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<東京怪談・PCゲームノベル>


異界から来た依頼人 後編

<Opening>
「あのなぁ……」
草間が苦々しげに告げる。
「俺は、『怪奇現象』専門の探偵じゃないんだよ。そういうのは、ちゃんとした専門家に頼めば良いだろ」
「確かに、私の存在自体は怪奇現象に分類されるでしょうけど。物探しっていう仕事自体は怪奇現象ではないし、探し物は探偵さんの専門でしょう?」
最もなシュラインの言葉。
確かに、失せ物探しは怪奇現象ではないし、通常の依頼、どちらかといえば草間が願う様な仕事内容だ。
「何より、一番信頼出来て、頼れるのが『ココ』なの。お願い、力を貸して」
それに、と彼女は言葉を続ける。
「それに、私が此処に居続けるという事は、こっちの私が何時までも戻れないという事にもなるの」
草間を見つめるシュラインと、眉を寄せる草間。
「依頼料はちゃんと払うし」
そんな二人の遣り取りを見て、零が声を上げた。
「いいじゃないですか兄さん。ちゃんと依頼料貰えるそうですし。物探しは普通のお仕事ですから、受けましょうよ」
「わたくしも、其れが最良かと」
零に続いて、遥瑠歌までもが同意の声を上げる。
「おまえ等……」
苦々しい表情で煙草を吸う草間に、零と遥瑠歌、そしてシュラインは顔を見合わせた後、頷いた。
「じゃあ兄さん。此処は平等に、多数決で決めましょう」
「何処が平等だ!?」
デスクを叩いて立ち上がる草間を無視して、零は言葉を続ける。
「此の依頼、拒否する人は手を挙げて」
手を挙げたのは、草間一人。
「それじゃあ、此の依頼、受ける人は手を挙げて」
手を挙げたのはもちろん、零と遥瑠歌の二人。
何故かシュラインも混ざり、三人ともいえるが、今回彼女は依頼人だ。
引き受けようと言っている二人と、依頼しに来た一人が手を挙げるのは当然の事で。
「三対一。多数決で引き受ける事に決定です」
零の無常な言葉に、草間は大きく肩を落とした。

<Chapter: 01>
「手がかりは音叉か」
引き受けた以上、生半可な仕事をするのは草間のポリシーに反する。
先程までとはうって変わって、草間は仕事モードへと切り替わった。
「私の世界ではなかったけれど。此の辺りに楽器の音が頻繁に鳴る所、っていうのはあるかしら」
音叉は楽器の調弦に使用する物。
だとすれば、音叉の傍には楽器があると見るのが定石だ。
「いや。しょっちゅう鳴る場所は無いな」
それよりも、と、草間は依頼人であるシュラインに問いかける。
「まだ音はしてるか?」
草間の問いに、彼女は頷いて答える。
「えぇ。ずっと鳴りっ放し。出所を辿ろうとしても、ぼんやりしているし」
「奇妙だな。音叉は鳴りっ放しになるもんじゃない」
新しい煙草に火をつけて、草間は窓の外へと目を向ける。
外は確かに賑やかだが、音叉の音は聞いた覚えがない。
何より、音叉という物は、多少響きはするが一定の音量で永遠に響くものではない。
「でも、音叉があるのなら、楽器がある可能性は高いでしょう?」
シュラインの言葉に、草間は頷いて零へと視線を移す。
「零、此の辺りの地図を持って来てくれ」
「分かりました」
草間の指示に従って、零が興信所の片隅にある資料棚から一枚の地図を引っ張り出して来た。
「興信所周辺の最新地図だ。そっちの世界と何処か違う所はあるか?」
言われてシュラインは、じっと地図を見つめる。
「そうね。特には無いわ。ビルの立ち並びも、変わり無いし」
「だが、ビル自体に入ってるテナント類は違う可能性もあるな」
ふと、草間の視界に黒い服に身を包んだ少女が映る。
「遥瑠歌。おまえ『異界へ繋がる道』を作れるんだよな」
問う草間に、遥瑠歌は頷く。
「はい。わたくしは『此処ではない異界』へ道を繋ぐ事が可能です」
「零。最近の依頼で、此の周辺の物の資料も持って来てくれ」
「此処最近の依頼は、全部『怪奇現象関連』ですよ?」
「逆に、怪奇関連の依頼だけで構わねぇよ」
珍しい草間の言葉に驚きながらも、零は言われた通りに資料を持って来た。
「音叉が鳴り続けるなんて、怪奇以外の何物でもないだろ。だとすれば、手掛りが此の中に在るはずだ」
資料をバサバサと漁りながら、草間が煙草を吹かす。
「目には目を。歯には歯を。怪奇には怪奇を、ってな。零、遥瑠歌」
文字を追いながら、二人の少女に声を掛けた。
「今回は、おまえ達の出番が多そうだぜ」

<Chapter: 02>
「ま、可能性があるとすればこの事件か」
資料の中から一枚の紙を引っ張り出して、シュラインへと手渡す。
それは、あるビルでの怪奇現象を調査した時の報告書の写し。
「ビルに入ってるテナントの一室が、ある日突然開かなくなった」
「それで?」
「異界へと続く扉になってた。原因はIO2の奴等が調べただろ」
「因みに、入っていたテナントは音楽制作会社でした」
草間と零の言葉に、ふとシュラインは何かに気付いた様に呟いた。
「今回の件に関係ありそうね」
「あぁ」
紫煙を燻らせて草間は告げると、デスクチェアから立ち上がり、ジャケットを羽織った。
「取り敢えず、音を聞いた奴がいるか、聞き込みに回るぞ」
「組み分けは何時も通り?」
零の問い掛けに、頷く草間。
「俺と遥瑠歌。零とシュライン。怪奇現象関連の場合、此の組み合わせが一番効率良いからな」
確かに、此の組み合わせならば、互いに無いものを補える。
嫌だと言いながらも、怪奇現象に対してきちんと策を講じる草間を見て、シュラインは小さく笑みを浮かべた。
「それじゃあ、よろしくお願いね。武彦さん、零ちゃん、遥瑠歌嬢」

<Chapter: 03>
「音叉の音?聞いたこと無いな」
本日何度目かの同じ答えに、シュラインは小さく肩を竦めた。
「空振りね」
「私にも聞こえませんから、普通の人には聞こえないのかもしれませんね」
零の其の言葉に、シュラインはだとしたら、と声を上げる。
「頼みの綱は零ちゃんと遥瑠歌嬢、見せて貰った資料の事件ね」
其の時。
零の持っていた携帯が音を立てだした。
「はい。…こっちも。…はい。代わりますね」
言って零は傍らに立つシュラインへと携帯を差し出した。
「兄さんです」
受け取って耳に当てると、聞き慣れた声が聞こえてくる。
「こっちも空振りだ」
「そう、同じね。どうやら音は私以外には聞こえないし」
「だとしたら、後は遥瑠歌と零に歪みを感知してもらうしかねぇな」
「同感」
「じゃ、何か感知したら連絡する」
「分かったわ、武彦さん」
切れた電話を零へと返して、シュラインは電話の内容を告げた。
「じゃあ、私の出番ですね」
そう言って笑う零に、シュラインは笑みを浮かべる。
「お願い出来る?」
「はい!」
元気よく答えて、零は目を伏せた。
「ひとまず、少しでも霊力を感知した場所に向かいましょう」
言いながら、何かを探るように零は神経を研ぎ澄ます。
「……此処から南の方角に、弱いですけど、何かを感じます」
零が目を開いた次の瞬間。
携帯が鳴り響いた。
「あちらも、何か感じたみたいですね」
笑って電話を受ける零。
「遥瑠歌が空間の歪みを感知した。場所は……」
電話越しに草間兄妹は声を揃えた。
「「あの怪奇事件のビル」」
電話を切って、零がシュラインを見上げる。
「行きましょう。道案内は、私がします」

<Chapter: 04>
目的地のビルの前には、草間と遥瑠歌が立っていた。
「お待たせしたみたいね」
二人を見やって、シュラインが笑う。
「遥瑠歌さん。感じます?」
「はい。此方から強い空間の歪みを感じます」
同じ様に感知している二人の少女を見て、草間はビルを見上げた。
「此のビルの最上階。其処が前の依頼現場だ」
新しい煙草を銜えて、続ける。
「アポの必要はない。空テナントだからな」
「勝手に入っても構わないってことですか?」
零の問い掛けに、草間は頷くと歩を進めだす。
そんな草間の後を、女性陣が追いかける。
「どんどん強くなりますね」
そう言いながら、零は自分の後ろを歩く小さな少女を見る。
「遥瑠歌さん、手を繋いで貰えますか?」
「承知致しました。草間・零様」
「少し待って下さい。歪みの場所を特定出来るかもしれません」
零の言葉に、草間とシュラインが歩みを止めた。
「頼む」
「はい」
頷いて、零は遥瑠歌と目を合わせる。
「じゃあ、やりましょう」
「畏まりました」
二人の少女は揃って目を閉じる。
一瞬、シュラインの耳には甲高い金属音が響いた。
やがて、二人の少女は同時に眼を開くと、頷き合って天井を見上げる。
「間違いありません。歪みは、最上階にあります」
「んじゃ、取り敢えず行ってみるか」
草間の言葉に、全員が頷いた。

<Ending>
「はっきりと聞こえるわ。音叉の音は、此の階にある」
「取り敢えず、IO2の奴等と鉢合わせなかっただけ良かったぜ」
IO2を毛嫌いしている気のある草間に苦笑して、シュラインは彼の肩を二度軽く叩く。
「でも、ドアの鍵は閉まってますね」
零はそう言って、繋いでいた遥瑠歌との手を離す。
「皆さん、少し離れていて下さい。ドアを開けます」
「ちょっと待て。開けたら異界に続くドアを開ける事にもなるだろ」
「ご心配は無用です」
遥瑠歌の言葉に、草間が視線を少女に向ける。
「此の扉の更に奥。異界への扉は、其方へ移動しております」
「それじゃあ、開けても大丈夫ね」
頷く遥瑠歌の頭を、優しく撫でるシュライン。
「じゃあ、開けます」
そう言って零は、ドアのノブへと人差し指を向ける。
ゆっくりと其の人差し指で、宙に円を描くと。
かちゃり、という音と共に、鍵が開いた。
「怨霊を使って、向こう側から扉を開けました」
小さく息を付いて、零は他の面々を見やる。
「此れで入れますよ、兄さん」
「じゃ、入るか」
煙草を足で踏みつけて、ドアを開いた。
室内は、普通の空事務所と何ら変わらない。
置くに続く扉、恐らく其れが『異界へ続く扉』なのだろうと、其処には近づかない様に気をつけながら、依頼の品である鍵を探す。
「音叉の音は?」
「鳴り響いてるわ。傍迷惑な大音量で」
草間達には相変わらず聞こえない其の音でも、彼女の耳には確りと響いていた。
ふ、と。
室内を歩き回っていた遥瑠歌が、一つのケースを持って草間へと歩み寄った。
「此の様な物が」
其の言葉に、シュラインと零も、草間の元へと集まった。
其のケースを見て、草間は顔を顰めた。
それは、ヴァイオリンを収納する為のケース。
「ちょっと貸してくれる?」
遥瑠歌は頷くとケースをシュラインへと渡す。
聴覚を研ぎ澄ます様に目を閉じるシュライン。
そして、はっきりと頷いた。
「此の中から音がするわ」
そう言って、ケースを開くと、其処には。
一本の、鍵が在った。
「鍵が音叉と同音を鳴らしていたのね」
鍵を手に取って、しげしげと眺める草間に、シュラインが告げる。
「って事は、音はこいつからか?」
「ええ。間違いなく」
草間から鍵を手渡されて、シュラインはほっと息を付いた。
「良かったわ。此れで依頼は無事終了ね」
「そうみたいだな」
草間が新しい煙草を口にして、小さく息を吐く。
「依頼料については、こっちの私の今までのお給料、という事にして頂戴」
突然の爆弾発言に、草間は大きく咳き込んだ。
「なっ……!?」
慌てた様子の草間に、シュラインは笑う。
「やっぱり。こっちの私もお給料はまともに貰ってない様ね」
「帰り道は、御送りしなくても大丈夫でしょうか」
遥瑠歌の問いに、シュラインは頷いてみせる。
「大丈夫よ。私も、こっちの私もね」
そう言うと、彼女は部屋の奥の扉へ目をやる。
「それじゃあ、戻るわね。こっちの私も戻って来たいでしょうし」
シュラインは、そう告げた後、突然草間に近寄って。
其の頬に、軽く口付けた。
「なっ!?」
驚きのあまり口から煙草を落とした草間に微笑んで。
「ありがとう、武彦さん」
奥の扉を開いた。
続くのは暗闇。
「それじゃあ、こっちの私によろしくね」
固まったままの草間と、驚いて目を見開いた零、無表情の遥瑠歌に。
手を振って、シュラインは暗闇へと歩を進めたのだった。
「戻ってきたシュラインさんが、一体どういう反応をするでしょうね?」
「興味があります」
二人の少女の言葉に、草間はただただ肩を落としたのだった。

<This story is the end. But, your story is never end!>


■■■□■■■■□■■     登場人物     ■■□■■■■□■■■

【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【草間・武彦/男/30歳/草間興信所・探偵】
【草間・零/女/年齢不詳/草間興信所・探偵見習い】
【NPC4579/遥瑠歌/女/10歳(外見)/草間興信所居候・創砂深歌者】

◇◇◇◆◇◇◇◇◆◇◇   ライター通信     ◇◇◆◇◇◇◇◆◇◇◇

この度はご依頼誠に有難う御座いました。
シリアス内容でしたが、最後は少し雰囲気を楽しくしてみました。
ご期待に沿えれば幸いです。
それでは、またのご縁がありましたら、どうぞよろしくお願い致します。