|
動き出した運命Vol.1 消えた少女
投稿者:X(イクス) :200X/06/27 00:00:00
お姫様を探しに行きませんか
一週間前、一人の女の子が行方不明になりました。
でも、警察はおろか、彼女の友人すらも女の子を捜索しようとしませんでした。
皆は女の子が行方不明になった事も、ううん彼女がいたという事すらも覚えていなかったのです。
私は女の子を見つけるため、四方八方に手を尽くしました。
そしてこの前、神奈川県で彼女らしき人物が屋敷に入っていくのを見たという情報を得たんです。
その屋敷は幽霊が出て、そこを訪れた者は帰ってこないとの噂が絶えない場所なんです。
私一人で行くのも心細いですから、誰か一緒に行って欲しいんです。
誰か行ってくれる方はいませんか?
アリス・ルシファールははっと我を取り戻すと頭を振り、モニターに向かい直した。
今までに集めた霊鬼兵に関する情報を整理していたのだ。
時空管理局に所属する彼女の仕事は、何も現場調査だけではない。こうした事務作業も大事な仕事だ。
とはいえ、こうして過去の事件を眺めているとついつい色々思い出してしまう。
自制しなければならない。わかってはいるのだが、今眺めていた資料…少し前の事件は記憶も新しいこともあってか、彼女の自制が上手く働かなかった。
(不動初音さんか…また、会いたいなぁ)
「いけないいけない。仕事しなきゃ」
再び回想に浸り始めた自分をなんとか制すると、アリスは次の作業に移った。
次は情報収集だ。情報や怪奇は日々生まれ、死んでいく。鮮度のいい情報を得なければ、真の怪奇に遭遇できなくなってしまう。
いつものようにゴーストネットOFFに繋ぎ、ざっと板を眺めてみる。
一番上に気になるスレッドを見つけた。何故だか心引かれる内容だ。
アリスは早速参加表明を書き込むのであった。
それから三日。
イクスと名乗る人物と何度かメールのやり取りを行い、アリスは大体の状況を理解した。
「明日から調査を行ってみましょうか」
無論、信じていない訳ではない。ただ、他人が見たものと自分の目で見るのとでは差異がある。
それに、イクスに頼まれたのだ。彼…あるいは彼女は、自らの目で確認したという訳ではなく、調査を行おうにも当日まで忙しく動けないという。
だから、アリスはそれまでの間に下調べを行う事とした。
即ち、少女が住み通っていたという地域の調査だ。
決断を下すと行動は早い。
少女が通っていた学校の生徒や教師に聞き込みを行い、また地域の人々にも尋ねてみる。
得られた情報全てに共通するのはそこに誰かがいた、というのは覚えているが、それが誰かは覚えていないという事だ。
一度は職員室に忍び込んで生徒の名簿を調べてみたが、名簿には一枚の白紙が入っているだけだった。
次に行った問題の屋敷の周辺調査もよい成果は得られなかった。
手掛かりらしいモノといえば、屋敷は無人でこの屋敷を訪れた者は決して帰ってくる事が無い事。また、ここ最近屋敷を訪れた人物は一人の女の子だけ。
調べれば調べるほどに謎が深まっていく。なんらかの力が関わっているというのは間違いない。
(もし誘拐されたのならば、ここまで徹底的にその証拠を消し去ろうとはしない筈)
(何かが動いている?)
具体的な対策を見出せぬまま、アリスはその日を迎えるのだった。
その日は日曜日だった。
まだ日も高く、洋館は柔らかな日差しに包まれていた。
入り口に待つ少女の姿を認めると、アリスは手を振り駆け寄った。
少女はアリスに気付いたのだろう。笑顔で彼女を迎える。
「久しぶりですね」
「うん、本当」
不動初音の顔は柔らかい。以前会った時から見ると、まるで別人のようだ。アリスはどことなく、暁美に似ているように感じた。
他に人の姿は無い。怪訝に思ったアリスは初音に尋ねてみた。
初音が言うには参加者希望者は多くいたが、実際に来た参加者はアリス以外にはいないそうだ。
もし何かあった場合、危険かもしれないとアリスは思ったが口には出さなかった。
そういう事を言って不安を煽るよりも、まずは行動を決めた方が建設的だからだ。
「調査範囲は一階から全部…ですね」
屋敷を見上げて言う。初音は頷いた。
「もし何か起きたら、その時は」
「逃げましょう。下手に立ち向かっても、私たちとお姫様が危なくなるだけですし」
初音はまたも頷いた。
屋敷の中に対するアリスの第一印象は、え? という疑問符だった。
次に妙だ、とアリスは思った。得た情報では、有名なホラースポットだという。ならば探索者達の足跡のようなものや荒廃の色がある筈だ。
なのに、無い。訪問者の遺品とおぼしき印や物品は一切見受けられない。それどころか屋敷内は綺麗に清掃が行き届いていて、恐怖の館というよりは洋館を訪れたような気分にさせる。
初音も妙だと感じたのだろう。戸惑いを見せている。
顔を見合わせること数秒。
二人は頷きを交わすと、前へと進んだ。
何が待ち受けていようと、彼女達に今出来る事は突き進む事だけなのだから。
屋敷は、本当に普通の屋敷であった。
手入れの届いた室内。窓からは柔らかな木漏れ日が差し込み、草花は客人に明るい顔を見せる。足り無いのは人の気配だけ。
だから、二人がソレに気付かずに屋敷を後にしたとしても、おかしい話ではなかった。あまりにも自然なのだったら。
だが、二人は気付いた。発見してしまった。
炭が積もる暖炉に隠された、地下への入り口を。
迷いは無かった。上階に何も無いのであれば、何かあるとすれば地下にしかない。
無論、脅威と遭遇する確立も高くなるが、それでも道があるのならば行くしかない。
階段を下り二人が最下層に降り立つと、闇一色だった世界を青暗い照明が覆った。何かの通路のようだ。
壁には何かの粒子が埋め込まれているのだろう。壁からは、不思議な波動が感じられる。
そして、通路はやはり清潔だった。通路の隅々が綺麗に磨かれており、つい最近まで…いや、もしかすると今も何者かが利用しているのは間違いない。
二人は今まで以上に警戒心を強め、慎重に歩を進める。
歩きながら、屋敷と地下の清潔さから見てアリスはここを利用している者…もしくは責任者は酷く潔癖症であると分析を下した。
(何かに利用できればいいのだけど)
通路は完全に一本道であったから、二人は迷わずに進む事ができた。道中、相変わらず命の気配がしなかったのが気になったが。
どれ位歩き続けただろうか。蒼暗い景色に大分慣れた頃だ。
突如二人の視界を強い光が覆った。反射的に目を閉じる。痛みが引くのを待って目を開いてみると、そこが広い空間だと気付いた。
「あれ!」
初音が指差した場所には、何かの機械が四台設置されていた。そしてその中央、宙に浮かび白いオーラのようなものを放つのは。
「暁美!」
初音の叫びが部屋中に響いた直後、暁美から強烈な風圧が放たれた。突然の出来事に、二人は反応する間も無く壁に叩きつけられてしまう。
叩きつけられた瞬間、アリスは一瞬自分の体が消えた様な錯覚を覚えた。
「おかしい…これは…」
隣で同様に動きを封じられた初音が口を開いた。風はあくまで二人の動きを束縛するだけで、彼女達の命を奪おうという気配は感じられない。
「暁美の能力は、周囲の特異能力を無効化するもの…でも、これでは別次元。まるで他の存在を…」
「じゃあ、何故私達は平気なんですか?」
「多分…私という存在を否定してしまえば、自己を否定してしまう。アリスを否定してしまえば、私と出会ったという自己の記憶を否定してしまう。だからだと思う」
「そういう事ですか」
アリスは理解した。何故、皆が暁美を忘れてしまっていたのか。
元々天宮暁美の能力は、特殊な力を消し去るものだ。それはつまり、他者を否定するのと同じ。
ならばその力が拡大したらどうなる? 対象が特殊な力ではなく、そう、相手の存在になったら? 正に恐怖としか言いようが無い。
それが現実では直接的な被害を及ぼしておらず、自らに関する記憶だけを消し去ったのは、暁美本人の意思だろう。今の彼女は、力に指向性を持たせる事ができるという事だ。
問題は、何故ここまで強化されたか。何故、突然こんな風になってしまったか、だ。
「暁美」
初音が一歩踏み出そうと試みる。だが、風は彼女の行動を許さない。アリスも同じだ。気を抜けば吹き飛ばされそうな踏み出そうにも、立っているだけでやっとだ。
アリスはサーヴァントを呼び出した。主の応えに応じ、六体の天使型駆動体が姿を現す。ほっとした。どうやら、特殊な力を消去する力は発動していないようだ。
迷わずに狙いを定める。
「行け!」
六騎のサーヴァントから同時に光弾が放たれた。
衝撃波が止んだ。神々しいまでの光がテレビを切るように消え、暁美を空中に固定していた力場が力を失った。ゆっくりと落ち始める。
同時に、初音が飛んだ。
素晴らしい跳躍で落下する暁美の体をはっしと受け止める。
暁美はすぐに目を覚ました。二人の顔を交互に見比べる。
「何故私を助けたの?」
「私がここにいれば…全てが終わったのに」
「ここに私が眠って、訪れる者と組織の研究員全てを否定し続けていれば…」
「そんな事言っちゃ駄目ですよ。最初から駄目って諦めてたら、どうにかなるものもならないですから。ね?」
にこっと微笑むアリス。暁美は心底困った顔で二人を見つめたのだった。
続く
■登場人物
6047/アリス・ルシファール/女性/13歳/時空管理維持局特殊執務官/魔操の奏者
■ライター通信
こんにちは。檀 しんじです。
今回ご参加頂き誠にありがとうございます。
初の連続モノという事もあり、勝手がわからない所もございましたが、如何でしたでしょうか。
またご縁があればお願いします。
|
|
|