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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ファイブ・コール

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0.オープニング

今宵も鳴り響く、深夜零時の迷惑電話。
取ればいつも、同じような内容。
嫌がらせのように変体発言を飛ばしてくる。
電話の向こうにいるのが女なら、
妙なプレイがお好きで、ってなもんだが。
残念ながら、電話から聞こえてくるのは男の声。
何だかなぁ。
一体、何だってんだ。
俺に、どうしろってんだよ。

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1.

”変態から電話が かかってくる”
メールには、それだけが記されていた。
興信所に赴き、そこで初めて詳細を聞かされる。
いつものパターンだ。
私は持ってきたフルーツを冷蔵庫にしまいつつ言う。
「毎回毎回、くだらん事で呼ぶな。暇人め」
私の言葉に、
「俺的には、くだらねぇ事じゃないのよ、冥月ちゃん」
笑いながら煙草に火をつけて言う草間。
「どうせ、低レベルな妖の仕業だろう。そのくらい、お前一人で…」
言い終える前に、草間は言う。
「まぁ、口実ですよ。実際」
「は?」
「用件ないと、お前ってサッサと帰っちまうだろ、いつも」
「んなっ…」
本当に、最近の草間はストレートだ。
躊躇いがない。寧ろ、余裕さえ窺える。
そんな男に翻弄されてしまい、
結局、また面倒事を手伝う羽目になる私も、どうかと思うが…。




時刻は二十三時五十九分。
問題の変態電話は、草間の言うとおり、零時きっかりに鳴り響いた。
RRRRR―
すぐさまソファから立ち上がり、受話器を取ろうとする私。
「あっ、待った。まだ取んな」
草間が、それを止める。
「?」
首を傾げる私。
「五回目のコールで取るんだ。じゃないと、すぐ切れる。ほれ、今だ、取れ」
何だそれは。面倒だな…。
思いつつ、私は言うとおり五回目のコールで受話器を取る。
ガチャッ―
「はい、草間興信所。夜分遅くに迷惑だ」
まくしたてるように早口で言う私。
すると受話器から耳障りなノイズのようなものが聞こえ、
それに混じって声が。
『およっ。女だ。おいおい、何だい。あんた草間探偵の女かい?』
声は少し甲高く。変なところにアクセントをつける独特な喋り方。
「………」
何も返さず無言を貫く私。
すると電話の向こうで甲高い声の主はケケケッと笑って言った。
『気の強そうな女だなぁ』
「………」
『でも、そっちの方が興奮するぜ』
「………」
『寂しい夜は、どんな風に自分を慰めてんのかなぁ〜ってな。ケケケケッ!』
「なっ…」
ブツッ―
言いたい放題言って、一方的に電話は切れた。
「おい、何言われた?」
心なしか楽しそうな表情で近寄ってきて尋ねる草間。
私はガチャンと乱暴に受話器を戻し、赤くなった耳を見られぬように隠す。

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2.

話を聞いたときから思っていたが、やはり。その予感は見事に的中。
電源も回線も絶ったというのに、翌晩も変態電話は鳴り響いた。
「間違いない。妖の仕業だ」
五回目のコールを待ちつつ言う私。
草間は頭を掻きつつ言う。
「めんどくせーなぁ」
私は苦笑し「大丈夫だ。こらしめてやる」そう言って受話器を取る。
ガチャッ―
「出て行け。電話ごと殺すぞ」
早々に脅したものの、妖は退かず。
『おいおい、おっかねぇなぁ。まさか、ベッドでも、そんなんなのかい?』
不愉快な甲高い声で、笑いながら言った。
「何て言ってる?」
近寄り、自分も受話器に耳を当てようとする草間。
「むっ、向こう行ってろっ!」
私は顔を背け、声を荒げて言った。
「何だよ、おい」
苦笑する草間。
ペースを掻き乱されまいと心を落ち着かせようとする私に、妖は追い討ちをかける。
それも、心を抉る術で。
『おいおい、あんまり邪険にしてやるなよ。似てんだろ?あいつに』
「…なっ」
一時、止まる呼吸。
妖は更に続ける。
『あんたも悪い女だなぁ。思わせぶりな事しといて、ただの身代わりなんだろ?そいつ』
…怒るべきところだ、ここは。
何故、貴様にそんな事を言われねばならんのだ、と。
何も知らないくせに、”彼”の事を口にするな、と。
それなのに。不意の事に、私の頭は白く化してしまった。
考えぬようにしている事を言われ。
触れぬようにしている琴線を揺らされ。
姿の見えぬ低俗な妖に、心を抉られてしまうなんて、何て無様な…。
無意識に頬を伝う涙。
「おい。冥月…どした?」
受話器を持ったままの私に、再度歩み寄り、指で涙を拭う草間。
その時、ようやく気付く。己が涙している事に。
「何でもないっ…お前には、関係ないっ」
私はグイッと草間を押しのけ、顔を背ける。だが。
「ばぁか。お前の事で関係ない事なんて、ねぇっつーの」
草間は苦笑し、私の頭を自身の胸に抱いた。
「…っ。…っふ」
緩む緊張、解ける糸。
私は草間の胸に顔を埋め、涙を落とす。
草間は私の背中を撫でながら、空いている方の手で、
私の手から受話器を取って、それを自身の耳にあてがうと、低い声で言い放った。
「…出て来いよ、変態」

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3.

威圧ある草間の低い声に怯え。
ポンッ―
妖が姿を現した。
電気を身に纏った、小さな毛むくじゃらの体。
こんな間抜けな奴に…。
眉を寄せ苛立つ私。
赤く腫れた目で睨みやると、妖はピョンと飛び跳ねて。
「す、すまんかった!ちょっと調子に乗りすぎたっ」
そう言って、尻尾のようなものをパタパタと振る。
「まっ、まさか泣いちまうとは思ってなくてっ」
飛び跳ねつつ言う妖。
苛つく私よりも先に、草間が妖に制裁を下す。
ドカッ―
「ぎゃふー!!」
蹴り飛ばされて壁に衝突し、ゴムボールのように跳ねる妖。
草間は冷たい眼差しで妖を見やって告げた。
「さっさと消えろ」
ビクゥと体を揺らし、逃げていく妖。
「す、すまんかったーーーーーーー!」




妖が去り、やけに静かな所内リビング。
事件は片付いたというのに、私は未だに草間の腕の中。
離せ、と言っても聞かぬ馬鹿の所為で、思いに耽る時間が出来る。
まったく…私は、一体どうしてしまったんだ。
人前で、こんな醜態を晒すなんて昔はなかったのに。
何故だ。何故、こんなに弱くなった。…誰の所為で、弱くなった?
ふと顔を上げ、見やる草間の顔。
首を傾げ、優しく微笑む草間に覚える、意味不明な苛立ち。
「馬鹿っ」
私は何度も、そう言いつつ草間の胸をポカポカと殴る。
苦笑しながら小さな声で草間が言った、
「馬鹿はお前だよ。泣き虫」
その言葉に反論できずに。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 電鬼 (でんき) / ♂ / ??歳 / 電波を纏った小さな妖


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/07/13 椎葉 あずま