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<東京怪談・PCゲームノベル>


ワンダフル・ライフ〜発進?レイジングX〜





 私の名前はルーリィ。魔女である。魔法を使えるオンナノコなので魔女なのである。
つまり、私の日常には魔法が満ち溢れているのである。
近頃は徐々に人間たちの近代的電気器具に侵食されもしているけれど、それでもはやはり魔法は無くてはならないものなのである。
「……こんな怪しい”魔法使い”、見たことないわ…」
 その私をしてそう言わしめたのが彼だ。
 唖然としている私を前に、当の彼はその言葉を褒め言葉と受け取ったらしく、いやぁ、と照れ笑いを浮かべた。
とりあえずその笑みに嫌味なものはないから、悪い人ではないと思うんだけど。
「そこまで言われると照れちゃうなあ。あんまり褒めないで下さい」
「…ええ、分かったわ。もう余計なことは言わないでおくわ…」
 さすがの私もそう呟いて、額を押さえるしかなかった…。







 その怪しさ爆発の彼は、ぐるぐる眼鏡を首から提げ、ぼさぼさの腰まで届くくすんだ茶髪を三つ編みにして垂らしていた。
そこまでは良い。そこまでなら、私だって動揺しない。
 肝心なのは、彼の纏っているものなのだ。
床まで届く濃緑色のローブに、首から提げているのは分厚いグルグル眼鏡。
今時魔女の村の住人だって着ないようなローブには、なにやらごてごてとした装飾があちらこちらに見受けられる。
 そして、そんな彼の自己紹介の枕詞には、”魔法使い”とついていた。
「何か…こう…同じ魔法使いとして、言い表せないような戸惑いを感じるわ…!」
「そうなんですか。ルーリィさんは悩み多きお年頃なんですね」
 魔女よりも魔法使いらしい”自称”魔法使いの青年は、うんうんと頷きながら爽やかに言った。
うん、まあ、確かにうら若き乙女の私だけど、でもそういう意味じゃなくてね。
「…で、東雲緑田さんだっけ。今日はどうしたの?」
 私はそれ以上会話を続けると本気で頭が痛くなってしまいそうだったので、無理矢理話題を転換させた。
 そう、自称魔法使いの彼こと緑田がこの店にやってきたのは数分前のこと。
朗らかに「お久しぶりですね」とやってきた彼は、あくまで爽やかな好青年の笑顔で、今私の目の前にいる。
…これで服装がまともなら、私もこんなに頭を抱えることはないんだけど。
なまじ同職だから、こんな”如何にも”な格好には少々もどかしいものを感じてしまうわけで。
(そういえば彼と私は今日が初対面じゃなかったりする。去年行った肝試し大会に参加してくれたのだけど、
実際じっくり面を合わすのは初めてだった。まさかこんなに胡散臭い…いやいや、珍しい種類の人だったとは)
「そう、それなのです」
 緑田はもったいぶった素振りで腕を組み、うむと頷いた。
その様子に、私は首を傾げる。もしや、やんごとなき事情でもあるのかしら。やっぱり人を外見で区別しちゃいけなかったのかしら。
 だがそんな私の逡巡は、次の緑田の言葉でお空の彼方に消え去った。
「ルーリィさん、困ってますね」
「…はい?」
 私の目が点になった。
「ええ、隠さなくても結構、僕には分かります。この店には愛とか勇気とか希望とか、そういう光り輝くパワーが足りてない感じです!」
「はぁ」
 光り輝く、ときた。
 そりゃ確かに愛とか勇気とか希望とか、そういうものは私も嫌いじゃないわ。ええ、時々そういった類のテレビアニメは見るもの。
でもここは魔女の店で、普通魔女の店にはあんまりそういう輝きは無縁だと思うんだけど…。
 そんな物言いたげな私の視線を振り払い、緑田は大仰に天井を仰いだ。
「ダメです! まるでなっていません! あなたがそんなことでどうするんですかルーリィさん!」
「…はぁ」
 私、いつから愛と勇気と希望の代名詞になったのかしら…。
「ですがご心配ありません。僕も困ってるんです」
「はぁ。…って、そうなの?」
 私は緑田の言葉で我に返った。事情も彼が此処にやって来た理由もいまいち分からなかったけれど、
何か困りごとを抱えているならそれは対処する必要があるだろう。そのために私がいるんだし。となると、ワケが変わってくる。
この一瞬で緑田は私にとって、”胡散臭い同業者(かもしれない人)”から、”私のお客”になったのだった。
 そのお客様である緑田は、一点の曇りの無い笑顔でこういった。
「ええ。しかも僕の困りごとはルーリィさんにとっても朗報となるでしょう。つまり!」
「…つまり?」
















 そして数十分後。緑田の”困りごと”には私一人じゃ対処しきれないと判断した私は、急遽”ワールズエンド”全従業員を召還した。
「つまり、これを処分しろと」
「違うわ、これを使わないとダメなのよ」
 やっぱり分かってなかったリースを嗜め、私はため息を付く。
「ええと…母さん、なんだっけ、これ?」
 一度きりの説明では覚え切れなかったのか、傍らのリネアはその”石”を手に取りつつ、私を見上げた。
リネアの問いに、私の代わりに緑田が自ら胸を張って答えてくれる。
「ええ、リネアさん。右から、瓶覗の剣スラッシャー、山吹の拳スマッシャー、
乳白の盾ディフェンダー、漆黒の宝珠ヒーラーのレイジングシリーズといいます。いわゆる魔法の変身アイテムです」
「あっ、うん、それそれ。それで、なんで緑田兄さんがこんなの持ってるの?」
「良いことを聞いてくれました。何を隠そう、僕は世界に夢と希望と愛を満たすためにやってきた魔法的使者なので、
これらのアイテムを使用するに値する方を日夜探して蠢いているのです!」
「へ、へー…。そういうことやってるんだね」
 分かったのか結局分からなかったのか、石が入っていた星型のケースに戻しつつ、リネアは固い笑みで返した。
 そんなリネアの肩にばさばさっと飛んでくる一羽のコウモリ、私の使い魔であるリック。彼はリネアの肩に器用に止まり、ニヤッと笑った。
「そーだぜ、リネア。世の中にはいろんな職業がいるからな、中にはこーいうおめでたい奴もいるってこった」
「口が悪いぞリック。別に緑田さんは頭に常時春が訪れているような方ではないだろう。
ということは、世界に愛とか希望とか夢が溢れてないと困るんじゃないか」
「はいそのとおりです銀埜さん! 飲み込みが早い方は一家にお一人必要不可欠ですね。ということでレイジングシリーズ、如何ですか?
銀埜さんには乳白の盾ディフェンダーなんかお似合いだと思うんですが」
「丁重にお断り致します」
 緑田が朗らかに押し付けたものを、銀埜は白けた目でそのまま突っ返す。
「愛とか夢とか希望とかを必要とされている緑田さんには誠に申し訳ありませんが、私にはこのような趣味はありません」
「ええっ、何故ですか!? 僕の使命に共感くださったんじゃなかったんですか?!」
 大仰に驚く緑田に、銀埜はつっけんどんと返す。
「いいえ、残念ですが。理解はしましたが共感はしておりません」
 いやに今日に限っては冷たい銀埜である。
何故なのかしら。やっぱり緑田さんが男性だからかしら? 美人のお嬢さんじゃないとやる気が出ないのかしら。
「いや…そーじゃないでしょ。あの子は前に女装させられてるから、今回もその予感を持ってるんじゃないの」
 私の思考を読み取ったように、リースが呆れつつ囁いた。
 そういえばそうだった。暫く前に、他のお客さんの企みで、銀埜は一度女の子になっちゃったんだわ。
「…でも緑田さんは魔法の変身ってだけしか言ってないわよ。誰も魔女っ娘だなんて…」
「そーお? でも見てみなさいよ、あれ」
 リースはいまだ掛け合いを続けている男性陣のほうを指差す。
「何故そうやる気が停滞してるのですか。魔法の変身は男の浪漫のはず!」
「いえ、ですから」
「しかも今回はサービス含みまして、自動発動式の女性化もお付けしているんですよ!
衣装もゴージャスでフリルにスパッツ、そんじょそこらの日曜の朝アニメには負けません!」
「だからっ、そういうのが嫌なんです!」
(あらら…)
 リースの言ったとおりだった。そりゃ銀埜も珍しく激昂するわよ。
 かたくなに嫌がる…というか明らかに拒絶している銀埜の説得を続ける緑田。
「うう、そう仰られても困るんです。なにしろ戦隊は数を集めないと意味がありません。
つまりレイジングシリーズもアリー一人では単なる観賞用魔法少女に過ぎないのです。
この四つの石の持ち主を決めないと、アリーのやる気も高められません…」
 よよよ、と泣き落とし作戦に出たらしい。銀埜はそんな緑田を横目で見つつ、複雑な顔をしていた。
緑田の姿に少し罪悪感はあるが、でもやはり嫌なものは嫌。という顔である。
…まあそりゃ、銀埜の気持ちも分からないではないけどねえ…。
「はーい、緑田兄さん質問」
「はい、リネアさん」
 その空気をあっさりぶち壊したリネア。片手を挙げたリネアを、早々に立ち直った緑田が指す。
「ねえ、そのアリーって何?」
「はい、良い質問です。レイジングアリーとは僕が昨年の夏、この地で覚醒させた魔法少女の名です。
普段は活発な小学生、だが一度この世界に危機が訪れると、レイジングアリーとして悪を光の弓でばったばった…」
「じゃあレイジングアリーちゃんってもう活躍してるんだ! すごいね!」
「ええ、その予定です」
 爽やかな笑顔で緑田は頷いた。思わず従業員一同の声がハモる。
『…予定?』
「ええ。何故かアリーはいまいちやる気が起こらないようで、実のところあれ以来一度も変身してくれていないのです。
僕はきっと他のレイジングシリーズが集まっていないせいだと確信し、今日この店に…!」
(…ちょっと。アレかなりキてるわよ?)
(一応眼の正気は確認したんですが…)
(正気かもしんねえけど、もともとの根拠がやべえよ)
(一度も変身してくれてないって…。結局は嫌がられてるんじゃ…)
 未だ熱い熱弁をふるう緑田を他所に、ひそひそと会議を始めた私たち。
 アリーという名は微妙に覚えている。確か去年緑田がやってきた肝試しのとき、同行していた小学生の少女だ。
あれ以来会っていないので、私も良く人となりは知らないけれど…。
とりあえず、魔法少女とやらに好意的には見えなかったと思うけど。
 一旦会議という名の囁きあいを終了し、私たちはうん、と頷きあった。代表で私が緑田に話しかける。
「ねえ、緑田さん」
「はい、なんでしょう」
「結局はアレよね。そのレイジングシリーズっていう石を私たちの中の四人が使ったら問題は解決するのよね」
「ええ、そのとおりです! お分かりいただけましたか」
「まあ、一通りは」
 ということは。うちの店にいるのは、私、リネア、リース、リックに銀埜と合計5人。緑田が必要としているのは4人。…一人余る。
「…くじ引きでどうかしら?」
 そう彼らに振り返ってニッコリ笑った私を見て、皆は仕方無さそうに頷いた。…ただ一人を覗いて。











 厳正なるくじ引きのあと。引き当てた各々は各々の石を持ち、緑田に教えてもらった”レイジングブレイカー”という呪文を唱えた。
するとワールズエンド店内は一瞬で別世界になった。
「わぁい、思ったより可愛いねっ!」
 純粋に喜んでいるのはリネア…ではなく、レイジングヒーラー。ヒーラーという名だがテーマカラーは黒らしく、
漆黒の丈が短いワンピースの上に純白のフリルを大量にくっつけ、胸元には握りこぶし大の球体があった。
リネアにしては少し大人っぽいイメージだけども、本人としては結構気に入っているらしい。
 そして残りのメンバーはこんな感じである。剣のレイジングスラッシャーはリース、盾のレイジングディフェンダーは私。
それぞれ、テーマカラーに基づいた衣装で、細部は異なるものの大概フリルやリボンで飾り付けられ、
ウエストはきゅっと引き締まり、スカートは太ももの中ほどぐらいまでしかなかった。
でもそこはスパッツも履いているので問題なしだ。レイジングシリーズ、なかなか配慮が細かい。
 まあ確かに少々恥ずかしい衣装ではあるけれど、女性陣にはおおむね受けが良かった。
リネアほど諸手を挙げて喜んでいるわけではないけれど、それなりに私もリースもはしゃいでいた。
「ねえこれ見て、腰の後ろに大きなリボンがあるの。こういうデザインって小さい頃流行ってなかった?」
「そういやそうね、5,6歳の頃ってこういう少女趣味が蔓延してたわ。
でも最近のアイドルってブーツ履いたりするのね。体型カバーにいいのかしら?」
「もう、リースってば。アイドルじゃなくって魔法少女よ。ね、緑田さん?」
「ええ、ルーリィさんの言うとおりです。たとえ少女らしからぬお歳であっても魔法少女と呼ばれることが出来る、魅惑の変身なのですとも」
 熱く拳を握る緑田。何となく聞き逃せない部分があったりしたけど、まあそれは置いておく。
それにしても、あくまで”自称”と思っていたけれど、本当に彼は魔法使いだったらしい。
リース曰く、このレイジングシリーズとやらの石にも相当の魔力が込められているそうだ。
人を外見で判断してはいけない、という格言(?)を改めて思い知った私だった。

 …そして残りの一つはというと。
「…………。」
 ”山吹の拳レイジングスマッシャー”は、フリルのたくさん付いた黄色の衣装を纏い、ふるふると震えていた。
背は私たちと同じ程度、華奢でスレンダーな体型に細い顎、
切れのある目元、ともしこのまま成長したらかなりの美女になるんじゃないかと思わせる美少女だった。
ちなみに髪の色は銀色。…つまり。
「素晴らしい! やはり僕が見込んだとおりでした。とても良くお似合いですよ銀埜さん!」
「………………」
 銀埜ことスマッシャーちゃんは、泣きそうになりながら押し殺した声で呟いた。
「頼むから黙ってくれませんか…」
 名前のとおり、小金色の拳が光り、もう少しで緑田の頬に直撃するところだった。



 と、いうわけで。厳正なるくじ引きの結果、大変面白い結果になってしまった。
勿論、細工なんて何も行っていない。と言うと、若干一名から酷く恨みがましい眼で睨まれてしまった。…ホントのことなのに。
「…で、変身したのはいいけど、それでどうすりゃいいのよ?」
 スラッシャーことリースが肩をすくめて見せた。確かに彼女のいうとおりである。
そもそも、何で魔法少女に変身しなきゃいけなかったんだっけ?
良く考えれば私たちは元々魔法が使えるオンナノコなわけで、魔法少女であるのに。
 そんな私たちの疑問を、緑田は眩しい笑顔で受け止めた。
「それは勿論、この世に愛と夢を希望を振りまくためです! さあ行け、レイジング戦隊!
この世が笑顔で満ちる日まで!」
『却下。』
 私たちは緑田の言葉を、三者三様の言い方で跳ね返した。
ガガ〜ン! とショックを受ける彼に、それぞれ続ける。
「だって、お店で忙しいもの。そりゃ確かにこの世界が笑顔で満ちたらステキだけど、魔法少女の営業まで手が回らないのよね」
「あたし、愛と夢と希望ってガラじゃないのよねー。どうせなら闇と混沌にしない? そっちのが性に合ってると思うのよ」
「あなたは…私に更に生き恥をかかせる気ですか…!」
「ああ、そんなっ! ここにきて僕のレイジング戦隊が暗礁に乗り上げるだなんて…!」
 およよ、と泣き崩れる緑田に、一人コウモリの姿のままのリックが追い討ちをかけた。
「つーか、そもそも人選ミスだよ、アンタ。ここの連中が、ンなこと積極的にやるわけないじゃん?」
 うん、ご尤も。









 で、結局レイジングシリーズの野望が儚くも敗れ去った緑田は、というと。
「なんと…新たなレイジングシリーズがまたもややる気なし集団だったとは…。
でも僕の目に狂いは無いはずです。いつの日か、立派な魔女っ娘戦隊としてデビューしましょう!」
 と、どこから溢れてくるのか分からない熱意を振りまきつつ、拳を固めていた。
多分やってこないだろうその日を遠い目をして眺めている私たち4人を他所に、
一人だけ難を逃れているリックは上機嫌で天井あたりを飛び回っていた。
 だがそんなリックのことを緑田は忘れていなかったらしく。
「あ、リックさん。きみにも重大な役目がありますよ」
「げっ」
 そう指を指され、蛍光灯あたりでガクッとよろめくリック。緑田はやっぱり爽やかな笑顔で言い放った。
「レイジング戦隊を影ながらサポートするマスコット! まさに小動物のあなたに相応しいお役目です!」
 …小動物っていうか、コウモリなんだけどね…。
 危機を察してキーキー飛び回るリックを笑顔で追いかける緑田。
「…ま、うちの店には結局こんなドタバタがお似合いってことかしらね」
 それでいーのか、とリースと銀埜からの白けた目線を受けつつ、私は肩をすくめてみせた。









 おわり。










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▼ 登場人物 * この物語に登場した人物の一覧
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【整理番号|PC名|性別|年齢|職業】

【6591|東雲・緑田|男性|22歳|魔法の斡旋業兼ラーメン屋台の情報屋さん】

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▼ ライター通信
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大変お待たせしまして申し訳ありません、ご発注有難う御座いました。
そして再来にも感謝を。

…お話的には、微妙に落ちてるんだかどうなんだか、分からないオチになっちゃいました。
総じてこの店の連中は外界での活動には然程興味が湧かないようで…
緑田さんには、更なる勧誘に励んで頂ければ、と思います。

それでは、またお会いできることを祈って。