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<東京怪談ノベル(シングル)>


好機

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『もしもし。冥月さん?』
「…どうした?こんな朝っぱらから」
『今日って、お暇ですか?』
「まぁな」
『お願いがあるんですけど』
時刻は、午前八時半。
こんな時間に電話してきて、お願い…?
「何だ?」
コーヒーを飲みつつ返す私。
仕事関連だろうと思って構えていたが。
返ってきたのは、意外な言葉。
『冥月オリジナルカレーの配合を詳しく教えて欲しいんです』

そんなの、いつでもいいんじゃないかと思い言うも、
零は今日どうしても教えてもらいたいらしく。
特に用事もないし、と私は零のお願いを聞き入れた。
何で今日なんだ?と何度聞いても、
零は「思いつきです」としか返さなかった。
近頃のお前なら、思いつきで動くというのも有り得ない話じゃないが。
嘘だろう。
今日、どうしても。という事は、
明日以降だと困るという事。
まぁ。それだけで理解に及ぶ。
尽くすタイプなんだなぁ。あいつも。
…も?
もって何だ。






「うわぁ…すごい…」
棚に並ぶ香辛料に目を丸くする零。
行き着けの香辛料専門店。
ここでしか手に入らないものが多いんでな。
「ちょっとでも狂うと味が崩れる。厳密な計量がものを言うぞ」
懐からメモを取り出し、
それを零に渡しつつ言う私。
「こんなに必要なんですか…」
メモに書かれた数々の香辛料と細かい必要量に感心する零。
この間は久しぶりだった事もあり、適当だったからな。
何度も作ったから覚えていて、味崩こそ起きなかったが。
…途中は、どうなる事かと思ったがな。
とにかく教えられて作るのであれば、そのメモは必須だ。
「なくすなよ」
「もちろんですっ。ありがとうございますっ」
真顔で何度も頷く零に私はクスクスと笑いつつ。
必要な香辛料を手に取り、次々とカゴに放っていく。
「へぇ〜…こんなのも使うんですね…って、えぇっ!?」
見慣れぬ香辛料にはしゃぎ、カゴから手に取ってはみたものの、
その値段に驚きを隠せない零。
突然の大きな声に、店主がチラリとこちらを見やる。
「うるさいぞ」
苦笑しつつ頭を小突くと、零は不安そうな目で私を見上げ言う。
「こ、こんなの買えないですよ…?」
どもる零に笑いつつ。
「いいよ。買ってやる。その代わり、完璧に覚えて、ご馳走してくれ」
私は言った。






買い物を終え、興信所に向かう帰り道。
香辛料の入った袋を持ち、嬉しそうに歩く零を見て、私は微笑して言う。
「零」
「はい?」
「零の”いい人”にも食べさせてやれよ。喜ぶぞ」
「…はぅっ!?」
妙な声を上げ、躓く零。
予想通りの反応に私はクックッと笑いつつ言う。
「今度、興信所に連れて来い。話してみたい」
「は、はい」
「シスコン馬鹿は、私が抑えてやるから」
「あっ…は、はい」
「私もあいつも心配なんだぞ。お前が、変な奴に騙されやしないかと」
私の言葉に零はコクリと頷き。
ジッと私を見やって言う。
「私も、お兄さんや冥月さんが変な人と付き合うのは嫌です」
「はは。だろう?」
「でも、お兄さんと冥月さんなら良いです。安心です」
エヘヘと無邪気に笑いつつ言う零。
「何で、そうなる」
私は、つられて笑いつつ零の頭をぐりぐり撫でた。




「急にお願いして、すみませんでした」
興信所の扉の前で、ペコリと頭を下げる零。
「構わん。作り方、間違うなよ」
笑って私が返すと、零は頬を掻きつつ言った。
「はい、頑張ります。あの…お礼に紅茶でもいかがですか?」
零の言葉に、私は首を左右に振りつつ影から”ある物”を取り出す。
それは、渡せなかった、渡し損ねている贈り物。
「先日の料理の礼だ。奴に渡しておいてくれ」
私は贈り物の入った紙袋をズイッと零に差し出す。
「えっ…。今、中にいますよ。お兄さん」
紙袋を受け取るも、キョトンとする零。
「これから仕事なんだ。頼んだぞ。じゃあな」
仕事なんて入っていないのに、今日は暇だと言ったのに。
私は、そう言って逃げるように、その場を去った。
…電話がきた時、思ったんだ。
丁度良い、チャンスだ、と。




…変なの。
今日は暇だって言ってたのに。
首を傾げつつ冥月さんを見送る私。
お礼かぁ…。何だろう。
気になるなぁ。
…ちょっとだけ。そーっと…。
私は受け取った紙袋を開き、中を拝借。
可愛い小さな紙袋の中にあったのは、葉巻セット。
「わぁ…」
すごいなぁ。
オシャレだし、綺麗だし…。
お兄さん、絶対喜びますよ。
「…ん?」
ふと目に入った小さな紙切れ。
もしやメッセージカード?と思うも、
それは、ただのレシートだった。
「…あわてんぼうさんですねぇ」
微笑みつつレシートを見やる私。
記された金額には、勿論驚いたけれど。
それよりも、もっと驚いたのは。
日付。日付が…。
お兄さんが手料理を振舞った日の数日前で。
…やっぱり、記念日って二人にとって大切な日なんですねぇ。
でも、サプライズな贈り物にペースを乱されて渡せなかった、と。

…冥月さん、可愛いです。

確かに預かりました。
ちゃんと、お兄さんにお届けします。
あわてんぼうな可愛い一面も、しっかり添えて。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀


著┃者┃通┃信┃
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ 宜しく御願い致します。

2007/06/22 椎葉 あずま