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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


スターライト・フェスティバル

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0.オープニング

星振る夜に、愛しい彼(彼女)と素敵な一時を…―

読み上げるだけで恥ずかしくて、
体が痒くなるキャッチフレーズ。
零が出掛けに置いて行った、一枚のチラシ。
例によって、いつもの”お節介”だ。

いつもなら、こういうイベントは連れて行けと強請るけど。
今回は違う。
”誘ってあげたら?”
そういう意味合いを込めて置いていった。
ほんと、お節介な妹だ。
大体、こういうチラシ。
いつも、どこから持ってくるんだか…あいつは。

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1.

特に何の用もなく訪れた興信所。
いつものように扉を開けて、リビングに荷物を置いて。
台所のチラリと見やる。
洗い終わった皿が、そのままで拭かれていない。
それで理解る事は、零が外出しているという事。
私はブレスレットを外し、手際良く皿を拭きだす。
別に決まり事ではないけれど。慣れたものだ。
皿を拭き、棚に戻す私。
黙々と作業しつつも、感じる視線。
私は顔をしかめて言う。
「何だ。気持ち悪いな」
「気持ち悪いって何だよ。ひでぇ」
ソファに座り、こちらをジッと見やっていた草間は苦笑して言った。
「ニヤニヤしながらジッと見られれば、気持ち悪いだろう」
棚の扉を閉めて言う私。
また、何かよからぬ事でも考えているのだろう。
有力なのは、また何か手伝ってくれとか、そういう類か。
まったく、ワンパターンな奴だ。
わかりやすいといえば、わかりやすいが。
半ば呆れつつ苦笑し、リビングに戻り。
草間と向かい合うようにソファに腰を下ろす。
その時、草間の口から、予想外の言葉が零れた。
「たまには、俺とデートしませんか」
突然の事に呆けて。私はキョトンとしたまま、ただ一言。
「…しません」
妙な口調で、そう返した。
だがしかし、予想外とはいえストレートな誘いに動揺しないわけがなく。
自身の耳が、みるみる熱くなっていくのを、私は感じていた。
「即答かよ」
膝上にあった雑誌をバサリとテーブルに置いて苦笑する草間。
その行動からは、本気なのか冗談なのか、わからなかったが。
その後、奴が困り顔で頭を掻いた為、冗談ではないと理解した。
本気だと知って、私は益々混乱する。
何なんだ、何故、突然そんな事を言い出したんだ。
急な頼み事は、もう慣れたから困りはしないが。
そんな誘いを唐突にするなんて、おかしいじゃないか。
そんな事を考えつつ視線を泳がせる私に。
草間は一枚のチラシをピラッと見せる。
それは ”スターライト・フェスティバル” と記された祭りのチラシで。
新聞やテレビ、街での噂で知り得ていた催事だった。
まさか、と思いチラシを見やっていると案の定。
「一緒に、行かね?」
草間は、はにかみ笑って言った。


まったく…零のお節介め。
別に、こいつと一緒になんて出掛けたくない。
私は、そんな事、一言も言ってない。
大体、こいつと出掛けても面白く…。
髪を結い上げつつ心の中でブツブツ文句を言う私に、草間が声をかける。
「冥月」
「ん」
振り返ると、草間は甚平を差し出して笑って言った。
「こっちの方が似合うよな。お前は」
ムカッとイラだった私はツカツカと歩み寄り、
ポカッ―
草間の頭を叩いて、浴衣を奪う。
何なんだ、本当に。
ストレートに誘ってきたかと思えば、逆撫でするような発言をして。
わからない男だ。お前って奴は。
呆れつつも、そそくさと零の部屋に向かい浴衣に着替える私。
零が置いていってくれた浴衣は黒基調。
所々に白い猫と花が散らされたもので。
見事に好みな浴衣に着替えつつ、何度も思った。
何だかんだで誘いを受けてる私って…と。
まぁ、折角だしな。祭りの、あの雰囲気は嫌いじゃないし。
天気も良いし。仕方なく、誘いに乗ってやったまでだ。ふん。
「準備できたか〜?」
着替え終わったと、ほぼ同時に部屋を覗きこむ草間。
高く結い上げた髪を揺らして振り返ると、
草間は満足そうに笑って言う。
「いいね。うなじ」
「…気持ち悪っ」
苦笑しつつ、草間に歩み寄って返す私。
「んじゃあ、行きますか」
甚平姿の草間は頭を掻きつつ、私をエスコート。
ふむ…意外と似合ってるな。それ。
口には出さないが。
祭りの会場へ向かう最中、
普段と違う格好で。並んで歩く私達。
道中、草間は私の胸元をチラチラ見やって、呟くように何度も言った。
「サラシがなぁ、邪魔だなぁ」
私は苦笑しつつ、馬鹿だなぁ、と何度も思う。

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2.

「おわぁ…すっげぇ人だな」
祭りの会場へ向かう道中、河原を歩きつつ言う草間。
河原の道は、同じく祭りへ向かう人で賑わっている。
確かに、すごい人だ。けれど、仕方ない事だろう。
この日を心待ちにしていた者も少なくないであろうから。
しかしカップルが多いな…。
端から見れば、私達もそう映るのだろうか。
などと考えてしまい俯く私。その時。
「う、わっ」
鳴れぬ下駄に足がもつれて転びそうになる。
それを支えて笑う草間。
「だいじょぶか?」
「あ、あぁ。ちょっと足がもつれて…」
言うと、草間は躊躇う事なく。
私の手を握って言った。
「はぐれないように」


手を繋ぎ歩く会場。
気恥ずかしさからか、雑踏の中でも鮮明に聞こえる自身の下駄の音。
俯いたままの私に、草間は射的を指差す。
私はコクリと頷き、誘いに乗る。
…そうだ。折角来たんだ。楽しまねば損だな。そう思いながら。
「どれが欲しい?」
片目を閉じて構えつつ言う草間。
私は並ぶ景品をサッと見やって目を伏せ。
「別に、どれでも」
そう言って、射的出店のオヤジに千円札を渡して尋ねる。
「それで何回できる?」
「丁度、五回だよ」
にこやかに笑って答えるオヤジ。
私は「そうか」と返して、玩具銃を手に取る。
「できんのかぁ?」
隣で嫌味に笑って言う草間。
私はフッと笑い引き金を引く。
パンッ パンッ パンッ―
連続で間を開けず三発。
放たれたコルク弾は、全て見事に景品を叩き落とした。
周りで見ていた野次馬がザワめく中、
草間は苦笑しつつ一発。
パンッ―
草間もなかなか見事なもので。
一発で景品を叩き落とした。
「な〜んか。あんな事された後だと、霞むなぁ」
ちょっと不満そうに笑いつつ、落とした景品をオヤジから受け取り私に差し出す草間。
草間が取ったのは、綺麗な紫陽花の簪で。
素直に綺麗だなぁと見惚れる私を見て、
草間は笑いつつ簪を私の手から取ると、
「お。似合う似合う」
私の髪に、その簪を挿して、満足そうにそう言った。
そんなに照れる事をされたわけでもないのに、私は頬を染め。
俯きつつ、自身が取った景品を草間に押し付けた。
「あっはは。サンキュ。可愛い事すんなぁ、お前」
渡された景品に嬉しそうに笑う草間。
別に狙って獲ったわけじゃないのに。
草間に渡した景品は煙草やジッポなど、奴の喜ぶものばかりだった。
無意識の内に。そう思うと気恥ずかしさは更に増してしまう。


手を繋いだまま、二人で巡る祭り。
喉が渇いたと呟くと、草間は飲み物を買いに行こうと私の手を引いた。
トロピカルジュース。
普段は絶対に口にしないであろう、その飲み物は甘くも喉越し爽やかで。
喉を潤した私は、出店のオヤジから釣りを受け取る草間をチラリと見やる。
私を見て、ニヤニヤと笑って言う店のオヤジ。
「おいおい、武彦ぉ。彼女、べっぴんさんじゃねぇか」
口調から察するに、このオヤジは草間と顔見知りらしい。
草間はオヤジの言葉に不敵に笑うと、
チラチラとこちらを見やりながらオヤジの耳元で、何かを囁いた。
何を言ってるんだ…。
気になりつつも、顔を背ける私。
その途端、鮮明に耳に飛び込んでくる会話。
「マジでかい。いいねぇ、巨乳さん。羨ましいこった!」
「だろ〜?!はっはっはっ」
私は、バッと振り返り草間を睨みやる。
この、馬鹿っ。変態っ。
何て話してやがるんだ。
睨みやりつつも頬と耳を赤く染める私。
調子に乗った店のオヤジは、更に下品な話を草間に持ちかける。
「で?夜のアレは、どうなんだ?ん?」
そこまでツッこまれると、草間も迷惑なようで。
「じゃーなー」
逃げるように、店の前を去った。
まぁ…実際、そこまでツッこまれると、ネタがないからな。私達には。
…いや、別にそれが不満だという事ではなくて。


暑さと恥ずかしさで、長時間繋いでいると、手が汗ばむ。
それが嫌で、ゆっくりと繋いだ手を解く私。
すると草間は私を見やって笑うと、自身の腕を勧めた。
躊躇う事なく、腕を絡める私。
自分でも驚くほど、自然な流れ。
伏せ目がちに大人しく草間と並んで歩く私。
妙に落ち着く雰囲気。
でも、それはすぐさま崩された。
「おや。これはこれは、お似合いのカップルだ」
聞き慣れた、その声にハッと我に返って顔を上げる。
すると、そこにはニヤニヤと笑う蓮の姿。
「一人で来たのか?」
平然と蓮に話しかける草間。
「いいや。友人とね」
「男?男?」
「うるさいよ。関係ないだろう」
他愛もない話で盛り上がる草間と蓮。
蓮に、バレないように絡めた腕を解こうと試みるが、
草間は楽しそうに話しつつも腕に力を入れていて、それをさせてくれない。
「じゃあ、友人が待ってるから、そろそろ行くよ」
扇子で自身を仰ぎつつ言う蓮。
心のどこかで、早く帰れっ。と思っている自分がいた。
去り際、蓮は私の耳元で小さく囁く。
「腕なんか絡めて。過去や業は吹っ切れたのかい?」
「…っ。げっ、下駄が合わなくて!」
蓮の問いかけに慌てて力任せに絡めた腕を解く私。
そんな私を見て、草間と蓮は顔を見合わせて笑った。

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3.

「過去や業って何の事だ?」
帰り道、再び河原を歩きつつ草間が問う。
私は俯き、何も言えず。
お願いだから、それ以上ツッこんでくれるな、という思いを込めて、再び腕を絡める。
はぐらかされた事を悟り苦笑する草間。
けれど、再び絡んだ腕に、とりあえず満足なようで。
それ以上、深く聞こうとはしなかった。
ポツリポツリと帰路につく人々で賑わいだす河原の道。
妙に耳に優しい子供の笑い声と、ゆっくりと遠ざかっていく祭囃子。
不思議な、暖かい空間。
心地良いそれに身を任せていると。
「あ」
草間が空を指差した。
パッと顔を上げると、夜空に二つ。
仲良く並んで流れる流れ星が。
けれど願う暇なんぞなく。星は、すぐに消えてしまった。
ピタリと足を止める草間。
「どうした?」
不思議そうに見やって問うと、
草間は私の顔をジッと見やって言う。
「何か、願い事したか?」
「いや。別に。そんな暇なかったし…お前は?」
「うーん。どうかな。冥月の協力があれば、すぐに叶う気がする」
「…はぁ?」
意味のわからない台詞に苦笑しつつ首を傾げる私。
その途端、草間の顔が目の前に。
突然の事に言葉を発せず、ただ目を丸くしていると、
唇が重なった。
雑踏も人々の話し声も祭囃子も。
何も聞こえない無音が暫く続いて。
ゆっくりと離れる唇。
閉じていた目を開いて、悪戯が成功した時の子供みたいに笑って。
「不意打ち」
そう言って私の頭を撫でやる草間。
突然の事に思考が停止し、硬直状態だった私は、
その台詞で我に返り、慌てて草間から離れる。
ブツン―
「あっ」
図ったかのように切れる鼻緒。
様々な羞恥に一斉に襲い掛かってこられ、
私は、その場にしゃがみこみ、急いで巾着から布を取り出そうとする。
「いいって。面倒くせぇだろ」
すかさず、それを阻止する草間。
「そんな事言ったって、これじゃあ…」
首まで真っ赤に染めて困り顔で見上げる私。
草間はヘラッと笑って。
「少しは、頼ってくれてもいいんじゃねぇか」
そう言って、ヒョイッと私を抱き上げた。
「ひゃ…!ちょ、は、離せっ…」
抱きかかえられたまま慌てふためく私。
ところが草間は相手にせず。
ケラケラと笑いながら歩き出す。
離せ、下ろせと言っていたのも、はじめの内だけ。
いつしか私は文句を言うのを止め、
大人しく草間に抱きかかえられていた。
「…重くないか」
呟くように言うと、草間は嫌味に。
「重くないような気がする」
そう言って目を伏せ笑った。

どうかしてる。

影の中に、下駄の予備なんて幾らでもあるのに。
何だか、おかしいんだ。頭が。
蓮と鉢合わせてから。
あの時、虚ろな意識の中で話した事で一杯になってしまって。

どうかしてる。

興信所につくまでの十五分。
暖かい草間の腕と、小さな祭囃子の中。
私は、何度も思う。

どうかしてる。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵



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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/07/27 椎葉 あずま