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<東京怪談・PCゲームノベル>


【D・A・N 〜ミッドナイト・ティータイム〜】


  部屋の中をふっと夜風が通り過ぎた。
 風に揺れるカーテンを視界に入れて、三島玲奈は服の仮縫いをしていた手を止めた。
 ベランダででも心地よい夜風に吹かれて息抜きするのもいいだろう。そう考えて立ち上がる。
 カモミールミルクティーを淹れ、それをポットごと持って行くことにする。
 そして。
「……どなたですか?」
 ベランダに、見知らぬ青年が居た。
 手すりに腰掛けて、夜空を見上げている。その夜空よりもなお深い漆黒の髪色、露出の少ない黒服から見える肌は月の光を受けてほのかに青白い。
 立派な不法侵入者であるその青年は、玲奈の問いに静かに振り返った。
「…ああ、ここの家主か。少しばかり場所を借りていた。すぐに出て行く」
「あたしはどなたですか、と訊いたんですけど?」
「すぐに居なくなる奴の名前を知る必要はないだろう」
「いえ、どうせならお茶に付き合ってもらおうかと思ったので」
「何故俺が」
 不機嫌そうに眉を上げた青年に、玲奈は笑みを向けた。
「いいじゃないですか。こんなところで空を見ていたってことは特に用事があるわけでもないんでしょう?」
 そう言えば、青年は眉間に皺を寄せる。
「カモミールミルクティーもありますよ。眠れないのなら飲んでみたらどうですか? やさしく眠りへ誘ってくれますよ」
 ポットを示しながら言った言葉に、青年の瞳が刹那遠くなる。まるで何かを思い出すように。
「……そうだな、一杯馳走になるか」
 案外あっさりと了承した青年に玲奈は少々驚く。一体何が青年の琴線にかかったのだろう。
 それはともかくとして、まだ教えてもらっていないので問い直す。
「それで、お名前は?」
 青年は渋々といった体で答えた。
「…………イン」
「インさん、ですか。あたしは三島玲奈です」
「そうか」
 明らかにどうでもよさそうだ。恐らく呼ぶ気はないのだろう。
 それは個人の自由なので流すことにし、玲奈はポットからカップにカモミールミルクティーを注ぐ。
 カップを渡すとインは小さく頭を下げ、優雅なしぐさで口へと運んだ。
「……美味いな」
「ありがとうございます」
 ぽつりと落とされた賛辞に笑顔で応えれば、しばし沈黙が辺りを包む。
 月光の下、ふわふわと揺れる湯気が幻想的で、玲奈はとてもいい気分だった。
 インはどうなのかと視線を遣ると、微妙に眉間に皺を寄せていて不機嫌そうだ。
「何か不満でもあるんですか?」
 こんなにいい夜なのに、と思いながら問えば、インはさらに皺を深く刻んで答えた。
「俺が不満を持っているとして、それがお前に何か関係あるのか」
「ただの好奇心です。こんなにいい夜なのにそんな顔しているなんて、よほどストレスがたまっているのかと」
「…ハッ、ストレスのない人間など居ないだろう。それにこの顔は生まれつきだ」
「それはそれは、随分と気難しそうな赤ちゃんだったんですね。ああ、そうでした。お腹すいていませんか?」
「唐突になんだ」
「いえ、空腹だとイライラするでしょう? そこの野菜にストレスをぶつけてもらって、ついでにお料理でも作ろうかと」
 言えば、インはあからさまにため息をついた。
「お前の言動の意味が理解できないんだが」
 そんなインに玲奈は当然のごとく答える。
「野菜を刻んだり破壊したりすればストレスも解消できるじゃないですか。その野菜を使ってお料理して食べれば一石二鳥ですし。そうですね、ハンバーグ和風シチュー仕立てか若鶏と野菜のヘルシーグリル、カモミール茶はいかがですか? カモミールは”大地のリンゴ”と呼ばれているハーブの名前です。春になるとカモミールのかわいい花がいっぱいに咲いて、甘い香りにつつまれるんです」
 楽しそうに玲奈が言葉を並べるが、インはそれとは正反対に段々と苛立ったような、呆れたような、そんな表情になる。
「どうしたんですか?」
 それに気づいた玲奈が問いを投げるが、インは答えずに別のことを告げる。
「茶を馳走になった分くらいは話に付き合うが、それ以外は付き合わん。会話を成り立たせようとも思わんから、好きに話せ」
 なんというか、微妙に横柄な上に投げやりだ。けれど話に付き合ってくれるということなので、玲奈は遠慮なく話すことにした。
 自分が転校したてて友人が少ないこと。それもあってイライラしていること。洋裁や料理が趣味あること…。
 自身の本当の姿のことや豪華客船のオーナーをしていたり旅行社を経営していたりすることは、なんとなく話さずにおいた。
 たまにインにも話を振ってみたりしたが、気のない返事しか返ってこなかった。本当に「聞くだけ」らしい。
 それでもめげずに話し続けていた玲奈は、ふと降るような星空を眺めて思い立った。
 せっかくこんなに素晴らしい夜なのだし、星空の下、川面に石を投げて輝く月を愛でたりするのもいいかもしれない。
「インさん」
 呼びかけると、インは視線だけで続きを促す。
「川原行きませんか?」
 ピクリと眉を上げたインが、面倒そうに口を開く。
「何故?」
「星空の下で、川面に石を投げて月を愛でたりするのってロマンティックじゃないですか」
 言うと、インは会って初めて笑みを浮かべた。――ただし明らかに小馬鹿にしたような笑みを。
「そんな夢見がちで芝居がかったことは恋人とでもやるんだな。……もう茶の分は付き合っただろう。ではな」
 そして玲奈が止める間もなく、手すりを乗り越えて姿を消したのだった。慌てて駆け寄りベランダの下を見ても、何の痕跡もなく、まるで夢でも見ていたような気分になる。
 しかしインの存在が夢でないことは、空になったカップが証明している。
 一体なんだったのだろう、と玲奈は輝く月を見ながら思った。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7134/三島・玲奈(みしま・れいな)/女性/16歳/メイドサーバント】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして、三島さま。ライターの遊月と申します。
 「D・A・N 〜ミッドナイト・ティータイム〜」にご参加下さり有難うございました。
 お届けが遅くなりまして申し訳ありません…。

 専用夜NPC、イン。
 とことん愛想のないやつですが、いかがだったでしょうか。初対面なのでなおさら態度が悪かったりしますが…。
 三島さまの口調、キャラデータとプレイング、どちらを参考にしようかと悩んだのですが、PCさん口調のようでしたので、プレイングを中心に書かせていただきました。大きく外れていないことを願います。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。