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<東京怪談・PCゲームノベル>


 遙見邸離れにて・予定事項の報告依頼

 すっかり顔なじみとなった藤田あやこが瞳をきらきらさせて語るのを聞いて――――遥見浄花は、頭が痛くなってきた。誇大妄想とまでは言わないが、なかなかに難しいことを言ってくれる。
「つまり――これから先の未来に起こりうる災厄を予想してくれ、ということですわね」
「うんっ」
 本当に難しい。あやこは溜息を一つついてから、解説を始めた。この状況になるのはわかっていたことだが、それでもいざ直面すると気が滅入る。
「無理ですわ」
「えーッ! なにそれ未来のこと予測できるんじゃないのお!?」
「ええ。わたくし、それに関してはスペシャリストですもの。二週間ほど先なら的中率はほぼ十割。ですけれどもね……」
 ふう、と憂いの顔を帯びて、浄花は続ける。
「さすがに一年先、二年先、となると難しいのですわ。なにせさまざまな要素がからまって、運命というのは形成されますから。一年先となると、膨大な量の演算をしなくてはなりませんの。おまけにそれをしても、細かな値のずれが生じれば結果は大きく変わりますわ。それを十年、二十年先だなんて――無理としか言いようがありませんわ」
「そんなあっ。私の夢がー! 宇宙人との新婚生活がーっ!」
 わめくあやこ。どうしたものかと浄花は思案するが、すぐには良い案も浮かばず、結局――。
「一つだけ、方法が有りますわ」
「えっ、なになに」
「要するに可能性の演算を減らす事が出来れば、長期の予言も十分可能です。そうですね、簡単に言えば――――不確定性を可能な限り減らせば良いのです」
「ん……んーと、具体的に言うと?」
「あやこさんの行動を制限します」
 きっぱりと浄花は言ってから、なにやら紙をとりだした。
「これから貴方の生活は貴方の自由になりません。あなたが決められた動き、定められた状況を作り出せば、自然と不確定性は小さくなっていきます。そうすれば、五十年ほど先ならば予測も難しくないでしょう」
「む、むむむ」
「そうですね……、ひとまず明日は、一日中家に閉じこもり、『ふんぐるいむぐるなふくとぅるふるるいえうがなぐるふたぐん』と唱えながら踊り続けてください。その間、誰もあわないように電話線をきり、携帯をきり、鍵をかけ、部屋に暗幕をたらして恍惚状態に――――」
「うあああああんっ、なあーつうーみいーちゃあーんっ! 浄花ちゃんがいぢめてくるよおおおおッ!」
 あやこが絶叫して部屋を出て行った。すっかりこの家の常連なので、この大声もいつものことになってしまっている。ちなみに、浄花はこの結末も無論予測していた。
(まあ、女だけの世界、というのも興味はありますけども……)


 それから、数日がたった。
 浄花は、溜息をつきながら再びあやこを迎えていた。この状態を予測したのはほんの数分前である。つまり――浄花にとってはかなり予想外のことなのだ。予測できなかったに等しい。
 それだけあやこの意思が強いとは、思わなかった。
「やります」
 強い気迫で、あやこが言った。
「やってやろうじゃないの! そうよラブリーな新婚生活のためなら今の自由の一つや二つ」
「本気ですの?」
「ええ!」
 弱った。
 確かに、浄花がだす条件をあやこが完全にクリアするならば、彼女の誇大妄想的なスペースオペラが完成してしまうのだ。
「そうよ! 浄花さんだって苦怨さんにいじめられてるでしょ! 一緒に連れてくわ! いいのわかってるの何も言わないで!」
 これは、本当にまずい、と浄花は思う。彼女はこの家を気にいっているし、離れるつもりはないのだから。
「…………では、今日やる事をお伝えしましょう」
 ごくり、とあやこが唾を飲む。
「今日中に、彼氏を作ってください」


 ――後日。
 目的を達成できなかったあやこから、『それができたら苦労はしないわよ!』と、大きな文字で書かれた手紙が送られてきた。
 泣きながら書いたためか、手紙はくしゃくしゃだった。


<了>

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■   登場人物
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【7061/藤田・あやこ/女性/24歳/女子大生】

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■   ライター通信
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 どうもー、通算五回目の依頼ありがとうございます。さらにコンプリートのおめでとうございます。ぱんぱかぱーんっ!
 今回は短めでしたが、今回は面白さを狙ったものでした。いかがでしょうか?
 まだまだ遠くのものを見る遥見三兄妹と、彼らの従者の話は続きます。シナリオ追加もありえますので、気長に見守っていただくと幸いです。
 それではそれでは。