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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


誓いの銃 -プロミス-

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0.オープニング

お前との約束を忘れた日は、一度もない。
ただの、一度も。
取り戻した銃を手に、俺は夜空を見上げる。

なぁ、見てるか?
あいつ…あんなに大きくなったんだな。
とても、お前によく似ていたよ。
お前が戻ってきたかと見紛うほどに。

なぁ、見てるか?
あの日も、こんな夜だったよな。
星が綺麗な、夜だったよな。

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1.

涙ながらに少女が語る真実。
私は少女の背中を撫でながら、急く事なく、ゆっくりと話を聞いていく。
もつれた糸を解くように、ゆっくりと…。
「私には、お姉ちゃんしか…いなかったの…」
声を震わせて言う少女。
少女の両親は、揃って技師で。
少女が生まれてまもなく”異界戦争”に駆り出された。
その戦を知る人は多くないけど、私は知ってる。
歴書で読んだだけで、その場には居合わせていなかったけれど、
文面だけで、十分理解に至ったわ。
どんなに酷いものであったか…。
そう…あなたも、あの人知れずの戦で親を失った孤児だったのね。
残されたのは、たった二人の姉妹。
お姉さんは強く逞しい人で。
あなたに寂しい思いをさせぬよう、溢れんばかりに愛情を注いだ。
二人でも生きていける。
お姉さんの存在が、あなたを強くした。
けれど、お姉さんは恋をした。探偵さんに…。
恋をした事で、あなたを ないがしろにしたりはしていなかったはず。
でも、あなたは寂しくて仕方なかった。
大好きなお姉さんを取られたようで。
そんな状況の中、悲劇。
不慮の事故で、お姉さんは二度と帰らぬ人になった…。
探偵さんとのデートの後の事だったから、
物心ついたばかりの少女は、ごく自然に探偵さんを憎むに至る。
”あの日、あの時、あなたが、お姉ちゃんを呼びつけたりしなければ”
そんな風に。




私は少女の頭を撫でて尋ねる。
「ね、あなたの名前は?」
少女は俯き、躊躇いがちに応えた。
「…カナ」
その名前を聞き、私はクスクスと笑う。
「…?」
首を傾げるカナちゃん。
私は、カナちゃんと視線を合わせて言う。
「お姉さんが、どうして探偵さんに、あの銃を贈ったか…わかる?」
「………」
俯き、唇を噛みしめるカナちゃん。
理解っているのよね。あなたは、全て。
探偵さんに恋をして、探偵さんと並ぼうと、
ずっと前を向いていた お姉さんの生き方も、
御両親の才を色濃く引き継いで、技師として愛しい人を”護ろう”とした事も。
そう、彼女は護りたかった。
あなたの事も、探偵さんの事も、同じく護りたかった。
あの銃は、その証。
あなたは知らないかもしれないけれど。
あの銃にはね、刻まれているのよ。
あなたの名前も。
探偵さんと、お姉さんの名前の間に、包まれるように。

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2.

「カナちゃん。彼…探偵さんが、憎い?」
私が問うと、カナちゃんは切ない表情のまま小さく頷いた。
私は微笑み、言う。
「いいわ。そのままで。どんどん彼を怒ればいい」
「………」
キョトンとするカナちゃん。
予想外の事を言われて、驚いた?
憎むなんて駄目よって言われると思ったんでしょうね。
私はね、そう思わないのよ。
怨みは捩れるけどね、怒りは純粋な”力”だから。
立ち上がり、前に進ませてくれるから。
決して無意味じゃない。
私はカナちゃんの肩に手を置き、付け加える。
「でもね、彼から彼女…銃を引き離す事だけは、二度としないで」
あの銃で、彼は自分を保てるの。
銃も、彼の手に収まっていたいはず。
それに、可愛いあなたに銃は似合わないわ。
彼はね、いつでも戦っているの。
あの銃で。
大切な人の想いと名前が刻まれた銃で。
悔やむ事が、彼の”力”になっているの。
だから、奪わないで。
戦わせてあげて。




様々な思いに打たれ、赤ん坊のように泣き出すカナちゃん。
私は彼女をギュッと抱きしめ、目を伏せて告げる。
「怒りを冷静に見つめられる視線を、あなたは成長と共に手に入れる事ができるわ」
「…っく…っく…ふぇ…ぇっ…」
「その時がきたら。あなたはもっと、強くなれるから」
私の言葉にカナちゃんは胸に顔を埋め、泣いた。
その涙も、明日を生きる糧になる。
辛いかもしれない。苦しいかもしれない。
けれど、負けないで。
そして、いつか理解ってあげて。
あなたと同じように、探偵さんも辛く苦しい事を。
あなたが大好きな お姉さんを、彼が想い続けている事を。
ひとしきり泣いて、落ち着いたカナちゃん。
私は彼女の目を見やり、ニコリと微笑んで言う。
「帰ろっか。送ってくわ」
「大丈夫…一人で…」
申し訳なさそうに言うカナちゃん。
私はカナちゃんの頬をムニッと伸ばして。
「一緒に歩きたいの」
そう言い、彼女の手を引いて歩き出す。

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3.

カナちゃんを家に送り届け、フゥと息を吐き己の岐路に着く私。
大きな家だったわね。お屋敷、といった方がシックリくる感じの。
あんな広い家に執事さんと二人きりで住んでるなんて。
…寂しいだろうな。眠れぬ夜も、決して少なくないはずだわ。
まぁ、これからは大丈夫だけどね。
だって、約束してきたもの。
また今度、ゆっくり遊びに来るからね、って。
私は一人、ウンウンと頷き微笑みながら振り返らずに呟く。
「隠れるの、下手ね」
私の言葉に、離れて後ろを歩く足音が一瞬ピタリと止む。
クスクス笑いつつ振り返れば、そこには頭を掻く探偵さんの姿。
「…探偵、失格だな」
苦笑しつつ言う探偵さんに、私は笑う。




あなたを慰める気は、ないの。
勿論、責める気もないわ。同情なんて、もっての外ね。
自責の念も、彼女との大切な繋がりだもの。
愛して止まぬ大切な人なら、ずっとずっと。
彼女を想い続けていけば良いの。
いつか、そんなあなたに恋をして、言い寄ってくる女性も現れるでしょうね。
その時は、その時。
あなたらしく。
そう、いつでもあなたらしく生きれば良いと思うから。
ただね、深く聞き入る事はしないけれど、一つだけ伝えたいの。
私は夜空を見上げ、輝く星々に淡く笑い。
「ちゃんと彼女、護ったじゃない。彼女も、あなたを護ってくれるわ。これからも、ずっと」
探偵さんが持つ銃を見やって、そう言った。
「…だと、ありがたいな」
探偵さんは苦笑し、銃を そっと懐にしまう。
もう一つ、たまにはカナちゃんの家に遊びに行ってあげて…とも伝えたいけど。
それは、言わない。
今、この場で言っても躊躇うだけだろうから。
それに勧めずとも、強制連行しちゃえば良いし。ね。
文句なんて、言わせないわよ?

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / ディテクター / ♂ / 30歳 / IO2エージェント

NPC / カナ / ♀ / 13歳 / ディテクターが、かつて愛した女性の妹


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます!心から感謝申し上げます。
少し遅れてしまい、大変申し訳ございません; 連作第三話をお届けします。
気に入って頂ければ幸いです!また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/07/10 椎葉 あずま