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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


ファースト・ガールフレンド

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0.オープニング

「編集長〜…三下くんが、使えません」
「………」
何を今更、と言いたい所だけど。
本当にね…使えない。いいえ。
全く使えなくなった、と言った方が賢明ね。
私はツカツカと三下くんに歩み寄り、
持っていたブランド雑誌を丸めてパコッと頭を叩く。
「……痛っ」
反応が鈍い…。
「!!あっ。すみません。すぐ終わらせます!」
慌てて作業に戻るも、また、すぐ元に戻る。
三下くんの作業は、一向に進まない。

原因は、女。
昨日、同僚と飲んで遅くに帰った三下くんを。
三下くんの家の近くで待ち伏せていた女がいて。
その女は、こう言ったらしいわ。
”ずっと、好きでした。私と、付き合って下さい”
めでたい事よ。モテない男の手本である三下くんに。
彼女が出来たんだから。
でもね…こう、仕事中にボーッとされちゃあ…。
大迷惑なのよ。

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1.

「まったく、困ったものだわ…」
苦笑しつつ書類を束ねる麗香さん。
私はクスクス笑い、言う。
「まるで、母親ね」
息子に初めて彼女ができて、
嬉しいやらムカッとするやら、よくわからない感情に苛まれてる母親みたい。
別れさせたいワケじゃないのよね。うん。
もう少し、上手に恋愛してほしいだけ。
わかるわ。でも…三下くんには、ちょっとムズかしい事かもしれないわね。
よぅし。任せて。何とか、してみせるわ。
うまくいくかは、わからないけれど…。
私にとっても、三下くんは、そう。
弟のように可愛い存在だから。
「ちょっと、三下くん 借りるわね」
席を立ち言うと、
「よろしくね」
麗香さんは、そう言って淡く微笑んだ。




「ふぅん。随分とベタ惚れじゃない」
クスリと笑って言うと、三下くんはエヘヘと頭を掻きながら嬉しそうに照れ笑い。
編集部の近くにある喫茶店で、
私はもう、かれこれ一時間、三下くんに散々ノロけられている。
彼女が、どんな人なのか。
私…と麗香さんが気になっている事を、
三下くんは包み隠さず話してくれた。それこそ、聞いてもいない事まで。
彼女の歳はハタチ。
可愛いというよりは綺麗な女性で。
三下くんが住んでる、あやかし壮から、そんなに遠くないマンションで一人暮らし。
とっても優しくて、欠点なんて何一つない人…らしい。
うん。話を聞いただけじゃあ、確かに、欠点なんて見当たらない素敵な女性ね。
良い彼女ができて、良かったじゃない。
…と言いたいトコロだけど。
物凄く気になって仕方ない事が、一つだけあるの。
嬉しそうに幸せそうにノロける三下くんの首に残る痕。
それは、キスマークとは違う。
噛まれたような…そう、牙の痕…?
考えすぎかもしれないけど、何だか嫌な感じがするのよ、それ。
「今日、これから会うのよね?彼女と」
言うと、三下くんは「はい!」と元気に、そう言った。
私は頼んだコーヒーを飲み干し、
テーブルに頬杖をついて、淡く微笑み言う。
「ついて行ってもイイかしら?その素敵な彼女見てみたいのよ。邪魔はしないから。ね?」

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2.

へぇ…このマンションに住んでるのかぁ。
結構、高価いマンションよね。ここ。もしかして、お嬢様…?
色んな事を考えながら、三下くんについて行く私。
ガチャッ―
「いらっしゃい、忠雄さん…あら?その方は?」
マンション八階の一室、
扉を開け、私を見ながら首を傾げる女性。
ふぅん、この人かぁ。確かに、綺麗な人ね。
「こんにちは。シュライン・エマです。三下くんの姉…のようなものです」
クスクス笑って言うと、女性はペコリと頭を下げて、
どうぞ中へ、と私達を促した。



女性…三下くんの彼女、リアーナさんは、とっても気立ての良い女性で。
美味しい紅茶を振舞ってくれた。
話せど話せど、アラが出ない。本当に、素敵な女性。
ただ一つ、話す時に必ず口元を隠す。それを除けば、ね。
RRRRR―
突然鳴り響く携帯。
それは三下くんの携帯で。
懐から携帯を取り出して、三下くんはビクリと肩を震わせた。
ピッ―
「は、はい。あっ…はい。え?わ、わかりました。はい。すぐ行きますっ」
姿勢を正して話す三下くん。
電話を切ると、彼は申し訳なさそうに言った。
「すみません、急な仕事が…ちょっと行ってきます」
リアーナさんは少し寂しそうな表情をしつつ返す。
「大丈夫ですよ」
私も続く。
「すぐ戻れそう?」
「た、多分」
三下くんは苦笑しつつ返す。
私とリアーナさんは顔を見合わせて笑うと、口を揃えて。
「いってらっしゃい」
そう言って三下くんを見送った。




二人きりになって、リアーナさんは、すぐさま呟く。
「気付いて…ますよね」
私はクスクス笑って返す。
「はい。何となくですけど」
私の言葉にリアーナさんは困った顔で笑いつつ、
口元を隠していた手を払い、露にした。
正体を物語る、鋭い牙を。
…やっぱりねぇ。予想していたから、驚いたりしないわ。
それに、私にその牙を晒したってことが何を意味するかを察すれば、微笑ましくもあるもの。
そんな余裕、あなたにはないのかもしれないけれど、ね。
三下くんが戻るまで一時間くらい。
麗香さんには、その位経ったら解放してあげて、と伝えておいたから。
さぁて。
じゃあ、始めましょうか。
シュラインさんの、お悩み相談室。

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3.

ふふ。三下くんも、幸せ者ねぇ。
リアーナさんの話、悩みを聞いて私は嬉しさからクスクス笑う。
「私、どうすれば…」
思い詰めた表情で俯くリアーナさん。
その表情が、全てを物語ってる。
この交際が至って真剣なものである事と、
それ故に彼女が悩み倒している事を。
吸血行為は、吸血鬼にしてみれば愛情表現。
相手を好み欲すれば、その行為は激しさを増していってしまうもの。
それを理解っているから、三下くんは拒まず、あなたに吸血させてる。
うーん。初めての彼女が吸血鬼だなんて。
三下くんって、本当…大変な体質ねぇ。
「料理、もっと覚えたら?」
笑って言うと、リアーナさんは首を傾げて言う。
「料理…ですか?」
そうよ。
あなたの愛情表現は、ちょっと変わってるんだから。
彼の体調管理、ちゃんとしてあげなきゃ。
仕事中に、これ以上貧血でボーッとしちゃあ、
彼、麗香さんにクビよ!!とか言われちゃうかも。
ううん。それよりも何か事故とか起こしちゃったりしそう。
そっちの方が心配だわ。




「す、すみません、遅くなりましたぁ…」
息を切らして戻ってきた三下くん。
そんなに急いで戻ってこなくても大丈夫なのに。
「おかえりなさい。忠雄さん…お疲れ様です」
三下くんに歩み寄り、彼の額に浮かぶ汗を拭いながら言うリアーナさん。
まるで新婚さんみたいなその光景に、私は笑って。
懐から紙とペンを取り出すとササッとレシピを書き、
それをテーブルの上に置くと、
「邪魔者は退散します」
そう言って席を立つ。


レシピは栄養満点の野菜スープ。
三下くんの野菜嫌いも克服できちゃう素敵な一品。
作ってあげてね。絶対喜ぶんだから。
そういう事を繰り返して、上手に素敵に付き合って。
生活リズムを整えてあげて。
少し頼りないかもしれないけど、
三下くんも、もう立派な社会人なんだから。ね。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 碇・麗香(いかり・れいか) / ♀ / 28歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集長

NPC / 三下・忠雄 (みのした・ただお) / ♂ / 23歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集員

NPC / リアーナ / ♀ / ??歳 / 吸血鬼・三下の彼女


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
優しいシュラインさんのプレイングで、展開が大きく変化(笑)
いやぁ。ほんと、素敵な人ですね。嫁に来ないか…あ、いや。失礼しました(笑)

気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/06/14 椎葉 あずま