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<東京怪談ノベル(シングル)>


misunderstanding

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寝巻きに着替えつつ思うのは”良かった”素直に、それだけ。
一緒に暮らしてるんだもの。
いつまでも、あんなぎこちない感じ、嫌だわ。
いつでも楽しく、笑っていたい。
一度限りの毎日を、曖昧になんて過ごしたくない。
良かった。本当に。仲直りできて。
そもそも、大切な事を伝え損ねていた私が悪いのよね。
でも、ちょっと思う所もあるの。
気になる事があったのなら、すぐに言ってくれれば良かったのに。
どういう事なんだ?誰と会ってたんだ?って。
何もやましい事なんてないんだもの。
私、首を傾げて躊躇う事なく答えたわ。絶対に。
まぁ、そういう時だけ、ぶつかってこれないのが、あなた…か。
クスクス笑い、結わえた髪を解いて枕に手をかける私。
そこで、ふと気付く。
ううん。思い出した、というのが正しいかしら。
思い違いじゃなければ…彼の”異変”は、もう少し前からだった。
講演会前から…何だか会話が少なくなって…。
うん、そうよ。
いきなり口を聞いてくれなくなったわけじゃない。
少しずつ、少しずつ。変になっていったの。






「はぁ〜…」
ドサッ―
深い溜息を落とし、ソファに腰を下ろして眼鏡を外す。
頭をワシワシと掻きながら思うは、あいつの事。
悪い事したなぁという気持ちは、ある。
確かに、ガキっぽい態度を取り過ぎた。
いつでも気がかりな事が、すぐに聞ける状況なのに。
俺は、それをしないで一人勝手に…拗ねた。
でも、仕方ねぇんだ。
昨晩の食事の件は、確かに片付いた。
俺の勘違いだっただけだ。
けどな。一つだけ。
どうしても、引っかかる事があるんだよ。
そのせいで昨晩、疑ってやまなかったっていうのもある。
聞きたいけどな…聞けねぇ。
女々しいよなぁ…こんなの。
うな垂れ、自分に呆れ苦笑する俺。
すると、コンコンと扉を叩く音。
時計を見やれば、時刻は二十三時半。
一日ぶりの”いつもの時間”だ。
「開いてるぞ」
俺が言うと扉がゆっくりと開き。
「おじゃまします」
枕を抱えたシュラインがペコリと頭を下げた。
その姿に、喜びを覚えないわけがない。
昨晩は、何度も何度も求めた光景だ。
嬉しいよ。
また、お前を隣に眠れるんだから。けど…。
心から、それを受け入れ喜べないのも、また事実。
さぁて…どうしたもんかね。こんな俺。




苦笑しつつ煙草をふかす俺を見て、何も感じないわけもなく。
シュラインはジッと俺を見つめ、眉を寄せて言う。
「なぁんか…変」
「そぉか?」
笑って誤魔化せるとは思ってない。案の定。
「うん、変よ」
シュラインは、すぐさま、そう言った。
まぁなぁ、考え事っつーか、気になる事があるからな…。
「そういうお前も、変だけどな」
目を伏せて言う俺。
いつもより、探りが慎重じゃねぇか?気のせいか?
「んー…」
俯くシュライン。
まぁ、長く一緒にいるんだ。互いの変化にも敏感になるよな。当然だ。
「あのね、気になる事があるの」
「…何?」
「武彦さん…講演会前から、変だったよね?」
「………」
苦笑する事しか出来ない俺。
的確だなぁ、お前はいつも。
そこを突付く事で、俺が変な原因も理解るとまでは思っていないようだけど。
「言いたくても言えない事ってあるだろ」
「うーん…」
「お前は…ないのか?そういうの」
さりげなく探りを入れ始める俺。
はぁ…何つー姑息な手段だ。
ガッと聞いちまえよ、男なら。
そうは思うんだよ。けど、言えねぇんだ。できねぇんだ。
嫌んなっちまうよ。こんな自分に。
「えー……と……」
おいおいおい…。
そこで、素直に返しに迷うなよ。
お前が、そんなんだから。
俺は、こんな女々しく探りを入れりまうんじゃねぇか?
問いに目を泳がせるシュラインを見やって苦笑を続ける俺。
そんな俺を見て、シュラインは口を尖らせて。
「だって…武彦さん、可愛かったんだもん」
そう言いつつ、懐から小さなボイスレコーダーを取り出し、それを俺に手渡した。
「…何だ、これ?」
首を傾げつつ、渡されたレコーダーの再生ボタンをおもむろに押す。
すると。

『…好きだ』

枯れた声で、囁く声が。
それは、俺の”気がかり”と結びつく、
いつか聞いたそれと同じもので。
ピッ―
俺は慌てて停止ボタンを押す。
「内緒で録ったの、悪いなぁって思ってたのよ。すぐに言おうと思ってたの」
目を逸らさず言うシュライン。
待て、といっても止まらないであろう。
シュラインは早口で続ける。
「でも、私まで寝込んじゃって。タイミング逃しちゃったの…ごめんなさい」
呆ける俺。
頭の中で、色々な事が一斉に駆け巡り処理されていく。
「…怒ってる?」
首を傾げ、不安そうな表情で言うシュライン。
えーと…ちょっと待て。要するに。
「これ、俺…?」
レコーダーを指差して聞くと。
シュラインはコクリと躊躇いがちに頷いた。






事実を、隠し事を報告してから武彦さんは苦笑するばかり。
怒っているようにも見えるし、ただ呆れているだけのようにも見える。
私は、どうしたらいいのかわからなくて。
目を泳がせ続ける。
隠していたのは、本当に悪いと思ってる。
寝込んで苦しんでたのに、こんな事するなんて酷いとも思う。
でも可愛かったの。本当に可愛かったの。
弱々しく枯れた声で囁く愛の言葉も、
不安定な寝息も。
あの時、傍にいて。
あなたの全てを独り占めしたような気分だった。
それに、普段はあんな甘い言葉。言ってくれないでしょう?
言わなくてもわかるだろって言うかもしれないけれど。
時には口に出して欲しいのよ。
女は、そういう生き物なの。
それだけで、満たされ安心できたりしちゃうの。
だから。
その”声”は、私の宝物なの。
私はゆっくりと顔を上げ、武彦さんの目を見つつ、そっと手を差し出す。




物欲しげな眼差しで手を差し出すシュライン。
その視線は、俺の目と俺が持つレコーダーを行ったりきたり。
返せ、ってか。
俺はクックッと笑い、レコーダーをシュラインの頭上に掲げる。
「あっ…何よぅ、返してっ」
手を伸ばし、レコーダーを取ろうとするシュライン。
俺は手が届かないようにしつつ、笑って言う。
「こんなの持ってても、意味ねぇだろ」
「あるわよ」
即答するシュライン。
「へぇ。どんな?」
笑いつつ問う俺。
シュラインは少し照れて。俯きながら言った。
「気持ちを落ち着かせたり、とか…」
「そんな効能ねぇだろ、これに」
「あるもん…」
寂しそうな表情。
何だかなぁ。妙な気分だ。
弱みを握られてるみてぇな。
考えてもみろよ。これを聞くんだぞ。
何かある度に、お前が。部屋で。一人で。
恥ずかしくて死ねるっつーの…。それに。
「直接聞けた方がいいんじゃねぇのか。こういうのは」
レコーダーを渡しつつ言う俺。
「それは、そうだけど…」
苦笑するシュライン。
俺はシュラインの頭をパフッと撫でて言う。
「聞きたきゃ、言ってやるよ」
「ほんと…?」
「おぅ」
…気分次第だけどな。実際。
照れくさくて、なかなか言えねぇよ。
それに、ポンポン気軽に言うもんじゃねぇと思うし。
苦笑する俺を見てシュラインは微笑んで。
「じゃあ、今。聞かせて?」
そう言ってジッと俺を見つめた。
…早速かよ。
俺は苦笑して頭を掻き。
躊躇いつつ、シュラインの腕を引いて耳元に落とす。
「…好きだよ」

…恥ずかしいっつーの。もう嫌だ…。
俯き頭を振る俺を見て、
シュラインはクスクス笑って。
「嬉しい。ありがとう…」
そう言ってレコーダーを、そっと懐にしまった。
それはそれで、とっておくのかよ…。
…まぁ、いいや。
もう…。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 草間興信所所長、探偵

著┃者┃通┃信┃
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。

擦れ違いが擦れ違いを生んで、結果ただの誤解で(笑)
とても楽しく紡がせて頂きました。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ 宜しく御願い致します。

2007/07/05 椎葉 あずま