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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


フォレスト・ラビリンス

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0.オープニング

「あなたも森林浴しませんか……ねぇ」
チラシを見やりつつ苦笑する俺。
零は腕に絡み付いて言う。
「楽しそうじゃないですか。ね?ねっ?」
おーおーおー。
今日はまた一段と凄まじい”連れてけオーラ”だなぁ。

零が持って来たのは、昨日オープンしたばかりの、
アミューズメント”迷いの森”のチラシ。
名前の通り、森をテーマにしたアミューズメントで、
早い話が”森の迷路”
迷いつつ楽しく、森林浴を満喫してみないかという、
可笑しな うたい文句で客へ呼び込みを計っている。
今朝の新聞・ニュースで取り上げられていた事から、
それは、成功と言えるだろう。

で。
そんな”迷いの森”に、零は連れて行って欲しくて仕方ないらしい。
正直、めんどくせぇけど。
零の、こんなイキイキした目、久しぶりに見るしな。
しゃーない。行ってみっか…。
あー…やだなぁ。人混み…。

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1.

何やら騒がしいリビング。
買い物から戻ってきた私は、紙袋を両手で持ち呆れ気味に言う。
「何やってるの?」
「あっ、シュラインさん!」
私の顔を見るや否やパタパタと駆け寄ってくる零ちゃん。
「ここ、行きましょう!」
零ちゃんはニパッと笑い、チラシを見せながら言った。
「ん、何?森林浴…あぁ、あそこかぁ」
チラシを見ながら言う私。
私の言葉に、ソファでくつろいでいた武彦さんは、ハハと笑って。
「行って来れば?俺は留守番してっから」
そう言い煙草に火をつけた。
素っ気ない態度に気落ちして、ジッと見やるも。
視線は交わらない。
そう、今朝から一度も…。
「お昼食べたら行ってみよっか」
紙袋をテーブルに置きつつ、少々必死に笑顔を作って言う私。
すると零ちゃんはムッと眉を寄せて。
タタッと武彦さんに駆け寄ると、
持っていたチラシを丸めて武彦さんの頭をポコッと叩いて、
叱りつけるように、少しキツイ口調で言った。
「お兄さんも、行くんですよ」




フォレスト・ラビリンス。
その名のとおり、森の迷宮。
オープン前からテレビや雑誌で評判になってた。
ずいぶんと大げさに宣伝するなぁと思ってて、大して期待はしていなかった。
興味は少しあったけど、
前評判に肩透かしを食らう、いつものパターンだと思っていたから。
でも………。
「凄いわねぇ…」
率直な感想は、ただ一言。
それだけで、事足りる。
確かに、これなら森林浴をうたえるわ。大したものねぇ。
「うわぁ〜〜…!!!」
到着してから、ずっと目を輝かせている零ちゃん。
よっぽど嬉しいのね。
大騒ぎしている子供たちに、まったく引けをとらない。
「マッピングとか出来るかしら?」
はしゃぐ零ちゃんを見つつ、クスクス笑って言う私。
「じゃーん。持ってきました〜」
バッグから自慢気に、お手製のマッピングアイテムを取り出し言う零ちゃん。
「準備万端ね。よぅし、じゃあ、行こっか」
微笑みつつ言うと、零ちゃんはコクリと頷き。
「お兄さ〜ん!行きますよぉ〜!」
少し離れた場所で缶コーヒーを飲む武彦さんを手招きしつつ言った。

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2.

初夏の日差しに透かされ、キラキラと輝く緑の葉。
空気が美味しい………。
あぁ、やっぱり自然って良いな。癒される。
木にペタリと耳をあてて、その鼓動に酔いしれる私。
会話をするように目を伏せて、どのくらい経っただろう。
ハッと我に返り。
「あらっ…?」
キョトンとする私。
…あらららら。やっちゃった。
武彦さんと零ちゃんの姿が見当たらない。
うっとりし過ぎちゃったわね…。
まだ、近くにいるかしら。
私はスッと目を閉じ、聞きなれた二つの足音を探す。
探索は、ちょっと難航…。
人、多いなぁ…まぁ、仕方ないか、今日、日曜日だもんね。
探る足音の内、一つはサクサクとゴールへ向かっている。
もう一つの足音はというと…同じところを何度も行ったりきたり。
…職業柄、得意そうなのにな。不思議なものね。
私は苦笑しつつ、頼りない足音に向かって歩き出す。



ドンッ―
「きゃ…」
「あっ、ごめんなさぁい」
「いえ、こちらこそ」
衝突も、もう何度目になるやら。
本当に、人が多い。
しかも、カップルばっかり…。
別に感化されてるワケじゃないけど、
何だか、何故だか…急いてしまう。
んもぅ、武彦さんったら。
わからないのなら、ウロウロしないで。
今、そっちに向かってるんだから。
少しでいいの。そこから、動かないで。
ジッとしてて…。


もう少し…多分、この辺りにいるはず…。
私は、ちょっと背伸びをして、辺りをキョロキョロ。
足音は止まってる。どこかに、いる。絶対に。
どこ……どこ……?
ポンッ―
「!武彦さ…」
背後から肩を叩かれ、振り返り笑顔を向ける私。
けれど。
「大丈夫かい?迷った?」
私の後ろにいたのは、武彦さんではなかった。
「大丈夫です」
切なげに微笑み私が言うと、
見知らぬ男性は私の腕を掴んで。
「一緒に行こうよ。いやぁ、俺も迷ってさ。ハハッ」
照れくさそうに笑って、そう言った。
「ごめんなさい。人を探してるから」
「この状況で人探しは無謀だよ。ゴールで待ってた方がイイって」
「ちょっと…離してっ」
男性の言ってる事は、確かに一理ある。
でも、嫌なの。
あなたとゴールしたって楽しくない、嬉しくない。
一緒に歩きたい人が、いるの。すぐ、そばにいるの。
グイッ―
「!!」
見知らぬ男性の手を振り払おうとしていた私を、唐突に抱き寄せる…。
いつもの、腕。
求めていた、人。
「武彦さん…」
不安そうな表情で、見上げて言う私。
「何やってんだ」
武彦さんは呆れ、溜息交じりに言った。

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3.

合流はしたものの、会話はない。
武彦さんは私の前をスタスタと足早に歩く。
けれど、私が歩きやすいように。
人ごみを上手に掻き分けてくれてる…。
それが嬉しくて。
私は微笑みつつ武彦さんの後を追う。
うん…でもね。でもね、武彦さん。
「ね。ゴール、そっちじゃないわよ」
私が言うと武彦さんはピタリと立ち止まり、
振り返って苦笑した。
「…もっと早く言えよ」
「ごめんなさい。だって、自信満々に歩いていくんだもの」
クスクス笑う私。
武彦さんは照れくさそうに頭を掻くと、
私の手をギュッと握って言う。
「…で。ゴール、どっち?」
キュゥッと締め付けられる胸。
甘く切なく嬉しい、その痛みに私は微笑み言う。
「最短ルートで行きますか?それとも…?」
私の言葉に武彦さんは少し考えて。
「少し、迷ってみますか…」
そう言って僅かに優しく微笑んだ。




「昨日は、悪かった」
そっぽを向きつつ、小さな声で言う武彦さん。
ザワザワと揺れる葉の音に乗せ、私は返す。
「…うん。こちらこそ。舞い上がっちゃって…」
私の言葉に、武彦さんは神妙な面持ちで言った。
「お前を探してる間、気付いた事があってよ」
「ん?なぁに?」
「肝心な所、ちゃんと聞いてねぇよなぁって」
「…?」
「昨日、誰と会ってたんだ?」
「え?語学者のゲール氏だけど…って、あれ?」
「………」
苦笑する武彦さん。
記憶を辿り、私も気付く。
そういえば、私。
誰と会うか、言ってなかった。
武彦さんにも、零ちゃんにも。
憧れの、尊敬してやまないゲール氏に会える喜びと緊張で…。
言ってなかった事に、今。気付いたわ…。
「ご、ごめんなさい。私、緊張しすぎてて…」
慌てて言うと、武彦さんは私の頭を撫でつつ言った。
「すげ。髪ボサボサになってんぞ」
淡く、優しい笑顔。
いつもの、武彦さんだ。
色んな想いが混ざり合って、思わず泣いてしまいそうになる私。
武彦さんは握る手の力を少し強めて言った。
「こんな所で泣くなよ。みっともねぇ」




「お兄さ〜ん!シュラインさ〜ん!」
辿り着いたゴールで、ブンブンと手を振る零ちゃん。
「遅いですよ〜!二人ともっ」
零ちゃんは腰に手をあて、少し頬を膨らませて言うも。
私と武彦さんの繋がれた手をチラリと見やって、嬉しそうに微笑んだ。
零ちゃん…あなたってコは、本当に。
お世話になります…。
「お腹すきましたよ。待ちくたびれて」
ワザとらしく、嫌味に。
それでいて、可愛らしく言う零ちゃん。
私と武彦さんは顔を見合わせ、口を揃えて言う。
「ご馳走させていただきます」

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/06/28 椎葉 あずま