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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


ヴェデスタの封扉 (前編)

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0.オープニング

ここか…。
まぁ、確かに。
怪しげな空気が漂ってる。
しかしまぁ、組織も よく見つけるもんだ。
こんな偏狭の洞窟なんて。

俺は煙草をふかしつつ、
出掛けに呼んだ”アイツ”を待つ。

祈っておこうか。
見事な金銀財宝が眠らん事を。

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1.

突然の呼び出し。
…まぁ、もう慣れたが。
呼び出しを食らう度に思う。
何の説明もなしに、やぶからぼうに”来い”という、そのスタイル。
こっちの都合なんて、お構いなし。
拒んでも”いいから来い”の一点張り。
やむなく来れば、満足そうに笑う。
…あいつに、そっくりだ。何もかも。
「…で?どういう事だ?」
呆れつつ問うと、ディテクターは巨大な扉に、そっと手をあてて、返す。
「命令でな。こいつを開ける必要がある」
その扉は、銀色で美しく。
けれど、その美しさが妖しさを象徴していて。
「…中に何がある?」
「さぁ」
「いつも思うんだが。命令に忠実なのは良いが、もう少し詳細を聞くべきじゃないのか」
「聞いたところで、濁されるだけさ」
まぁ、そうかもしれないが。
調査の理由とか、その辺りの事くらいは聞いておくべきだろう。
ましてや、組織に無関係な私が関わるのだから。
そうだ。
「だいたい、何故私が呼ばれるんだ。IO2は人手不足か?」
「まぁ、現状…不足っちゃあ、不足かな」
「上がサボッているからだろう」
「耳に痛いな」
苦笑するディテクター。
私はディテクターの横に立ち、扉に手をあてる。
僅かな温もりと、鼓動のような振動が伝わってくる扉。
…嫌な予感がするな。
まぁ、言ったところで、じゃあやめようかなんて事にはならないだろうが。
私はハァと大きな溜息を落として言う。
「封印の類か?」
「そうだ。呪文を唱えなきゃ開かない」
「呪文?」
顔をしかめる私。
ディテクターは懐からメモを取り出すと、それを見ながら淡々と言った。
「”開け。夢見る扉。我を誘え。ドリーミング・ドリーミング” …だそうだ」
ピクリと上がる私の片眉。
何だ、その呪文は。
ふざけるな。
こちとら、つい先日も、恥ずかしい呪文で羞恥に苛まれたばかりだ。
どうして、こう立て続けに…。
これも呪いなのか…? …いや、まさかな。
「あぁ、呪文だけじゃない。他にも満たさねばならない条件がある」
「何だ…?」
嫌な予感に不快感を抱きながら問う私。
ディテクターは、自身の手を私に差し出して、また淡々と言った。
「手を繋いで言わなきゃ駄目らしい」
「断る」
即答する私。
手を繋ぐだと?私とお前が?
挙句、あの恥ずかしい呪文を唱えろと?
いい加減にしろ…。
だいたい、何なんだ、それ。
そんな、ふざけた解除方法があってたまるか。
間違った情報なんじゃないのか、それ。
それに、もし、その方法が正しかったとして。
そこまでして、扉を開けねばならんのか。
命令とは言え、お前は誇りを捨ててまで宝を欲しがる奴じゃないはずだ。
はずだ……が。
「ほら。早く、手ぇ出せ」
表情一つ変えずにディテクターは言う。
本気だ、こいつ。やる気らしい。
忠実加減にも程があるぞ、本当に。
「嫌だ。断る」
ディテクターの手をパシッと払い、拒み続ける私。
その遣り取りは、暫く続いた。

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2.

「頑固だな。お前」
呆れて言うディテクター。
私も呆れ返して言う。
「お前もな」
私は金銀財宝なんぞ、要らない。
本当に扉の中に宝が眠っていると決まっているわけでもないし。
顔を背けて、目を伏せる私。
ディテクターは、そんな私に言った。
「早く済まさないと、どやされる」
「知ったことか」
「お前も、どやされる羽目になるんだぞ」
「は?何故だ。私は一方的に呼び出しをくらっただけで、組織とは無関係だ」
「それは、どうかな」
怪しげな笑みを浮かべて言うディテクター。
私は眉を寄せ、ディテクターを見やって言う。
「…どういう事だ」
「近々、お前をIO2にスカウトするつもりだ」
「…なっ!?」
何を勝手な事を。
突然の事に驚き戸惑う私に、ディテクターは追い討ちをかける。
「まぁ、スカウトといっても、お前の返答は必要ない。強制連行に近いと思え」
「貴様…いい加減に…」
「まぁ、そういう事だ。早く手を出せ」
まったくもって、人の話を聞かない。
あいつに似ていると言ったが…前言撤回を要請する。
似ていない。あいつは、ここまで自己中心的な奴じゃない。
不快な心のまま、私は影槍を解放し、それを扉に投げ放って言う。
「こんなもの…私が壊してやる!」
飛んでいく影槍。それが扉にぶつかる間際。
「…あ」
ディテクターは小さな声で呟いた。


ドッ―
バシュッ―
扉にあたった影槍は、鈍い音を響かせて煙となって消えてしまった。
「…ちっ」
舌打ちしつつ扉を睨みやる私。
ディテクターはサッと私から離れると、苦笑して言った。
「何やってんだか…」
「うるさい!」
探偵の方を見やって、そう言った時だった。
ポンッ―
私の体を桃色の光が包む。
「…っ!?」
光の中、身構える私。
けれど光は、何の害も及ぼさず、ゆっくりと消えていくだけ。
身構えたままキョトンとする私。
光が消え、辺りが鮮明に見えるようになった時。
「…ぶ」
ディテクターが笑った。
珍しい笑い方に、私は首を傾げる。
するとディテクターは肩を揺らして笑いを堪え、私を指差した。
何だ、人を見て笑うなんて、失礼な奴…。
そう思いつつ自身を見やった瞬間。
サッと血の気が引いた。
ピンク色でフリフリの、至る所に赤いハートの模様がついた服に。
先端に大きな星がついた、玩具のような杖。
腕や指に、目がチカチカする程ファンシーなデザインのアクセサリー。
そして背中には、羽のついた真っ白なリュック。
どこぞの魔法少女か、頭のネジがブッ飛んだ不思議少女か。
言葉を発する事なく即座に、とりあえず杖を放り投げようとする私。
しかし、杖は手に吸い付くように纏わりついて離れない。
イラ立ちを晴らす暇を与えず、
私を、次なる羞恥が襲う。
「な、何なにょ!これは! ……!?」
”何なんだ、これは” そう言うつもりが。
…にょ?
語尾に”にょ”がついた。勝手に。
「は、離れないにょ〜! ……!!」
”離れないぞ” そう言うつもりが。
…にょ?
やはり語尾に”にょ”がつく。勝手に。
考えられるのは、扉にかかっていた呪いの類が、
影矢を放った私に跳ね返ってきたというケース。
というか、それしか考えられない。
「………」
言葉を発すれば、更に恥ずかしい目に遭う。
それを理解した私は、声を発さずに、ただもがく。
無理だとわかっていても杖を手から外そうとしたり、
こっぱずかしい限りの服をグイグイと引っ張ってみたり。
もう十分に羞恥に苛まれたというに。
呪いは、私を更に追い込む。
ポンッ―
「っ!?」
またも、桃色の煙が私の体を包んだ。
咄嗟に目を閉じた私。
煙は、先程と同じく すぐに晴れたが…。
目を開いた瞬間、ディテクターがブハッと吹き出した。
それもそうだ、当然だ。
この私が、内股前屈みで胸を強調するポーズを取っているのだから。
ポンッ―
「…っ!?」
再び、桃色の煙。
またも咄嗟に目を閉じた私。
先程と同じく煙は、すぐに晴れた。
目を開いた瞬間、視界に飛び込むディテクターの笑い顔も、先程と同じ…。
それもそうだ、当然だ。
この私が、内股全開で両手を目元に持ってきてダブルピースしているのだから。


恥ずかしい羞恥の連続は、それから一分間。止む事なく続いた。
一際激しい桃色の煙に包まれ、ようやく服も口調も元に戻った私は、
その場に崩れるようにペタリと座り込んで、うな垂れる。
「…ご苦労さん」
携帯片手に必死に笑いを堪えながら嫌味な労いを飛ばすディテクター。
私はキッとディテクターが持つ携帯を睨む。
するとディテクターは、携帯を懐にしまって言った。
「どうする?」
ほんっと…貴様という奴は、腐ってる…。
あんな恥ずかしい様を次々と携帯に収められちゃ、
こう言うに他ないだろう。
「…手伝う。手伝えば良いんだろう」
囁くように小さな声で言った私に、
ディテクターはスッと手を差し伸べて言った。
「助かるよ」

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3.

まったく、酷い目に遭った。
たった一分、されど一分。
あんなに長い一分間、初めてだった。
この場に萌がいなかったのは、不幸中の幸いだ。
あいつがいたら、もっと酷い事になっていただろう。
誰かれ構わず言いふらし…考えただけで寒気がする。
済んだ事だと忘れたいが、そうもいかない。
探偵の懐に眠る携帯に、私の羞恥が保存されているからだ。
「も、もし財宝なら、私が六割だからな」
どもりつつ、ディテクターを弱々しく睨んで言う私。
ディテクターは自身の懐を嫌味にポンと叩いてから、クッと笑って。
「了解」
そう言って、手を差し伸べた。
っくそ…。本当に、腹が立つ。
私はイラつきながらも、ディテクターの手を取った。
触れる手。
ディテクターの手の温度。
あまりにも良く似た、覚えのある、慣れた、その温度に。
私は咄嗟にパッと手を離してしまう。
「何だ。怖気づいたか?」
手を引っ込める事なく淡々と言うディテクター。
私は首を振って苦笑すると、再びディテクターの手を取る。
どうにも…私は、お前が苦手だ。
あいつを思い出して仕方がない。
思い出したくもないのに。
「呪文は、覚えてるな?」
「…あ、あぁ」
「揃えて言うぞ。準備は良いか」
コクリと頷く私。
頷き返すディテクター。
暫し見詰め合って。
パチン―
ディテクターが指を弾くと同時に、呪文を放つ。
「ひ、ひっ、開け。夢見る扉。我を誘え。ド、ドリーミング・ドリーミング!」
重なり合わずに響き渡る二つの声と、静寂。
扉には、何の変化もない。
「駄目だ。どもるな」
すかさず飛んでくる、ディテクターのダメ出し。
「…す、すまん」
「もう一度だ」
「あ、あぁ」
コクリと頷く私。
頷き返すディテクター。
暫し見詰め合って。
パチン―
ディテクターが指を弾くと同時に、再び呪文を放つ。
「開け。夢見る扉。我を誘え。ド、ドリーミング・ドリーミング!」
やはり重なり合わずに響き渡る二つの声と、静寂。
鮮明に聞こえる、鳥のさえずりと風の音。
またも扉は、変化なし。
「どもるなって…」
「す、すまん…」
し、仕方がないだろう。
どうしても抵抗が拭えないんだ。
こんな柄にもない台詞を吐くなんぞっ…。





何度も どもっては、ディテクターに文句を言われ。謝罪を述べて、やり直し。
そんな事を、飽きるほど繰り返して。
私達は、いや、私は。ようやく呪文をまともに唱える事に成功する。
「開け。夢見る扉。我を誘え。ドリーミング・ドリーミング!」
呪文を見事に口を揃えて唱えた私とディテクター。
繋いだ手から、扉に向かって真っ直ぐに伸びる桃色の光。
ガコォン…―
光に抉じ開けられるように。
扉は大きな音をたてて、ゆっくりと開いた。
「や、やっと開いた…」
妙な解放感に安堵の表情を浮かべる私。
「じゃあ、お宝拝見といこうか」
ディテクターは、そう言って満足そうに笑うと、
繋いでいた手をパッと離して扉の先へ一人、勝手に向かう。
私は少し汗ばんだ手にフッと息を吹きかけて、ディテクターの後を追う。
「六割だぞ。六割」
何度も、そう念を押しながら。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / ディテクター / ♂ / 30歳 / IO2エージェント



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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます!心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです!また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/07/27 椎葉 あずま