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<東京怪談・PCゲームノベル>


蒼天恋歌 3 穏やかなる幕間

 レノアがあなたの家に匿われてからしばらくたった。これといって大きな事件もなく平和に過ぎ去る日々。
 彼女は徐々に明るくなる。元からの性格がそうだったのだろうか。
 美しい顔立ちが、明るくなった性格に相まってきて、どきりとする時がある。
 其れだけに美しい女性である。
 ある日のことだ。彼女は歌を歌っていた。ハミングを口ずさむ。
 名前以外知らなかったはずなのだが、調べていくと、歌が好きだと言うことを思い出したという。気持ちよい歌。しかし、其れだけでは手がかりにならない。
 また、ある日のこと。
「いつも、いつも、あなたにお世話になりっぱなしです。出来れば恩返しをさせてください」
 と、申し出るレノア。
 あなたは、申し出を断るかどうか?
「たまには外に出かけてみようか?」
 と、あなたは言う。
 うち解けてきた彼女は、にこりと笑って付いていく。まるで子犬のように。

 色々探さなければならないことはある。しかし早急にするべきではなく、非日常から日常へ少し戻ることも……必要なのであった。

 様々な彼女とのふれあいで、心惹かれ合い、そしてその日々を楽しいと感じることになるだろう。



〈一言の冗談が命取りに〉
「恩返しさせてほしい……か。」
 私、吉良原・吉奈は、きょとんとしてレノアの行ったことを自分で言ってみた。
「はい、貴女にお世話になりっぱなしでは……。だめですか?」
 すこし、押しがあるようで、少し退いている勘もある微妙なニュアンス。「やりたいけど、いいのかな?」みたいな。と言った感じだと、私は思った。
「まあ、家事の一つ出来ればねぇ。」
 と、クスリと笑いながら言ってみるけど……。
 後に其れは後悔する。

 1時間後。
 ダイニング中央。
 私は唖然とした。
 この混沌とし散らかった部屋を!
 筆舌に尽くしがたい! と、言えるほどではないけど、えっと、まあ、掃除って普通、きれいなるモノだよね? でもレノアはその逆をそのまま地でいっていたのだ。
「レノア? これは?」
「あの、お掃除しようと。おもいまして……でも、片付けようとしても、どんどん……。」
 其れは何かのギャグですか? と、頭痛が激しい。
 レノアは、ふるふる震えて、怖がっているので怒るに怒れない。
 ため息一つ、私は、レノアの頭をなで、
「まあ、無理にそう言ってしまった私が悪いから……。一緒に片付けましょう。」
 数倍の労力をかけて、レノアの掃除の後かたづけをし、自分の気に入った元通りの部屋に戻したのだった。ああ、疲れた。色々教えないといけないかぁ。

 あれから数日、全くと言っていいほど、闇からの攻撃もないし、草間という探偵とも接触が無く、平和な日々である。
 では、私、吉奈の日常というのはどうなのか? と、言う疑問を読者は思うかもしれない。
 紫外線に弱い体質な為に、滅多なことでは外に出ない。基本的に紫外線が弱くなった夕方に活動をする。その体質故に、特殊な服装を着て学園に通う。夜間学校制度は作りかけのようで、来年にはそっちに移行するかも。それ以外の日中は気ままに部屋で過ごし、通信対戦を楽しみ、必要な掃除洗濯をする。昼夜逆転に近い状態なのは否めないけど、それでも可能な限り、規則正しい生活をしているわけだよ。別に不登校でも何でもないから。
 そこで、このレノアがやってきた。それでも充分親からの仕送りで生活できる(親との仲が悪いけど、親は育児放棄をしていないわけ、だからこうしたアパートにも普通に住める)。しかし、ぼうっと眺めているレノアは、色々どじをする事を知ってから何もさせていなかった。
 レノアのどじとは?
 茶碗を割る。
 電子機器を破壊する(こないだMP3プレイヤーが煙を噴いた……、お気に入りなのに)。
 何もないところでこける。

「あ、泣かなくて良いですから。ね? レノア。」
「ごめんなさい、ごめんなひゃい。」
 怒られることを覚悟していたようで、怖がって泣いているレノアをあやす私。ああ、なんていうか、この小動物というか、可愛いなぁ。もう。電子機器が壊れるって言うのは、彼女、帯電体質かなぁ? 結構“何か”ある?
 と、思うのも無理はない私でありましたとさ。

〈お買い物〉
 まあ、買い物といっても、夜だけで済ませられる分けでもないので、外に出かけなきゃいけない。
 最重要課題、レノアの服だ。
「服を買いに行きましょう? 私の服だけじゃダメだし。サイズも合わないものもあるし……。」
 ちょっと、自分の体型とレノアの体型を比べると、ハーフ(かもしれない)レノアの方が若干、サイズが大きいかも。あれ以降外には出ていないので、パジャマとか少しゆったりとした服を着せていたのである。でも、ちょっとコンプレックスもあるかな……。
「え、は、はい!」
 レノアは嬉しそうに頷いた。
 私は化粧をして、着替えて出かけるが、レノアは首をかしげる。
 私の出で立ちに、だろうね。
 黒日傘に黒い手袋、長袖に紫外線対策の服で重装備しているのだ。其れは異常なほどまでの装備である。レノアは、髪をまとめてキャスケット帽にまとめて、出会ったときに来ていたワンピースで出かける。
 しかし、レノアは何か聞いてはいけないと思うことから黙っているみたい。まあ、元がおとなしそうな子なので、後々話そうかな……。うん。

 一言、叫ばせて。心の中でも。
 暑い! 初夏でも! やっぱり太陽がさんさん照りつける日中には出たくない! 其れは本音! 
 対策万全にしているのに、やっぱり肌がひりひりし始める! ああ、太陽は嫌いだー!
 医者が言うには遺伝的どうこうだけど、仕方ないのかな〜。
 (以上)
 それに、レノアがお上りさんみたいにフラフラするので目立つ。ああ、私も常時目立つからいいか……。いやいや、危険がないなら、まあいいか。
「レノア、手をにぎって!」
「え? はい。」
 迷子になられては困るし。
 さて、私はレノアの手を握り、都内のこの人混みの中をすり抜けていく。この雑踏も又何か心地よいときもある。たぶん、自分が平穏中に埋もれていると実感できるからだと思う。ブティックなどを歩いて、レノアが似合いそうな服を、色々物色し、店員にもコーディネート助言を受けて、レノアの服を買っていった。
「えっと、残りはこの住所まで送ってください。」
「かしこまりました。」
 結構買い込んでしまったので、すぐには使わない服は送ってもらうことにした。
 やっぱり、夏物が多い。いや、夏物しかない。
「あの、吉奈さん? 聞きたい事があるのですが……。」
 レノアは、私の“何か”に気が付いたようだ。
「んー、じゃあ、あそこのカフェで休憩しよう。」
 私は、近くのカフェまで彼女を連れて行く。


〈レノア視点〉
 吉奈さんはなにか、日光をお嫌いのようです。
 私は大好きなのだけど。でも、どうしてなんでしょう? 出かけるときのあの重装備も尋常じゃなかった。なにか、うん、どこか、TVか本でしったような……。あれなのかな?
 ランチセットは、パスタにサラダ、ドリンクのセット、オプションでケーキが付いてくる。私が、物干し良そうな顔をしていたのか、吉奈さんは、オプション付きで頼んでくれた。ちょっと申し訳ないけど、嬉しい。私が自分のことで気が付いたこと。ケーキが好きだって事。あの甘いものがたまらないのです。ほくほくしてしまいます。パスタを食べ終え、紅茶とケーキを満喫し、人の波を眺めていた時。
「聞きたいことがあるのでしょう。」
 吉奈さんが、声をかけてきた。
 ああ、あのことを聞かなくては。
 吉奈さんに悪い気もしますが、その重装備は“何故”って思うし、何より、私だけの服しか買っていないことが、何より不思議です。
「あの、私の服ばかりなのが気になって。どうして?」
「それは、色素がうまく作れないの。すぐ日焼け以上、やけどまでなってくる。“肌の露出が多い夏服系”は鬼門なんです。」
 と、私はぽつりと言った。
 レノアは、私の手を握る。
「大丈夫? ですか?」
「今は。うん。専用の服だから。心配しないで。」
「でも、おしゃれしたいはず……だって、女の子だから。」
 私は失言したと思った。思わず口を手でふさぐ。
「いいの。仕方ないから……。」
 吉奈さんは遠くを見ていた。
 ……。
「ごめんなさい。でも、いつか、体質が改善されたら?」
「そうだなぁ。普通に太陽の下を皆が着ている服を着て、歩けたら気持ちいいのかも。でも、仕方ないんです。」
「……そう。」
 ちょっと、気まずくなった。
「大丈夫。」
 何故か私の口からそんな言葉がでた。
 自分でも不思議だ。
 吉奈さんは驚いている。
「あきらめちゃダメだと思います。」
 私の目は何か鋭かったのだろうか?
 吉奈さんは、私の顔をみて。
「だよね。うん、そうだ。」
 と、何か覚悟をしたような顔つきになったみたいだから。


〈気が付いたこと〉
 レノアに諭された。
 ああ、あきらめてはダメなんだ。そうだ。
 この性も、この体質も、なにかきっかけで変われるはずだと。でも、その狭間で何年も迷っていた。そして、放棄した。
 でも、でも、今のレノアの方が酷い状態。何者かも知らないのに、何かをつかもうと元気に生きようとしている。彼女に惹かれる。私が夜の闇であるなら、彼女は太陽。
 何時しか、私は大手を振って蒼天を子供のように走っていける……。
 そんな夢を電車で見た。
「あ、次の駅で降りなきゃ。レノア。」
 二人して肩寄せ合って眠っていたようだ。
「あう。もう、着くのですか?」
「ええ。」
 駅に着いた。
 そして、二人で、ゆっくりと家路に帰る。

 あの夢が正夢になれるなら。
 私は、過去から克服し、未来につなげられるだろうか。と、思った。


4話に続く

■登場人物
【3704 吉良原・吉奈 15 女 学生(高校生)】

■ライター通信
滝照直樹です。
「蒼天恋歌 3」に参加して頂きありがとうございます。
 レノアの欠点さらしと、吉奈さんの思いなどを、織り交ぜてこの日常を描写しましたが、如何でしたでしょうか? 性に対してあまり深く知らないレノアの言葉に、吉奈さんの本当の気持ちはどうなのか気になるところです。
 さて、4話から急展開。情報などを集めてレノアを守り抜いてみましょう。戦闘も行動によっては発生しますので。

では、4話にお会いしましょう

滝照直樹
20070725