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<東京怪談・PCゲームノベル>


Dice Bible ―trei―



 高山隆一は、約一ヶ月ほど前……ダイスと契約をした。ストリゴイという敵を狩る、少年・ハルと。
 それから毎日、隆一はハル――つまりダイスのことを考えない日はなかった。自分は知らないことが多すぎるからだ。
 自分はおそらく、彼の主となったのだろう。だが自分が彼の唯一無二の主人ではないことも薄々気づいている。今まで一体、幾人の主人と出会い、別れたのか……それを考えると胸が痛む。
 考えれば考えるほど、ハルに対して尊敬の念を抱く隆一。
 隆一はダイス・バイブルを開き、中を見る。様々なものたちの絵。一通り目を通してから、隆一は保存場所に決めた耐火金庫に戻した。
 本には妹が使っていた透明カバーをかけてある。白い表紙が汚れ易いと判断してのことだ。
 金庫にしっかりと収めて、隆一はテレビの電源を入れる。ニュースが流れた。



 朝、ゴミを出しに外に出ると、悲鳴が聞こえた。
 隆一は怪訝そうにしつつ、自分の住むビルの入口から顔を覗かせた。きょろきょろと辺りを見回すと、顔見知りの中年女性が腰を抜かしているのが見えた。
(あれは……)
 近所で会った時によく挨拶をする……。
「佐藤さん!?」
 声をあげると、彼女はこちらを振り向いた。
「あ、あぁ隆一くん……」
「大丈夫ですか?」
 駆け寄って腕を掴む。彼女はよろよろと立ち上がりながら、ふらつく足取りで隆一にすがりついた。
「あそこ……あそこ、ゴミの……」
「ゴミ?」
 佐藤の指差す方向には、マンションのゴミが道路に散乱していた。カラスか野良猫にでもやられたのだろうか?
(……ん?)
 よく見るとゴミの中に肉片のようなものが見える。
「隆一くん、あそこ……め、目玉……!」
「目玉!?」
 どこに!? と隆一は視線を佐藤に戻す。彼女は震えつつ指差した。指の示す先には――――。
 転がっている、目玉が在る。
(人間のか?)
 この距離からの判断ではあるが、あのサイズは人間のもののような気がする。
(最近カラスが多いが、咥えて来たのか? もしゴミ袋からなら、近所の……いや、車って事もあるな)
 念のため、隆一の所有しているビルの住人にも聞き込みをすることにするが……まずは。
(霊視できるか……あの目玉を)
「隆一くん、警察! 警察に連絡してちょうだい!」
「あっ、そうですね」
 それが一番にやらなければならないことだ。そもそも自分は……探偵でもないし、警察でもない、ただの一般人なのだから。



 結局、警察に連絡をとって調べられた結果……あの目玉は人形のものだと判明した。誰かのイタズラだろうということだが……。
(ただのゴミってこともあるがな……)
 隆一は新聞を読みつつ、ん? と思って振り向いた。
 そこにはハルが立っている。彼は以前見た時と同じように、黒の燕尾服を着ていた。
「ハル!」
「……近くでヤツらが活動を開始したようです」
「そうなのか!?」
「……その様子では……」
 彼は隆一を凝視し、目を細める。
「……やはり。ダイス・バイブルからの知識はほんの少ししか……。
 そのうち全ての知識が流れ込むことでしょう、ミスター」
「知識?」
「ダイス・バイブルと契約した者には、本が持つ知識が流れ込みます。そして、敵の気配も感じるようになるのです」
「……そうなのか」
 必要最低限の、ハルを支えるための能力は手に入れられるということだろう。
 隆一の口元が緩んでいるのを見て、ハルが怪訝そうにする。
「……嬉しそうですね、ミスター」
「ああ。少しでもハルの役に立てるみたいだからな」
「……はぁ」
 気のない返事をするハルに向けて、隆一は続けて言う。
「ハルと契約してから毎日、ここ一ヶ月……ハルのことを考えない日はなかったからな」
「…………」
 どこか唖然としたような顔をしてから、ハルは神妙な顔つきになった。
「ま、毎日私のことを考えていた……のですか」
「ああ。凄いなと思ってな。……少しでもハルを支えられれば……」
「あの……あなたはまさか、同性愛者なのでしょうか……?」
 最後まで言う前に、ハルに遮られる。
 二人の間に沈黙が横たわった。その沈黙を10秒後に破ったのは隆一である。
「……いや、そんなことないが」
「毎日私のことを考えるというのは、いかがなものでしょう?」
 よく見れば、ハルは微妙に口元が引きつっている。
「正直……怖いです、ミスター」
 区切りながら、強調して言うハルの目は本気だ。
 隆一は再び静まり返った中、うかがうように彼を見る。
「こわい?」
「ええ。女性から毎日考えていた、と言われるのはまぁ、ありえなくはないです。親しい友人からも同様ですね。あとは……ニホンではアイドルや、偶像的なものに対して憧れを抱いたりするなら……。それに……恋愛をしている人間ならばわからなくもないのですが……。
 同じ男性で、しかも、知り合って間もない人に毎日考えていたと言われると……普通、人間は怖がりませんか? 私は人間ではないですが、感情は一応ありますので、『怖い』と思いますが」
 ……そ、そう言われてみればそうかもしれない。
 凄いな、とか、偉いな、とか色々考えていたわけだが、考えてみれば外見が年下の少年のことを毎日思う二十歳過ぎの男……。世間一般では「変」と言うのかもしれない。
 主として彼の支えにならなければと決意していたというのに……逆にハルを怖がらせてしまったようだ。
「……ハルは女の子から毎日思われるほうが好きなのか?」
 やはり外見と比例するように、色恋沙汰に興味があるのだろうか?
 尋ねてみると、彼はいつもの無表情に戻ってから口を開く。
「場合にもよります。……あの、ミスター、よくよく自身の行動を振り返ってください。あなた自身が、今のようなことを男性から言われて平気なのですか?」
「………………」
 一度だけしか会っていない相手に「毎日あなたのことを考えてました」と言われたら……。いや、言われなくても毎日考えられていたら……。
 隆一は少々青ざめて黙り込んでしまう。
(こ、怖いな……普通に)
 ふと気になってハルに再度尋ねた。
「俺が同性愛者だったら、契約は解除するのか?」
「いいえ。ただし、私をそういう対象で見るのはご遠慮ください。私はダイス。ただのダイスですから」
「……今まで誰かを好きになったこととかないのか?」
「……ありません」
 少し間があった。だが、隆一はそこを突っ込んで訊く気にはならなかった。
「そうか。ハルは同性愛者が苦手か」
「嗜好や趣味は人それぞれです。否定はしませんが、私は一応男性タイプのダイスですから、同性に対して愛情を持つことは不可能でしょう」
「なるほど……。他人の家の火事は気にならないが、自分の家に火の粉が飛んでくるのは黙っていられないってタイプなんだな」
「嗜好は個人のものであり、それを他人に強要するのは相手を困らせるだけです」
 同じ嗜好ならば問題はありませんけれど。
 ハルは最後にそう付け加え、静かに瞼を閉じた。
「それよりも、問題は敵のほうです。この付近に居るようですね。……こんな近くで気配を一切感じないというミスターにも少々憐憫を覚えますが」
 そもそも事件のほうが隆一の周辺で起こっている。ハルに会った時のそもそもの原因は、隆一の知り合いだった。今回もそうだ。
 次回もそうだったら……そう思ってからハルを見遣る。
(……「ふざけないでください」とか言いそうだな、ハルは)
 そんな気持ち悪い偶然が起こるほうがどうかしています。元凶はあなたじゃないんですか?
(………………)
 考えると頭が痛い。リアルに想像できてしまった。
「ミスター、この付近で何か起こっていますか?」
「うーん……ニュースや新聞はそれなりに見ていたんだが……」
 この付近でのことなど、出ていなかった。隆一は考え、それから「ああ」と気づく。
「イタズラってことになったんだが、この近くのマンションのゴミ置き場でちょっとしたことがあった。今朝のことなんだが」
「……内容を教えてください」
「ゴミが散らかされていて、人形の目玉と、あと、鳥か何かの肉が落ちていたんだ。佐藤さんていうオバさんが見つけた」
「サトウ?」
「顔見知り程度なんだか、知ってる人で」
 隆一の言葉にハルはしばらく考え、軽く息を吐く。
「こちらの位置が敵に判明した、というわけではないのですね。…………とにかく探ってきます」
 そう言うなり、ハルはきびすを返して玄関に向かった。隆一は慌てて立ち上がる。
「待て! 移動が必要なら、お袋の軽自動車がある。乗せていくから」
「遠慮します」
 あっさりと、振り向いてハルが言い放った。隆一は車の鍵を取ってこようとしたポーズのまま、固まっている。
「……車があったほうが、便利だろ?」
「破壊してしまう恐れがありますし……。車より私の足のほうが速いですから」
 破壊? なんで破壊???
(……というか、ハルはどういうヤツなんだ、本当に)
 車より速いという時点で凄すぎる。やはり彼は人間ではないのだ。
「それに、この近所ですから車は必要ありませんよ、ミスター」
「そうか。じゃあ俺もついて行ったほうがいいか?」
「それも遠慮します。敵がどのようなタイプか判別がつかないので、おとなしくここで待っていてください」
「そのほうがいいのか?」
「この近隣で気配を感じるということは、まだ付近に居るやもしれません。
 感染の被害を最小限に抑えるため、ここに居たほうが安全です」
「……わかった。じゃあ俺はここに居て、本と自分の身の安全を確保しておくよ」
「素直で助かります。では」
 そう言うと彼は玄関を開けて、外に出て行ってしまった。
 バタンと閉まったドアを見つめてから、隆一は後頭部を軽く掻く。
 一ヶ月ぶりに会話をしたというのに……なんだかろくなことを話さなかったような気がする。
(……もしかして俺、ホモと勘違いされたのかな……)
 違うのだが。
「……ハル……無事でな」
 ドア越しに、小さくそう声をかけてから隆一は居間に戻ることにした。今日の分の新聞は、まだチェックが終わっていないのだ。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【7030/高山・隆一(たかやま・りゅういち)/男/21/ギタリスト・雑居ビルのオーナー】

NPC
【ハル=セイチョウ(はる=せいちょう)/男/?/ダイス】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、高山様。ライターのともやいずみです。
 少々ハルに気味悪がられた感じになってしまいました……。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!