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<東京怪談・PCゲームノベル>


 遙見邸離れにて・ドジっ子メイドの買い物修行


 七罪は、藤田あやこという女性が嫌いではなかった。
 一度客として来ただけだが、なんというかとても自由で、闊達で、生きることそのものに全力を注いでいるような、そんな風に見えるからである。
 ――――ただ。
 今回のトラブルは、いくらなんでもちょっとなあ、と思わざるをえない七罪だった。


「えっと……確か、特撮ヒロインの衣装、でしたよね」
「そーそー、良いお店知ってる?」
 あやこの話は、要約すれば難しくない。
 彼女はなんと、テレビに客演を果たしたのである。色々と強引な手を使ったらしいが、その辺りを苦怨は全く語ってくれなかった。ただ、本を作ってもいないのに、妙に疲れた表情だったが。
 しかし、どうもそれについてクレームを起こした団体があり、それによりあやこの出演が危ういらしいのだ。彼らが納得するようなものを買いにいかなくては、ということらしい。
 なんでそんなことに――というかそんな相談を遙見苦怨にする時点でかなりの人選ミスな気もするのだが――とにかく七罪は、そんな訳であやこと一緒に出かけているのだった。
(それにしても……苦怨さま、ジョーキがどうとか言ってたけど、なんのことでしょう?)
 どうも彼には彼なりの気苦労があり、それを七罪に悟られまいとしているようだった。それが嬉しくもあり、哀しくもあるのだが。
 ちなみに、七罪はメイドの衣装を推したのだが、一瞬で却下されたのは言うまでもない。
「あ、お店は苦怨さまから教えていただいてます。なんでも古今東西かなりのコスチュームがあるとか」
「あら。丁度良いわね。良いのを見繕うとしましょう」
 そしてテレビ出演でバラエティとかに出て良い男を作るぞおーッ、などとやっているあやこを、七罪はにこにこ顔で見守るのだった。


「あら、いらっしゃい――お待ちしていましたわ、七罪さん」
 到着した服屋にいたのは。
 遙見家三女にして、国籍不明の占い師、遙見浄花であった。
「って浄花さんッ!?」
 思ってもみなかった人の登場に、七罪は驚く。そもそも彼女は家の離れからほとんど動かない、苦怨や虚夢と同様の半ひきもりなのである。
 ちなみに浄花と面識のないあやこは、ほへーとか言いながら彼女を見ていた。具体的には盛大に張り出した胸の辺りなどを。
「あ、あれ、なんで」
「なんでって、ここは苦怨お兄様が買収したお店ですもの。いつもならば別の人がいるのですけれども」
 面白そうだから店番をしました、と悪びれもせずに言う浄花。
「ねーね、なんでこんなのばっかりなの。チャイナドレス、ナース、メイド……まともな服ないじゃない?」
「ええ、苦怨お兄様の趣味ですから」
 下劣ですわ、などと呟く浄花。しかし本人もチャイナドレスなので、どうにも同じ穴のムジナっぽい。
「さて、早速ですから着ていただきましょう――お二人に」


「天が啼く月が啼く鳥が鳴く! この世の悪事は見過ごさないっ! 理系の魔法で頑張りますっ! まほーしょーじょラピッドサイエンスけーんざーんッ!」
 きらきらりん、と効果音が鳴らす。もちろん浄花である。ちなみに驚くほどきっちりとポーズとセリフを決めたのがあやこだ。ブルーを基調にしたふりふりの服を着ていたりする。
「あの」
 バニーガールの衣装を着せられた七罪は、もはやツッコむ気力もないようだった。
「なかなかですわねあやこさん。こういうコスプレはお好き?」
「はい! もうなんでもこなしちゃいますっ」
 子供向けアニメのコスプレが異常に似合っているのが、素晴らしいというかなんというか。
ちなみに七罪は、メイド服よりはるかに露出の高い衣装に落ち込んでいるようだった。メイドがOKでバニーが駄目という理由もわからないが。
「あの……えっと、目的が変わっているような」
「そおでしたっけー? あ、浄花さん、次は私これが着たいかなー」
「あら。スチュワーデスとは。わかってらっしゃいますねあやこさん」
 やたら気があうあやこと浄花であった。
(どうしましょう――私がなんとかしないと場が脱線してしまいます……)
 落ち込みながらも、どうにか計算を働かせる七罪。そんな彼女の耳に、かつかつと耳慣れた靴音が響いた。
 犬は自分の主人の来訪を足音で知るというが――七罪も似たようなものなのかもしれない。
「苦怨さま」
「ふん。浄花が離れにいないから来てみれば。よくもまあこんなことに……」
 浄花とあやこの二人を見て、呆れたように呟く苦怨。
「帰るぞ七罪。ここにいても良いことなどない」
「え、あ、あの、でも……」
「良いから来い」
 七罪の手をひいて、強引に連れて行こうとする苦怨。まあ彼の傍若無人さは今にはじまったことではないのだが――。
「――――あなた、誰」
 あやこの声が、冷たく響いた。いつのまにか手にはハンドガンを持っている。
「………………なんのことだ」
「ふん、理系の女なめないでよね。あなたの動き、どこか不自然だわ。重心の移動が普通の生物ではありえないもの。よく偽装してるけど――人間じゃないわね」
「……は」
 次の瞬間。
 苦怨の顔面が展開し――銃が現れた。
「え……?」
 銃は、無論。
 七罪に狙いを定めている。
「あ、あれ……」
 七罪は精霊だ。寿命などあってないようなものなのだが――物理的な肉体を持って以上、銃で撃たれれば、無論死ぬ。
 死ぬのである。
「しッ!」
 だが。
 引き金がひかれるよりも、浄花の突き出した杖のほうがはやかった。
 偽物の苦怨を吹き飛ばす。長い杖を槍のように扱って、彼女は苦怨に追撃を加えた。
(――――そうか、浄花さんはこの為に……)
 今更彼女の真意に気付く七罪だった。
「あやこさん!」
「りょーかいっ♪」
 そして。
 既にあやこが、どこから取り出したのか、ライフルを構えていた。
「くっらえい必殺、マジカル・サイエンス・クラッシャーッ!」
 コスプレの乗りは忘れないあやこであったが。衣装とあわせてとてつもなく似合っている。
 強烈な閃光に――偽物の機械苦怨は、あとかたもなく吹き飛ぶのであった。


 後日。
 あのメカ苦怨も含めた諸々のトラブルがあったようだが――苦怨は、やはり七罪に多くを知らせなかった。多分難しいことだらけなので、七罪も知らないほうが良かったらしいが。
 ただ、どうも過激派団体が裏にいたことは間違いないようである。
 何故、そんな団体が苦怨のロボを作ったのか、という問題があるのだが――。
「ああ、そういえばこの間依頼されたから兄さんの情報、お客さんに渡したよ」
 現在情報を司る、遙見家次男が原因であったのだった。もちろん彼は苦怨に叱られる事になる。
 そして、叱られたのは、あやこと浄花も動揺であった。
「七罪を守ったのは良い。良いが――貴様ら、偽物とはいえ俺の姿をしたものに銃を向けるとはどういうことだ喧嘩を売っているのかああ!?」
 という論法で叱られたのである。あやこはともかく、浄花は積極的に言い返していたが。
 そして――家に帰るなり怖かった怖かった怖かったですよお苦怨さまあと泣きついた七罪はお咎めなしだったのだが――。
 どうも苦怨は彼女が偽物を見抜けなかったことがショックだったようで、しばらく七罪に対して優しくするという――実に彼らしくない行動に出るのだった。


 最後に。
 あやこのテレビ出演の件だが、どうも妙な団体がこのような騒ぎを起こしたせいもあって、叶わぬ夢と化してしまったらしい。
 浄花を筆頭に、遙見家総出で彼女の愚痴を聞かされたのは、言うまでもない。


<了>

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■   登場人物
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【7061/藤田・あやこ/女性/24歳/女子大生】

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■   ライター通信
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 どうも、三回目のご依頼ありがとうございます藤田あやこさま。虚夢シナリオも鋭意進行中ですので、楽しみにしていただけると嬉しいです。
 さて、今回は買い物ということなのですが――様々な固有名詞を出していると字数制限を越えてしまいそうでしたので、あえて七罪視点でなにがなんだかわからないけど――的な感をだしてみました。いかがでしたでしょうか?
 シナリオ全制覇という嬉しいことをおっしゃってくださいました以上は、こちらも気合をいれて書かせていただく所存です。虚夢と浄花の伏線もばっちり張っておきました。次からは二人とも顔見知りです。
 ではでは、また機会があればどうぞ遙見邸までいらしてくださいませ。