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<PCゲームノベル・6月の花嫁>


偽りの花嫁〜一瞬のときを〜


 うっかりうたた寝でもしていたのか、起きると自分がどこにいるのかわからなかった。
 なんだか甘い香りのする部屋で、窓が開けられ気持ちいい風が白いカーテンを揺らして入ってくる。
 もうひと寝入りでもしようかと目を瞑ったとき、ある異変に気づいた。否、早く気づかねばならなかったのだ。
「失礼します。式の準備はもうすぐ終わりますのでそろそろ、よろしくお願いします」
 いつの間にか清潔そうな正装に着替えていた事もだが、窓から外を見て唖然とした。

 ここは、教会だ。


 部屋には姿見があり、それで自分の姿を見た。
 体に沿って広がる純白のライン。束ねられたレースの先には花束。肩と背中のあいたウエディングドレス。頭にはレースがのってあり、少し触れると顔を隠した。どうやらベールのようである。
 それで見えにくくなったが、衣装よりも大きな変化に気づいた。
 恐る恐る耳を触る。視界に指が入り、言葉を失った。手を広げ、握る。腕を伸ばし、曲げる――。
 物音がしたと思ったら、突然曲げた腕を掴まれ、ひっぱられた。
「よく見せてくれ」
 ベールで隠れているためうっすらとしか見えなかったが、声を聞いて文字通り飛び上がりそうになった。純白の礼服を着た花婿は優しく手を離すと、正面を向いた花嫁マシンドール・セヴンのベールの中に手を入れ、赤い髪を指に絡ませ、頬を撫でた。
 柔らかな頬が指に温かさを伝えた。
「いや、そのなんだ……似合ってるぜ、本当に」
 色んな言葉が頭に浮かんでも、口から出そうになっても、セヴンは何も言えなかった。ただ、ただ目の前にいる草間武彦の姿と自分の姿とここが教会であることがセブンを混乱させた。武彦はベールをめくり上げ、頬に軽くキスした。
「お、俺、そそそ外で待ってるからな!」
 扉につまずきながらも素早く出て行った武彦の頬が少し赤くなっていたが、セヴンの頬は髪の色のように真っ赤になっていた。心臓の音が耳に聞こえてくる。
 継ぎ目のない腕と丸い耳が、いまここにいる場所を夢だと思わせても、セヴンの心は幸せで満ちていた。


 静かに、重みのある教会の扉が開いた。深紅の絨毯の先には、神父と巨大なステンドガラス。歴史を物語るステンドグラスは太陽の光を教会内に招きいれ、神父はそれを背に、新たな夫婦の誕生を心から祝福しながら厚い聖書の言葉を紡いでいった。
「――汝は新婦マシンドール・セヴンを生涯の妻として、一生を共にすることを誓いますか」
「誓います」
 声が静かに教会内に響き渡り、セヴンの心に染み渡っていった。
「新郎、草間武彦を生涯の夫として、一生を共にすることを誓いますか」
 セヴンは震える目で武彦を見た。武彦は恥ずかしそうに照れながら、セヴンに微笑みかけた。さまざまな思いを幸せに変えて、セブンは声を出した。
「誓います」
 神父の細い目がさらに細くなり、銀の指輪を取り出した。武彦はその1つを取った。セヴンもそっと指輪を摘み掴んだ。
 ふわり撫でるように手をとり、2人は指輪を交換した。
 指に煌く、幸せの銀色。太陽に照らされ、なお一層輝きを増す。
「それでは誓いのキスを――」
 武彦はゆっくり、ベールを上げた。セヴンの目を見て、顔を近づけた。
 教会の鐘が、鳴り響く。
 今、新しい夫婦が誕生した。


 絶対にありえないと思っていた。
 夢。そう、夢なのだ。
 人間の姿になって、あの方と教会で式をあげる――
 叶わぬ夢。それはないのだ。


 セヴンは薬指に光る指輪にキスをした。指輪には細かい彫刻がされ、裏には名前が彫ってあった。
――セヴン。
 指先で唇に触れた。
 夢かもしれない。でも、こうして今もあの人の胸に抱かれている。どんな言葉で表現しても、どんな言葉で伝えても、まだ足りない。従者としての一線を越え、叶わぬ夢とあきらめていた――。
 夢。いや、現実であってほしい。覚めないで、覚めないで――!
「……い!」
 とても気持ちいい風が顔をあたる。少しだけ、気分を落ち着かせてくれた。でも、根底は変わらない。
「……おい!」
 汗を拭う腕の暇もなく、駆ける武彦は角を曲がり、壁に背中をつけた。肩で息をしながら、腕の中で眠るセヴンを見た。頬を赤らめながら、幸せそうに笑っている。
「起きやが…………起こせねえ、な」
「いたぞ!」
 武彦は急いで逃げ出した。

 今度の依頼は難航中……?



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【4410/マシンドール・セヴン/女性/28歳/スペシャル機構体(MG)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 はじめまして、ライターの田村鈴楼と申します。
 大変遅くなってしまい申し訳御座いませんでした。
 いかがでしたでしょうか? こういうテイストの物語をあまり書いたことがなかったので、プレイングとそこから伝わる感情を私なりに表現してみました。
 少しでも、幸せに。いつまでも、幸せに。