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<PCゲームノベル・6月の花嫁>


激闘! 新郎列伝

□Opening
「やっぱり、結婚を考え直して欲しいの」
 新婦のハナコが、その話を切り出したのは、何と披露宴の一週間前の事。新郎のタロウは、最初その言葉が正しく理解できずに、ぽかんと口を開けてしまった。
「えっと? どうしたのハナコちゃん、……、何か僕に不安が?」
「違うのっ、タロウさんと結婚したい、その気持ちは今でも変わらない、ううん、もっともっと大きくなっているわよ!」
 これでは、わけが分からない。
 タロウは、ハナコが詳しい話をはじめるのをじっと待った。
「あのね、一番上の兄、覚えてる?」
 落ち着いた雰囲気の喫茶店。タロウの向かいの席に座ったハナコは、からんと、オレンジジュースをストローでかきまぜた。
「ああ、あの、ラグビーの全国大会進出を目指していると言う、かなり大きい」
「そう、ね、二番目の兄の事は?」
 タロウが兄の事を覚えていることが、一体なんであるのか?
 ただ、タロウが言葉にするたびに、ハナコは苦しそうに俯く。
「勿論覚えているよ、えっと、柔道大会で上位常連の……」
 おかしな話しだ。
 二人は愛し合っていたはずだ。いや、勿論、太郎はハナコを愛している。その二人が結婚するのに、ハナコの兄達が反対でもしているのだろうか。
「ねぇ、タロウさん……、あの兄達を、瞬殺できる?」
「え? ははは、何言ってるのハナコちゃん、僕はデスクワークのしがないサラリーマンだよ、体格の差だってあるしとてもじゃないけど」
 ははは、と、笑いが乾く。
 やはり、反対されているのかもしれない。けれど、タロウには、あの筋骨隆々としたハナコの兄と戦って勝つ自信は到底無かった。
「やっぱり駄目よ、ああ、こんな家に生まれたくなかった、ああ、ううう」
「ハナコちゃん、落ち着いて、ね、事情を話して」
 泣き出すハナコ。
 彼女から語られた、驚愕の事実に、タロウはだから、ぽかんと口を開けてしまったのだ。
「結婚式で、襲い来る暴漢……まぁ、大抵は親族が扮装しているんだけどね、その暴漢を、花婿が組み伏せて倒していくと言うのが、我が家の伝統なの、強い者が正義なの、だからもし兄さん達が暴漢役に抜擢されたら本気で襲ってきちゃうわ」
 タロウは、どちらかと言えば体格は貧相で、お世辞にも強いとは言えない。
「ええと、……、大丈夫だよハナコちゃん」
 しかし、彼は頭脳を駆使して持てる限りの思考を走らせ、頑張って考えた。
「エキストラを募集しよう、その、自然に倒れてくれる……、人を」
 結婚を取りやめようと、最後まで口にしなかったタロウに、ハナコは少し感動して、不安げに頷いた。

■05
 咥えていたタバコをもみ消しながら、来生・十四郎はにやりと笑って見せた。
 ただ、少々目つきが鋭かったため、タロウはひっと小さな悲鳴をあげて一歩後退る。何より、その風貌は、乱髪だし汚いシャツだし、およそ身なりに気を使っているとは思えない。背格好はタロウとさして変わらないのだが、第一印象で、怖い人かもしれないとタロウは警戒していた。
 十四郎は、そんなタロウの反応に、さして気を悪くした風も無く、口から笑いがこぼれる。
「こんな面白……、ん、気の毒な話放っておけねぇな」
 空気が、変わった。
 ただ怖いだけの印象が、その言葉だけで溶け落ちてしまったみたいだ。……、まだちょっと、顔は怖いけど、と、タロウは心の中で呟きながら、首を傾げた。
「面白?」
「俺は人相も悪いし、少しはらしく見えるんじゃないか?」
 タロウの問いにそっぽを向いて、用件を切り出す。
 しかし、タロウは十四郎の言葉に、ぱっと目を輝かせた。
「それでは、ご協力していただけるんですね?」
「ああ、ところで、お前喧嘩の方は?」
 自分は適当に力加減をして演技をすればいい。反撃が来たら、派手に倒れるのも効果的だろう。しかし、それも、喧嘩や格闘としてのある程度の基本は大切だ。そもそも、少しでも強く見せておかなければ説得力も感じられない。
「喧嘩ですか? 方はと聞かれても、一度もした事が無いんですよ」
 それはもう、これ以上無いほど無邪気に、タロウは言い切った。
「……、ちょっと、構えてみろ」
 十四郎は、そんなタロウに、嫌な予感がして顔をしかめた。よりいっそう険しい顔つきとなった十四郎に首を傾げながら、タロウは言われるがまま構えをとる。
 へっぴり腰。弱弱しく握り締められた拳。ぼんやりとした眼光。おまけに、
――右手と右足が、一緒に前に出てやがる……
 こいつは、少々手間がかかりそうだ。
 十四郎は心の中で呟き、それでもやんわりと、タロウの構えを正していく。
「こりゃ、当日までに覚える事が山ほどあるぞ」
 間の取り方や攻撃のかわし方、それができれば、次により有効な攻撃方法や体力配分。
 十四郎は、根気良く、それらを教えはじめた。

□07
 ジューンブライド。それだけで、幸せな響きがある。ローマ神話の結婚を司る女神ジューノ、婚姻と女性の権利を守護するこの女神の月に結婚すればきっと花嫁は幸せになるだろう、と、昔誰かが言ったのか。それとも、気候の問題か。諸説はあるけれど、ともあれ、めでたい事に変わりは無い。
 今日この良き日に挙式するタロウとハナコも、それはもう、幸せに違いないのだ。
 その幸せを願ってやまない六名は、本番前の時間を使いタロウに最終確認中である。
「でね、タロウさんは優しい方のようだし、音が出るほど人を殴りつけるのって無理そうよね」
 最初に話を切り出したのはシュライン・エマ。彼女は、式場の係員と同じ服装だ。
「あ、そ、そうですね……」
「喧嘩もした事が無いらしいぞ」
 おろおろと自分の拳を見つめるモーニングコート姿のタロウ。彼の肩にぽんと手を乗せたのは、来生・十四郎。黒尽くめの服装の彼は、その鋭い眼光も手伝って、明らかに見た目怪しい暴漢だ。しかし、タロウは十四郎の事を信頼しているのか、さして気にした様子もなく、はははと力無い笑みを浮かべた。
「……、情け無い」
 その様子に、ぼそりと呟きをもらしたのは黒・冥月。漆黒のロングドレスに身を包み、静かに目を伏せている。ワンピースの上から羽織ったボレロがひらりと風になびく。
「なら、当たった時の音を私が担当しましょうか」
 袖口に小型のマイクを仕込んでおけば、随分違うんじゃないかしらと、シュラインは言う。
「あのぅ、音って、どうするんですか?」
 その隣から、不思議そうにシュラインを見るのは千石・霊祠。彼は、普段の魔法使いの洋服ではなく、顔を覆うようなローブを身に纏っていた。シュラインは、にこりと微笑みそうね、と呟いた。それから――
『ゴスッ』
 と、重い音が響く。
 あまりのリアリティに、タロウがはっと耳をふさいだ。
「わぁ、凄いっ、凄いや!」
 霊祠は、その見事な声帯模写に感激して拍手をする。なるほど、これならば、殴った時の臨場感もぐっと上がるだろう。
「じゃあ、俺の時は、頼もうかな」
 蝶ネクタイがとてもキュートなウェイター姿は、清水・コータ。くるくると両手で銀のトレイをまわして見せる。それなら、俺の時もと、十四郎が片手をあげた。冥月は、多分私の時も必要だな、と、シュラインに申し出る。
「ふむ、拙者は、煙玉があるゆえ、大丈夫でござる」
 逆に、音を遠慮したのは、燕尾服に仮面を付けた怪盗紳士のような扮装の鬼眼・幻路。普段の衣装と、勝手が違うのか、それとも珍しくて嬉しいのか、目元を隠す仮面を取ったり付けたり繰り返す。
「そうだ、僕からはこの短刀をタロウさんに」
 霊祠は、そう話すと、懐から鈍く光る銀でできた魔法の短刀を差し出した。
 短刀で戦うのならば、音は必要ないと言う事だろう。
「あ、はい、あの、貴方は?」
 タロウは差し出された短刀をおっかなびっくり受け取り、霊祠を覗きこんだ。
「謎の占い師です。もし万が一、おばけが出てきたら、その魔法の短刀で戦うのが良いです」
「ええっ?! お、おばけ」
 そういえば、新婦を狙うおばけが出ると、式場の係員が噂をしていた事を思い出し、タロウはたじろいだ。
「そのおばけさんは、いつ頃出てくる予定かしら」
 自分の手の中で光る短刀を握り締め、振るえるタロウを横目に、シュラインは霊祠に耳打ちする。
「そうですね、もう式も終わろうと言う頃合では無いでしょうか」
 なるほど、と、シュラインはメモを走らせた。どうやら、暴漢達のおおまかなスケジュールを書きとめているらしい。
「拙者は、最初でござるな、二人が入場してくる辺りで」
 それを察してか、幻路は段取りを説明する。
「なに、演出こそ派手でも、両名には怪我一つさせぬでござる」
 そのあたりは心配なくと、タロウの肩を叩く。
「は、はい、宜しくお願いします」
「私は、友人の一人として参加するぞ」
 まだ、銀の短刀を握り締めている。そんなタロウを横目に見ながら、冥月が囁く。
「そう、ね、だとしたら余興の辺りがベストなんじゃない?」
 新郎新婦入場、挨拶、紹介、ウェディングケーキ入刀・食事と来て、来賓の祝辞がある。その合間の余興には、友人代表が何かすると言う事なので、それに紛れる形がスマートだろう。メモを手に、シュラインは冥月をちらりと見た。冥月もその視線に静かに頷く。
「ちなみに、私はケーキ入刀のナイフを渡す役から襲う予定よ」
「ん、俺はその後だな、頃合を見計らって突入しよう」
 シュラインの出番を聞いて、十四郎が手をあげた。
「あ、俺はねー、食事の開始の頃だね」
「と、言う事は、ケーキ入刀の後って事ね」
 ウェイターの姿なので、恐らく、食事を配りながらと言うことだろうか。
 コータは、蝶ネクタイをくいと手でおさえ、笑顔を覗かせた。これで、全員のスケジュールはおさえた。
「でね、……おせっかいかもしれないけれど、話が通じそうな方に、事情を説明しておいたほうが良く無いかしら」
 例えば、お母様とか、と、シュラインが呟く傍で冥月がそっと彼女の袖を引っ張る。
「ハナコからな、『我が家の女子は、子孫を残すことが使命』と、聞いた」
「……、そう、そうなの」
 冥月の言葉に、シュラインははっと目を伏せた。
 その言葉が全てだと思う。つまり、話が通じるものなど、最初からいない。
「ところで、ハナコの兄達が出てきたら、意味が無い」
 その雰囲気を切り捨てるように、冥月はタロウを見た。
「あ、それは大丈夫です、暴漢役を用意した旨、伝えてありますから」
 伝統とはいえ、役者が揃っているのなら、親族がその役を演じる必要は無いのだろうか。
 タロウの安心しきった表情に、冥月はふぅんと頷いた。
「それでは、皆さん、宜しくお願いします」
 そろそろ、新郎も準備に入らなければならない。
「おう、また後でな、教えた事忘れんなよ」
 十四郎は、およそ晴れやかな結婚式にそぐわない、怪しい姿で式場内へ消えた。
「では、拙者も身を隠すでござる、いや、隠そうか」
 幻路は、燕尾服の裾を翻し、するりと闇に紛れるように静かに行方をくらます。
「勇気を出して戦ってください」
 霊祠は、ローブの間から笑顔でタロウを励まし、草むらへ足を向ける。
「んじゃ、俺も行くか」
 コータは、式場内の準備に追われるウェイターに、当然のように紛れ込んだ。
「はい、小型のスピーカー、袖に固定しておいて」
 シュラインは、用意しておいたスピーカーをタロウに手渡し、係員として歩き出す。
「私にはもう縁のない所だな」
 式場を見上げた冥月は、最後にポツリと呟き、友人受付へと向かった。

■10
 ざわざわざわと、会場が騒がしい。
 ウェディングケーキ入刀で一悶着あったのだが、それでも何とか持ち直し、披露宴は続く。
「さ、さぁ、皆さん、新郎新婦初めての共同作業です」
 司会者は、お決まりの台詞で、その場の雰囲気を盛り上げる。
 タロウとハナコは、二人で上品な飾りのついたナイフを持ち、ケーキの前に立った。お互い顔を見合わせ、ケーキへと進む。
 その時だ。
「待て待て待て待てーっ」
 ばぁん、と、正面の扉が開いた。
 いや、十四郎は、扉を蹴飛ばして会場へ現れた。足の力は強い。扉を蹴った音が、わんわんといつまでも響いた。
「だ、誰だ?!」
 最初に反応したのは、ハナコの兄だった。
 会場はしんと静まり、成り行きを見守っている。何より、黒尽くめの十四郎は、それだけでかなり怪しい暴漢だった。それに加えて、強面の面構えと来れば、誰だって怖いし警戒する。
 しかし、十四郎が見たのは、警戒の構えを取る兄達の後ろで、のんきに顔を輝かせるタロウだった。事前にタロウへ色々指導していたので、すっかり打ち解けてしまったのだ。
 兄達が、その、安心しきったタロウを見る前にと、十四郎は走る。
 一息でケーキまで走りこみ、太郎達の正面へ出た。
「あっ、ハナコ」
 兄達は、まさか構えている自分達を完全に無視するとは思っていなかったようで、肩透かしを食らったように面くらい、ただ妹の名前を呼んだ。
「きゃ、タロウさん……」
 迫ってきた十四郎に、ハナコがおびえた様にタロウの背に回る。
「は、ハナコちゃん、お、落ち着い……っえ?!」
「おうおうおう」
 最初は、力の入っていなかったタロウだったが、ぐいと胸倉をつかまれて体がびくりと硬直する。
 その上、腹の底から搾り出したような、恐ろしい十四郎の声。
「あ、あ、あの」
「は、何を浮かれてやがんだぁ? ああん?」
 いっそう顔を近づけ、皆にも分かるようにすごんで見せた。ようやく恐怖が戻ってきたのか、タロウまでがすくみ上がる。
「おい、馬鹿、頑張れ! 教えた通りに攻撃するんだ」
 背後を気にしながら、十四郎はぼそぼそとタロウだけに聞こえるような小声で彼を励ました。その言葉に、ようやくタロウから震えが取れる。
 いいな、と、念を押し、十四郎は飛びのいた。
「ちっ、何しやがるっ」
 まるで、タロウに吹き飛ばされたように振舞いながら、タロウの間合いで立ち止まる。
 そこへ、弱弱しいながらも、タロウの初撃が飛んできた。右のストレートにしては随分スピードが足りないが、この際仕方が無い。十四郎は、よろけたようになりながら、それをかわした。
 次は、左から曲線をなぞって、ひょろひょろとパンチが来る。
 その攻撃も、いかにもぎりぎりですと言う感じでかわし、丁度自分の背にハナコの兄達が居る位置まで後退した。
 これで、兄達から見れば、真正面に十四郎、その奥にタロウと言う配置になるはず。
 十四郎はそれを確認して、タロウに目で合図した。
 もう一度、右の腕に向かって、攻撃が来た。
『ごすっ』
 今度は、酷く鈍い音が響いた。
 当然、タロウの袖に仕込んだスピーカーからの、演出音である。
「ぐっ、やるな……」
 それでも、十四郎は苦痛の声をあげ、いかにも攻撃をもろにくらいましたとアピールした。
『ガズン』
 重い音が響く。
 右、左、下から、次々と繰り出される、タロウのパンチ。それにあわせて、轟音が会場に響く。十四郎は、呻き声をあげながら一応反撃も見せる。あくまで力を乗せず、ゆるりと軽くタロウの肩を撫でる突き。身体をいっぱいいっぱい反り返らせ、勢いに任せた空振りのキック。
「はぁ、あ、……」
――そろそろ、頃合か?
 そうしているうちにも、タロウは苦しそうに肩で息をし始めた。
 もう、十分戦ったと思う。
 十四郎は、最後に、自らタロウの懐に飛び込み、こめかみを殴らせた。
「う、うわぁー」
 ぐっと足に力を込め、そのまま背後に飛ぶ。
 できる限り、両手を広げ、さも吹き飛ばされましたと言わんばかりに、悲鳴をあげた。そして、がたがたと、兄達の元へ雪崩込み、彼らを巻き込んで派手に倒れた。
「! 気絶している」
「タロウ君、凄いじゃないか!」
 こうして、暴漢を演じた十四郎は、静かに会場の外へ放り出された。

□Ending
「いや、タロウ君、キミは根性がある」
「そうだ、ワシは君を誤解していたよ」
 新婦の親族に囲まれるタロウの顔は明るい。
 何とか披露宴を乗り切り、どうやら、ハナコの父や兄達も彼の事を認めたようだ。
「一件落着って言うことかしら?」
「当たり前だ、私にあんな事をさせておきながら、解決しなくては困る」
 シュラインと冥月はその様子をみながら、頷きあった。これで、興信所には良い報告ができそうだ。
「シュラインさん、冥月さん」
 その二人の元に、駆けて来たのはハナコだった。
「これ、お二人に受け取って欲しくて」
 それは、ハナコが持っていたブーケ。それを、二人のために組みなおしたようだった。
「え? 頂けるの? けれどお友達の皆さんは……」
 シュラインは、その花に手を伸ばして良いのか分からなかった。しかし、ハナコは笑顔で言う。
「いいえ、お二人に受け取ってもらいたいんです、本当にありがとうございました」
「……、私にはもう必要無いんだ」
 その隣で、ブーケを押し戻した冥月は、ふっと寂しげな表情を浮かべた。ハナコはそれを敏感に感じ取り、首を横に振る。
「歌、ありがとうございました。とても嬉しかったです」
「いや、あれは、だな」
 ずい、と、もう一度ブーケが差し出され、それは強引に冥月の手に握らされた。
「私、未来は明るいと思います」
「そうね、おめでとう」
 シュラインも、同じようにブーケを受け取り微笑む。ハナコは、笑顔で頷き、そしてくるりと回ってみせた。
「はい。そして、未来はきっと誰にでもある」
 冥月は、その言葉を聞きながらブーケを眺めていた。誰にでもある未来。あの人にはそれが無い。だったら、自分も同じように無いのでは無いか? それとも、自分も同じように明るい未来を持っている?
 まだ、結論は出そうにないけれど、それまでの間この花が自分を励ましてくれる。そんな気がした。
「うむ、全て上手く事が運び、まこと良き事でござる」
 さて、普段の口調に戻った幻路は、元の忍び装束を身に付けている。
 笑顔で頷くハナコに答えた。
「めでたい事でござる、末永くお幸せに」
「ふぁあ、もうお開き?」
 そこへ、あくびをかみ殺してコータがやってきた。
 彼は、プリンが崩れて行った悔しさに涙したが、丁度良さそうな休憩室を見つけ今まで眠っていたのだ。不自然な体制で眠ったのか、少しからだが痛い、けれどいつもより幸せな夢をみた気がした。
「どうやら、皆上手く行ったようだな」
 一時は、気を失い会場外の椅子に寝かされた十四郎は、特に何もなかったように平気な顔をしてそこへやってきた。いや、もしかしたら、気絶したのも演技だったのかも知れないけれど。
「はい、それはもう、ばっちりでした」
 最後にやってきたのは霊祠だ。
 友達達を、無事元の世界に返し、今は一人魔法使いの服に身を包んでいる。
「みなさーん」
 ハナコの親族から解放されたタロウが、皆の元に駆け寄ってきた。
「今日は本当にありがとうございました」
「ありがとうございました」
 タロウとハナコ、二人揃って、笑顔で礼を述べる。
「タロウさん、この件で何か思う所があったんじゃない? もしそうなら、自分のペースで少しずつ……」
「そうですね、僕はハナコちゃんを守らなくちゃいけないんだ、だからお義父さんに少しずつ武道を習おうと思っています」
 シュラインの言葉に、タロウはしっかりと頷いた。
「はぁ、歌の事は忘れてくれ」
「うふふ、本当にありがとうございました」
 冥月は、少し気恥ずかしそうに、髪をかきあげる。
「やはり、結婚はめでたいことでござるな」
「はい、僕、とても嬉しくて」
 幻路の言葉に、タロウは感激の涙を浮かべた。
「勇気を出すって、良い事もあるでしょう?」
「私、タロウさんの素敵な一面が見れたなって、そう思うんです」
 霊祠に笑顔を向けるハナコはとても幸せそうで。
「おい、教えた事は忘れんな、きっと」
「はい、ありがとうございます、おかげで僕強く見えたでしょうか?」
 それは、まぁ、ちょっと断言できないけれど、十四郎は目を逸らして頭を掻いた。
「プリン、すみませんでした」
「ううん、良いよ、それで幸せになれたんだったら」
 プリンの事を思うとと申し訳なさそうなタロウを、コータが許した瞬間だった。
 そして、深々と礼をするタロウとハナコに別れを告げ、一同は帰路についた。
<End>


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 /東】
【2778 / 黒・冥月 / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒 /東】
【3492 / 鬼眼・幻路 / 男性 / 24歳 / 異界職 /ソ】
【7086 / 千石・霊祠 / 男性 / 13歳 / 中学生 /東】
【0883 / 来生・十四郎 / 男性 / 28歳 / 五流雑誌「週刊民衆」記者 /東】
【4778 / 清水・コータ / 男性 / 20歳 / 便利屋 /東】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、ライターのかぎです。この度は、少々変わった風習の披露宴へのご参加ありがとうございました。
 本当は、披露宴の模様を全てお届けしたかったのですが、文字数の関係などで皆さんのご活躍のシーンのみをお届けしました。他の方が何を準備してどのように乱入されたのか、あわせてお楽しみいただけると幸いです。
 □部分が集合、■部分が個別描写になっております。

■来生・十四郎様
 はじめまして、はじめてのご参加ありがとうございます。話し方や仕草の描写などいかがでしたでしょうか。必要以上に、強面の顔をアピールしてしまったかもしれないと少々びくびくしています。タロウ君への喧嘩指導ありがとうございました。これにより、タロウ君は一応の格好を保てたと思います。
 少しでも楽しんでいただければ幸いです。
 それでは、また機会がありましたら宜しくお願いします。