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<東京怪談・PCゲームノベル>


サヴァ・ダール

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0.オープニング

黒石造りの その館は、異界の隅に、ひっそりと。
怪しい…怪しすぎる…そうは思うも、好奇心に勝てず。
まるで、吸い込まれるように。
私は、館の扉を開けた。

ギィィィ―……
響く、古びた扉の音。
館の中へ一歩踏み入った瞬間。
クランベリーの香りが、私の身を包む。
…良い香り。
私は、思わず目を閉じた。
だが、その心地良い香りに酔いしれる事は叶わず。
「あっれぇ?お客さん?めっずらしー」
一階のホールでボーッとしていた私に、降り落ちる声。
声は、上から。
パッと顔を上げて見やれば、
階段の手すりに肘を付いて、ニコニコと微笑む男と、
その隣で憮然としている男が目に映る。
「………」
言葉を発さず、ただ二人を見やっていると。
「二人とも…挨拶はしたの?」
二人の男の後ろから、黒装束に身を包んだ女が姿を現した。
女の言葉に、二人の男はピッと姿勢を正して。
揃って私を見やり言う。
「悪ィ。遅れたっ。いらっしゃいませ〜!」
「…いらっしゃいませ」
私は呆気に取られ、ペコリと頭を下げる。
ここは、一体…。

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1.

”いらっしゃいませ”
その歓迎の言葉に辺りを見回し、少し首を傾げる私。
そんな不思議そうな私の顔を見て、
黒装束を纏った女性は、ゆっくりと階段を降りてきつつ言う。
「お待ちしておりましたわ」
その言葉に、私はさらに首を傾げる。
「えぇと…?」
微笑みながら見やると、女性は私の前に立ち深々と頭を下げると。
「失礼しました。はじめまして。サヴァ・ダールと申します。占い師をしておりますわ」
そう言って淡く微笑んだ。
占い師さん…?という事は、ここは占いのお店?
こんな所に占いの店があったなんて。
異界には何度も足を運んでいるけれど、全然知らなかったわ。
差し出された手を取り、ペコリと頭を下げる私。
何だろう…この人。凄く、不思議な感じ。
見つめあっていると、心が安らいでいく。
言葉を放たずとも、全て見透かされているようで…。
時を忘れてしまいそうな深い深い、十秒足らずの間。
目を逸らさず、ううん…逸らせずに身動きが取れぬ私。
不快感のない静寂の時。
心地良い、それを。とある男性が崩しにかかる。

「やぁ。はじめまして。キミの名前は?」
その褐色肌の男性は、いつのまにか私の肩を抱き、耳元で囁いた。
ハッと我に返り、グイッと男性の腕を掴み離して私は言う。
「はじめまして。シュライン・エマです」
男性はハハッと笑い肩を竦めて。
戒めるように自身の腕をぺチンと叩き、続ける。
「そっかそっか。じゃあ、歳は?あ、仕事は何してるの?」
一歩退き、苦笑する私。
嫌って事はないけど、ちょっと…苦手だな。あなたみたいな人。
そういう生き方、スタイルで、ある意味自己防衛している人なのかもしれないけど…ね。
微笑みだけを返し、私は質問に答えない。
だって、年齢も職業も、わかってらっしゃると思うから。
サヴァさんは。
あなたは、私の口から直接聞きたいんだろうけどね。
「およしなさい、ロキ。失礼ですよ」
私から離れない男性を叱りつけるサヴァさん。
男性はチェッと舌打ちをし、私から離れていく。
「えぇと…サヴァ、さん」
姿勢を正して言う私。
「はい。何でしょう?」
微笑み、返すサヴァさん。
「お待ちしていた…というのは、どういう意味かしら?」
首を傾げて問うと、サヴァさんはとても優しく微笑んで言った。
「奥へどうぞ。紅茶は、お好きですか?」

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2.

美味しい紅茶に癒され、私はフゥと息を吐き。
テーブルを挟んで向かいに座るサヴァさんと、
その両隣の男性等を見やって、うーんと首を傾げる。
妙な組み合わせよね、この三人。
サヴァさんが占い師だというのは理解ったけれど、彼等は一体?
どういう関係なのかしら…この三人。
黙ったまま、そんなことを考える私。
すると心を読んだかのように、サヴァさんが言う。
「カイン、ロキ。彼女に自己紹介を」
サヴァさんの言葉にコクリと頷く男性達。
私が紅茶を置き、聞き体勢を整えると、
男性達は、一人ずつ自己紹介を始めた。

「…カインだ。よろしく」
先に名乗ったのは、ちょっと無愛想な男性。
カインくん…か。綺麗な顔してるわねぇ。
黙っていても、女の人が次から次へと寄ってきそう。
…相手には、しなさそうだけど。
目を逸らすばかりのカインくんにクスクスと笑って。
「よろしくね」
私が言うと。
「っだぁー…。ほんっと、つまんねぇ奴だよなぁ、お前は」
ゴトリとテーブルに両足を乗せて、褐色肌の男性が言った。
揺れるカップを押さえつつ苦笑するサヴァさん。
ん〜…。何だか、見えてきたわ。この三人の関係。
「ごめんね、こいつ真面目すぎて。つまんないっしょ」
私を見やって言う褐色肌の男性。
「そんな事ないわ。素敵だと思うけど?」
悪戯に微笑み私が返すと、褐色肌の男性は肩を竦めて笑い。
「物好きだね〜。キミ」
そう言って紅茶を一気に飲み干すと、
マシンガンのように自己紹介を始めた。
「オレはロキ。ガキっぽいって結構言われるけど、二十二歳」
あら…そうなんだ。ちょっと意外。
てっきり、十七・八だと思ってた。
「趣味はマナアートとナンパ〜」
…ナンパは理解るわ。うん。好きそうよね。
でも…。
「マナアートって、なぁに?」
首を傾げて問う私に。
「こーいうやつ。すげぇだろ」
ロキくんは、そう言って自身の腕を指し示した。
褐色の肌に浮かぶ、不思議な模様。
タトゥーみたいな感じね。確かに、綺麗。




二人の…といっても、殆どロキくんのだけれど、
自己紹介は、それから暫く続いて。
会話の合間に的確な補足をサヴァさんが加えてくれた事により、
私は短時間で彼等の関係を理解した。
占い師サヴァさんと、彼女に仕える側近、カインくんとロキくん。
占い師に側近、ってうのがピンとこないっていうか気になる所だけど…。
スタイルは違えど、カインくんもロキくんも、サヴァさんを慕い敬っている。
それは、確かな事実。

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3.

広い館に響く、柱時計の音。
見やれば、時刻は二十三時。
いけない…ちょっと、夢中になりすぎちゃったわね。
私はカップに残る紅茶を飲み干し、ニコリと微笑んで言う。
「そろそろ、おいとまします。とても楽しかったわ。ありがとう」
「え?帰っちゃうの?夜道は危ないからさ、泊まってけば?」
テーブルに頬杖をついて言うロキくん。
そんなロキくんの頭を小突き、溜息混じりにカインくんは言う。
「…そっちの方が危ないだろ」
「んだよ。うっせーなー」
二人の遣り取りにクスクス笑う私。
何だかんだで、仲が良いんじゃないかしら。この二人ってば。
「シュラインさん。戻る前に、一つ…占って差し上げますわ」
目を伏せ、懐から指輪を取り出して言うサヴァさん。
うーん…そうね。
偶然でも、せっかく占いの館に来たんだし、占ってもらうのも良いかも。
「えーと…それじゃあ…」
何を占ってもらおうか悩む私に、
「何でもどうぞ」
指輪をキュッと握り締めて言うサヴァさん。
んー…色々考えてはいるんだけど、やっぱり定番になっちゃうな。
愛しい、あの人の事。お約束よねぇ。
面白味にも欠けるし…。
そもそも武彦さんとの事は、
自分と彼で頑張ったり悩んだりするべきだしね。うん。
じゃあ、こんなのは…どうかしら。
「”彼”の健康面で、ここ暫く…何か気をつける事はあるかしら?」
私の言葉に、真っ先に食い付くロキくん。
「おいおい、ちょっと。何、その”彼”って。聞いてないよ?」
「うるさいぞ、ロキ…」
ロキくんを睨み付けるカインくん。
苦笑しつつ待っていると、サヴァさんは伏せていた目を ゆっくりと開いて。
「煙草の吸い過ぎには、注意が必要ですわね。加えて、十分な睡眠を」
そう言って、持っていた指輪を私に差し出す。
「わかったわ。帰ったら早速注意してみる。…えっと、それで。これは?」
指輪を見やって言う私。
サヴァさんはニコリと微笑んで。
カインくんとロキくん、二人と顔を見合わせると、優しい声で言った。
「受け取って下さい。出会えた奇跡に」
とっても綺麗な指輪…。こんなの貰っちゃって良いのかしら。
躊躇う私に、サヴァさんは続ける。
「あなたの運命を、私達は喜んで受け入れますわ。また、いつでもお越しくださいね」
運命…。不思議なものね。
占い師さんが言うと、とっても神秘的に聞こえる。
ううん…あなたが言うから、かしら。
まぁ…運命とか、そういうのは大して重要じゃないけれど。
素直に思う事が、一つだけある。
「また、あなたに会えるなら、嬉しいわ」
私は、そう言って指輪を受け取ると、カタンと席を立った。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / サヴァ・ダール / ♀ / 29歳 / 占い師

NPC / カイン・ヴェノーカ / ♂ / 21歳 / 剣士・サヴァの側近

NPC / ロキ・オグリー / ♂ / 21歳 / 魔士・サヴァの側近


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

アイテム「ラピスラズリの指輪」を贈呈しました。ご確認下さい。

2007/07/05 椎葉 あずま