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<東京怪談・PCゲームノベル>


大混乱!名前のない砂時計

<Opening>
「どうなってんだこれは!?」
外出先から戻った草間は驚きの声を上げた。
当然だろう。
「遥瑠歌……何だこれは」
沢山の砂時計に埋もれる様に座り込んでいるのは、唯一興信所に居た遥瑠歌というゴスロリ風の服を着た少女。
この少女、義妹の零と同じように、不思議な力を持っている。
『創砂深歌者』と自らの事を呼んだ少女は、人の寿命を現す砂時計を具現化する事が出来る上、別の異界へ道を作ることが出来

る。
その砂時計には必ず名前が彫ってあって、誰の物かが分かる様になっている、らしいのだが。
「わたくしにも分かりません。気が付いたらどうやら歌っていて、これ等が出現致しました」
少女はそう言うと、草間へ一つの砂時計を差し出す。
「誰の物だ?」
「それが……」
珍しく少女が困った様に告げた。
「名前が御座いません」
「……は?」
受け取ったそれをしげしげと見つめるが、確かに何処にも名前はない。
「歌って戻せばいいだろ」
そう言って砂時計を返すが。
「思い出せません」
少女の言葉に、草間は銜えた煙草をポロリと落とした。
「は?」
「無意識下で歌った様で、歌を思い出せません」
普段の少女なら、こんな事は有り得ない。
肩を落として済まなそうにする遥瑠歌を見て、彼は溜め息をきながら、慰めるように少女の頭を撫でた。
「仕方ない。如何にかして歌を思い出して、戻すしかないだろ」
「はい……」
「もう少しで、買い物に出た零とシュラインが帰ってくる。そしたら皆で考えるぞ」
沢山の砂時計に目をやりながら、草間はそう告げたのだった。

<01>
「あら、何時の間にこんな事になったの?」
「凄い数の砂時計ですね」
買い物から帰って来たシュラインと零の一言目はそれだった。
「感心するな。この砂時計共、戻せねぇんだぞ」
軽く頭を抱える草間に申し訳なさそうな遥瑠歌
二人を見て、シュラインは小さく笑みを浮かべる。
「遥瑠歌ちゃん、戻せないの?」
優しく問いかけると、遥瑠歌は頷いて。
「無意識下で歌ってしまったようで、歌を思い出せません」
オッドアイを伏せた小さな少女を、彼女は笑みを浮かべたまま励ます様に撫でる。
「起きた事は仕方がないわ。とりあえず、皆が座れる程度にスペースを開けましょう」
「そうですね。まずはこの砂時計達をどうにかしないと」
零はそう言うと、砂時計を一つずつ片手に取って部屋の隅へと移動させていく。
それを見て、草間は溜息をつきながら幾つかの砂時計を抱えて、同じ様に隅へと放り投げようとした。
「武彦さん、丁寧に移動させて。誰かの砂時計だったら如何するの?」
草間の行動に眼を見開いた遥瑠歌を見て、シュラインは目を細めて釘を刺す。
「……分かったよ」
銜え煙草のままではあるが、草間なりに丁寧に移動させていくのを見て、シュラインは息を付いた遥瑠歌に。
「それじゃあ、私達も移動させましょう」
その言葉に、少女はこくりと頷いた。

やはり、その時に考えていたことがヒントだろうと言って、シュラインは隅に片付けられた砂時計から視線を外すと。
「零ちゃん、一緒に飲み物でも入れましょう。武彦さんと私は珈琲を飲むとして、零ちゃんと遥瑠歌ちゃんは……」
「ココアにしましょうか」
零はそう言って遥瑠歌を見る。
頷く少女と草間を置いて、シュラインと零は簡易キッチンへと向かった。

<02>
「それで、遥瑠歌ちゃんは一人の間何をしていたの?」
自分で入れた珈琲を飲みながら、そう問いかけたシュラインに、マグカップを両手で持った遥瑠歌が思い出すように目を軽く伏

せた。
「電話が鳴りまして、何方も御不在でしたので、代わりにわたくしが」
「電話をかけてきたのは誰だ?」
「三下・忠雄様です」
聞き慣れた名前に、少女以外の溜息をつく興信所メンバー。
「どうせ阿呆らしい話だろ。放っとけ」
草間の言葉に、誰一人否定はせず。
「その後は何をしてたんですか?」
二番手として零が問いかける。
「本を拝読しました」
「どんな本?」
質問に、遥瑠歌はマグカップを置いて傍に置いてあった本を手に取った。
その本を見た一同は、目を丸くする。
「『美味しい郷土料理』?」
「私の本?」
その本は、雑然とした興信所に似合わない代物で、どうやらシュラインの物の様だった。
「はい。草間・武彦様が、シュライン・エマ様の作られる御料理は美味しいと仰っていたので」
「いらん事を思い出すな!」
軽く咳き込む草間の耳は、微かに赤く、シュラインはそれを見て小さく苦笑した。
「面白かった?」
「はい。大変興味深い物でした」
大きく頷き、遥瑠歌は持ち主へと本を差し出した。
受け取って、それで、と言葉を続けるシュライン。
「今日は特に何も変わった事はなかったし、三下くんの事だから、たいした事じゃないでしょうし」
「俺は依頼人に報告書を届けに行っただけだな」
「私はシュラインさんと買物に行っただけですし」
何も特別変わった一日ではなかった筈だ。
「本を読み終わりまして、その後はラジオを拝聴しておりました」
全員の視線が、草間のデスクへと向けられる。
其処には確かに、年季の入った草間愛用のラジオがあった。
「様々な曲を聴いていると、草間・武彦様がお帰りになりました」
どうも草間が帰ってくる直前までラジオを聞いていた様子の遥瑠歌に、草間は眉を寄せた。
「俺が帰って来た時にラジオなんて付いてなかったぞ?」
草間の疑問に、遥瑠歌は無表情のまま淡々と告げた。
「お帰りになる直前に、何故か突然切れました」
「それってひょっとして……」
「電池切れね」
シュラインの的確な言葉に、草間は慌ててラジオの電源を入れるが、確かにラジオが付くことはなかった。
「電池の買い置きあったか?零」
「この前ので最後よ」
義妹の答えに、草間は肩を落とした。
「また煙草代が消えちまう……」
三度の飯より煙草好きの草間に、冷ややかな突っ込みを入れたのは。
「それより、私の給料を払ってね」
一番の古株、シュラインだった。

<03>
「整理するぞ」
気を取り直すように咳払いをして、草間は書類の裏にボールペンでざっと書き出した。
「俺達が出掛けてから遥瑠歌がした行動は、下らん電話の受け答えと読書。それにラジオを聴いた。この三つ」
走り書きの其れは読み難い文字だった為、女性陣が其れを当てにする事はなかった。
「歌ったとしたら、電話の受け答え以外の時って事ね」
シュラインの言葉に、草間は頷く。
「確認するが、遥瑠歌の能力は『歌う』事で砂時計を具現化させる、ってやつだな」
「はい」
首を縦に振った遥瑠歌に、続けて質問をする。
「歌は、必ず物語になってるのよね?」
「はい。どの様な方でも必ず。時が終わっている場合は、短い言霊や詩になりますが」
「つまり、物語として成り立ってないといけないという事ね?鼻歌では駄目なの?」
「無理です。必ず発声している必要があります」
二人のやり取りに、零がポンと手を打った。
「そういえば、前に遥瑠歌ちゃん鼻歌を歌ってましたけど、砂時計は出て来ませんでしたね」
肯定の意を表す少女に、シュラインはふ、と何かに気がついたのか草間を見つめた。
「な、何だよ」
その視線にたじろぐ草間。
そんな草間に、シュラインは悪戯っぽく笑いながら、彼の鼻を軽く摘んだ。
「あにずんだ!」
「ねぇ、遥瑠歌ちゃん。どっかの誰かさんみたいに、砂時計を割っちゃった人の歌を歌った場合はどうなるの?」
シュラインが言う『どっかの誰かさん』は、摘まれた鼻から手を払いのけて。
「俺は関係ないだろ!」
軽く鼻を摩った。
その遣り取りを見ながら、遥瑠歌は色の違う両目を大きく見開く。
「考えたことが御座いませんでした」
「は?」
遥瑠歌以外の全員が声を揃えた。
「砂時計を壊されたのは、今迄、草間・武彦様しかいらっしゃいません。ですから、その様な事を考慮する必要が御座いません

でした」
「それってつまり……」
零の呟きに、冷静に、でもどこか楽しそうにシュラインが続けて言葉を紡ぐ。
「新しい砂時計が出来た、っていう可能性もある訳ね」
そう言うと、シュラインはでも、と草間に視線を向けて。
「でも、別に興味はないわよね?武彦さん?自分で自分の砂時計を砕いちゃったんだから、気にならないでしょ?」
悪戯っぽく笑う彼女に、彼は苦々しそうな表情で頭を掻いた。
「そりゃ、突然『貴方の砂時計です』って見せられりゃな」
「武彦さんが拘るのは煙草だけですものね」
「兄さんはそれ以外興味ないですし」
愛煙家の草間を見やって、そしてシュラインは少女達に笑いかけた。
「だから、その山のような砂時計、選び放題だけど、元に戻しちゃいましょう」
「そうですね。遥瑠歌ちゃん、頑張って思い出しましょう!」
「はい」
何時の間にか団結した女性陣に、草間が敵う訳がなかった。
「何なら、武彦さんの歌をもう一度歌ってみたら?」
「な!?」
当の草間を放置して、シュラインが提案する。
しかし、遥瑠歌は首を縦に振ることはなかった。
「……一度歌った歌は二度歌えない様です。まして、草間・武彦様の砂時計は御本人の意思で破壊されましたから」
「じゃあ、武彦さんの歌は切欠にはならないわね」
シュラインと零が溜息を零す一方、何処か安心した表情の草間だった。

<04>
「こうなったら、連想ゲームですね」
零の言葉に、残りのメンバーは頷く。
「何でも良いわ。何か少しでも覚えてる事を教えてくれる?遥瑠歌ちゃん」
頷いて、遥瑠歌はゆっくりと言葉を紡ぎだした。
「何か生き物が出てきました」
「生き物?其れは陸の動物?」
「はい」
「動物な。後は?」
「花が出て来ました」
「どんな?」
「具体的な花ではなかったかと思います」
遥瑠歌の答えに、一同は考え込む。
「動物、花……後は何か無いのか?」
草間のその言葉に、少女は軽く目を伏せて思い出そうとする。
「後は……逃げました」
「逃げた?」
「はい」
突然変な答えが返って来た事に、草間は口に銜えた煙草を危うく落とす所だった。
「動物、花、逃げる。他には何か思い出せそう?」
シュラインが遥瑠歌の頭を優しく撫でながら聞くと、少女はふと目を開いて。
「森での出来事だった様です」
「森ですか?動物が出て来て、花、逃げて、場所は森……」
零の呟きに、ふと、一番最初に気がついたのは流石というか、所長の草間だった。
「……まさかあれか?」
同じ様に、気がついたのはシュラインだ。
「分かった気がするわ」
恐らく同じ答えだろうと、彼女は草間へと視線を向ける。
「……俺の口から言わせる気か」
「あら?先に思いついたのは武彦さんでしょ?」
草間の嫌そうな表情に、遥瑠歌が申し訳なさそうに身を縮め込ませた。
「ほら、不安にさせちゃ駄目よ。早く言ってあげて」
促す彼女に、草間は嫌々と、答えを告げたのだった。
「『森のくまさん』だ」

<Ending>
「遥瑠歌、今後は意味無く歌うなよ」
無事砂時計を全て返した後、草間は少女に釘を刺した。
歌うことで発生する、という事が分かれば、後の対処は自ずと分かる。
こくりと遥瑠歌は頷いた。

「シュライン・エマ様」
草間がデスクへと戻ったのを見て、遥瑠歌は小さな声でシュラインを呼んだ。
近寄ってきた少女に合わせて、彼女は身を屈めた。
「なぁに?」
「こちらを」
渡されたのは、小さな硝子の欠片。
「これは?」
「草間・武彦様の砂時計の欠片です」
「それって……」
珍しく無表情ではなく、小さく笑みを浮かべた遥瑠歌は、彼女に告げた。
「誰にも、内緒ですよ?」

<This story is the end. But, your story is never end!>





□■■□■■■□■  登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■□■■■□■■■■□


   【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家・幽霊作家&草間興信所事務員】
   【公式NPC/草間・武彦/男/30歳/草間興信所所長・探偵】
   【公式NPC/草間・零/女/年齢不詳/草間興信所の探偵見習い】
   【NPC4579/遥瑠歌/女/10歳(外見年齢)/創砂深歌者】




◆◇◇◆◇◇◇◆◇        ライター通信         ◇◆◇◇◇◆◇◇◇◇◆

   この度は受注頂き、誠に有難う御座います!
   連想ゲームの答えを、クールでハードボイルドを目指す草間に言わせることが出来て、楽しかったです。
   それでは、またのご縁がありますように……