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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ブラザー・ソウル - 前編 -

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0.オープニング

覗き込む部屋の中、
部屋中に服を並べて思い悩む妹の姿に。
複雑な感情を抱くのは、兄として当然の事。
どんだけ悩むんだよ。
そんなに悩む必要なんて、ねぇだろ。
適当でいいじゃねぇか。
何を、そんなに気合入れちゃってんだよ。

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1.

ガシッ―
「ぐぇっ!?」
ズルズルズル……―
「いたたたた…痛いっ!」
零の部屋を覗き見ていた草間の首根っこを掴み引きずる私。
小声で叫びつつ文句を言う草間。
私はリビング付近でようやく立ち止まり、溜息を落として言う。
「変態め」
草間はコホンコホンと咳をしつつ、ノロノロと立ち上がる。
「違ぇよ。心配性な兄だよ」
クッと笑う私。
心配性な兄だと?
着替え中の妹の部屋を覗く奴が…よく言う。
チラリと見やった部屋の中、確かに零の様子はおかしかった。
だが、心配には及ばない。
部屋中に服を並べて、あれこれ悩むなんて…可愛らしいじゃないか。
締めっきりのリビングのカーテンをシャッと開け、諭す私。
「好きな男に会うんだ。女なら、お洒落して当然だろう」
ポンと手を叩いて、返す草間。
「お前もしてたね。そういえば」
「………」
いつの話だ。
フイッと顔を背け俯く私。
草間は、そんな私を見やって苦笑しつつ続ける。
「や。だからこそさ、心配なんだよ。俺は」
「…彼氏に会うからか?」
「そそ」
…そう言われてみれば、存在を知ってから初かもしれんな。
気合を入れてデートに向かおうとする零を見るのは。
いつも、買い物帰りにチラリと会っていたようだが。
そうか…いよいよ、本格的なデートに臨むのだな。
ここは、協力するべきだろう。
私に色々と協力してくれているし。
…中には、迷惑な協力もあったが。
「ちょっと、零と話してくる」
「おぅ。行くのやめろって伝えてくれ〜」
私の言葉に、そう言ってソファで煙草をふかす草間。
馬鹿め。
そんな事、言えるわけがないだろう。


コンコン―
少し開いたままの扉をノックすると、
中からバサバサと慌しい音がして。
「お、お兄さん?」
零がビクつきながら言った。
私はクスクス笑い、言う。
「いや。私だ。入って良いか?」
「み、冥月さん…ど、どうぞ」
遠慮がちに言った零の言葉に甘え、部屋に入って。
私は目を丸くする。
部屋中に並べられた服。
フリーマーケットでも始めるのかという程の勢いだ。
私は笑いつつ、並ぶ服を踏まぬようにベッドに向かう。

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2.

ベッドに腰をおろし、今一度見回す部屋。
こんなに服、持ってたのか…?
いや、持っていなかったはずだ。
見慣れぬ服が多い。
少ない給料で遣り繰りし、買っていたのだろうな。
何とも微笑ましい事だ。
「あ、あの…冥月さん」
並ぶ服の中に、以前プレゼントした服を見つけ苦笑する私に零が声を掛けた。
「ん?」
「ど、どれを着ていけばいいと思いますか…?」
服を見回しながら言う零。
零は私に喋る暇を与えず、
こういうのは、好みじゃないかも…とか、
こういうのは、似合わないかな?とか、
こういうのは、彼好みかも…といった補足を加える。
私はクスクス笑いつつ、悩み倒す零に告げる。
「あまり気負うな」
「え。で、でも…初めてのデートなんですよぅ…」
「デートは時間を共有し、互いを知る為のものだ。背伸びせず、一番好きな服を選べばいい」
「一番好きな服…ですか」
ムムゥと眉を寄せ、真剣な表情で服を選ぶ零。
「わ、私は…これが一番好きなんですけど…」
そう言って零が手に取ったのは、
何度か見た事のある服で。
赤いチェックのシャツに、黒いカーゴパンツというシンプルなものだった。
うん。お前らしいな。
少しボーイッシュで、可愛いと思うぞ。
でも…。
「多少はアピールもしておかないとな」
私は笑って影から服に似合うアクセサリーを取り出す。


自分で選んだ、一番好きな服と私が影から出したアクセサリーを着けて、
鏡の前でクルリと一回転し不安気に言う零。
「へ、変じゃないですか?」
「あぁ。よく似合ってる。可愛いよ」
「そ、そうですか?…へへっ」
照れ笑いする零。
私は手招きし、零を自分の前に座らせて仕上げを開始する。
お前は、肌が綺麗だからな。羨ましいよ。
メイクも、極力ナチュラルに…。
頬にオレンジのチークを入れて…元気な印象を与えようか。
軽いアイメイクを施している間、
目を伏せたまま零は問う。
「男性とは、どう付き合えばいいんでしょうか…?」
次々と不安や疑問が湧いてくるんだな。
わかるよ。その気持ち。懐かしい。
私は淡く笑って返す。
「男は、立ててやるのが一番だ。目、開けて良いぞ」
「…?」
目を開きキョトンとする零。
わかりにくいか?
「力仕事を任せたり、奢る気なら笑顔で受けたり。そういう事だ」
「…そんな。負担じゃないですか?」
「いや。男は気張ってないと男でいられぬ生き物なんだ」
「…ほぇ?」
「女を護る役目を与える位が、丁度良いんだよ」
まぁ、実際どこぞの不良に絡まれたりしても、
零なら余裕で軽々とノシてしまうだろうが。
そこは堪えるべき所。
お前を大事に思うなら、絶対に護ろうとしてくるから。
その時は、見守るんだ。例え、勝ち目がなかろうとも。
…後から、彼氏の見てない所でボコッてやれば良いしな。
「よし。出来た。うん、上出来だ」
メイクを完成させ、満足気に微笑む私。
零は鏡に映る自分の顔に驚きつつも嬉しそうに微笑んで。
そして、すぐさま私をジッと見やる。
「…何だ?どこか気に入らないか?」
私が問うと、零はフルフルと首を振って。
「いえ。そうじゃなくて。冥月さんは…お兄さんを立てて…ますか?」
「わ、私と奴は関係ない!」

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3.

不意の事に、大声で叫んでしまった私。
すると扉の隙間から、こちらを覗き見る目が…。
「覗くなっ」
クッションを放り投げ言うと、
草間は、姿を隠しつつも聞こえるように大きな声で言った。
「は〜ぁ。俺も立てて欲しいなぁ〜。色んな意味で〜」
「………」
「色んな意味?」
キョトンとし、首を傾げる零。
意味を悟った私はカッと耳を赤く染め、
部屋を飛び出して草間の背中をボカッと殴る。


「え、えっと…じ、じゃあ…行ってきます」
ペコリと頭を下げて、興信所を出て行く零。
私はヒラヒラと手を振り、それを見送る。
うんうん。我ながら完璧なオプション付けだ。
メイクもアクセサリーも、完璧。
あれでドキッとしない男は、そうそう いないだろう。
満足する私の肩に頭を乗せて、ボソボソと言う草間。
「行くの止めてくれって頼んだのに…何で、全面協力しちゃうかなぁ」
「そんな事言えるわけがないだろう」
溜息交じりに返す私。
すると草間は頭を掻いて。
私の手をギュッと握る。
「っ?な、何だっ?」
驚き目を丸くする私に、草間は淡々と言う。
「尾行します」
「はっ!?」
「尾行します。二回目」
「ちょ…おま…」
「三回も言わすの?」
「いやいやいや。それは駄目だろう。普通に考えて」
デートを尾行するなんて、あんまりだ。
確かに、初めてのデートで零は緊張してる。
でも、だからといって尾行るのは、間違ってる。
もはや心配性な兄でも何でもない。
異常だよ、お前はっ。
尾行と同行。その両方を渋る私に、草間はヘラッと笑って。
「ほら、あれ。Wデートだと思ってさ」
そう言うと、強引に私の手を引いて興信所の外へ。

あぁ…もう…。
何考えてるんだ。こいつは…。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。よろしければ また お願い致します^^

2007/07/20 椎葉 あずま