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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


ロスト・フェザー

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0.オープニング

飛べなくなった天使。
今、俺の目の前に居るのは。
間違いなく、それだ。
「…大丈夫か?」
言いつつ手を差し伸べれば、
天使は怯えた目で俺を見上げ。
躊躇いつつも、手を取る。
「あ、ありがと…ございます…」

大きな仕事を終えて疲労困憊の帰り道。
俺は、天使を拾った。

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1.

「連れて行くにしても…アテはあるの?」
私が言うと探偵さんはフイッと顔を背け、呟くように返す。
「ない」
「だったら…」
言い終える前に、少女を指差す探偵さん。
「?」
首を傾げる私に、探偵さんは言った。
「背負え」
「え?誰が?」
「…お前しかいないだろ」
一瞬呆け、私はクスクスと笑い。
探偵さんの腕をパシッと叩いて言う。
冗談言うなんて、珍しいわねぇ。
「はい、後ろ向いて。乗せるから」
ごく自然なスルーに、探偵さんは何も言えず。
眉を寄せつつも、言うとおりに後ろを向いた。
恥ずかしいのはわかるけど、あなたが背負った方が色々と都合が良いのよ。
傷の手当てもしやすいし。ね。




ちょっとした用事で異界を訪れていた私が遭遇したのは、
腕を組んで困り果てていた探偵さんと、羽に傷を負った天使の少女。
無愛想だけど、お人好しな探偵さんが彼女を放っておけるわけもなく。
家に”帰す”という目的の元、少女を連れて行く事に。
けれど、一体どうするつもり?
天使を拾うなんて…。
帰すっていっても、どこに帰してあげれば良いのか…。


「ちょっと沁みるけど、我慢してね」
微笑みつつ少女に言い、傷付いた羽の治療にあたる私。
良かったわ。丁度、治療道具を持ってて。
大した事は出来ないけど、傷はそんなに酷くないみたいだから大丈夫ね。
「う……」
探偵さんの背中にしがみつき、眉を寄せて小さく声を漏らす少女。
「ごめんね。もう済んだから」
ポン、と少女の頭に手を乗せ言う私。
けれど、少女の目からはポロポロと涙が落ちる。
とめどなく。大粒の涙が。
「あららら…ごめんね、よしよし」
あまりにも少女が綺麗に涙を落とす為、つられて泣きそうになりつつ言う私。
「っく…っく…ごめ…なさ…」
涙声で言う少女。
「いいのよ。気にしないで」
私は少女を撫でつつ言い続ける。
傷は、酷くない。むしろ、もう塞がって治りつつある。
それなのに、彼女は泣き止まない。
もしかして…外傷以外に、何か心に痛い事でもあったのかしらね。
そう思った私はピタリと立ち止まり、
「ちょっと休みましょう」
そう言って少女を背負う探偵さんに、木陰を指差した。

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2.

煙草に火をつけ一息。煙を空に放つ探偵さん。
私は、ずっと少女の頭を撫でたり、頬を伝う涙を指で拭ったり。
無理矢理聞いても駄目なの。こういう時は。
焦らないで、ゆっくりと。彼女の気持ちを落ち着かせてあげるのが先決。
煙草をふかしつつ欠伸をする探偵さんに、私は微笑。
退屈、か。わかるわ。けど焦っちゃ駄目。
もう少し。もう少し。
「…っく。…っふ」
少女の涙は依然、頬を伝う。
こんな時に不謹慎かもしれないけれど。
このコ、とっても綺麗。
風に揺れる金色の髪も、透き通るように白い肌も、
吸い込まれそうなほど、澄んだ蒼い瞳も。
そして、すっかり癒えた真っ白な羽も。
全てが綺麗。どこにも不備のない、完璧な…お人形のよう。
「落ち着いた…?」
微笑み、少女に問う私。
少女は潤んだ瞳で私を見やり、
ゆっくりと二度瞬きをして、小さくコクリと頷いた。
「良かった」
キュッと少女を抱きしめ、優しく背中を撫でやって。
私は問う。
「ちょっとずつでいいの。聞かせて?あなたの事。何があったの?」
私が問うとほぼ同時に。
探偵さんは煙草を踏み消して、空を見上げ眉を寄せつつ言った。
「…おい」
クイッと顎で空を見ろ、と促す探偵さん。
「ん…?」
私は少女の背中を撫でつつ、ふっと空を見上げる。
すると、そこには。
「…ミト!探したぞ…!」
息を切らして、額の汗を拭う”黒い少年”がいた。
少女とは真逆の真っ黒な羽を揺らし、少年は地に降り立つ。
「…っ」
少年の顔を見るや否や、ギュッと私にしがみつく少女。
少し震えている少女を見て、探偵さんは銃に手をかけた。
「待って」
私は右腕を伸ばし、それを止める。
「…何だよ」
不愉快そうに眉を寄せる探偵さん。
あなたの悪い癖よ、それ。
何でもかんでも始末しちゃえばイイってもんじゃないわ。
ちゃんと見て。見てあげて。
ほら、気付かない?
このコ、震えてはいるけれど、表情は嬉しそうなのよ。
心と体のバランスが取れていないの。
この二人には、きっと何か。
複雑な事情があるんだわ。
私は探偵さんを手招きし、近くに呼ぶと耳元で小さく呟く。
「ちょっと、協力して」

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3.

「あなた、このコのお友達?」
私が問うと、黒い翼の少年は頭を掻きつつ、
何だか申し訳なさそうな表情で言う。
「友達っつーか…何つーか…その…」
オーケー。今の反応で十分よ。理解ったわ。
あなたたちの関係も、複雑な事情も。
何となくだけれど、きっと間違っていない。
自分の勘を信じて、私は探偵さんに目配せをする。
溜息混じりに頷く探偵さん。
私はクスッと笑い、嘘を並べる。
「彼女の羽の傷、かなり酷いわ。手当てはしたけど、痛むみたい」
パッと顔を上げ、驚きの表情で私を見やる少女。
私は片目を閉じて彼女に合図を送る。
彼を騙そうとしているわけじゃないの。
これは、必要な嘘なのよ。
あなた、ううん。あなたたちにとって。
「マ、マジなのか?ミト…大丈夫か?」
顔色を変え、少女を見やる少年。
少女はうつむき、黙りこくって何も返さない。
すると少年は少し躊躇った後、バッと頭を下げて。
「…ごめん!…オレが悪かった。ほんと、ごめん」
そう言った。
少年のその言葉に顔を上げて、再び瞳を潤ませる少女。
零れ落ちる涙は、先ほどまでの切なさを感じさせずに。
喜びと嬉しさと愛情に、満ちていて。
「私の方こそ…ごめんなさい」
少女は涙を落としつつ、そう言って少年に駆け寄り抱きついた。




「…天使と悪魔の喧嘩、か」
空を見やりつつ苦笑する探偵さん。
そうね。まるで、絵本のような光景だった。
不思議な感じはするけれど。
何だか私、嬉しくって。
天使と悪魔が恋に落ちたっていうロマンチックな展開は勿論だけど、
彼らの恋愛も私達と何ら変わらないってとこが、ね。
一緒に居たくて仕方なかったり、些細なことで喧嘩したり。
すれ違うことはあっても、好きで愛しくてたまらない想いは、
何より確かで強いもので。
心は、いつだって愛しい人へと向いてるものよね。
あの天使の少女は、ちょっと家出しただけ。
心の家である、彼の腕の中から。
少しだけ。


素敵な恋を目の当たりにして。
なんだか妙に寂しい気分。
羨ましくもあり、微笑ましくもあり…。
空を見上げつつ微笑む私に、探偵さんがボソリと言う。
「…携帯、鳴ってるぞ」
「へっ?…あっ、ああっ!」
慌てて懐から携帯を取り出し。
ディスプレイに表示される愛しい人の名前に私は。
心から微笑んで。
ピッ―
「もしもし。…うん、大丈夫。今から帰るわ」

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / ディテクター / ♂ / 30歳 / IO2エージェント

NPC / ミト / ♀ / 15歳 / 天使・ガウルの彼女

NPC / ガウル / ♂ / 16歳 / 悪魔・ミトの彼氏


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           ライター通信          
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こんにちは^^
いつも発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
遅れてしまい、大変申し訳ございません。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/07/05 椎葉 あずま