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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


オトメ・トーク

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0.オープニング

気まぐれさ。
特に深い意味は、ないよ。
珍しくもないだろう?
私が、話し相手になるくらい。

自分の恋愛を深く語るのは好きじゃないけど。
人の恋愛を深く聞くのは好きなんだ。あたしは。
たまには、良いじゃないか。

今日は店も暇だし。
聞かせておくれよ。
あんたの甘い、とっておきの話を。

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1.

特に目的もなく訪ねた蓮の店。
何か、掘り出し物でも見つかれば儲け物だ。
などと思いながら店内商品を物色していると、
「たまには、どうだい。ゆっくりと話でも」
蓮がカウンターに紅茶を用意して言った。
「…何か企んでるな?」
珍しい申し出に警戒する私。
「失礼だねぇ。ただ、あんたと話したいだけさ。ほら、座んな」
蓮は目を伏せ苦笑しながら、腰を下ろすよう勧めた。
まぁ…いいか。たまには。
今日は仕事もないし、店も暇そうだしな。
私は少し考えた後、蓮の誘いに乗る事にした。


「…む。美味いな」
振舞われた紅茶はオレンジティー。
今まで飲んだ中でも、一番の香りと味だ。
紅茶にうるさいだけの事はあるな。
紅茶を満足気に、ゆっくりと味わう私を見て、
蓮は頬杖をつき笑う。
「…何だ。気持ち悪い」
思った事を素直に言い吐く私。
すると蓮は妖しく微笑んで。
「あんた、好きな男はいるのかい?」
私に尋ねた。
「いる」
即座に返す私。
けれど、それは己の意思ではなく。
口が勝手に。口が滑ったかのような。
「…何か、盛ったな?」
睨みやって言うと、蓮は肩を竦めて、そ知らぬ振り。
まったく…。まぁ、もっと警戒すべきだったな。
私にも非がある。
「色々と、聞かせてもらおうかねぇ?」
愉しそうに笑って言う蓮。
私は溜息交じりに返す。
「まぁ、いい。暇だし、戯事に付き合ってやる。但し薬の所為だ。すぐ忘れろ」
私の言葉に蓮は満足そうに頷いた。

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2.

付き合う、と了承した途端、蓮は遠慮なしに様々な問いを飛ばす。
「その男の、どこが好きなんだい?」
手始めの、その質問に私は俯いて返す。
「…わからない。…強いて言うなら、雰囲気…か、な?」
意識するようになったのは、いつからか。
そのきっかけすら覚えていないんだ。
好きなんだな、と実感する事は…正直、ある。
けれど、生憎。私は、それを認める心を持ち合わせていない。
私の言葉に蓮は「ふぅん」とニヤつきながら続ける。
「不満は、ないのかい?」
「不満だらけだ」
「おやまぁ」
「時間にルーズだし、根本的に、だらしない」
「言うねぇ」
「女に弱いし、シスコンだし、煙草臭いし…散々だ」
溜息交じりに悪口、欠点を次々と言う私を見て、
蓮はニヤニヤしながら言う。
「何で、そんなの好きなんだい」
「うるさい。い、良い所も…なくはないんだ」
俯き言う私。
そうだ。私は、知っている。
欠点なんか、どうでもよく思える程の。
あいつの魅力的な所を。
「時々、時々な…凄く優しいんだ。かと思えば…極稀に、男らしいし」
そう。そのギャップに、私は戸惑うんだ。
乱暴だ凶暴だ何だと、男扱いするくせに。
突然。本当に不意に、女扱いする。
それに…。
「か、顔も別に悪くない、と思う…」
俯きカップで揺れる紅茶を見ながら言う私。
蓮はクスクス笑いながら、自身の紅茶にミルクを足し入れて言う。
「ふぅん。他には?」
他に…。そうだな…。
これが、一番大きいかもしれない。
いや、間違いなく。これが一番、私を戸惑わせる要因だ。
「…傍にいると、安心するんだ」
面倒くさがりで、女心をイマイチ理解してなくて、
どこに、そんな”安心する”なんて思わせる箇所があるんだと思うけど。
確かな事実なんだ。安心する。
何も話さずとも、ただ、傍にいるだけで。
自分の存在すらも愛しく思える事があるんだ。
「あいつは、私を怖がらなかった。最初から。…ドカドカと土足で、踏み込んできたんだ」
闇に生き、闇と共に。
あいつは、そんな私の生き方を変えた。
どこからかポッと出て、いとも、簡単に。
俯く私の顎を引き、強引に上を向かせて。
くったくのない、あの笑顔で。


「ベタ惚れじゃないか」
空になった私のカップに紅茶を注ぎつつ言う蓮。
私はゴクゴクと紅茶を飲み、乾いた喉を潤して返す。
「…それはどうかな」
私の言葉に蓮は苦笑して。
「結婚は?その男との結婚は、視野にあるのかい?」
グッと息を飲む私。
結婚…。それを意識した事は、一度もない。
多分、この先も、ないだろうと思う。
私も女だ。そういう願望は、それなりにある。
けれど。けれどな。
私には捨てられぬ過去と、自身を裏切れぬ想いがある。
時々、忘れそうになる事もあるが、
私は、闇に生きた身。それ故に、今だに命を狙われる業もある。
そんな状況の女を、妻として迎えようとする男なんて、いるだろうか。
いないと思うんだ。それが悲しい事だとは思わない。
仕方のない事だと思う。
けれど。そう、だからこそ。
正式な恋人や、ましてや家族になるなんぞ。
私には、無理なんだ。
独り言のようにポツポツと言う私を見て、
蓮はヤレヤレと肩を竦め、言った。
「自分に厳しいねぇ。じゃあ、過去も想いも受け入れ、業も共に乗り越えるからって言われたら…どうだい?」
あいつの喋り方を真似て言う蓮に、
ビクリと震える私の体。
声を奪われ、金縛りをかけられたかのように。
私は身動きが取れず。
蓮の質問に答える事なく、
俯いたまま、数分間。

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3.

考えた事がないんだ。
戸惑って、当然だろう。
それに、もしも、そんなことを言われたら。
「…そ、そんな事を言われたら、拒む理由が…」
絞り出すように小さな声で、ようやく質問に言葉を返す私。
すると蓮は、頬杖をつき、勝ち誇った表情で言った。
「拒まないと駄目なのかい?」
またもグッと息を飲み、言葉が喉に痞える私。
確かに、そうかもしれない。
拒まねばならぬと、そういう決まりはない。
私が、自身を制御しているだけかもしれない。
そうだ。あいつなら…あっさりと、言うだろう。
何の躊躇いもなく。自分に素直に。思うが侭に。
でも、仕方がないんだ。
私には、こうする事しか…。
俯き顔を覆えば、溢れる涙。
自分の涙に驚き溜息を落とす。
またか…。
どうして。どうして、こんな事で涙なんぞ。
何故、私は、これ程弱く…。
「…頼むから。もう…これ以上…ただの好奇心で、惑わせないでくれ」
震えた声で、そう乞うた後。
私の意識は、遠くなっていった…。




テーブルに突っ伏して眠る冥月。
あたしはクスクス笑いながら、冥月の頭を撫でやる。
泣かすつもりは、なかったんだけどねぇ。
正直、驚いたよ。
軽くつつかれただけで、パンクしてしまう程。
ギリギリの所まで、きていたんだね。
あんたは、いつもクールに構えているから。
わかりにくいんだよ。
今日、聞いた話は誰にも言わないさ。
面白かったら、ネタにして揺すぶろうと思っていたけれど。
そんな気、失せちまったよ。
やれやれ…。まったく、あの男も罪だね。
この先、どうなる事やら。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/07/20 椎葉 あずま