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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


誓いの銃 -プロミス-

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0.オープニング

お前との約束を忘れた日は、一度もない。
ただの、一度も。
取り戻した銃を手に、俺は夜空を見上げる。

なぁ、見てるか?
あいつ…あんなに大きくなったんだな。
とても、お前によく似ていたよ。
お前が戻ってきたかと見紛うほどに。

なぁ、見てるか?
あの日も、こんな夜だったよな。
星が綺麗な、夜だったよな。

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1.

涙ながらに少女が語った真実。
無愛想で自分勝手な男の悲しき過去。
まぁ、あの歳だ。本気で愛した女の一人くらいいてもおかしくない。
いや、寧ろ…いて当然だ。
しかし、事故か…。気の毒にな。
「身近に同じ馬鹿がいたか」
苦笑して言う私。
涙の落ち着いた少女は首を傾げる。
私はしゃがみ、少女の頬を撫でつつ言う。
「私もな、似たようなものだ」
「あなたも…?」
「あぁ。愛する人を護れなかった」
小さな子供が見ても、すぐに気付くであろう作り笑顔で。
私は胸のロケットを握りしめ目を伏せる。
あんな身勝手な男と想いを分かつ事なんぞ、ないと思っていた。
まさか、同じく故人に心を囚われていたとはな。
一緒にいて、不思議と落ち着いたのは、似た者同士だったからなのかもな…。
「心から愛した人だ。忘れられない。どう足掻いても」
呟くように言う私。
私は、その想いを晒したりしないが、
まだ想っている事を否定されたくもない。
要は、心の問題なんだ。
鎖に囚われたままか、その鎖を解くか。
けれど、解くのは…とても難しい。
とても長い時間が必要だ。
…死ぬまで解けぬ事もあるだろう。
「あいつは捻くれていて素直じゃないが、あの銃は今も恋人を想う証だ」
私の言葉に俯く少女。
そう。象徴なんだ。
護れなかった事に対する後悔と、自責の。
「奴は今も苦しんでる。自分を許せずにな」
「………」
「愛した女の大切な妹を恐がらせてまで、あの銃を取り戻した。その辺の気持ちは理解ってやれ」
私の言葉に涙ぐみ、小さく何度も頷く少女。
私は少女の頭をグリグリと撫でやる。
まぁ、暫くは…どう接すれば良いか、わからないだろうが。
あいつも、内心キツイはずだ。
愛した女の妹と、いつまでもぎこちないのは…。
出来うる事なら、普通に接して、話したいはずだ。
互いに愛してやまぬ一人の女の事を。

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2.

「ふぅ………」
様々な想いを胸に、溜息を落とす私。
少女は目をゴシゴシと擦って頭を左右に振る。
物分りの良い娘だ。
必死に気持ちの整理をしている。
奴より、よっぽど大人だな。
私はフッと笑い。
少女の頭にポンと手を乗せ言う。
「あの馬鹿には、制裁が必要だな」
「…へ?」
首を傾げ、キョトンとする少女。
私は不敵に笑って続ける。
「どう懲らしめて欲しい?私が殴るか?それとも、お前が一発見舞うか?」
「え…そ、そんな…」
躊躇う少女。
そこで、目を逸らすな。
お前達の為だ。
いつまでも同じ所で足踏みしていても何も変わらない。
このまま、あいつを恨み続けるのか?
その、小さな体で。
私はな、お前に、そんな生き方をして欲しくないんだ。
恨みを胸に生きていくのは、とても辛い。
私は、そうして今まで生きてきたが…。
私とお前では状況が違う。
お前には、想いを吐き散らかして、ぶつける”的”が、すぐ傍に在る。
気付かせてやるよ。
その”的”は、恨まれる為に、そこに在るわけじゃない事を。




私は少女と手を繋ぎ、足早にディテクターの後を追う。
奴の背中が見えてきた時。
強張りだす少女の動きと表情。
私はクスクスと笑い、少女に告げる。
「一発殴ったら、許してやれよ」
「う…うん…」
ビクつきながら頷く少女。
人と人の間に生まれた蟠りは、時に互いの絆を深める。
だが、ただ黙っていても絆が深まる事はない。
互いに歩み寄らなくては駄目なんだ。
あの馬鹿は自責の念に苛まれるばかりで、歩み寄る事をしない。
視界に飛び込んだ、お前にさえ胸を抉られている。
申し訳ないと思うがあまり、お前の目を見れない。
だから、見てやれ。
至近距離で、逸らせぬように、まっすぐに。
私はスッと両腕を前に伸ばし、影を放つ。
「…なっ!?」
影に拘束され、身動きの取れなくなったディテクター。
私と少女は、ゆっくりとディテクターに歩み寄る。
「お前ら…一体、何のつもり…」
眉を寄せてディテクターが言うと同時に。
私の隣を歩いていた少女がタッと駆け出し。
星の降る静かな夜に爽快な音を響かせる。
バチィンッ―

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3.

「…手荒だな。お前ら」
少女に思い切り叩かれ、
ほんのりと紅くなった頬をさすりつつ言うディテクター。
私は少女を背中にかくまいつつ苦笑して言う。
「制裁だ」
「…痛いな」
淡く微笑んで言うディテクター。
私の背中に隠れつつ少女は不安そうな顔でディテクターを見やっている。
少女の視線にディテクターは一瞬、顔を上げて。
やたらと目を伏せつつ小さな声で呟いた。
「…幾つになった?」
ディテクターの言葉に少女は少し躊躇って。
「じ、十三…」
同じく小さな声で呟いた。
「…そうか」
再び俯き、淡く淡く微笑むディテクター。
その表情に、何か深いものを感じ取ったか。
少女は私から離れ、ディテクターに歩み寄ると。
「…ごめんなさい。痛かったでしょ」
そう言ってディテクターの頬に触れた。
少女に触れられ、ビクリと肩を揺らすも。
ゆっくりと顔を上げて、少女の目を見やるディテクター。
他人の入り込めぬ、特別な空気を放つ二人。
私はクスクスと笑いつつ、二人を残して、その場を去った。




まったくもって…故人は、本当に罪な存在だ。
触れ合う事も、抱き合う事も出来ぬのに、存在が大きく重い。
存在だけならまだしも、
様々な記憶や思い出とセットで心を占めるから困ったものだ。
恨む事をやめて心の解放を…か。
私は胸のロケットに触れつつ、
誰に言うわけでもなく一人呟く。
「私も…私を許せる時が来るのかな…」
他人には偉そうに諭し言えるくせに。
自分も同じく出来るかといえば、そうでもない。
難しいな…。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / ディテクター / ♂ / 30歳 / IO2エージェント

NPC / カナ / ♀ / 13歳 / ディテクターが、かつて愛した女性の妹


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます!心から感謝申し上げます。
少し遅れてしまい、大変申し訳ございません; 連作第三話をお届けします。
気に入って頂ければ幸いです!また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/07/06 椎葉 あずま