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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ダンス・ハート

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0.オープニング

「…で?金は、あんのか?お前」
俺が言うと、男は懐から札束をポンとテーブルに投げやる。
「うわぉ」
苦笑しつつ拍手する俺。
これはまた、ど偉い金額を持ってきたもんだ。
金持ちの、お坊ちゃまか。
羨ましいこった。
「オーケー。じゃ、早速。家で待ってな。終わったら連絡すっから」
俺はジャケットを羽織りつつ、男に言う。
男は眉間にシワを寄せて。
俺を暫くジッと見やり。
ペコリと頭を下げて言った。
「よろしく頼む…」

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1.

ふぅん。浮気調査かぁ。
定番だけど、久々よね。こういう依頼。
先を歩く武彦さんに付いて行きつつ、詳細が記されたメモを見やる私。
依頼人は、加賀谷財閥の御曹司さま。
年齢は、ハタチ。
問題の彼女さんは…現役高校生かぁ。
普通のコみたいね。生い立ちとか見ても…。
…どうやって知り合ったのかしら。この二人。
お互い、普通に生活してちゃあ、関わり合うチャンスなんて、なさそうだけど。
まぁ、いっか。
どこかで、運命的な出逢いを果たしたのよね。きっと。
それにしても、依頼人、お金持ちだっていうのに、まるでスれてなかったわね。
お金持ちの人が、皆スれてるかといえば、そんな事ないんだろうけど。
私の知り合いで、お金持ちな人って…皆、ちょっとスれてるからなぁ。
自分で直接、彼女にぶつかっていけば良いのに、とも思ったけど。
言えなかったな…。
だって、あんなに思いつめてる顔されちゃあ…ね。

「あぶねっ…」
グイッ―
「…ひゃ」
思いに耽っていた私。
目の前の電柱にぶつかりそうになったマヌケな私を、
武彦さんは引き寄せて助けてくれた。
「ご、ごめんなさい」
あまりにもポーッとしていた自分に呆れて苦笑しつつ言う私。
武彦さんは、私の頭をクシャッと撫でて言った。
「熱心なのはイイけど、もーちょい回り見なさいね」
優しくも意地悪な武彦さんの その口調に、私は、クスクス笑って返す。
「はぁい」

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2.

「ねぇ、武彦さん」
調査対象である女の子を尾行しつつ声を掛ける私。
「んー?」
「依頼人さん。ハタチにしては落ち着いてたと思わない?」
「まぁ、イイとこのお坊ちゃんだからなぁ」
「なーんか…ね。無理してたよう気がするのよねぇ」
「まぁ、そうだろうな」
「やっぱり、そう思う?」
「あんな思いつめてるハタチ、そうそう いねぇよ」
「だよねぇ」
話しながら尾行ていると、私の耳が興味深い言葉を聞き取った。
口に人差し指をあて、
”静かに”の合図を武彦さんに飛ばして、耳を澄ます私。
遠くで辺りをキョロキョロ伺いながら、女の子は、こう言った。
『わかったぁ。じゃあ、今から行くから待っててぇ』
その独特な甘ったるい口調。
「何つってる?」
首を傾げて内容を尋ねる武彦さんに、私は苦笑して。
「今から行くから待っててぇ〜…だって」
精一杯可愛らしく、女の子の真似をして伝えた。
武彦さんはケラケラ笑いつつ、
「似てんのか、わかんねぇからコメントしずれぇ」
そう言った。





…うーん。近頃の女子高生って、凄いのねぇ。
尾行た結果に、感心してしまう私。
調査対象の女の子は、器用に時間を使って、
ほんの二時間半たらずの間に、別の男性二人と密会したのだ。
密会…と言っても、それは大胆で。
濃厚なキスを立て続けに見せられてしまった私と武彦さんは、ただただ苦笑。
密会を終えて、満足そうに帰路につく女の子。
その姿を見送って、武彦さんは言う。
「クロですね」
「ですね」
クスクス笑って返す私。
「あっけないもんだな。まぁ、いっか。…喉、渇いたろ。何か買って来る」
ジャケットのポケットに手を入れ、
小銭をチャリチャリと鳴らしながら言う武彦さん。
「うん。ありがとう」


飲み物を買いに行く、と言って去っていった武彦さん。
遅いなぁ…と思いつつ待っていると。
「ねぇ、だめぇ?ゴハンだけっ。ゴハンだけぇ〜。ねっ?」
聞き覚えのある、甘ったるい声が。
パッと顔を上げると、
そこには帰路についたはずの、あの女の子が。
武彦さんの腕に絡み付いて甘えていた。
…何、掴まっちゃってるのよ。
口元に手を当て、笑いを堪える私に、
武彦さんは、さり気なく片目を閉じて合図した。
「…はいはい」
何を伝えようとしているかを瞬時に悟った私は、
女の子から見えない位置に移動すると、
バッグから、本日大活躍のポラロイドカメラを取り出して、構える。
手当たり次第…って感じなのかしらねぇ、あのコ。
まぁ、武彦さんも、まだまだイケるじゃない。
現役女子高生に、逆ナンされちゃうんですから。
「…でも、やっぱ、ちょっと面白くないわねぇ」
パシャッ―
私は苦笑しつつシャッターを切る。

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3.

「そうですか…草間さんにも…」
数ある証拠写真の内、
最後に撮った、武彦さんと女の子が写っている写真をジッと眺めて言う依頼人さん。
「残念ながら、完全クロだ。とっとと他の女、探しな」
煙草に火を点けつつ言う武彦さん。
…んー。まぁ、事実、そうなんだけど。
もうちょっと、優しく言ってあげても良いかも。
うん、わかるんだけどね。
その言い方が、あなたなりの優しさだって事は。
でも、まだハタチなんですもの。このコ。
あんまりキツいと…。
「…うっ…ひっ…く…」
ほらね。泣いちゃ…って、え?泣いちゃうの?
「あぁ…よしよし」
反射的に依頼人さんの頭を撫でやる私。
パタパタと止め処なく落ちる涙。
うんうん…やっぱり、思いつめてたのね。
事実を知って、それを受け入れて…。
そしたら、自分を抑えるストッパーがパチンと外れちゃったのね。
「よしよし。大丈夫。大丈夫よ。泣いちゃいなさい。ねっ」
私は、依頼人さんの背中を撫で、
ハンカチで次々と溢れてくる涙を拭ってやりながら言う。
「…っ。本当に、本当に、大好きなのに…僕は…僕はね…うっ…」
声を震わせて言う依頼人さん。
調査を依頼してきた時とは、まるで別人ね。
ううん。みっともないなんて、思わないわ。
寧ろ、可愛い。ハタチの、普通の男の子、って感じがするもの。

さぁ、これから、どうする?
真実は、事実は、とても酷なものだったけど。
今でも、あのコを、彼女を想い。
独占したいのなら、ありのまま。ぶつかっていけば良いと思うし、
もう、すっぱり切って、
武彦さんが言うように、新しい恋を求めたって良いと思うし。
私は淡く微笑み、ホットレモンティを渡しながら。
まだ、涙の海に溺れている依頼人さんへ告げた。
「貴方、次第よ」




「はぁ〜…久々に見たよ。号泣。しかも、男の」
コーヒーを飲みつつ言う武彦さん。
私は両手でコーヒーの入ったマグカップを持ち、
ストンと武彦さんの隣に座る。
「本当に好きだった証拠よね…切ないわ」
「まぁ。まだハタチだし。良い経験になったんじゃねぇか」
「だと、良いわね」
クロだった結末を悲観せず、先を見据えた上での言葉を放つ武彦さん。
そうねぇ。
あなたも、同じように。いろんな経験してきたんですものねぇ。
深くは知りたくな…ううん、知らないけど?


「うーん。それにしても、彼女。凄かったわね」
笑って私が言うと、武彦さんはクッと僅かに笑って。
「三股なんつー面倒な事できるってのが、若い証拠だよなぁ」
そう言った。
「…面倒な事、ねぇ?」
ニッコリ微笑み、武彦さんの手を握って指を絡ませる私。
武彦さんは、目を伏せて言う。
「おぅ。めんどくなって、最終的には、全員どうでも良くなるんだよ」
あらぁ……。
実体験、ですか?その口調は。
「ふぅん」
ギュッ―
「…痛ぇ」
満面の笑みを浮かべたままの私に足を踏まれて、
顔をしかめて苦笑する武彦さん。
本当かどうかは、さておき。
そんな言い方されたら、ムカッときちゃう。
それを知ってて言ったんだから、
あなたって、本当。
意地悪な人。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 加賀谷・透 (かがや・とおる) / ♂ / 20歳 / 依頼主・加賀谷財閥御曹司


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/06/08 椎葉 あずま