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<東京怪談・PCゲームノベル>


THE BLUE 〜カーニンガム邸による報告書〜

■ 日が射して、白昼(オープニング)

 あれから数ヶ月は経ったと記憶している。
 何かと多忙になりここ、リンスター財閥の屋敷の一つでは今日もひがな一日どこぞであるパーティーへの招待状を主へと運ぶ者、そうではなく代理として出る支度をする者など様々なのだから。
(随分と暑くなってしまいました…)
 寝起きが冬や秋といった涼しい時期からどんどんと遅く、とうとう昼間に起床となってしまったこの屋敷の主、セレスティ・カーニンガムはため息混じりに自らの机の上に置かれた報告書とみずみずしい果物の山を見る。
「これが一番の食事となるのですから」
 毎朝の食事を採らず昼に盛り付けのデザートや果実を頬張る屋敷の主に使用人達の困ったような、それでいて心配したような眼差しが痛い。今現在はこうして一人で果実の一つを口に入れているが、これを持って来た部下の言い知れない心配が同じく添えるようにして置かれたハーブのアイスティーで読み取れた。
「申し訳ありません」
 アイスティーに謝っても意味こそ無いが、セレスティ直属のシェフや使用人達には特に心配をかけているだろう。人魚というだけあってか、冷たい水を含む物を口にするだけでも体調が少し、違うのだから救いではあるが。
「謝るのはまた今度にしましょう。 ――さて、暫くぶりですね」
 セレスティのそれはまるでこんにちは、お久しぶりです。そう言うかのように数束にして纏め上げられた書類にかけられた。
 パソコン機器という物も置いてはいるがどちらかというと機械の無機質な雰囲気を退ける為に報告書という紙媒体で主へと報告される事柄は多種多様、先日財閥関連のオークション納品報告からチャリティーの出資額。
「ああ、ふむ。 時間をかけたわりにはあまり調べられない事が多かったようですね」
 葡萄の実を一つ口に含む。
 書類の端をつまみ上げ、一秒たりとも勿体無いと言う様に目を通すセレスティの口元はそれでも楽しげに微笑んでいて、この書類が自分の楽しみにしている不思議な事関連である事を意味していた。

 リンスター財閥。その財閥の名に恥じぬだけあって一度調べさせれば情報量は決して少ないものではない。ただ、それは一部の事に関してではという前提付きのものであり、一介のBARの、しかもただの常連客の足取りを上手く掴むには少し難しかったようで。
(それでも、気になりますね)
 綻ばせた口元は甘く蕩けるように。セレスティはBAR『BLUE』の常連客、切夜と彼の追う事件について財閥が調べ上げた記事をまた一つ追っていった。

■ 白紙の記事(エピソード)

 以前切夜という人物には名刺を貰った事がある。
 セレスティには皆目見当の付かない用紙、後で部下に聞けば百円均一というお手頃な価格で物品を提供している場所で購入されたらしき名刺にはただ、切夜という文字とその名前の呼び方、携帯電話の番号が記載されているのみだ。
 もっと言えば字はそれなりに上手い方、それ位だろうか。
「住所は東京のようですね…。 前住所も東京…、名前は」
 切夜だ。日本人の名前は苗字と名前で構成されているわけだから当然その名も『名前』として登録してある。問題は苗字であり。
「鈴木切夜に榎本切夜…ですか。 まず全てが偽名ですね」
 日本に多い苗字が一つ、同じく切夜らしくもない苗字が現在進行形で一つ使われている。そして、セレスティの財閥ではないが切夜が住まう場所としてBAR『BLUE』近くに一軒、なかなかどうして土地だけでもそれ相応の値段が取れる場所に一軒こちらも別の苗字であの新聞記者と名乗る青年は住処を持っているようだ。
(分かりやすいと言いましょうか…ですが、提出期間を考えるとこの情報も一筋縄では行かなかった、という事ですね)
 切夜と出会って既に数ヶ月は経ち、年が経っていてもおかしくはない。
 が、セレスティは彼と出会って殆どすぐ、事件を調べている情報を元に独自の調査をしてきたのだ。今回、切夜自身の不明な点が出るとは予想の範囲か、外であったか。
「住まいを移してまで調べるのはそれだけ調査が長期的になっている物だと事前に分かっていたものだと思いましたが…苗字まで変えるのは分かりませんよ」
 切夜さん。セレスティの指が形の良い唇を撫でる。
 苗字を変えて移り住む理由、それは結婚をその期間内にしたか或いは誰かに感付かれまいとしたか。両者を取ってみれば確実に後者であろうが、切夜という名前だけ変えないのもまた解せない。
(これでは記者という彼の言葉も怪しくなってきますが…)
 疑うというよりは、楽しいチェスの遊び相手が出来たとでも言うように、寝起きだった筈のセレスティの頭は冴え、すぐにも出かけの支度をしようとドレスシャツに身を通す。まだ全ての報告書に目は通していないがそれが終わった後、自分で行ける場所まで行こうといういつもの自分なりの魂胆だ。
 出来れば、これが初夏でなければもっと自身の思うとおりに出来たのだがこればかりはどうしようもない。

 名前欄には切夜、呼び名は『せつや』。戸籍上の年齢は三十四歳の成人男性。配偶者無し。
 職業は彼に近寄らせた者にも同じく新聞記者と名乗り、自らの新聞に関しては発行部数が少ないからと口を閉ざし、雇用会社についても一切を口にしない。元自宅による聞き込みより、数十年前から頭角を現してきた大手企業の社員である事が判明、役職不明。
 なんらかの事件についてはよく手を出したがっているようにも見えるがこれと言って手を貸す様子も見せず、夜のBAR『BLUE』近辺を調べている事が多く、彼自身の事件はその周辺による物とも思われる。
 同事件と関与は不明であるが、付近の治安の問題か通り魔事件も多く、件については別報告書記載。

 まず一つに纏められた資料を簡潔に纏めればそう記してあった。元は事件について切夜の追う物を知りたかったセレスティだが部下達が纏めたのは現在のあの新聞記者の事柄が先になっている。
「新聞記者ではない…?」
 とはいえ、身分を新聞記者にする意味もまた理解できない。
 以前切夜の依頼を受けた時は新聞、確かにあの新聞は大手のものであってそこに彼が記者として居るのならばアトラス編集部よろしくそこの新聞社もこの手の事件を追い始めた、そういう結論に達するが残念ながらあの時の様子では依頼記事はその新聞社からのものでは無かった筈だ。
「それに近い職業、或いは完全な嘘。 どちらでしょうね?」
 関与不明とされる報告書の通り魔事件が気になる。
 人間が起こしたものであれば不思議な事件というより刑事的な捜査が必要になってくる筈だ、ただもし、セレスティが思うような事件ならば切夜の追っている事件とは通り魔事件に関連する物である事が一番近い結論だろう。
 自然と別報告とされた書類に伸びる手が先へ先へと自らの意識を誘う。

 通り魔事件とされる事件についてはBAR『BLUE』設立以前から治安の問題もあり珍しい事ではない。
 ただし、『BLUE』設立以前の事件は犯罪としての検挙率も多数あり、現在程深刻化もしていなかった。深刻化、と言われるようになったのはここ数年であり始まりは警官が被害に合った事から警察側では今でも地域の厳重監視を続けている模様。
 また、通り魔事件の被害者として『BLUE』店員、朱居・優菜の母である朱居・美沙も被害者として上げられている。直接的な死亡理由は凍死とされているが状況までは不明。同じく、別犯人と思われる被害例として焼死やかまいたちのような現象も上げられている。よって、人間の犯行とは思えぬ有様である事件の総称として通り魔事件と称されている。
 『BLUE』は地域内でも未だ通り魔の少ない方角に面している為客足は落ちてはいるものの、絶える事は無いようだ。

「元々の治安と現在の治安問題で決めかねたようですね。 報告して頂けたのは良しとしておくべきでしょうか…」
 セレスティの見立てが間違っていなければ、ではあるが切夜はきっとこの事件の何かしらを調べているのだろう。いや、調べているだけではないのかもしれない。
(私のような者もおりますからね)
 くすり。と微笑むセレスティの笑顔は聖母のようだ。が、今この状況で部下なりが見れば青ざめて自分を部屋に閉じ込めかねないだろう。主に危険な事に首を突っ込んでもらいたくないその一心で。
「どちらにせよ、切夜さんに協力を申し出るか、こちら独自で動くかが問題という事ですか」
 『BLUE』近辺の事件が本当に切夜の追う事件と一致するかは分からない。とはいえ、手をこまねいて見ているのはセレスティらしくない、というものだ。
「すみません、リムジンを一台回していただけませんか? いえ、あまり大きな物では困りますので出来るだけ小さいものを…。 はい、ええ、分かりました無理はしません」
 すぐにも、と机に備え付けの携帯電話を取り上げ『BLUE』近辺への往復切符を手に入れようとするが報告書を提出した手前だ、部下の声はあまり宜しく無く再三大丈夫か、危ない事はしないかと約束させた上でしぶしぶ彼らは頷く運命にある。
 小さなリムジンでは車椅子は不向きと杖を持ち、そのままの軽装でセレスティはゆっくりと自室から出て一階へ、回されたリムジンへと乗り込む。
(矢張りこの大きさですと不便でしょうかね…?)
 以前『BLUE』へ行った時もそう感じたが、今現在セレスティの乗っているリムジンは普段の二分の一以下の大きさになっている。これではオークション帰りのお気に入りを乗せられないのではないかと無駄な心配をしてしまうのは自分が相当美術品にとり付かれてしまっているという事だろう。
 オークション会場からの直接輸送もある事はあるが、お気に入りがあればとりあえず手元に持って帰る。セレスティなりの愛情表現のようなものなのだ。
「セレスティ様? 宜しいでしょうか?」
「ああ、はい。 お願いしますね」
 事件のあった場所をまずは見てみよう。元々そういう考えではあったが報告書の被害者人数を数えていれば全ての場所をくまなく何か良い手がかりなりを探すのは至難の業だという事が理解出来、それならばその被害者発見の場所をとりあえず『回ってみる』事にしたのである。当然、リムジンから降りる事は無いが地形の変化があれば少しは感じる事もあるだろう。
 車窓から外を見渡せば既に夕日が見えており、それでも暑いと思えるこの時期が多少恨めしくなる。車内ではクーラーが上手く効いており肌に心地よい風と備え付けの飲み物を口にする事が可能だが、これではどちらにしても降りて何かをするというのはセレスティにはとっては難しいものであったかもしれない。

 小さくなっていくカーニンガム邸を後にすれば少しづつ高層ビルやそこまで行かずとも朽ち捨てられた建物が手前に見えてくる。『BLUE』へ行く道は少々入り組んだ路地であり、どちらかと言うとそういう朽ち捨てられた建物の方へと向かってゆけば辿り着く。
 途中にあるのは人間の住居や住居であった場所の塀、落書きの激しい所に何年経ったか分からないゴミ箱が転がっておりリムジンが通る場所とは到底思えない。その中で『BLUE』の入る地域として見た場合、スナックや居酒屋といった都会よりも少し古びた風俗関係の店が並ぶのが特徴的か。
 中には潰れた店の残骸も多く、運転手がこのあたりでしょうか、と投げかけてくる被害者の発見場所を見てはただ、苦い笑みを浮かべて頬杖をつくしか他無いのだ。

 確かに、被害者が遺体となって発見された場所はそれ程細くない路地、或いは少し開けた場所という共通点も見られる。が、それは蜘蛛路地とも名の付くこの地域で見た場合ごくごく自然とも言える事なのだから。
「行き詰ってしまいましたねぇ…」
 ため息を一つ、零せば運転手の方から不機嫌な声が漏れてきて姿勢を正す。
 通り魔事件の現場に行かせてくれただけでも最近の部下は甘くなってきたというのに、ここで何かあれば今度は用心棒でも付けなければ外に出してもらえなくなるだろう。
「いえ、今回は仕方が無いでしょう。 付き合わせてしまって申し訳御座いません。 ですが今度は『BLUE』へ行って頂けませんか?」
 冷たい飲み物を頂くだけですから。と付け加えれば今度は運転手の方からため息が漏れ、ハンドルの切られる音が響く。使用人と主、とは考えにくいやりとりではあるがこれがセレスティのごく親しい部下数人によるいつもの事なのだ。それでなくともカーニンガム様、と慕う者達ですら自分を心配した行動をとるのだから。

 日は既に落ちた夜。この時間でようやくセレスティも外に心地よさを感じるようになってくる。
 昼間の東京独特の暑さから開放された夜、それでも日が悪ければ屋敷内の方が居心地が良いというのだから夏という季節は好きではない。
 夕方に巡った場所の数々を思い起こしては再び別の関連性は無いかと思考を巡らせるも、今回ばかりはまた別の考えを入手しない限り無理だろう。駐車場もあるか無いかのBAR『BLUE』にはセレスティのリムジンが停まるだけで客が満員になったようにも見える。
「私はこちらで控えておりますから」
「大丈夫ですか?」
 リムジンの運転手は外で何かがあれば知らせる、と主に伝えたまま自分を守る為に外で見張りをしてくれるらしい。これは帰ってから何かと気を遣わねばと思いつつも『BLUE』店内から漂うクーラーの魅力に負け、扉を潜れば。

「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ、あ、セレスティさん?」

 銅で出来た重苦しい鈴の音が来客を知らせ、カウンターの男とウェイターの少女がセレスティに軽く頭を下げる。
「朱居さん、萩月さんもお久しぶりです」
 『BLUE』の店員が三人で間違っていなければ全員と顔を合わせた事がある。カウンターの男は萩月・妃、ウェイターとは言っても格好だけがそれなのは朱居・優菜、今しがた調べてきた通り魔事件で母親を失った少女だ。そして。
「あ、お久しぶりです? ええと…」
「セレスティです。 セレスティ・カーニンガム」
 カウンター奥の席で背中を丸めて紅茶を啜る人物。彼がセレスティのこの店へ来たある意味での本来の目的であり謎を抱えた人物だ。
「ああ! 私最近忘れやすくて…すみません。 セレスティさんでしたね」
「忘れやすい、のですか?」
 妃に冷たい物を、とだけリクエストするとアルコール度数の無い葡萄ジュースがコースターと共に切夜の横を陣取ったセレスティの前へと出される。
 完全に身分を教えたわけではないが身なりからアルコールはあまり好ましくないものだと判断したのだろうか、まるで屋敷の部下のような雰囲気に微笑みを零しつつ礼を言う。
「ええ、ここ暫く喋る人が増えたので。 数週間前くらいからだったかなぁ…ぱったりと居なくなってしまいましたけれどね」
 妃の作るカクテルが美味しくないのだろうか、という彼なりのジョークにカウンターから痛い視線を浴びる。
(数週間前…。 こちらの調査員の事ですね)
 セレスティが事件について調べているのを案外気付いているのかもしれない。聞き込みを多くしているとしたらまた別の話だろうが時期的に切夜の言う『喋る人』は財閥の調査員だ。
「その事について何か思う事はあるのですか?」
「ん、というと…?」
 やんわりと『気付いているか』と聞けば同じように『どういう意味なのか』と一筋縄ではいかない返事が返ってくる。
「いえ、切夜さんは新聞記者さんでしょう? 調査している事柄について何か思う所があれば…お聞きしたいと思ったのですよ」
 口に広がる葡萄酒にも似た感触が神経を癒す。屋敷に帰ってからこれを注文するのも良いと思いながら切夜を見れば意外と真剣に捉えているらしい。普段の糸目が細く開かれてセレスティの方を文字通り、見ていた。
「このお店に来る人は皆事件、っていう言葉が好きなんですね。 でも」
「でも?」
 クーラーが効いているとはいえ、夏に熱い紅茶を喉に流し込む。切夜の行動は意図すらも余程奥底に沈めているようで。
「危ない事には首は突っ込まない方がいいと思いますよ。 私も含めて、ですけれどね」
 その言葉は確信に迫る一言では無かった。が、同時にセレスティが今まで調べていた事が彼の事件のであるという暗黙の肯定であり、切夜自身も元々趣味でどうにかなる一件というわけではない。
 紡がれた意味はそれを物語っている。

「それでも、何かお手伝い出来れば素敵だと思いますよ?」
 セレスティは言う。一度でも楽しみや会話を共にした者同士だ、例え相手はそこまで思ってはくれなくとも助言はまた一つの絆となる。だから、細く開いていた瞳に大きめの紫が灯るのを見てまた、銀の糸にオレンジ色を乗せた財閥総帥は乾杯、と一言微笑むのだった。


Fin...?


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【 1883 / セレスティ・カーニンガム / 男性 / 725 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】


【NPC / 切夜 / 男性 / 34歳 / 売れない新聞記者・『BLUE』常連客】
【NPC / 萩月・妃 / 男性 / 27歳 / カクテルバー『Blue』副店長】
【NPC / 朱居・優菜 / 女性 / 17歳 / 私立神聖都学園高等部】

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■         ライター通信          ■
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セレスティ・カーニンガム 様

お久しぶりです。『BLUE』へのまたのご来店有難う御座います。
そろそろ若葉マークが取れそうなライターの唄です。
今回、以前のご来店時に切夜との会話で触れておりました事件を調べる行動が優先されております。
これからまた深く調べ、事件に関与するも一旦結末として見るのもセレスティ様次第です。
事件に関してや『BLUE』の面々からの結果は以下の通りとなっております。

*切夜の疑惑、*通り魔事件の簡単な報告、*『BLUE』全員との面識、*切夜からの好感(小)

この出来事がまたセレスティ様の活動力の一つとなる事をお祈りしております。
それでは、またシチュなり依頼なりにてお会い出来る事を切に願って。

唄 拝