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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


スターライト・フェスティバル

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0.オープニング

星振る夜に、愛しい彼(彼女)と素敵な一時を…―

読み上げるだけで恥ずかしくて、
体が痒くなるキャッチフレーズ。
零が出掛けに置いて行った、一枚のチラシ。
例によって、いつもの”お節介”だ。

いつもなら、こういうイベントは連れて行けと強請るけど。
今回は違う。
”誘ってあげたら?”
そういう意味合いを込めて置いていった。
ほんと、お節介な妹だ。
大体、こういうチラシ。
いつも、どこから持ってくるんだか…あいつは。

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1.

洗濯物を終えてリビングに戻ってきてみれば。
ソファに、ぐでーんと座って何かをジッと見やってる武彦さんが。
零ちゃんは…お買い物行ったのね。
いつも、棚の上にある、お買い物用の財布がなくなってるもの。
で。武彦さんは、一体どうしたのかな…っと。
ヒョイッと覗き込む私。
武彦さんが見やっていたのは、お祭りのチラシ。
あぁ、そういえば…今日だったわね。それ。
私は背後から抱きつくと、チラシを指でつついて言う。
「また、零ちゃん?」
私の目を見やって苦笑する武彦さん。
正解、ですか。
私もつられてクスクス笑う。
いつからか、お決まりになったわね。この展開。
ほんとにもう。可愛い事するんだから。
それにしても、いつもいつも、どこから持ってくるのかしら。
こういうチラシって。
チラシを見やりつつ微笑む私。
スターライト・フェスティバルという、このお祭りは今年から始まった催し物で。
河原近くの広場に多くの出店が並ぶという、
何の変哲もない、夏祭り。
けれど祭名にある通り、星が深く関わっているようで。
関係者の友人に、チラッと聞いた話によると、とにかく星尽くし、らしいわ。
どういう事なのかは、行ってからのお楽しみって言ってた。
何だろうって、ちょっと気になってはいたのよね。
都合がつけば、零ちゃんと武彦さんと三人で行きたいなぁ、って。
でも、最近色々と忙しくて、すっかり忘れてた。
そんな事を思いつつチラシを凝視する私を見て、
武彦さんはハハッと笑う。
「んっ。何?」
目をパチクリして問う私。
すると武彦さんは私の頭を撫でて言った。
「そんなに行きたいのか?」
「え。ううん。そういうつもりじゃなくて、ちょっとボーッとしてただけ」
私の言葉に武彦さんは頭を掻いて、困り顔。
ん?ん?ん? 何?何なの?何で、そんな顔するの?
キョトンとしていると、武彦さんは苦笑して。
「参った。予想外の返答だった」
そう言ってチラシをテーブルの上に置いた。
「?」
意味がわからず、キョトンとしっ放しの私に。
武彦さんは意を決した表情で告げる。
「いいや。もう遠回しとか」
「ん?」
「シュライン。たまには、俺とデートしませんか」
「………」
一瞬呆け、数秒の物思い。
そして、すぐに全てを理解して。私は笑う。
「うん。喜んで。…嬉しい」


零ちゃんが準備しておいてくれた浴衣。
紺色のそれは、すごく綺麗で。
零ちゃん、確実に”おしゃれ目”が鍛えられてるなぁ…なんて思いつつ。
くすぐったい気持ちで、手際良く着替えを。
わぁ…何だか、新鮮。久しぶりだなぁ。浴衣なんて。いつ以来だろ…。
鏡の前で一回転し、出来栄えを確認。
うん。もうちょっと…帯、緩めた方が良さそうね。
髪は…やっぱり、結わないとね。締りがないっていうか。
どうせなら、思い切り高い位置で…バレッタ代わりに、簪を。
後れ毛が…何だか、みっともないような気がするなぁ。
これは、ピンでピシッと留めて…。
ん…待てよ。ちょっと残しといた方が良いかも。
セクシィに、うなじアピール。みたいな…?
そんな僅かな”計算”も交えつつ。
ササッと迅速に、且つ丁寧にナチュラルメイクを施して、
仕上げに香水でも。
ふっと目に入るのは、先日 蓮さんに貰った香水達。
…いや。さすがに、今日は、ちょっとね。
ここはやっぱり、爽やかに。湯上り石鹸の香りで。攻めてみましょうか。
この香水、若い頃は良く使ってた…っていうと何だかアレだけど、
最近は、あんまり使ってないからなぁ。
慣れない香りだと、落ち着かない感じもするし。
耳後ろに、ほんのりと。指でトントン、と。少しだけ。

「お待たせ」
支度を済ませ、玄関で待つ武彦さんの元へ向かう私。
浴衣姿の私を、武彦さんはジーッと見つめる。
「う…。へ、変なとこ、ないかしら」
真っ直ぐな眼差しに、若干戸惑いつつ言う私。
武彦さんはハハッと笑って。
「見当たりませんね」
そう言って頬を掻きつつ扉を開けた。
その仕草は、照れ隠しの一種。
良かった。気に入ってくれたみたい。
零ちゃんに、感謝感謝、ね。

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2.

言いそびれちゃったけど、甚平姿の武彦さんも、素敵よ。
意外と、何でも似合っちゃうのね。あなたってば。
慣れない下駄に、足元心許なく、
武彦さんの裾端を摘んで、半歩後ろをチョコチョコとついて歩きつつ微笑む私。
お祭り会場へ向かう人で賑わう河原の道。
子供達の無邪気な笑い声と、鈴虫の歌声。
カランコロンと音をたてる、幾つもの下駄の音に、心が自然と踊っていく。
道中、武彦さんは振り向かず前を向いたまま、呟くように言った。
「いー匂いだな。それ」
「ふふ。ありがとう」




会場に到着して、私は、わぁ…と声を漏らす。
友人の言ってた意味が理解できたから。
”星尽くし”
まさに、その通り。
色とりどりの星型電球で鮮やかに染められている会場。
出店に並ぶ商品も、星型モチーフのものばかり。
忙しそうに動き回る、祭りの関係者であろう人達も、可愛い星柄の浴衣と甚平。
右を見ても左を見ても。どこを見ても、星尽くし。
「ふふ。素敵ね」
微笑み、武彦さんに寄り添って、感想を漏らす私。
武彦さんは人込みを前に苦笑して頭を掻きつつ。
「そだな」
一言、そう返すと。
私の手をキュッと握って、出店の並ぶ人込みの通路へ歩き出した。


人込みを掻き分けて、時折少し背伸びして出店を見やる。
そんな事を繰り返している内、気になる出店に遭遇。
「ね。見て。星屑ワインだって」
「飲みたいのか?」
「うん。ちょっと」
「へいへい」
私の望みを聞いて、武彦さんは上手に人の間を縫い出店の前へ。
星屑ワイン。
名前が気に入ったっていうだけで、様子を見に来てみたけど。
商品を見て、私の心は完全に捕らわれてしまった。
ラムネ瓶のような容器。栓する星型のキャップ。
中でユラユラ揺れる、黄色いワイン。
「可愛い…!」
思わず叫んでしまう私。
武彦さんは優しく微笑みつつワインを二本買うと、一本を私に差し出した。
「ありがとう」
ウキウキしながら、即座にキャップを外す私。
すると、パチンと栓の抜ける音に混じって、
瓶の中の小さなガラス玉が鈴の音のように鳴り響いた。
「凝ってるな」
笑いつつワインを口にする武彦さん。
「お味は?」
問いつつ私もワインを口に運ぶ。
甘酸っぱくて、爽やかな喉越し。うん。美味しい。
再び手を繋ぎ、会場を巡りながら。
「この瓶、捨てるの勿体ないなぁ…」と呟く私に。
武彦さんは、可愛く呆れ笑いをして「止めないから、持って帰れ」と言った。
子供扱いされてるみたいで、ちょっと頬をふくらませる私。
そんな私の頭を武彦さんが小突く。
甘い遣り取りの最中。見慣れた姿と擦れ違い。
「あっ」
私は声を上げ、ピタリと立ち止まって振り返る。
振り返った先にいたのは蓮さんで。
蓮さんも振り返って、こちらを見やってクスクス笑っていた。
「何だい、邪魔しないように気付かないフリしてやったってのに」
笑って言う蓮さん。
「あははっ。蓮さんも来てたのね」
「あぁ、友人とね。けれど、はぐれちまって…」
「え。そうなの?一緒にさが…」
「いいよ。折角のデートだろ。楽しみな」
協力を拒み、妖しく微笑む蓮さん。
蓮さんは武彦さんの胸にポスッと拳をあてて。
「じゃあね」
そう言い残して去って言った。
何かしら。今の遣り取り。意味深な気が…。
不思議に思い、私は武彦さんを見上げ問う。
「何?今の」
「ん?一昨日…いや、何でもねーよ」
武彦さんは何かを言い掛けて止め、苦笑して再び歩き出す。
「…?」
一昨日?何かあったのかな?
まぁ、いっか。後で、詳しく聞こうっと。
はぐらかしても無駄だからね。ふふ。


「よっしゃ…」
真剣な眼差しで構える武彦さん。
私は隣で頬杖をついて、彼の横顔に見入る。
「どれが欲しい?」
「んー…」
聞かれて私は並ぶ商品に視線を移し。
一番に目に入った、綺麗な時計を指名。
「あれ」
「何でまた、狙い難いもんを…」
クックッと笑いつつも、狙い定める武彦さん。
眉間の皺。揺れる睫。
子供みたいな、真剣な表情。
私、好きだなぁ。あなたの、そういう表情。
妙な幸福感に満たされつつ、ジッと見入って数秒。
パンッ―
コトッ―
放たれたコルク弾は、見事に指名商品を叩き落とした。
「わ。凄い凄い!」
思わず抱きついて笑う私。
武彦さんは照れ臭そうだけど、少し誇らしげに。
玩具銃の銃口をフッと吹いて見せた。
「はいよ。おめっとさん〜。お見事だなぁ。にぃちゃん」
落ちた商品を武彦さんに渡しつつ言う射的屋のオジさん。
「はっは。まぁね」
笑いつつ調子に乗って、商品を私に差し出す武彦さん。
差し出された商品を受け取り、満面の笑みを浮かべる私。
そんな私をチラッと見やって。
オジさんは、武彦さんの頭をグリッと小突いて言った。
「オマケに彼女も美人ときてる。羨ましいねぇ」
オジさんの言葉に、私を見やる武彦さん。
微笑みつつ首を傾げる私。
すると武彦さんは、オジさんの肩にポンポンと手を置いて返す。
「だろ〜?けど、心配でしゃーなくてよ」
「がっはっは。贅沢な悩みじゃねぇか」
二人の会話に込み上げる笑い。
我慢したけれど、無理で。
「ぷ」
私は吹き出してしまう。
だって、凄いんだもん。
珍しいじゃない。武彦さんが、人前でそんな事言うなんて。
けど、うん。嬉しい。嬉しいな。
「よぅし。オジさん、もう一回っ」
小銭を博打のように、射的台にパシーンと置いて言う私。
「おっ。ねぇちゃん、ノリノリだねぇ!」
「おぅよ!」
私の妙な口調にケラケラ笑う武彦さん。
嬉しい気分にさせてくれたから。
オジさんには、お礼しなくちゃ。でしょ?

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3.

両手に抱えきれないほどの食べ物と、戦利品。
河原の道を歩きつつ、私は微笑み言う。
「勝ち戦ね」
「快勝完勝だな」
うん。ほんとにね。
でも、ちょっとビックリしちゃった。
射的で味を占めて、二人ともノッちゃったね。
景品を根こそぎ持っていかれて、
笑うしか出来ずにいたオジさんは不憫だったけど。ね。
うん。凄く楽しかった。
来て良かった。
零ちゃんも一緒に来れたら良かったのにな。
って…もしかしたら、来てるのかもしれないわねぇ。”彼”と。
なぁんて。不機嫌になられちゃあ、
折角の良い気分が台無しになっちゃうから、口には出しませんけど。
「シュライン」
「ん、んっ?」
零ちゃんの事を考えていた私は、声を掛けられて思わず、どもり。
エスパーじゃないんだから、考えてる事なんて わかんないだろうけど。
それでも、こういう時って少しドキッとしちゃうのよね。
それに、長い付き合いだもの。
エスパーなんかじゃなくても、
考えてる事くらい、わかるよって言われてもおかしくないしね。
「ちょっと休まねぇ? 疲れた」
思っていたささやかな不安は、どうやら思い過ごしのようで。
武彦さんは綿飴にカブりつきつつ休憩希望を出した。
「うん。そうね」
私は微笑み頷いて。
道から少し逸れた芝生に腰を下ろす武彦さんの隣へ。


「足が痛ぇ」
足を擦りつつ苦笑する武彦さん。
私はペシペシと武彦さんの背中を叩いて笑う。
「日頃、運動不足だからよ」
「っはは。ごもっともで」
とは言え、私も。ちょっと疲れちゃってるのよね。
はしゃぎすぎちゃったみたいで。
子供の頃は、まだまだ元気に駆け回ってたのに。
やぁねぇ…って、何だかな。
二人して、もう。年寄り染みてて、笑えちゃう。
「明日も、晴れそうだな」
食べ終えた綿飴の割箸を咥えつつ、夜空を見上げて言う武彦さん。
私も夜空を見上げて「そうね」と頷く。
確か、明日からしばらくは猛暑が続くのよね。
武彦さんも私も、暑いのは ちょっと苦手だから お互い大変ね。
涼みに、山とか海とか…行きたいなぁ。
綺麗な月が浮かぶ夜空を見つつ、そんな事を思っていると。
ヒュッと夜空に白い光が、連続で二回走った。
流れ星だ。
反射的に目を伏せて、願いを託す私。
隣で武彦さんは笑って。
「まさに星祭りだなぁ」
そう言うと、咥えていた割箸を煙草にチェンジし、火をつける。
マッチの擦れる音で目を開き、
月明かりに照らされる武彦さんの横顔に見入る私。
「何か、願い事したか?」
フッと私の方を見やって問う武彦さん。
私はクスクスと笑い、返す。
「内緒」
咄嗟に願ったのは、武彦さんの体の事。
ちょっと前に、とある人から気掛かりな話を聞いたからかな。
そんなに気に留めてたつもりはないんだけど。ね。
でも、思えば勿体ない事しちゃったかも。
私と武彦さん、二人の事を願うべきだったような…。
ま、いっか。
一緒にお祭りに来れて、満喫して。
流れ星まで見れたんだもの。
それだけで、十分。私は幸せだわ。
煙草を吸い終えるまでの、ほんの三分足らずの時間。
私は、そっと武彦さんの肩に頭を預けて目を伏せる。
祭囃子と笑い声の中。
確かに聞こえる愛しい人の鼓動に酔いしれて。
また、来年も。
一緒に来れたら良いね。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。

途中、武彦と蓮の意味ありげな遣り取りがありますが、特に内容は決めていません(笑)
シュラインさん関連なのは確かなので(笑)お好きに想像していただければ、と思います^^
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/03 椎葉 あずま