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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


蜘蛛の女王



 とんとん、と興信所の扉をノックする音。
 草間・零はその扉を開いた。
「ご依頼ですか?」
「うん、ここに怪奇探偵さんがいるって聞いたんだー。ちょっと力を貸してほしくて」
 零よりもはるかに高い身長。柔らかく笑みながらその人物は言った。
 ちょっとくせのある青い髪、緑の瞳。
「や、怪奇探偵じゃないし、俺」
 と、草間・武彦はそう言って手を振る。
 あからさまに依頼は拒否したいという雰囲気。
「怪奇探偵さん? ボクは南々夜。依頼料弾むから手伝ってー」
「……弾むのか?」
「弾む弾む」
 依頼料弾む、の言葉に武彦は反応する。
 けれどもどうみてもこの南々夜という人物が金を持っているようには見えない。
 武彦は電卓を持って、南々夜の前に立つ。
「出せる額を打て」
「うん、えーとねー……」
 電卓を受け取り南々夜はぽちぽちと額面をうち、武彦に見せる。
 その額を見て武彦は一瞬固まる。
「え、もうちょっと出さなきゃ駄目? 出す? 出そうか?」
「……草間・武彦だ、こっちは草間・零だ。受けよう、受けるぞ」
 額面に負けた武彦だった。
「で、何をすればいいんだ? 荷物運びか、御祓いか?」
「んーと、蜘蛛退治と、ボクの友達の救出」
「よし、まかせろ。零、ハエ叩きだ」
「あははは、面白いこと言うねー。でも武君の思ってるような蜘蛛じゃないんだよねー」
 武彦の言葉に南々夜は笑う。
 そして、ふっと今までの表情とは違う真剣な表情を浮かべた。
「退治するのは妖怪の蜘蛛。蜘蛛の女王様、強いよ」
「妖怪……? マジか」
「うん」
「……一時間待て、そういうことできそうなやつらを集める。その前にその武君は何だ、それは俺か?」
 キミ以外に誰がいるの、と南々夜は返す。
 武君。新たな呼び名に武彦は引き攣った笑みを浮かべる。
「そんな呼び方される年じゃないんだけどな……」
「えー気にしなーい、ねー、れーちゃん」
「はい」
 にこにこ笑顔にもういい、と武彦は言い電話を取る。
 めぼしいもの達に連絡を。
「あ、零は興信所内にいる出来そうなヤツを引っ張って来い。南々夜は……メンツが集まってから詳しい話をしてくれ」
「うんうん、おっけー」
 ひらひらと手を振りながら陽気に答えるものの、南々夜は焦っているようだ。
 そんなことを感じながら、武彦は電話を掛けていく。





「ただいま、お客様?」
 出先から興信所へ帰ってきたシュラインは武彦の顔を見てあら、となる。
「武彦さんのその顔は怪奇系のお仕事ね」
「ん、ああ……蜘蛛退治だ」
「前回は多少相手を甘くみていましたから……今回は、完璧にしてまいります」
 興信所によく遊びにくる亜真知も、偶然に出くわして加わる。
「早く終わらせて、ゆっくりお茶をしましょう」
「そうだねー」
 そしてもう一人、今回加わるのは友衛。
「俺も協力する……あ……あの時のおっさん……確か草間だったよな……よろしくな」
 武彦と顔見知りである友衛。最初の出会いを思い出し、背中には少し汗が流れる。
「おっさんって……まだ俺は若い」
「まぁまぁ武彦さん。できれば、情報がほしいんだけれども……」
「ああ、うんうん。それはボクから。あとー、二人もよくわかってると思うー」
「生ぬるい相手じゃ、ないってことだ」
「蜘蛛の女王さまと、それを守る蜘蛛。兵隊蜘蛛さんの数は、相当なものなんだよねー。この前もそれで、痛い目をみた」
 ぞわぞわと、増えてくる、限りない数。
 そしてその糸の、力。
 捕らえられれば自力で破ることは難しい。
 外からの攻撃では、たやすく破ることはできるのだけれども。
 そして、捕らえられた場合、繭の中で見る、もの。
「なるほど……あと、他には?」
「友達の救出って言ってたよな、そいつらは」
「この前、繭に捕まって置いてきたんだー。きっと今頃、いろいろ吹っ飛んじゃって、敵さん状態になってるかなー」
 きっと容赦なく、攻撃してくる、と南々夜は付け加える。
「こっちも容赦なくやっちゃって。そこそこやっても、大丈夫な二人だから」
「二人?」
「狐のおとーさんと、その子供。銀色の狐さん、わかるよ」
 一通りの状況説明。そして補足が終わる。
 終われば、早い方がいい。
「それじゃあ、またあそこからいくからー」
「あそこ?」
「あそこってどこだ」
「あの蔵か」
 シュラインと武彦は、初めての場所。
 亜真知と友衛は、先日通ったばっかりのあの扉。
「空間ひんまげて、直結するんだよ、蜘蛛の巣とね」
 そう言って、向かったのは、銀屋だった。





 相変わらずの、黒い重たい扉。
 そこを開ければ濃い緑。
 深い深い、森のにおいがたちこめる場所。
「普通の蜘蛛、害虫食べてくれる目の悪い可愛い虫なのにね……」
「普通じゃない蜘蛛だからねー。妖怪さんは、悪ければ同族でもそれなりに対処だからねー」
 がさがさと分け入る山。
 友衛は白山を手に、いつでも抜刀できる状態だ。
「まだ歩くのか……」
「もうちょっとー、もうちょっとで、テリトリーかな。ああ、うん、もうすぐ」
 ふと、空気が重くなるような感覚。
 少し先、木々に白い糸が張り巡らされている領域があった。
 この前の、戦闘跡。
「あそこから先が、危険地帯みたいね」
「気、引き締めてねー」
 声は、穏やかのなのだけれどもやはり張りつめている。
 張りつめて、切れそう。
 と、頭上を、黒い影が覆う。
「!!」
 そこには、わさわさと蜘蛛。
「でたな!」
 友衛が放つ式神が、一定の距離をとって焼き払う。
 接近すれば、また捕らわれてしまうかもしれない。
 亜真知も防御を行いながらの攻撃。
「あっち……かしら」
 シュラインは呟いて、とある方向を見る。
 その先は、さらにさらに暗い森。
「いつまでもこの蜘蛛の子にかかってても終わらなさそうだぞ」
「そうだねー、じゃあ、そっち!」
 シュラインの見つめた方向に、向かっていく。
 蜘蛛の子たちは、その先へはいかせまいと動いてくる。
 この先に、女王がいるのは想像が安易につく。
「一気に焼き払う、その後を走れ」
 この前の残骸の糸に、式神に炎を乗せて放つ。
 そこに援護と、シュラインの音。
 ふっと動きを止めた瞬間には炎がやってくる。
 そのまま、空いた道を走り抜けていく。
 後からの蜘蛛の声を背に受けながら。
「あまり気持ちのいい声ではないですね」
「うん、早くとおっちゃおう」
 駆ければ追ってくる気配は多少はある。
 けれども、それよりも、前方が気になる。
「……でてきたなー」
 のんびりとした南々夜の声。
 ほのかに、先に灯る炎らしいもの。
「なんだありゃ」
「狐さんの焔、よけてっ!」
 よけてといわれて、すぐ避けられるものではない。
 けれども無事。
 亜真知の防御壁がそれを防ぐ。
「警戒すべきは蜘蛛より寧ろ……あいつ等だろうな」
 手にしていた刀を、友衛は抜く。
 すらっと光る刃。
「うーんと、まだラスボスさんがいるから、あまっちゃんは、待機で! もしもがあったら武君たちよろしくー」
「無理だ」
「藍ちゃん、任せたよ」
 友衛と南々夜が踏み込む。
 向かってくるのは顔なじみ。
「藍ちゃん、なっつー!」
 声は、届かないように、まっすぐ向かってくる。
 振り下ろされる長い爪を、友衛は刀で受け止める。
「帰れ、汝らがくる場所でない」
 声は同じなのに響きが違う。
「しっかり、しろって!」
「友衛、帰るがいい」
 しんしんと静かな声。違うのは、きっと生きた音がないような、そんな感覚だからだ。
「ともちゃんしっかり!」
「ともちゃんって言うな!」
 しっかり、と南々夜からかけられた言葉にすぐさま反応する元気はまだある。
 向こうは向こうで、手加減なしで、ボコっていた。
「あんなにやっていいのか……」
 まだなんとなく、遠慮が残っていた友衛は、それを振り払うかのように藍ノ介をがっと掴む。
「っ!!」
「このっ……い・い・加・減・目・を・覚・ま・せ・!」
 掴んで投げた先までは考えてなかった。その先には、奈津ノ介。
「!!!」
「ちょ、あぶないよともちゃーん!」
「だからともちゃんて言うな!」
 その様子を離れてみていたシュラインたちは、元気だなぁと思う。
 緊迫していたのに、なんだか少し、緩む緊張。
「って、藍ノ介たちは!?」
 派手に投げられて、重なった二人。
 上になった、藍ノ介を押しのけて、奈津ノ介が先に立ちあがる。
 立ち上がって、最初に。
「いてぇんだよ、何しやがるこのクソ親父、てめぇいつもいつも僕の足引っ張って邪魔」
 藍ノ介を静かに蹴った。
「なっ……奈津ひどいではないかっ! 親を足蹴にするなどとっ!!」
「あ、戻ってる。なっつー!」
 いつもの、雰囲気だ。
「あれ、皆さん? あ、やばい今素がでてた……忘れてください」
 ぺこ、ともとにもどった奈津ノ介は頭を下げる。
 その瞬間、ぐらついてこける。
「あれー?」
「体力消耗してるようね」
 すっと、助けて手をかすシュラインは、様子をみて言う。
「傷もいっぱいね」
「ああ、これは……さっきとこの馬鹿親父が飛んできたときかなぁ」
「すまん、それは俺のせいでもある」
「え、友衛さんはいいんですよ」
「すべてわしのせいか!」
 にぎやかね、とシュラインは笑って、もってきていたアルコールを思い出す。
 消毒として傷口に。
「二人とも戻ってきたし、あとはボスだけかー」
「なっつーたちはここにいてね」
「あ、はい。そっちのほうがよさそうですね」
「なら俺も居残り。この先危険そうだしな」
 武彦は座り込んで一服を始める。
「武彦さん、こんなところで」
「うーん、それじゃ元気な人でいってこようかー。シュラちゃんどうするー?」
「戦うことよりサポート主体だから、ここで。何か異変があれば、音でわかるでしょうし」
 そっか、と南々夜は笑顔を向ける。
 そして奈津ノ介をみる。
「座ってても炎くらいはだせるので、蜘蛛の子くらいなら」
「藍ちゃん」
「わしもそれくらいなら」
 なら、大丈夫とそれぞれ分かれる。





 進んでいった、山の中。
 一層大きな、蜘蛛の巣。
「一応決まりでね、退治するっていわなきゃだめなんだー。それが終わるまで、待ってて」
 最初に、二人にそう言って南々夜は女王に向き直る。
 うごめくのは巨大な蜘蛛、その体の上には、妖艶な女性の上半身があった。
「お前たちか、私の、子たちを」
「うん。でも、お前は、退治されることに、なった。今までしてきたことを、裁定されて」
「退治などされない。お前たちを喰らって力にする」
「……悔いないんだねー。じゃあしょうがないやー、いいよ!」
 その声とともに、友衛は式神を放つ。
 女王のそばにまだ控えていた蜘蛛の子。
 それを南々夜が投げてかえす。
 その間に炎は、本体ではなく糸の上を、走る。
 足場がなくなり、女王の行き場は限られてくる。
 そして亜真知は、話している間に溜めていた力を、打ち出す。
 光球の波状攻撃。
 それが手足を攻撃しつつ、かく乱しながら。
 そしてその間に、星状イグドラシルをバスターモードに切り替え。
 その重たい一撃を、なすすべない女王に打ち込む。
 一撃、腹に。
 その体の真ん中を貫く攻撃は十分に致命傷だ。
「女王、終わり」
「あっけないですわね……もっと強いかと思ってましたのに」
「強いのじゃなくて、数だったんだな」
 苦戦したのは、数。
 そう思う。
 崩れる蜘蛛の女王の傍ら、南々夜はしゃがみこむ。
「お前、人に害を成し過ぎたよ、長たち怒っちゃった」
「……妖怪だから、狂ったの」
「狂わないよー」
 ボクらわね、そう南々夜は言って、二人の方を振り向く。
「帰ろ、帰っておいしいもの食べたりしよう!」
「そうですね」
「ああ、みんな無事だしな」
 三人は、山を下りていく。
 途中で待っている、者たちの元へ。





 そして、一件が終わったのとは、別の場所で。
「蜘蛛、死んだのか……」
「ああ、でもそれも」
「予定通りだ」
 クッと笑う声。
 必要なのは、ひとつだけ。
 それが今回で揃った。
「次は、あれかぁ……」
 気のりしない。
 そんな声色だった。
 こちらのお話は、別のお話。






<END>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1593/榊船・亜真知/女性/999歳/超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【6145/菊理野・友衛/男性/22歳/菊理一族の宮司】
(整理番号順)

【NPC/草間・武彦/男性/30歳/草間興信所所長、探偵】
【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】
【NPC/南々夜/男性/799歳/なんでも屋、実行者】


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■         ライター通信          ■
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 お久しぶり、な感じのライター志摩です。
 ご参加ありがとうございましたっ。
 この前ゲームノベルでしたお話をひっぱって、やってまいりました。
 無事に終わりましてよかったと思います。
 また、皆さまと草間興信所を介してお会いできればうれしいですね!
 次はもっとほのぼのとしたいです。
 ではでは、またご縁がありましたら参加くださいませ!