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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


フォレスト・ラビリンス

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0.オープニング

「あなたも森林浴しませんか……ねぇ」
チラシを見やりつつ苦笑する俺。
零は腕に絡み付いて言う。
「楽しそうじゃないですか。ね?ねっ?」
おーおーおー。
今日はまた一段と凄まじい”連れてけオーラ”だなぁ。

零が持って来たのは、昨日オープンしたばかりの、
アミューズメント”迷いの森”のチラシ。
名前の通り、森をテーマにしたアミューズメントで、
早い話が”森の迷路”
迷いつつ楽しく、森林浴を満喫してみないかという、
可笑しな うたい文句で客へ呼び込みを計っている。
今朝の新聞・ニュースで取り上げられていた事から、
それは、成功と言えるだろう。

で。
そんな”迷いの森”に、零は連れて行って欲しくて仕方ないらしい。
正直、めんどくせぇけど。
零の、こんなイキイキした目、久しぶりに見るしな。
しゃーない。行ってみっか…。
あー…やだなぁ。人混み…。

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1.

「また鍵をかけ忘れてるぞ。昼間だからといって、無用心…」
注意の言葉を吐きつつリビングに踏み入った瞬間。
ギュゥッ―
「連れてって下さいぃ〜〜」
零がタックル気味に抱きついてきた。
「な、何だっ?」
目を丸くする私。
私を見上げる零の眼差しは、切実に訴える…そう。
”おねだりの目”
「…連れてけって、どこにだ?」
苦笑しつつ私が言うと、
ソファに凭れていた草間がピラリとチラシを見せて呟いた。
「森林浴」
「…森林浴?」
眉を寄せ、依然くっついて離れない零を引きずりながら草間に歩み寄る私。


「ね、行きましょう!ねっ?」
キラキラした目で見上げ乞う零。
私はチラシを見やりつつ、苦笑して言う。
「こんなミーハーな所に赴くなんて、柄じゃない」
「柄なんて関係ないですよっ」
間髪入れず返す零。
妙な気迫に押され、むっ…と口篭る私。
その隙を見逃さず、零は猛攻。
「迷彩でも無地でも、何柄でも問題ないですよっ?」
…柄。
いやいや、そんな真顔で言われても。
私が言ってるのは、そういう”柄”じゃないんだぞ、零。
「森は全てを抱擁し、癒しを与えてくれる素晴らしい場所ですよ!」
「…どんだけ森好きだ。お前は」
笑いつつ私が言うと、草間は煙草をふかしつつ。
「一度言い出したら聞かないからなぁ。誰に似たんだか〜」
笑って言った。
お前だ、と思ったが。
そんなわかりきった事、今更言うまでもない。
まったく…困った兄妹だ。




「つくづく思うが。妹に甘すぎじゃないか?」
目的地に到着し、嬉しそうにはしゃぐ零の後姿を見やりつつ呟く私。
草間は入口でもらったパンフレットを広げつつ返す。
「うん。お前もね」
「うるさい。…はぁ、しかし凄い人だ。何で私がこんな所に…」
「日曜だしなぁ。まぁ、ほら。子連れデートの予行演習って事で」
「こっ…!ば、馬鹿!大体、誰と誰がデートだっ!」
「冥月と俺」
パンフレットを見つつ、顔色一つ変えずに言う草間。
私は肩を竦める。
「草間…お前、最近言動がストレート過ぎないか」
「え?だって、なぁ」
「だって何だ!」
パシンと草間の背中を叩いて言った瞬間。
私は気付く。
「…おい。零は?零は、どこ行った?」
辺りを見回しつつ言う私。
「あらぁ〜。駄目だな。こりゃぁ、パパとママの監督不行き…」
ドカッ―
「いってぇっ!」
「アホな事言ってないで、探すぞ」
確かに、目を離してしまった事には、責任を感じてる。
もの凄く嬉しそうで、はしゃいでいたからな…。
妙な奴に捕まっていたりしなければ良いが。

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2.

…まぁ、こうなるんじゃないかとは思っていた。
しかし、ここまで見事に はぐれられると、笑けてくる。
私はフゥと息を漏らし、影を使って、はぐれた二人を探索。
見慣れた姿を探す事は容易な事で。
すぐさま二人を発見。
零は、サクサクとゴールへ向かい歩いているな。
トラブルには巻き込まれていないようだ。一安心…。
しかし、随分と鼻が利くな。
ゴールまでの最短距離を進んでる。
”勘”ってやつか。さすが、探偵見習いといったところだな。
…で。所長のハードボイルド探偵は、というと?
同じ所を行ったり来たり。
立ち止まってキョロキョロして。
また歩き出すも、同じことの繰り返し。
爽快に迷ってるな。
ウロウロする草間の姿が可笑しくて、笑いを堪えつつ。
私は草間の声を拾う。
「…あれ?」
「…おいおい」
「…ここ、さっきも来たっつーの」
「…あ〜。もう」
焦り、苛立っているのが伝わる草間の声。
私はプッと吹き出し笑い出す。すると。
「おーい。ここにいるの、わかってんだろ〜」
影内で、草間は誰もいぬ方向に向かって呼びかけた。
あぁ、知ってるよ。見えてるよ。
お前のみっともない姿が、はっきりとな。
クックッと笑いつつ、様子を窺う私。
すると草間はピタリと立ち止まり。ニヤッと笑って言った。
「早く来ねぇと、恥ずかしい目に遭うぞ〜」
…何する気だ?眉を寄せ、窺う私。
私が様子を窺っている事を悟った草間は笑みを浮かべ。
大きく息を吸い込んで。叫びだす。
「俺の冥月は意地っ張りでー!でも、そんな所も可愛いー!」
「!!ぶっ…」
吹き出す私。
馬鹿だ。こいつ。正真正銘の、馬鹿だ。
草間が大声で叫んだ事により、
草間の周囲にいる人々がザワザワと騒ぎ出す。
本当に、馬鹿だ。
大体、何だ。
”俺の”って。ふざけるなっ。
気恥ずかしくなり、慌てて草間の元へ向かう私。
しかし、その途中も。草間の叫びは続く。
「冥月の声は、欲情させるセクシーボイスー!」
うっ、うるさいっ。うるさいっ。
「冥月の胸ってば、異常な柔らかさー!」
ばっ、馬鹿。馬鹿。馬鹿。馬鹿っ。
「冥月の左太ももにあるハート型の痣、可愛いぞー!」
「!!ぶっ…」
またも、吹き出す私。
なっ、何で。何で、それ知ってるんだ。
こ、こういう言い方は何だか下品で嫌だが。
け、結構…際どい所にあるんだぞ。
それを何故、貴様が知ってるんだぁっ。
ドカッ―
「うぉぉぁぁっ!!」
ドシャァッ―
背後から飛び蹴りをくらい、地に転がる草間。
私は頬と耳を真っ赤に染めて、草間の口を両手で塞ぐ。
気恥ずかしさから、震える肩。
草間は、そんな私の姿を見て子供のように大笑いした。

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3.

「いやぁ、良かった合流できて。まっさか、お前が迷子になるとはねぇ」
依然笑いつつ、私に抱きつく草間。
私はベリッと草間を引き剥がし。
「迷子は、貴様だ」
そう言って草間の頭をパコッと殴る。
まったく…ガキみたいな事しやがって。
こんなに恥をかかされたのは、初めてだ。
まぁ、不敵な笑みを浮かべて警告したお前を放置した私も悪いが…。
それにしても…。
「何で、知ってる…?」
ポツリと呟く私。
「何を?」
キョトンとする草間。
「あ、痣の事だ」
「あぁ。こないだ、お前が泊まった時、見たんだよ」
「…泊まっ?」
「そ。帰りたくないって甘えてきた日」
「………」
「見たっていうか、見えたんだけどな。事故だよ事故」
どうだかな…。
そんなニヤニヤしながら言われても、
仕方ないとは思えんぞ…。

「ん」
溜息交じりに手を差し出す私。
「何?」
首を傾げる草間。
私はグッと強引に草間の手を引き、
「また迷われたら困る」
そう言って歩き出す。
「二人で迷ったら、意味ないんじゃねぇか?」
苦笑して言う草間。
貴様と一緒にするな。この馬鹿が。
「ゴールは、こっちだ」
「わぁ。冥月、頼もしい〜〜」
「うるさい」




ゴールへ向かう道のりは、私にとって恥の境地。
顔が真っ赤だと見知らぬ子供に指をさされて笑われるは、
カップルにクスクスと笑われるは…もう、散々だ。
全て、こいつが悪い。何度言っても、やめないから。
「このコが冥月ですよ〜」
ドカッ―
「いってぇ!」
「やめろって言ってるだろうが!何度言えばわかるんだ!」
「何だよ、いいだろ。自慢自慢」
「ふざけるなっ!」
「みんな気になってると思うんだよな。冥月って、どんな女だろ〜って」
「うるさいっ!黙れっ!」

そんなに時間はかかってないのに、異常に疲れた。
ゴールに着き、その場にペタンと座り込む私。
グッタリと疲れ果てた私に、とどめをさす者が歩み寄る。
「遅いですよ〜〜」
パッと顔を上げれば、映る、ニヤニヤしている零の姿。
零の視線は、繋がれた私と草間の手に集中。
私はバッと手を振り解いて大きな溜息を落とす。
もう、嫌だ。この兄妹………。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/06/28 椎葉 あずま