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<東京怪談・PCゲームノベル>


お届け物は呪いの品?!〜災い転じて福となる・・・のか?

暴風でも吹き荒れたかのような惨状に店員は涙を押さえつつ、店主・アリスを見やる。
まだ暴れたりないのか、肩を上下させてあらゆる物を粉砕している姿に掛ける言葉もない。
なだめるという行為が無に等しいのは骨身に染み入るくらい分かっていた。
気持ち分かる。暴れたい気持ちはよーく分かる。
だが、売り物を粉砕しつくすのはどうなのだろうか?と激しく抗議したいところだ。
店員は大きく肩を落とすと、諸悪の根源である届け物―額に翡翠を埋め込んだ木像をにらみつけた。
何の変哲もないただの木像だが、見る人が見ればというか、分かる人には分かるというほどの桁外れな不幸の波動を放ちまくっている―いわゆるひとつの『超』呪われた品なのである。
アリスの知り合い(本人談)が送りつけてきたこのふざけた品のせいで、現在不幸の大バーゲンセールに見舞われていた。
注文が全てキャンセルされ、売り上げダウン。彫金に必要な材料のいきなり値上がって、まともな品が作れない状態。
さらに身に覚えのない誹謗中傷があらゆるところで飛びまくる。
結果、素晴らしいくらい閑古鳥がラインダンスを踊りながら鳴きまくっているという状況。
意外と図太いアリスもさすがに限界点を突破し―被害拡大も省みず暴れていた。
「アリス様〜いい加減に落ち着いてくださいよ〜」
情けない声を上げる店員だが、アリスは聞いてくれない。
というか、聞いちゃいない。
血が頭に上りすぎて見境がなくなっているようだ。
がっくりと落ち込む店員の背後で何の前触れもなくいきなりドアが蹴破られる。
倒れてきたドアに潰される店員の上に片足を乗せて、研究者らしき姿をした女性―藤田・あやこが大声を張り上げた。
「アリス・御堂って誰?!何の恨みがあってスパムなんて送りつけてくるのよ!!」
「アリスは私よ・・・って、うちの店員に何してんのよ!!新手の嫌がらせか?!」
ただでさえ怒りの絶頂に達しているところに見知らぬ女の乱入にアリスはギンと目を据わらせて振り返り―無残にも破壊されたドアと踏み潰されている店員の姿に臨界点があっけなく突破する。
ただでさえ赤字がサンバを踊っているというありがたくもなんともない状況でドア破壊なんて修繕費が嵩むではないか。
凄まじいまでに言い合うアリスとあやこ。
もはや手がつけられないほどになっているが、ここはひとつ冷静になってもらいたい。
なぜならば、双方ともに店員を踏みつけたまま言い合っているのだ。
「身に覚えがないですって?!間違いなくここのアドレスじゃない!!」
「知らないわね!そんなことっ。ってか、そんなことで店を破壊しないでほしいわね!」
「迷惑ぐらい考えなさいよ!」
「それはこっちの台詞だわ!!」
「自覚があるなら二人とも止めて下さい!!」
果てしなく続きそうなアリスとあやこの言い合いに自力で這い出した店員が涙を流しながら思いっきりつっこんだのは言うまでもなかった。


「状況は分かったわ。つまりはこの木像が全ての元凶ってわけなのね?」
「そう。封じを掛けて送り返してやりたいところだけど、当人の居場所が不明でど〜にもならないのよ。」
呆れた様子で問うあやこにアリスは半眼しながら応じる。
ただし双方共に完全激怒した店員に殴られて、特大のたんこぶを造っているので傍目には滑稽。
ちなみに殴った当の店員は冷静にお茶を注いでいたりする。
「ろくでもないわね〜送り主。」
「・・・よく姉さまがぶっ飛ばしてたわよ。」
遠い目をしてアリスは思う。
そう。そうなのだ。
この超絶はた迷惑な木像を送りつけてきた人物はそーゆー奴なのだ。
人の迷惑など毛筋にも考えず、ありとあらゆる場面で暴走し、甚大な被害をもたらす生きた暴風雨。
アリスのみならず『あの』姉上でさえ押さえられない超危険人物。
この呪われた木像にしてもどこかで手に入れたはいいが処分に困って送りつけたに決まっている。
不幸なんぞごめんだと言うところだろうが、それはアリスにしても同じことだ。
大体その手の類だったら、アリスよりもあちらの方が得意のはず。
完璧に面倒くさがった結果だろう。
しかし―
「こちらの被害を考えて欲しいわよ。お陰で商売上がったり。閑古鳥が鳴きまくり。やってらんないわ〜」
ギンと木像を睨むアリスだったが、隣にいたあやこがなにやらバックから取り出している。
何をしてるのかな〜と覗き込んで―アリスは凍りついた。
ガチャリと鈍い金属音。
鮮やかなグレーの金属に染まった重厚な造りはスナイパーライフル。
「ちょ・・・・ちょっと!!あんた何してんのよ!!」
「任せておきなさい。あの呪いの木像、この私が粉砕してやるわ!!」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!やらんでいい!!」
背筋に走る恐怖を覚えて絶叫するアリスを綺麗に無視して、あやこは狙いを済ませてライフルを撃つ。
直後、これ以上はないくらい荒れ果てた店内に天をつくような叫びが響き渡る。


「ふざけんじゃないわよ!!」
「これは呪いの品なんですよ?無闇に攻撃しないでくださいよ〜!!」
肩で大きく息をつきながら怒鳴りつけるアリスにあやこは心外なと言わんばかりの表情を浮かべる。
だが、腰にすがり付いて泣き出す店員の姿にわずかばかり罪悪感を覚え、視線を泳がせた。
その先にあるのは件の木像がでんと鎮座しており、あやこの額にぴしりと青筋が立つ。
放たれた銃弾は真っ直ぐに翡翠を捉えていた。
本当に確実に捉えていたのだ。
にも関わらず翡翠に届く寸前、いきなり木像がどこぞの映画のワンシーンが如く大きく背後に仰け反り、銃弾をかわしたのだ。
さらにかわされた銃弾がその背後にあった鏡に当たると、どういう訳か跳ね返りー店内を凄惨極まりなく暴れまくってくれた。
お陰であやこたちは荒れ放題の店の中を喚き散らしながら逃げまくる羽目に陥った。
どうにか銃弾が柱にめり込んでくれたが、憎らしいのは呪いの木像。
にへらと笑う姿が憎らしいことこの上なし。
―おのれ、木像の分際で!!
「こうなったら意地よ!絶対なんとかしてやろうじゃない!!」
言うが早いか、すっくと立ち上がったあやこはアリスと木像を掴むと外に停めてあったジープに放り込む。
したたか腰を打ち付けたアリスに痛がる余裕も与えずにあやこはジープを急発進させる。
思いっきり前のめりになって、鼻を打ちつけるアリス。ついでに後部座席に放り込まれていた木像は強烈にバウンドした後、座席下に叩きつけられていたりするが、あやこは気にも止めずジープを走らせる。
「な・・・・・・何する気よ?」
「不幸が続くなら不幸が起こらないようにすればいいのよ。」
「・・・・・・はぁ、まぁそうなんですけど?」
多少ばかり及び腰にあるアリスは自信満々に胸を張るあやこに一抹の不安を覚え、眉をよせる。
確かに不幸が起こらないようにすれば良い訳だが、それができないから困っているのだ。
一体どうしようというのか、と思うアリスにあやこは高らかに言い放つ。
「不幸があるなら幸運もある。ここは発想を転換!幸運な人間のところへ行って幸運を分けてもらうのよ!!」
「なんだそれはぁぁぁぁぁぁっ!!」
本日何度目かの絶叫を上げながらアリスは彼女―あやこが関わってきたことのも、ある種呪いなんじゃないかなぁと頭の片隅で思った。


閑静な住宅街に怒号とも泣き声ともつかない声があちこちで上がる。
ジープの助手席でぐったりとなったアリスを横目にあやこは元気一杯に携帯を打ちまくっていた。
現在彼女達がいる住宅街。
一見、どこにでもある静かな街だが、ここは知る人ぞ知る超高級住宅街で某IT企業の社長が住んでいたりするので有名。
はっきりいって場違い極まりないあやことアリスがここにいるのは一重に呪いを解く為。
どちらかと言うとあやこの方がはりきり、アリスはグロッキー状態で泣き出さんばかりの様相。
この住宅街に到着して、まず突撃したのは先述の社長宅。
半ば呆然のアリスを引きずって、応対に出た社長に放った一言は「付き合ってあげて下さい。」
怪しいことこの上なし。
なので、数秒で門外に追い出されたのは言うまでもない。
それでもめげずにあやこは携帯のアドレスを網羅して元カレに連絡を取り捲っている。
性格と根性の図太さは最強だと言わしめたアリスが根を上げ、現実拒否モードに突入しているのにさえも気付かない。
「くぅぅ・・・駄目か。一人ぐらいいるはずなのにどうして?」
「あ〜う〜」
「何が何でも呪いを解くわ。任せてよ?」
「う〜あ〜」
うなり声しか上げないアリスにあやこは猛然とメールを打ち続ける。
元カレを紹介するのもどうか?というツッコミはこの際置いて、こうなると意地だ。
絶対自分の手で何とかしてみせようじゃないと息巻くあやこにもはや掛ける言葉がない。
最大の不幸は降りかかっているのね〜とどこか達観するアリスの耳にびしりと固い木がはぜ割れる音が届いたのはその時だった。
何の音だろうと、なんとなく後部座席を振り返り―アリスは絶叫を上げた。
「ちょ・・・ちょっと!!何よ?」
耳元でいきなり大声を上げられ、両手で耳を押さえるあやこにアリスは震える指で後部座席下に散らばったそれを指差した。
数個の木片と無残に砕け散った翠色の輝石。
それはあの忌々しい呪いの木像に埋め込まれたものと全く同じものと気付いて、あやこはアリスに負けず劣らず声を張り上げた。
「砕けてる?!というか、呪いが解けたの!!」
満面喜色に染まるあやこを横目にアリスはしばし呆然となった後、肺が空になるくらい息を吐いた。
不幸が降りかかるなら幸運な人間と結婚して幸福になればいいという前向きな思考。そして、どんな不幸にもめげないあやこの粘り強さに呪いの木像が根負けしたというところだろう。
凶悪極まりない木像もあやこの不屈の闘志の前に砕け散ったというべきだろうか。
しかしながら、とアリスは思う。
「これで結婚とかトンデモ話も終わりね。」
少々腑に落ちない言いたげなあやこには悪いが、アリスは心底安堵した。

「けっこう繁盛してたみたいね。」
木像が砕けてから数日後、店を訪れたあやこにアリスは半眼する。
笑顔を浮かべた店員があやこに椅子を勧め、奥から紅茶セット一式を持ってくると優雅な所作で茶を入れた。
嬉しそうなあやこに対し、アリスは少々斜に構える。
呪いが解けたのはいい。が、直後に広まった噂は決して手放しで喜べるものじゃなかった。
なぜならば。
―あの店は確実な縁切りができる。
らしいなどの疑問符はつかず、断言形の噂が広まっていたのだ。
それはそうだな、とあやこは思う。
呪いの木像はともかくアリスは占いの腕が抜群に良い。
ものの見事に言い当て、的確な助言をするのだ。
今まで評判にならなかったのが不思議なくらいだが、不幸を撒き散らす木像のお陰で一気に広まった。
―結婚は人生の墓場
そんな格言(?)通り、この件で思い悩む人間は世の中溢れかえっている。
噂が噂を呼び、一時アリスの店は男性客で賑わっていた。
それもどうにか収まり、以前のような静けさ―暇を取り戻したところなのだが、果たして喜ぶべきなのかは迷うところである。
「お陰様でどうにか店の修理費ができたわよ。」
やや頬を引き攣らせるアリスにあやこは小さく肩を竦めた。
店が再び暇になった一因があると自覚しているだけにあまり強気に出るわけにいかない。
ちなみにアリスの方でも原因があるので責められないだけに、苦虫を噛み潰しているようなものだ。
助けてもらった礼にあやこの未来を見てやろうと言ったアリスか。それともあやこの元々持っていた不運なのか。
どちらとも言えないが、その直後から店の客が激減した。
双方共に理由は口にしたくはない。
ただ言えるは、未来なんて滅多に見るもんじゃない。無闇にいざこざに首をつっこまない。
これである。
鼻腔をくすぐる紅茶の香りを楽しみながら、あやこは大きな息を吐き出す。
絶妙な閑古鳥が鳴く店とは裏腹に街は明るさに包まれていた。

FIN


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■   登場人物
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【7061/藤田・あやこ/女性/24歳/女子大生】

【NPC アリス・御堂】
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■   ライター通信
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はじめまして緒方智です。
このたびはご依頼いただきましてありがとうございます。
お待たせいたしまして申し訳ありません。
今回の話はいかがでしたでしょうか?
世の中知らなくていい未来もあるということでしょう。
散々な目にめげないあやこ様の強さは見習うべきものだったでしょう。
それではまた機会がありましたら、よろしくお願いします。