺は不動修羅ってんだが、名前、聞かせろよ」



 こじんまりした店内に入るなり、興味深そうに棚を見回っているラン。…取材と言うよりただの客と言うか冷やかしと言うかそんな感じになっている――ぱっと見では何処にでもありそうな物ばかりだが、良く良く見ると実はあまり見かけない物が並んでいる為余計に興味深いのかもしれない。大豆で肉の替わりを作って使ってある食品だとか見付けては器用な人間も居るものだなぁと妙な感心の仕方をしている。
 一方のアデールは目的通り上杉聖治と話し込んでいた。人当たりのいい初老の男性。上杉聖治の印象はそんな感じで、話題の方はやっぱりハーブを使ったエッセンシャルオイル――アロマオイルの類に関しての話が弾んでしまった。…魔女の性と言うか何と言うか。オイル関係になると一般の人にもそれなりに効能が広まっているので、案外話が通じるのでついつい話題に持ち込み易く。少し当初の取材目的とズレてしまったが、まぁこれもこれで人物観察には役に立つ。
 アデールは頭に入っている他の人物のプロフィールと目の前の上杉聖治について照らし合わせてみる。
 …共通点は、何だろう。



 ――…坂城辰比古、四十三歳、男。東京都墨田区在住、妻子あり。××工務店勤務、残業中に心不全を起こし死亡。突然の事で何があったか全然わからない。取り敢えず健康診断で異常が見付かった事は無いらしい。梶浦祐作――依頼人の旦那との知己を確かめる。憶えが無い。

 ――…佐保菖蒲、十五歳、女。東京都台東区在住、両親健在。同居猫一匹。××中学校三年在席、体育の授業時水泳中に心不全を起こし死亡。やはり突然の事で何があったか全然わからない。こちらも健康診断で異常が見付かった事は無いらしい。梶浦祐作との知己を確かめる。…誰この人? 逆に訊き返される。

 ――…神前啓次、三十八歳、男。東京都新宿区在住、妻子あり。義母(妻の母)と同居。××株式会社営業部勤務、自宅書斎にて心不全を起こし死亡。元々軽度の心臓疾患を持ってはいたらしい。が、すぐどうこうなる程の病状では無かった筈、らしい。梶浦祐作との知己を確かめる。…俺が何処かで会った事がある筈の人なんでしょうか? またも逆に訊き返される。

 何だか全然脈絡ねぇな。
 …思いながらも修羅は次の人物を降霊すべくまた別の髪の毛に触れる。



 上杉聖治の元から辞す。…それでも特に場の変化は感じられない…何か場が崩れた訳でもない。何かの力が及んでいる訳では無いのだろうか。それならまだ良いのだが。
 取り敢えず、一つだけわかった事がある――『彼は能力者である』とそれだけは実際に相対してよくわかった。その旨アデールがランに告げると、ああ、あの男は能力者みたいだな、といつから気付いていたのかランの方でもあっさり同意。曰く単なる勘だと言う――そしてこの手の勘は外れた事がないとか。…その真偽は不明だが、取り敢えずアデールの思った上杉聖治への印象とランの勘とやらが同じ結論を導いたと言う事に間違いは無い。
 ――…何らかの事情で自分の力をずっと隠し貫いて来た――隠し貫く事が出来ているだけの力をも持ち合わせている能力者。人当たりの良い表側の貌の裏に、そんな老獪な印象が上杉聖治にはあった――そして実際に、アデールと話している中で薄々その事を明かして来もしたような節がある。それは具体的にではないが、彼の方も彼の方でアデールの素性――魔女である事を薄々察していたような感じがあった。
 アデールは結局、最後には本物の――自分の古書店の名刺を上杉聖治の元に置いても来た。何か困った事があったら相談に乗りますわと残して。
 能力者。…ならば他の方々もそうだと言う事はあるでしょうか――思いながらアデールはもう一人の存命者の写真のコピーを見る。
 江波瑠維。
 …彼女も確かめてみよう。
 能力者なのか、どうかを。



 ――…米沢千晴、二十三歳、女。東京都豊島区在住、独身、両親共に当人が十五歳の時に死亡。同居フェレット一匹。風俗店勤務、通勤途中に電車内で心不全を起こし死亡。健康診断等はしていなかったが、あまり心当たりはないとか――強いて言うならお酒の飲み過ぎが思い当たる程度。梶浦祐作との知己を確かめる。商売柄人の顔は結構憶えてるつもりだけどねぇ…とやはり心当たりはない様子。

 ――…拝島義、七十六歳、男。神奈川県川崎市在住、三年前に妻に先立たれ、娘夫妻と同居。無職――シルバープログラムとして地域のクリーン活動に参加している最中、心不全を起こし死亡。高血圧気味だった為にてっきりそのせいかと思っていたらしいが…今更になって兄さんみたいなのに訊かれるって事は違うのかねぇと訊き返してくる。梶浦祐作との知己を確かめる。…さぁねぇ。心当たりはないねぇ、との事。

 ――…春野優二郎、十七歳、男。東京都多摩市在住、母は二年前に死亡。父は健在。XX高等学校普通科二年在席、死亡時の事については言いたがらない――脅したりすかしたりするがどうも駄目。ただ、話している内にどうも言葉の端々から何処ぞの暴走族とやりあってる時に死んだらしいと言う事は薄々見えて来…修羅は春野優二郎の霊を連れたまま一旦部屋を出て碇麗香の元まで向かう。
 で、多摩市近辺の方で族関係と言うかちょっとした抗争と言うかそれらしい事件はなかったかと麗香に聞いてみる。例えば白王社の別部署で掘り出したネタの中にそんな話がある可能性。…碇麗香は怪奇雑誌の編集長と管轄外でありながら何故か結構その手の事にも詳しい。
 と。
 修羅の意を受け社会部や高校生向け関連のバックナンバーを少し探したら、発見。
 …曰く、自警団として立ち上がった地元高校生有志と都会から現れる走り屋の集団との間に小規模抗争が起きていたとか何とか。抗争による怪我人多数。死亡者とは出ていない――が。
 改めて記事を書いた記者を連れ出し話を聞いてみると、走り屋集団に拘束されていた人間が一人死んでもいたのだと言う。曰く、地元高校生有志のリーダー格だった人物。だが特に暴行を受けたような形跡も無く、何故死んだのか良くわからない状況――司法解剖の結果は心不全、と何だか奇妙な状況で。それは何処ぞの国の特殊工作員や何かならそういう殺し方も出来ない事はないだろうが、抗争してるような肝の座った過激な連中だとは言え、単なる走り屋如きに出来る所業だとはちょっと思えない。
 …どうやらその奇妙な死亡者が春野優二郎だったよう。
 そこまで調べてから、どういう事だと改めて本人に訊く。と、俺が一番邪魔だったって事だよ、とあっさり。連中に取っちゃ俺の力が一番問題だった、俺が消えれば後は簡単だった、だから呪殺に来たんだろうよ、と。
 春野優二郎に殺された――それも呪殺で――と自覚があるらしい事に、修羅はぴくりと片眉を跳ね上げる。キミ能力者か? と思わず直撃。…と、それがどうかしたのかよとあっさり肯定の返事。どうやらテレパスが使えたらしい。
 梶浦祐作との知己を確かめる。今の話の流れでそう来るってと、このおっさんが俺の仇って事か? と優二郎。修羅は頷く。…優二郎は暫く写真を見る――残念ながら記憶に無ぇなとぽつり。つーとこのおっさんは連中に雇われた呪者って事か? ともついでに付け加えてくる。

 修羅は軽く嘆息。
 春野優二郎を辿る内、被害者の共通点が『能力者』である可能性が出て来た。…改めて考え直してみれば降霊した誰も彼も『修羅が自分を降霊して話を聞こうとしている』事や『今の自分が死んでいる事』自体に疑問を持っていた様子は全くない。…突然死んでしまったなら自分が死んだ事を自覚していない事も充分あるだろう――と言うかその可能性は高かろう。そしてまず一般人なら降霊なんて事柄を易々信じるか? 普通、話をする前にまず驚いて何事か訊いて来て当然だと思う。彼らの場合それも無かった。

 ちと調べ直しの必要が出て来たな。
 …春野優二郎以外の五人も、能力者であった――それも、何らかの形で『敵』が居た可能性。

 そして――その『敵』が虚無の境界に繋がるとしたら…?



 江波瑠維、年齢は十九歳。服飾関係の専門学校に通う傍ら雑貨屋でアルバイトをしている女性。
 アデールが会ってみた限り、彼女もまた、能力者だろうと言う印象を受けた。ランの着けていたネックレスや扇子に興味を抱いて話し込んだりもしていたが、確信に迫ろうとするとはぐらかされる感じで。どうもそちらが――能力者かどうかの確認が――目的だと察するなり、彼女は早々に立ち去る事を選んだ。警戒心がとても強い。
 ランもまた、彼女も能力者だなと断定。…ちなみに今回も上杉聖治の時同様、勘だとの話。
「プロフィールが残されていた方々の共通点は――能力者、と言う事なのかもしれませんわね」
「うむ。死んでる方の連中の話も訊かんと如何とも言い難いが少なくとも今の二人には当て嵌まるな。…これ以上何事も起きそうに無いなら早いところ地底人のところに戻ってみよう。まだ死んでる方の連中と仲良く歓談しているかもしれん」
「…地底人では無く修羅さんですわ」
「何を言ってる。アデールにも地底人と言って通じているではないか。今私とアデールが話していて同じ存在として指す対象にお互い齟齬が無ければ今ここで奴を何者と呼ぼうとどうでも良かろう。細かい事は気にするな」
「…いつまで残るんでしょうその呼び方?」
「私が飽きない限り、と言う奴だ」
 堂々と胸を張り言い切るラン。が、その胸を張ったところで――唐突にすぐ側で知らない声がした。

「――…もう終わってる事件を掘り返しても意味ないよ」

 途端。
 声が聞こえたと思しき方向にランは振り向きいきなり持っていた扇子を力任せに打ち下ろす――が、打ち下ろした場所には目標となる物がなくそのままよろめいて路面のアスファルト直撃。…何だか扇子とアスファルトがぶつかったのだとは到底思えないような凄い音がした。その扇子、余程重いのか硬いのか。
 ランの扇子が描いた軌跡からほんの少しだけ身体を逸らした状態で――ランの扇子を軽く躱した状態のまま佇んでいるラフな風体の男が居る。年の頃は二十代か三十代か…そんな程度でいまいち不詳。何だかやたら美形のアジア系だが、日本人では無さそうな。…それが今聞こえた知らない声の主。その姿を認め彼我の位置関係も瞬時に確認、ランの行動に続いてアデールもカードを一枚抜き放つ。殴り掛かった勢いのまま転び掛けたランを庇うようカードを構え、対峙。
 ラフな風体の男はその様子も平然と見ている。
「…いきなり殴り掛かってくるかな?」
「貴様とていきなり声を掛けて来たろう! おあいこだ。…いや私の扇子が当たらなかった以上おあいこではないな。ぬ? ならば私が負けた事になるのか!? そんなの許せん! 勝つのは私だ! まだ勝負は付いておらんぞ!! そこへ直れ!!!」
「もう終わってる事件――そう仰ると言う事は私たちが何をしているのか知ってらっしゃるのですわね。…何者ですの?」
「あー、地底人っつってたっけ、梶浦さんの遺品持った子の方は何処行った?」
「こちらの質問に答えてませんわ」
「ん? …地底人ならアトラスに戻っている筈だが」
「ランさん!」
「アデール。…どうせ訊くまでもなくこの男は虚無の境界だろうが。私に突然殴り掛かられても動じない、アデールの反応を見ても動じない。…ただの通りすがりならもっと面白い反応をして見せて当然だろうが。アデールが遺品の中から見付けた手書きの虚無の印からしても自己顕示のサインにしか見えなかったしな、殺ってる方が死んでるとなれば確かに事件は終わってるだろう――その事を知っている上でそこまで平然としてるとなればまず関係者でしかないだろう。…男の言葉を吟味するに元から己で名乗ってるとしか思えんさ」
 そしてここで殊更アトラスの名を隠しても大した意味はあるまい。まずあの編集部には奇人変人化物人外神に仏に何でも揃ってるだろう。…そもそもあの地底人当人もかなり面白そうな力の持ち主と見えるしな。中途半端な覚悟じゃ手を出せんぞ?
「…お姉さん楽しい人だね」
「お姉さんではなくラン・ファーだ。言葉には気を付けろ」
「あ、そう。…まぁいいや」
 訊く事は訊いたし、とラフな風体の男はそのまま平然と立ち去ろうとする。
 アデールが呼び止めた。
「…アトラスに向かうおつもりですか」
「いや?」
「…では何故遺品の行方を訊いたんですの」
「梶浦さんちから移動したみたいだから何処行ったのかなーって確かめときたかっただけだよ」
「ならば初めから彼を尾行すれば良かった筈ですわ。…私たちを尾行したのは何故ですの」
「…大荷物持ってない方がきびきび動きそうでしょ」
 何する気かなーって思ってね。
 そうしたら上杉さんと江波さんに突撃取材してるんだもんねぇ。…ああそういう事かって察しも付いた訳。
「…彼らに手を出すおつもりなら、その前に私が相手になりますわよ」
 言葉と共に、ざ、とアデールの持つカード――タロット大アルカナ、天から落ちる雷撃が背景に描かれた『塔』のカード――から雷撃が生まれていた。一拍の時差もなく男に向かって雷撃が迸る――が、男が居た筈の場所、そこに雷撃が至ったその時には既に男の姿は消えている。
 アデールは小さく溜息。
「…逃がしてしまったようですわね。やはり只者では無いようですわ」
「ほっとけ。去るものは追わず来るものは拒まずだ。それに消えた方が負けだ!」
 堂々と言い切りつつランは携帯を取り出し電話を掛ける――相手は修羅。生きてる方の二人への取材は一通り終わったぞ、と報告。と、じゃあ答え合わせといくか、と修羅から返って来た。
 何が答え合わせなのかそれ以上詳細は言わなかったが、とにかくアトラスに戻って来いとの事。



■最終報告

 アデールとランが月刊アトラス編集部に戻ると、麗香に修羅が借りた部屋へと案内された。そして麗香もそのまま部屋に残る――さすがに忙しいとは言え、頼んだ調査の結果を持ち寄ったところとなれば放り出す気にもなれない訳で。
 麗香と修羅の両方と合流して早々、アデールとランは奇妙な男がちょっかいを掛けて来た事をまず報告。手を出して来はしなかったが何やら訳知りで話し掛けて来たとの事。遺品の行方とアデールとランが何をしているかを気にしていたようだった、とも。ランがアトラスの名を出した事も言っておく。
 修羅からは死んでる方の六人の共通点が能力者だった事、それも組織か個人かは人により違うようだったが、明らかに敵対存在が居る人物でもあった事がわかったと伝えられた。特に内一名、春野優二郎の場合は自分が呪殺されたと元々自覚しており、他の五名も話を聞くべく修羅に降霊された時点で、その疑いを持つようになっているくらい自分の状況を把握している、との事。
 それを受け、生きてる方の二名も能力者と見て間違いない旨、アデールとランは伝える。警戒の度合からして敵対存在の可能性も否定できないだろうと思う――その辺りを調べ直した方が良いかもしれませんわねとアデールはぽつり。が、ここまでネタが揃ったんだ。取り敢えず一番詳しく知ってる筈の奴に直接訊いて確かめてみてからにしようぜ、と修羅が言い出した。

 曰く、依頼人の旦那――梶浦祐作を降霊する、と。



 ビル街裏手。人通りの少ない狭い路地裏。
 やたら美形のアジア系――先程アデールとランの前から消えた男がのんべんだらりと壁に凭れて棒付きキャンディを舐めている。
 そこに、白いロングコートを羽織った、髪も瞳も肌も何処か異様な色彩を纏う男――年の頃だけはやたら美形のアジア系とほぼ同年代に見える男が、その場所に訪れる。
 棒付きキャンディを舐めている方が、白いロングコートの男に気付くなり、にこりと微笑み軽く手を挙げた。
 白いロングコートの男は、ただその姿を無感動に一瞥しただけ。



 ――…ダンボール箱ごと遺品を借りて来たのは元々梶浦祐作本人を降霊する為、だったりする。
 どうもあの様子だと、梶浦の奥さんの前で何だかんだと暴いてしまうのは少々躊躇われたので修羅はそうする事を選んだ。梶浦祐作本人の髪の毛の一本でもあればとは思ったが、どれがそうなのかいまいちよくわからなかった以上、当人の念がこもっていると思しき品を代わりに使用しようと考えた訳である。
 話を聞くなり、そんな事が出来るなら初めからすれば良かろう! とランが騒ぎ立てたが、たった一人の情報に頼っちまうのって結構危険なんだぜとその文句をあっさり流す修羅。それは確かにその通りで、降霊した当人の思い込みが真実である、と聞いている方でも思い込んでしまう危険性がある。そして降霊した当人がそもそも本当の事を知らないと言う可能性もまたあるだろう。…別にそれまで調べた事が全て無駄になる訳では無い。
 むしろ、尋問の際の材料として有効になる筈だ。

 梶浦祐作の霊が修羅の身に降りてくる。はっと驚いたような様子で周囲を見渡した。自分は何故こんなところに居るのか、誰が目の前に居るのか――全然わかっていない様子で。
 アデールがまず話し掛ける。貴方は自らが亡くなっている事に気が付いていますかと。
 そうしたら、もう時が来てしまったのか、と僅かに顔を曇らせた。ただ死んだ事そのものに対するショックは無いようで、何か遣り残した事をとにかく悔やんでいるような反応が来る。
 遣り残した事。
 …『敵対者』を――『悪魔』を滅ぼす事。
 神の御使いが託宣を受け預言した我らの敵。選ばれた使徒が力を合わせて行う業で、その悪魔に鉄槌を下す事が出来る。六匹の悪魔は既に滅ぼした。だがまだ二匹残っている――それだけが悔やまれる、と。

 つまり、梶浦祐作曰く、プロフィールに残されていた人間は『悪魔』。
 それも、誰かに教えられて――唆されてそう思い込んだと言う訳で。この時点で依頼人の悪い予感は的中、最悪の結末になってしまっている。が、そうするに至った経緯によっては、まだ依頼人に伝え易い話に構成できる可能性はある。
 彼の言い分に色々当て嵌めてみると、神=虚無、神の御使い=虚無の境界構成員、使徒=虚無の境界への協力者、悪魔=虚無の境界の敵対者、と言ったところになるだろうか。
 理解したくはないが、ここまで『そちら側』に行ってしまっていると――初めから話が通じそうに無いのでこちらがある程度合わせて話をするしかない訳で。
 取り敢えず先を促す。

 ――…私は虚無の神に選ばれた。
 世界の更新を行い人々に安息を齎す使徒の一人に選ばれたのだ。

 梶浦祐作は得意げに説明を始める。



 挨拶も前置きも何もない。
 路地裏に訪れた白いロングコートの男は、開口一番問い掛ける。

「…どうだった」
「やっぱりみんな限界だったみたい。一人残らず死んでたから。それから梶浦祐作に関してはアトラスに持ってかれたよ。その延長で標的の二人――上杉聖治と江波瑠維が残ってるのも確認出来た」
「失策だな」
「ま、元々素人さん使ってる時点で早晩こうなるって思ってたけどねぇ」
「…それをなるべく長く保つよう、上手い具合に導く為にお前を付けたつもりだったんだが?」
「…って六人分保ったんだから長く保った方だけど。いいじゃない。…他にも虚無の境界に賛同する奴なんか今時幾らでも居るし。続きやるってんなら幾らでも調達出来るよ?」



 白王社、月刊アトラス編集部同階、梶浦祐作降霊中の部屋。
 話は続く。

 ――…何故この世はこんなにも苦しいのだろうと心密かにずっと思っていた。
 …何とかしなければとずっと思っていた。
 …何とか出来る訳がないとも同時に強く思っていた。
 が、オカルトの世界では様々な事が行えている記録が見出せた。
 辛い思いを覆す事が出来ていた。
 覚悟の末、弱い者が強大な力を得る事が叶っていた。
 オカルトと言うブラックボックスに隠された、知識を追い辿り着く事の出来る論理の果てに。
 きっと嘘なのだろうと思いつつ、惹かれた。いやもし万が一行えるのだとしても、それは特別な力を持つ者だけが行える事なのだと思っていた。
 だが。
 神の御使いが自分の前に現れた。
 共に世界の安息を目指そう、と言ってくれた。
 その為に世界各地で悪魔と戦っている使徒がたくさん居るのだと。
 とても危険だが、共に戦ってはくれないか、と。
 自分の力が必要なのだ、と。

 勿論、否やはなかった。
 そして悪魔を倒す為の業を、悪魔のリストを託され自分は使徒となった。
 共に悪魔と戦う仲間の存在も知った。互いに顔を合わせ直に会う事はなかったが、電話とメールでだけ語り合う事は可能だった。…悪魔の妨害を警戒する為、メールはフリーメールアドレスを、電話はプリペイド携帯電話を使い、通信後の履歴は全て消してもあった。
 その手段で、悪魔を倒す為の業を共に行う為の連絡も取り合っていたから。

 業を行う毎に膨大な『力』を使う為、死が近付く事も知っていた。
 けれどそれは安息への道でもあるとも知っていた。
 死は解放だと聞いていた。
 だから死を恐れはしなかった。

 ――…真理絵には、安息に導かれた後の美しい世界を見せたいとずっと思っていた。



 再び路地裏。

「――…続きやるってんなら幾らでも調達出来るよ?」
「その言葉を疑いはしないが、続きはほとぼりが冷めてからの方が良いだろう」
「アトラス巻き込むと面倒だから?」
「まぁな。それにお前はアトラス贔屓だったろう? 湖藍灰?」
「別にそんな訳でもないんだけどね。ただアトラスとかあの辺の連中巻き込むと、無駄に『仕事』が面倒になる可能性が高いからさ。当のあの場所を標的にする時でもなきゃなるべく近付きたくないんだよね」
「…『虚無の鉄槌』は周到に行われなければ意味がなくなる。不安要素がある以上、極力実行は避けた方が良い――救いを求めて来た彼らには暫く試練の只中に居てもらう事にしよう。救われる為にはそれなりの苦難も必要だ」
「じゃ、上杉聖治と江波瑠維については取り敢えず凍結って事で」
「…『世界の全てに安息を』」
「『世界の全てに安息を』。…んじゃ天藍殿、俺はそろそろ失礼するわ」
「ああ。その時が来たらまた呼び出す」

 ――――――…『虚無の鉄槌』。
 虚無の境界にて編み出された凶悪な術式の一つ。
 たくさんの素人を集めて、特定対象に同時に行わせる呪殺のこと。主に敵対者や敵対組織の要に対し、人為的な『天罰』として使われる。
 呪殺に使う呪術の種類は問わない。呪者に合うよう、担当の構成員はそれぞれ考え術を提供する。素人でも使える術と言う事で、派手な効果が表れる術はあまり使われない。
 呪者が素人である以上、一人一人の呪力は――呪者の命を懸けたとしても、たかが知れている程小さい。
 だから複数で『同対象に同時に』呪殺を行う。
 そうすれば効果は加算もしくは乗算され、術本来の目的まで達成させる事も叶うようになる。
 そして一つ一つの力が微弱である以上、呪殺を行った源を辿ろうとあまりにか細く見付からない――術を返されても力は分散する。
 …鉄槌は、何処から降って来たのか、わからない。
 なお、呪者の命が維持できるのは、大抵の場合で呪殺五回が限度である。



 降霊した梶浦祐作の話を聞き。
 到底依頼人にそのまま言えたもんじゃないわねと麗香は嘆く。…何だか間違いなく『カルト教団の手先になって加害者になってしまった』タイプの被害者と言う感じだ。真面目過ぎて嵌ってしまったか。
「…何だか何にも言えなくなっちまったな。腹立って」
 でも途中で口挟んだら多分反論来るからその反論に腹立ってまた何か言っちまいそうで――更に余計に腹立ってどうしようもなくなりそうだから敢えて黙っといたけどよ。…なんつーか、莫迦過ぎるぜこの男。
「…取り敢えず上杉聖治さんと江波瑠維さんには改めて警告しておく必要がありそうですわね」
 それから…梶浦祐作さんも『こちらの世界』に――本当に奥様の元に連れ戻して救って差し上げられれば良いのですけれど。
「…ふん。その辺は我々の仕事じゃあるまい。それより肝心の依頼人への報告だが――私が言っていいのなら簡潔にわかり易く説明してくるが?」
 と、ランが言い早々に椅子から立った途端――待て、とばかりに麗香、アデール、修羅の三人から袖やら腕やら掴まれる。…ランに報告されると要らん事までぶちまけられそうな不安がひしひしと。
 慌てて麗香がランに言う。
「報告は私からするわ。それよりランも修羅もアデールも、皆、調べてくれて有難う」
 事実関係がはっきりすればどう言うべきかは伝えられる。
 …何処までどう伝えるか編集するのは私の仕事だから。



  ――…梶浦祐作さんの残された、呪物と思われる遺品についてですが。
 当月刊アトラス編集部の使いがお借りした遺品を専門家の手で細心の注意を払い調査した結果、この遺品は単体で人を殺す程の呪力を持ち得てはいません。
 何故これらの品々が梶浦祐作さんの手許にあったのかは残念ながら判然としませんが、少なくともこの品々だけで人を殺すのは不可能です。
 即ち、御懸念の件――梶浦祐作さんがこの六人の方を呪術を行って殺したのではと言う事ですが、それは有り得ません。
 どうぞ御安心下さい。

 けれど殆ど効力がない物だとは言え、明らかに蠱毒の術を意識して作成された呪物ではあるとの事。
 当月刊アトラス編集部では前に挙げました通りこういった術の専門家との伝手もありますので、これらの呪物や関連の遺品はきちんと御供養した上で、処分させて頂く事も出来ます。
 どうぞお気軽に御相談下さい。

 …以上。
 取り敢えず嘘ではない。
 梶浦祐作『だけ』ではどうやっても一人も殺せなかった筈だから。

【了】


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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
×××××××××××××××××××××××××××

 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

 ■6224/ラン・ファー
 女/18歳/斡旋業

 ■2592/不動・修羅(ふどう・しゅら)
 男/17歳/神聖都学園高等部2年生 降霊師

 ■6677/アデール・バラティエ
 女/25歳/魔女・古書店主人

 ※表記は発注の順番になってます

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 …以下、登場NPC(□→公式/■→手前)

 ■梶浦・真理絵/依頼人の未亡人
 ■梶浦・祐作/依頼人の亡夫

 ■上杉・聖治/遺された写真に写っていた人(存命)
 ■江波・瑠維/〃
 ■坂城・辰比古/遺された写真に写っていた人(死亡)
 ■佐保・菖蒲/〃
 ■神前・啓次/〃
 ■米沢・千晴/〃
 ■拝島・義/〃
 ■春野・優二郎/〃

 □碇・麗香/オープニングより登場。

 ■湖藍灰/虚無の境界構成員(登録NPC)
 ■天藍/虚無の境界構成員(登録NPC)

×××××××××××××××××××××××××××
          ライター通信
×××××××××××××××××××××××××××

 PC三名様とも初めまして。今回は発注有難う御座いました。
 依頼系では毎度の如く長文気味になる上に、作成日数上乗せした上で納期ぎりぎりもしくは日付は間に合ってても時間的にはやや過ぎ気味まで粘る(すみません/汗)事が多いと言う厄介な傾向のあるライターの深海残月で御座います…宜しければ以後御見知り置きを。
 初めましてと言う事で、PC様の性格・口調・行動・人称等で違和感やこれは有り得ない等の引っ掛かりがあるようでしたら、お気軽にリテイクお声掛け下さい。…他にも何かありましたら。

 今回の話は…実は私の頭の中の状況と皆様のプレイングのちょっとした加減で、結末が…依頼人の亡夫や写真・プロフィールに残されていた人物が何者だったのかの真相がころっと変わっていたりします。よって、同タイトルのノベルでも同時参加になっている方以外のノベルの場合、話の展開が全然違う事になってたりします。
 そんな訳で、こちらの三名様が参加されましたこのノベルでの真相は――懸念そのまま虚無の境界寄りの悪玉路線(?)になっております。そして三名様とも共通の文章になっています。

 不動修羅様(PC様には初めましてですがPL様にはいつも御世話になってます)の降霊術駆使、アデール・バラティエ様の虚無の境界に対しての懸念、と言ったプレイングからしてそんな方向になりまして、どう転んでも良さそうなプレイングとお見受けしましたラン・ファー様に御二方を繋いで華を添えて頂いた(…?)ような形です。
 と、そう言えばラン・ファー様、当方がシリアス希望と書く場合「ナンセンスやらギャグ的な完全脱線希望なプレイング」を出されてしまうとライターが泣く(…)と言うだけの話でして、PC様御本人の性格人柄がシリアスな方でなくとも全然構いませんのでそこで謝られる事などありません。問題無しです。

 少なくとも対価分は満足して頂ければ宜しいのですが。
 では、また機会がありましたらその時は。

 深海残月 拝