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『デートしようよ☆』
投稿者:しゃらん 02:32
私、しゃらんでーす。ぴちぴちでむきむきの425歳でーす。
只今恋人募集中。デートしよっ。
私は両性なのでぇ、お相手は男性でも女性でもおっけいでーす☆
一緒に観覧車とか乗りたいー!
人間とのデートってすんごい楽しいし、美味しいんだよねー。
疲れてぐったりしないように、沢山食べてから来るんだよ☆
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薄紅色のワンピースに、普段は履かないハイヒールの赤いサンダル。
控え目だけれど、首には可愛らしいシルバーネックレス。
腕には友人から借りたブランド物のファッション時計。
藤田・あやこは待ち合わせの場所に、そんな姿で現れた。
見難い時計は、10時少し前を指している。そろそろ約束の時間だ。
自ら望んだわけではないけれど、少し興味はある。
ゴーストネットOFFで、「しゃらん」という人物の書き込みを発見したのは、一ヶ月程前であった。
胡散臭い書き込みだとは思っていたが、その時はさほど気にならなかった。
後に「しゃらん」とデートをした人物の書き込みや、ブログでの被害報告が出てくるようになった。詳細は被害者が正直に語らない為、判らなかったのだが、日増しに増える被害報告に、あやこが通う大学研究室の同僚達が興味を持ち始めたのだ。
幽霊の主食は未練。……即ち一足飛びに結果を求める願望と解釈し、それなら瞬時に目的地に行けるワープ航法と同質の物であろうと推論した同僚がいた。あやこは、その同僚に御守りを持たされ、研究の為に半ば無理矢理「しゃらん」とのデートを取り付けられてしまったのだ。
「お待たせ。君があやこちゃん?」
現れた青年に、あやこは一瞬固まる。
「え、ええ。私の名前はあやこですけれど、人違いでは?」
つい、そう言ってしまった。
青年の年は、20代半ばに見える。優しい雰囲気だけれど、どことなくワイルドさが漂っている。長身のあやこより、10センチ以上背が高く、シャツの下の身体は引き締まっていて、美しい。
「藤田あやこちゃんだろ?」
青年の言葉に、あやこはこくりと頷く。
「じゃあ、やっぱり君だ!」
青年はとても自然に、あやこの肩を抱いた。
「え、ええーっちょっと!」
あやこは思わず腕を振り払う。
こいつは、人間じゃない妖魔だ妖魔なんだー。
何故か高鳴ってしまう鼓動を抑えながら、あやこは冷静な口調で言った。
「あ、デートはするわよ、約束だからね。行きましょうか」
行ってあやこは一人、遊園地のチケット売場に向い、歩き出す。
近付いてきた青年が、あやこの手をとった。
(手くらいなら、繋いでやってもいいかな)
そう思いながら、並んで歩き出した。
**********
昼を過ぎた頃には、二人はすっかり打ち解けていた。
「それじゃ、次はあれに乗ろう」
しゃらんが指したのは、観覧車だった。
「うん」
自然と腕を組んでいる。あやこの方がしゃらんの腕をぐいぐい引っ張っり、乗り場へと向った。
日曜日ということもあり、園内は混雑している。観覧車でも数十分待たされそうである。
だけれど、その数十分は二人にとって、苦痛なものではなかった。
会話は他愛無いのだが、何故か心が弾む。
周りを見回せば、家族連れや女友達の他、多くのカップルの姿が見られる。
自分達も周りから見れば、恋人同士なのだろう。
(似合ってる……かな?)
くっついていると、少し見上げなければならない。それがまた嬉しかった。
しゃらんは先にゴンドラに乗り込んで、あやこを軽々と抱き上げて、ゴンドラに乗せた。
「あやこは、軽いな。もう少し食べた方がいい」
「しゃらんだって、少し細すぎるんじゃない? むきむきって言ってなかったっけ?」
「そうだっけ?」
しゃらんは決して、それなら身体を変えるなどという発言はしない。言動は完全に人間の青年だった。
もしかしたら、被害者の書き込みや、同僚の推察は全部間違っていて、彼は本当に普通の青年なのではないかと思うほどに。
「着痩せする方なんだ。筋肉は結構ある」
言って、しゃらんがあやこを引き寄せる。
逞しい胸に、頬が当たり、あやこは心臓が高鳴った。
(だからコレは妖魔なんだってば……でも、まあ)
あやこは笑みを浮かべながら、しゃらんを見上げた。
(そんなこと、気にせず、今日だけは楽しんじゃってもいいかな)
「うん、いい身体してるじゃん」
「だろ?」
しゃらんは微笑むと、あやこに顔を近づけて、彼女の額にキスをした。
「あった、ここにあったよ!」
観覧車から放った紙飛行機が、アトラクションの入り口付近に落ちていた。
「それじゃ、次の遊び場はここに決定だな」
微笑んで、しゃらんはあやこの背に手を回した。
二人は笑みを浮かべながら、列に並び、順番を待った。
「『ゴーストタウン』だって。お化けとか、妖怪が出るのよね。怖い〜」
別に怖くはないのだが、女らしい反応を示してみる。
「大丈夫、俺が側にいるよ」
「あははははは」
二人揃って笑ってしまう。そのしゃらんこそ、人間でない妖魔なのだから。
二人が案内されたのは、トロッコの最後尾であった。
先頭に添乗員――本作戦の指揮官が乗り、説明を始める。
「我々は、妖霊に占拠された街を調査するために派遣された。諸君の手元にある霊銃は唯一、妖霊を滅ぼすことが出来る武器である」
手元にあるトロッコにつながれた銃で、現れる敵を倒していくアトラクションのようだ。
あやことしゃらんはそれぞれ銃を手にとった。
「奴等の気配が強くなった。身をかがめろ」
指揮官の指示通り、頭を低くする。
奇妙な声が響きだす。
指揮官が銃を撃ち、それを合図とするかのように、一斉に化け物が姿を表した。
あやこの直ぐ側の壁からも、ゾンビが現れ、彼女に迫る。
即座にあやこは銃を撃ち、ゾンビを撃退する。
反対側の対処に当たっていたしゃらんも軽く片付けた。
しかし。
「キャー!」
「なにこれ、なにこれ」
前方から次々に悲鳴が上がる。
銃の一撃を浴びても消えないバケモノが、次々にトロッコに近付いてきたのだ。
指揮官は、慌てて無線機に手を伸ばすが、飛び乗ったバケモノに羽交い絞めにされてしまう。
「うわあああああーーん」
泣き出す子供達もいた。必死に手をばたつかせ、追い払おうとする男達。むしろ、男性が惨めに女性にすがりつき、女性が果敢にバケモノに蹴りを入れているカップルの姿もあった。
「あははは、あははは、あはははーっ」
指揮官はバケモノに擽られて笑っている。
泣き叫ぶ子供を、おどけた様子であやそうとするバケモノもいる。逆効果だが。
危害を加えてくる様子はなく、あやこの緊張が解ける。つい手の届く範囲に現れた化け物は伸してしまったが、それはご愛嬌ということで。
「あなたの仕業ね?」
あやこの言葉に、悪戯気な笑みでしゃらんは答えた。
「ご名答。リアルで楽しいだろ?」
ゴンドラから飛び降りて逃げる客も現れ、収拾がつかない状況になっていた。
「あー楽しかった!」
二人はアトラクションを楽しんだ後、園内の喫茶店のテラスでケーキを食べていた。
ドリンクはカップル用を頼み、一つの大きなグラスに入ったジュースを二つのストローで飲むことにした。
あやこは携帯電話を取り出すと、揃ってジュースを飲む姿を撮影した。
「俺達って、お似合いだよな」
「そうね」
外見的には似合ってる、かな。
次は、彼にはブランドもののスーツなんか着せて、私はドレス姿で、お洒落なレストランに……などと、妄想が膨らんでしまう。
ストローから口を離したあやこの肩に、しゃらんの腕が回る。
「君は不思議な力で覆われている」
同僚から預かった御守りのことだろうか――。
身体を引き寄せられ、彼の手があやこの顎にかけられた。
「本当は観覧車でしたかったのだけれど。君とはもっと楽しみたくなってね」
しゃらんの顔が僅かに傾けられ、あやこに近付いた。
あやこはそっと目を閉じ……
「そうはいくか!」
ゲシッとあやこは、しゃらんの向こう脛を蹴り上げた。
「今日は楽しかったよ。デートだけならまたしてあげてもいいから」
ウインク一つ残して、あやこはその場を立ち去った。
帰りの電車の中、あやこは手すりに持たれてしゃがみ込んでいた。
なんだか、凄く惜しいことをした気がしてならない。
ほら、“彼”も本気で楽しんでたし。
人の生気だけが目的ってわけじゃないみたいだったし。
私とはもっと楽しみたくなったって言ってたし。
「はあ……」
楽しい一日だっただけに、喪失感があった。
ちょっと疲れるだけなんだろうし、生気くらいくれてやればよかったかな。
近付いてきた彼の顔を思い浮かべながら携帯電話を開く。
……。
バキッ
「あっやばっ!」
思わず力が入って、携帯を折ってしまった。
写真にしゃらんの姿は映っていなかった。
ただ一人、あやこだけが二つのストローを前に、一人幸せそうな顔で映っていたのだ。
凄く恥ずかしくなり、即刻削除しようとしたが、折ってしまった所為か操作不能になっていた。
「ああああああ……」
一人、あやこは自己嫌悪に陥った。
同僚は欲しかったデータを採取できたということで、協力のお礼に素敵な男性の紹介でも、合コンでもなんでもセッティングしてあげると言ってきたが、当のあやことしては、なんだか複雑な心中である……。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【7061 / 藤田・あやこ / 女性 / 24歳 / 女子大生】
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■ ライター通信 ■
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初めまして、ライターの川岸です。
この度は「デートしようよ☆」にご参加ありがとうございました。
しゃらんの外見は、同僚があやこさんにお似合いと思える外見を指定した結果です。あやこさんの好みと違っていたらすみません。
楽しい一日をありがとうございました!
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