コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


オトメ・トーク

------------------------------------------------------

0.オープニング

気まぐれさ。
特に深い意味は、ないよ。
珍しくもないだろう?
私が、話し相手になるくらい。

自分の恋愛を深く語るのは好きじゃないけど。
人の恋愛を深く聞くのは好きなんだ。あたしは。
たまには、良いじゃないか。

今日は店も暇だし。
聞かせておくれよ。
あんたの甘い、とっておきの話を。

------------------------------------------------------

1.

特に用事があったわけじゃなくて。
何となく、近くを通りがかったから。
ひやかしに来たみたいで何だかアレだけど、
蓮さんのお店って、何だか落ち着くのよね。
この雰囲気とか香りとか。
自室に、ちょっとだけ似てるからかな。
何の気なしに並ぶ商品を眺めていると、
カウンターで頬杖をつく蓮さんが、突然クスクス笑い出した。
「えっ。なぁに?」
振り返り、キョトンと見やって言う私。
すると蓮さんは綺麗な桃色の茶葉の入ったガラスケースを見せて言った。
「たまには、ゆっくりと話さないかい?」
ふぅん?美味しい紅茶をふるまうから、話相手になれって事ね?
何だか、怪しいなぁ。
「何か、企んでるんじゃないの?」
笑って問うと、蓮さんは肩を竦めて苦笑。
「冗談よ。付き合うわ」
私はカウンターに歩み寄り、ニコリと微笑んで言った。
たまには、良いかもね。
こう言っちゃ何だけど、今日はお店、暇そうだし。
蓮さんと、ゆっくり話をした事って、そういえばないかもしれないもの。


美味しいピーチティ。
今日は暑いから、とアイスでふるまってくれたそれは、
目を丸くする程、甘くて美味しくて。大満足。
ニコニコと微笑む私を見て、テーブルに頬杖をつく蓮さんは、
「子供みたいだね。あんたって」
そう言って、数滴ガムシロップを落とした自身のピーチティをマドラーで掻き混ぜる。
子供みたい?そんな事、久しぶりに言われたわ。
凄く親しい人には、たまぁに言われるの。
何なのかしら。気を許してるからなのかな。
フフと笑い、紅茶と一緒にふるまわれたマフィンをフォークで崩す私。
蓮さんは、そんな私に、唐突に問う。
「あんた、好きな男はいるのかい?」
「…へ?」
キョトンと呆ける私。
すると蓮さんはクスクス笑って。
「今更だったね。こんな質問」
そう言って紅茶を口に運ぶ。
確かに、そうよ。
今更だわ。
蓮さんが、知らないわけないじゃない。
自分で言うのも何だけど、私ってわかりやすいと思うし。
でも、まぁ…聞かれたら、答えるのが筋ってものよね。
話相手なんだもの。
それに、蓮さんの目的は、それなんでしょ?
恋愛話を聞きたい。
そういう事、よね?
そう思った私は淡く微笑んで、質問に答える。
「知ってのとおり、草間の所長さんよ」
「あっはは。あぁ、知ってるよ」
「そうよねぇ」
妙な会話に顔を見合わせて笑う私達。
けれど、話はそこで途切れる事なく。
蓮さんは、質問を続けてきた。
「どこが好きなんだい。あいつの」
その質問を聞いた瞬間、私は悟る。
蓮さんってば、とことん聞く気ね。
ノロけても、良いの?
私はクスクス笑う。

------------------------------------------------------

2.

好きな所、ねぇ…。
そうやって聞かれると、一言では返せないなぁ。
「んー…歩くテンポだとか、何気ない仕草とか…」
ポツリポツリと質問へ言葉を返していく私。
蓮さんは嬉しそうに微笑む。
「仕草?例えば?」
「んーとね。何か考え事してる時、こうやってホッペを触るとことか」
実演してみせて説明する私。
仕草っていうか、癖なのよね。あれって。
昔っから、そうなの。
真剣な顔つきで、摘むように頬を触る。
あれ、可愛くて好きなのよ。
「へぇ。よく見てるねぇ」
微笑みつつ、少し感心して言う蓮さん。
そりゃあね。見てるわよ。
どんな些細な事でも見逃さないように、一緒にいる時は見つめちゃうもの。
わかりにくい変化にも、敏感なんだから。
「他には?」
ほこらしげな私に、更に問う蓮さん。
他?うーん…そうだなぁ。
「何気ないフォローとか、声とか、肌触れた時とか…ふとした瞬間にジワーッとね。実感するの」
フォローは、いつも思うけど、上手だと思うの。
上手っていうか、もう、巧みって感じ?
された瞬間は気付かないんだけど、
後からハッと気付かされるのよ。
優しい人だなぁって。
声は…聞くと安心するっていうか。
低くて、ちょっと癖のある、あの声で。
名前を呼ばれた時とか、今だにドキッとしちゃうのよね。
肌が触れた時っていうのは…言わなくても理解るわよね。
そこまでツッこんできたりは、しないでしょ?
「ベタ惚れじゃないか。羨ましいこったね」
肩を竦めて苦笑する蓮さん。
私は頬杖を真似、少し首を傾げて言う。
「どっちが?」
「両方だよ」


「不満は?ないのかい?」
空になった私のグラスに紅茶を注ぎながら問う蓮さん。
私は「ありがとう」と感謝を述べつつ、質問に答える。
「あるわよ」
「あっはは。即答だねぇ」
「山ほどあるわよ。彼、意地悪だもの」
クスクス笑って言う私。
聞きたい言葉を遠回しに強請って、ちょっと困らせたり。
わざと嫉妬を妬かせたり。
気持ちを試すような事を言ったり。
子供じみた悪戯かもしれないけど、
私的には、いつもハラハラしちゃうの。
すぐに機嫌を損ねる程、子供な人じゃないけれど、
嫌な思いは、させたくないし。
不安にも、させたくないから。
「でもね、意地悪だけど、そういう所も好きなの」
「おやまぁ…参ったね」
「ふふ。期待があるから不満もあるわけですから」
「なるほどね。上手く回ってるねぇ」
「でしょ?」
ままならない部分があるのは、私だって同じ。
ううん、寧ろ彼が私に不満を抱いてる事の方が多いんじゃないかな。
私って、突然ポーンと思いもよらない事するみたいだから。
いつもペタッと傍にいるのに、
惚れた本に出会った時や、翻訳の仕事の締め切り間際とか、
意識がパッとそっちに行っちゃうのよね。
夢中になっちゃって周りが見えてないものだから、
大きな声で呼ばれたり、強引に手を引かれたりしないと帰って来れなくて。
ご飯の用意とか家事全般は、抜かりなくこなすんだけどね。
で、作業が落ち着いたら、またすぐにペタッとくっつくの。
呼ばれて戻るって事は、滅多にないから、
自然と戻るって感じなのよね。
この辺の周期が不規則で予測できないのとか、
案外うっかりしてて、大切な事を伝え忘れてたりとかしちゃって。
目が話せなくて、大変な思いしてるかもなって、いつも思ってるの。

------------------------------------------------------

3.

「結婚は?」
唐突にツッこんだ質問が飛んできて、
私は思わずグッと息を飲む。
「え、えぇっ…?結婚…?」
苦笑して言う私。
蓮さんは、私の目を真っ直ぐに見やって言う。
「そう。少しは考えたこと、あるだろう?」
「うーん。そうね…」
まったく考えないって事はないかなぁ。
真剣に想って、一緒にいるわけだから。
「向こうが、その気ならねぇ」
苦笑して言う私。
「心の準備はできてるわけだね」
微笑み目を伏せる蓮さん。
「一応ね」
準備っていうか、何ていうか。
彼が、私の事を人生要素の一つ、伴侶として考えてくれるなら、
それは、すっごく嬉しい事だもの。
断る理由なんて、どこにもないわ。
今も色々あるけど、繋がってると思うのよ。
でも、今よりもっと頑丈な、見えない鎖で繋がれるのも…悪くないかなぁ。なんて。
「蓮さんは、結婚願望とか…ないの?」
ふと気になって尋ねる私。
ほら、大切な人の存在は、もう明るみになってるわけだし。
ちょっと特殊な関係なのかもしれないけど、
互いに想いあってるのは、確かでしょ?
彼との未来は…蓮さん的には、どうなのかなって思ったの。
私の質問に蓮さんは何も答えず。
肩を竦めて苦笑するばかり。
はぐらかした…。
私の事は、根掘り葉掘り聞くくせに。
自分の事は話してくれないのね。
聞きたいのに。意地悪な人。


私は、あの人の事が好きです。
あの人の、こういう所に どうしようもなく惹かれていて。
あの人の、こういう所に 少し不満を抱いて。
不安なところも、いたらないところも、たくさんあるけれど。
それでも、やっぱり。
私は、あの人の事が好き。
こういう想いを実感できるのは、
人に話して、聞いてもらって。
そう、聞いてくれる人がいてこそ。
私はあんまり、こういう恋の話を人に軽々しく話したり、
相談したりするタイプじゃないんだけれど。
不思議ね。
蓮さん相手だと、すんなりと話せてしまう。
美味しい紅茶と、蓮さんの優しい笑顔の所為かな。
端から見れば、恋愛尋問みたいな光景なのに。
どうしてかしら。
とっても、とっても楽しくて。
私は、その後も蓮さんと話し続けた。
愛しい彼の事を。
彼への想いを再認するように。
時折、質問返しのカウンターを放ちながら。




カランカラン―
開く、店の扉。
窓を見やり、空がオレンジ色に染まっている事に、そこでようやく気付く私達。
「こんばんは〜…って、あれ?何か、取り込み中です…か?」
店内に入ってきた お客さんは、私達を見やり遠慮がちに言った。
蓮さんはクスクスと笑い席を立つと、
お客さんに向けて、いつもの妖しい笑みを浮かべ、返す。
「いいや。丁度済んだ所さ。いらっしゃい」
蓮さんの言葉と表情に、私はフフッと笑い。
グラスに残った紅茶を飲み干し立ち上がって告げる。
「ごちそうさま」
蓮さんは私の肩にポンと手を置くと、
目を伏せ肩を竦めて言った。
「こちらこそ」

------------------------------------------------------


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
           ライター通信          
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/01 椎葉 あずま