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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


ファースト・ガールフレンド

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0.オープニング

「編集長〜…三下くんが、使えません」
「………」
何を今更、と言いたい所だけど。
本当にね…使えない。いいえ。
全く使えなくなった、と言った方が賢明ね。
私はツカツカと三下くんに歩み寄り、
持っていたブランド雑誌を丸めてパコッと頭を叩く。
「……痛っ」
反応が鈍い…。
「!!あっ。すみません。すぐ終わらせます!」
慌てて作業に戻るも、また、すぐ元に戻る。
三下くんの作業は、一向に進まない。

原因は、女。
昨日、同僚と飲んで遅くに帰った三下くんを。
三下くんの家の近くで待ち伏せていた女がいて。
その女は、こう言ったらしいわ。
”ずっと、好きでした。私と、付き合って下さい”
めでたい事よ。モテない男の手本である三下くんに。
彼女が出来たんだから。
でもね…こう、仕事中にボーッとされちゃあ…。
大迷惑なのよ。

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1.

「…という訳なのよ」
碇の説明に呆れ、溜息を落とす私。
事情は理解った。
とても理解り易い説明だったよ。
ものの三分で終わるくらいだからな。
でも…。
「…何故、私を呼んだ?そこが理解らん」
言うと、碇は眼鏡を外して、目を伏せ淡く微笑んで言った。
「毎日、誰かと惚気合うも、仕事は完璧でしょう?貴女って」
「…は?」
「だから、参考になるアドバイスをくれるんじゃないかと思ったのよ」
「…待て。誰と誰が惚気合うって?」
「やだ。無粋ね。貴女と探偵Kに決まってるじゃないの」
「…殺すぞ」
ムッと眉を寄せて言うも、
碇はフフフと勝ち誇ったように笑い、言う。
「そんなに頬染めて睨んでも、ちっとも怖くないわよ」
「………」



三下に彼女…か。
まぁ、そんなに驚く程の事でもないだろう。
三下だって、一応人間なんだ。
恋だってするさ。
好きだと言ってくる女だって…。
…いや、それは実際、珍しいかもしれんな。
「これで終わりか?」
書類を束ねつつ言う私。
「はい、そうです。はぁ〜…やっと終わった…」
デスクに頭を乗せて、グッタリする三下。
話によると、どうやら彼女と逢うのは、いつも深夜から明け方との事。
とりあえず、女がどんな奴なのか見ておきたくて、
私は三下に付き合って、明け方まで仕事をした。
こんなに活字に追われる事なんぞ、滅多にない。
…肩、凝ったな。
「帰るぞ」
肩を押さえつつ言って、編集部を出て行く私。
「あ。ちょ、ちょっと待って…」

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2.

「忠雄さん…その人…誰?」
三下の自宅付近にある公園で待ち伏せていた女が言った。
色っぽい…というよりは、妖しい雰囲気を纏う。
女はムッとした表情で、私を睨みつけている。
「…こいつか?」
私が問うと、三下は照れくさそうに笑って。
「へへっ、そうです。綺麗な人でしょ?」
そう言って、タタッと女に歩み寄ると、
「ただの知り合いです。仕事を手伝ってもらってたんですよ」
”ただの”を強調して、言った。
…必死だな。
苦笑する私。
まぁ、確かに綺麗な女だ。お前には勿体ない。
普通の人間であれば、な。

「貴様、吸血鬼だな。早々に去れ」
腰に手をあて、淡々と言う私。
三下はギョッとして。
「ちょ、ちょっと。何言い出すんですか!」
そう言ってアタフタしだす。
恋は盲目。
まったく、その通りだな。
私はクッと笑い、続ける。
「三下。お前、この間、綺麗だと言って、私に抱きついただろう」
「…へっ!?あ、い、いや、あれは饅頭の所為で…っ」
オドオドする三下。
私は続ける。
「お前も、なかなか気の多い男だな」
「い、いや。違…」
挙動不審になる三下を見て、穏やかでいられるわけもなく。
女は私をキッと睨みつけて言う。
「忠雄さんと私を別れさせようとしても無駄よ。愛し合ってるんだから。私達」
「…ほぅ。本気だ、と?」
「当然よ」
即答する女。
私は苦笑し、三下の首を指差して告げる。
「なら、もう血を吸うな。出来ぬなら、去れ」
首を指さされて、キョトンとする三下。
馬鹿め。やはり、気付いていなかったか。
違うぞ、三下。
お前が、こいつから受けたのは、
情熱的で眩暈さえ覚える”濃厚な愛撫”じゃない。
ただ”吸血”されていただけなんだ。
「…うるさいわね。貴女に、関係ないでしょう?」
冷たい眼差しで私を見やり、牙を剥く女。
私は女の口元、牙を指差しつつ身構え、三下に言う。
「化物を養う覚悟が、お前にあるのか?」



ガッ―
私の腕を掴み、耳元で囁く女。
「…貴女、綺麗ね。とっても美味しそう…」
その言葉を放った女の唇は、ツツッと私の首を伝う。
「させるか」
私は影で全身の肌を覆い、女の吸血を拒む。
私の首元に吸い付くなんぞ、許されるわけないだろう?
クッと笑うと、女はバッと飛び跳ねるように私から離れ、間合いを図る。
…ほう。なかなか俊敏だな。
だが、どんなに動きが速くとも、私には関係ない。
ヒュッ―
影を操り、全方向から押し潰す。
「う…ぐっ…」
身動きはとれず、呼吸もままならない。
その苦痛に、女は醜く顔を歪める。
「み、冥月さんっ!!」
女の正体に驚き放心していた三下が、
目の前の光景と、この後辿る女の末路を予測し叫ぶ。
吸血鬼は、無敵でも不死でもない。
弱点を突かずとも、重症を追えば動けなくなるし、
とどめを刺せば、息絶える。
そう…こうして、影を放てば…。
ギュッと握りこぶしを作り、女を睨みつける私。
「冥月さん!やめて!やめて下さいっ!」
三下の叫び声は、大きくなるばかり。
「やめて下さい!お願いだからっ!」
聞こえているよ。お前の声は。
この女を好くが故に、私を止めようとしている。
お前の想いは、ちゃんと届いてる。
届いているよ。
「やめろぉぉぉぉっ!!!!」
一際大きな三下の叫び声が響き渡ると同時に。
朝日が昇り、世界を光で包んで。
ドスッ―
ドスドスドスッ―
影矢が、女を貫いた。

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3.

「どうしてっ…どうして、こんなっ…!!」
朝日に晒され、ゆっくり砂と化していく女の前で泣き崩れる三下。
私は歩み寄り、しゃがんで砂を指でつまみ。
パラパラと、三下の目の前で、それを落としながら言う。
「彼女の為だ…」
涙でグチャグチャになった顔で私を見やり、
鼻をすすりながら首を傾げる三下。
「好きだからこそ、お前の血を欲し、お前を殺す。それが、あいつの辿る運命だ」
本気だと言わなければ、殺しは、しなかったさ…。
出会いは偶然であり、また必然だった。
女は確かにお前を愛し、
お前も確かに女を愛した。
それは、紛れもなき事実。
誰にも止める事が出来なかった、それこそ、運命だ。
けれどな、三下。
覚えておけ。
自分の所為で愛する男が死した後、
女に残されるのは、生き難く苦しいだけの地獄なんだ。

「…こうするしか、なかったんだよ」
朝日に照らされ、輝く涙はそのままに。
小さな声で言う私。
「うっ…うっ…うぁぁぁ……」
三下の叫び声に吹き飛ばされるように。
砂が舞う。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 碇・麗香(いかり・れいか) / ♀ / 28歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集長

NPC / 三下・忠雄 (みのした・ただお) / ♂ / 23歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集員

NPC / リアーナ / ♀ / ??歳 / 吸血鬼・三下の彼女


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/06/08 椎葉 あずま