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限界勝負inドリーム
ああ、これは夢だ。
唐突に理解する。
ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
目の前には人影。
見たことがあるような、初めて会ったような。
その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
頭の中に直接響くような声。
何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
このまま呆けていては死ぬ。
直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。
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火宮 翔子は、すぐに自分の武器を確認する。
相手が近付いてくるその短い間に、自分の出来る事を確かめなければ。
手に持っているのはコンバットナイフとセミオートの拳銃。拳銃の方は弾丸十六発入り、換えのマガジンは腰に一つ。
あと、服の中に隠れている投げナイフが三本、ポケットに火符が三枚、ブーツには毒を塗ったスティレットが両足に一つずつ隠してある。
火符は使い捨て型のようで、一度使うと燃え尽きてしまうらしい。大事に使わなければ。
この情報は、自分で確認しなくても自然と頭に流れ込んできた。
これは自分の夢だからわかっているのか、それともこの戦いを仕組んだ者からの優しさか。
「どっちにしたって構わないわ。今はやれることをやるだけ」
拳銃を構え、前方の敵を見やる。
するとその人影は、もう人の形を保っておらず、身の丈三メートルはあろうかという化け物に変わっていた。
パッと見、昆虫っぽい。身体は三つの部位に分かれており、胸の辺りから三対の足……いや、あれは腕だろうか、ともかくそれが生えていた。
背中には大きな羽があり、それを使って空を飛ぶ事も可能なようだ。実際、今の所低空でホバリングしている。
「気持ち悪いわね……。すぐに仕留めてあげるわ」
ウニウニと動いている、足の役割をしているらしい腕が吐き気を誘う。
あまりマジマジ見つめているのも気分が悪くなるので、構えた拳銃で一発撃つ。
射程的には問題ない。敵が動かなければ当たる距離。だが、そこは当然回避行動をとられる。
敵は一つ、大きく羽ばたいて大空に飛び出した。
「……厄介ね。距離を取られると今の武装じゃ……」
手元にあるのはほとんど近距離から中距離の武器ばかり。火符を使えば遠距離にも対応できるだろうが、これは虎の子。易々とは使えない。
最悪、目の力も使う事になるだろうか……。
だが、その力は外せば致命的だ。大きな賭けになる。とりあえず、出来る事があるうちは目には頼らない方が良さそうだ。
そんな事を考えている隙に、敵は急降下して翔子に襲い掛かってきた。
慌てて飛び退き、相手の突撃を交わした後、しっかり体勢を立て直して銃を構える。……が、引き金を引くよりも早く敵はまた空へ戻っていった。
「っち! やり難い……ッ!」
翔子の戦闘スタイルは力よりも速さや技を重んじるタイプ。それ故にあまりパワーには自信は無い。
だが、どうやら敵も速さに物を言わせるタイプのようだ。それも、どう考えても翔子より速い。そこは人の括りを超えられない翔子にとって大きな障害だった。
明らかに人外の敵は、常識外のスピードで攻めてくる。回避する事は出来るが、反撃が出来そうにない。
その回避も疲労がたまれば可能かどうか怪しいところだ。早めに決着をつけたい所である。
「こうなったら少し奮発しないといけないかもね」
そう言って翔子は投げナイフと火符を一つずつ取り出す。
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敵の急降下攻撃を、また躱す。これで七度目。
先程からほぼ的確に、翔子の真上から降って来る敵。ポリシーでもあるのか、その攻撃方法を変えてこない。
「戦い方に変なこだわりを持ってるヤツは、早死にするわよ」
そう言って不敵な笑みを浮かべた翔子は足元に向けて火符とナイフを投げる。
火符はナイフに貫かれ、地面に固定された。これで敵の羽ばたきで吹き飛ばされる事はあるまい。
そして敵はいつもどおり、翔子の真上から降って来る。
翔子も敵をギリギリまで引き付け、突撃を喰らう寸前でその場から逃げる。
そして、逃げる間際に火符を発動、爆発させる。
翔子の体も、多少爆風に煽られたが、大したダメージは無い。そういう風に火を操る事も可能だ。
代わりに敵の方は爆炎を頭からモロに浴び、顔面を焼け爛れさせている。
だが、まだ致命傷とまではいかない様で、気持ち悪くもその場でギチギチとのた打ち回っている。
「往生際が悪い!!」
翔子は敵の背に飛び乗り、ブーツに隠してあるスティレットを取り出して敵の甲羅ごと貫く。
敵は痛みで叫び声を上げ、もがきながらも羽をバタつかせる。まだ飛ぶだけの力は残っているらしい。
翔子は止めと言わんばかりに拳銃で頭を何発も打ち抜き、その着弾の中心をコンバットナイフで突き刺す。
だが、刃は途中で止まってしまった。爛れた肉は易々と切り裂けたが、その奥にあるらしい骨が貫けない。
銃弾で骨もダメージを受けていると思ったのだが、思った以上に固い。
これで終わりだと思っていたのだが、思わぬ計算違いだ。
敵は羽ばたきを強くし、翔子を乗せたまま大空に飛び上がる。
翔子は突き刺したスティレットを足場にして、敵の背中にしがみつく。
「やばいわね……振り落とされたら即死だわ」
チラリと地上を見てみれば、もうかなり遠い所に地面がある。
そんな事を考えている間もぐんぐん高度は上がり、軽く眩暈を覚えるぐらいの高さで敵が上昇を止める。
そして、今度は空を縦横無尽に駆け回る。本気で翔子を振り落としにかかっているのだ。
敵の背中はツルツルして掴みにくいが、それでも何とか落ちないように踏ん張り、ナイフが刺さった頭を目指す。
ナイフの柄に手がかかり、それに向かって拳銃のグリップを叩きつけた。
何か、硬いものが割れる音がし、敵は一瞬飛行を止める。
そして一瞬の静寂の後、敵はまっさかさまに地面へと急降下し始めた。今度のは翔子への攻撃ではなく、墜落であるが。
アリーナの観客席に突っ込み始めた敵。翔子は敵が客席にぶつかる直前に、敵の背中を蹴って安全な場所まで飛び退く。
敵は頭から客席に突進し、轟音を上げてその周囲数メートルを粉砕した。
翔子は少し離れた場所で拳銃のマガジンを入れ替え、銃口を敵に向ける。
しばらくそうしていたが、敵は動きそうも無い……。勝ったのだろうか?
いや、安心するのはまだ早い。こういう敵は総じて生命力が高い。頭を潰してもまだ動くヤツもいる。それどころか、あの潰した頭も擬態かもしれない……。
そう考えていると、案の定と言うべきか、敵は再び動き始める。
「動かない内に止めを刺しておくべきだったかしらね」
叫び声を上げ、またも空に浮かび始めた敵を見て、翔子は小さく反省した。
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足場が悪い、と客席からアリーナの方に降り、勝負はまた仕切りなおしとなる。
翔子は地上で、敵は空中でお互いを睨み合っている。
敵ももう、急降下一辺倒での攻撃はやめたらしい。頭を潰したと言うのに学習している辺り、あの頭が擬態、と言うのもあながち間違いではないかもしれない。
ともかく、相手が戦い方を変えたならこちらも考えなければならない。
何と言っても初期状態よりは、こちらが不利になっている点が多い。
武器を消費しすぎた。拳銃はマガジン一個分使い果たしたし、コンバットナイフは敵の頭に刺さりっぱなし。
符は一枚使ったし、投げナイフも一本失くした。スティレットは敵の背中にある。
使える武器は拳銃と、符とナイフ二個分。明らかに弱体化した。
敵の方は、多少のダメージは与えたものの、まだ飛行可能だし、傍から見るにその機動力に衰えは見られない。
スティレットによる毒もあまり感じて無さそうだ。これは期待薄だろう。
「さて、どうしたものかな……」
最終的にはやはり目に頼るだろうか……。いや、まだ出来る事はある。
最終手段に頼るにはまだ早い。
もう出し惜しみをしている場合ではない、と火符を取り出す。
後二枚の内の一枚。出し惜しみはしないが、無駄には出来ない。
符の出す炎で敵の肉を焼く事が出来る事は、先程実験済み。一枚でも致命傷になりえるはず。
ならば炎を変形させて、敵に巻き付けさせれば勝ちは見えてくるはず。
火術の天才、翔子ならばそんな芸当も出来ない事は無い。
翔子は符を敵目掛けて投げ、途中で火符を発動させる。
大量の熱量を持った炎は周りの空気をうねらしながら、敵へと驀進する。
だが、敵はその飛行の中で大量のりん粉を撒き散らし、その粉の外へと飛び出す。
炎はりん粉の中に突っ込み、粉塵爆破を起こして、りん粉の漂う方へと逸れて行った。
それは当然、敵のいる場所とは違う方向。火符は完全に回避されてしまった。
「……っな!?」
それに不意を突かれた翔子は一瞬、足を止めてしまう。
その隙を見逃さなかった敵は、すぐにその六本の腕で翔子を捕まえる。
「し、しまった!」
翔子の両手首を掴み、そのまま超スピードで地面を滑るように飛ぶ敵。当然、その間翔子は地面を転がる事になる。
そして敵は客席とアリーナを隔てる壁の前で翔子を放し、自分は上空へ。
翔子は慣性のまま、壁に激突した。
意識を失いそうになるような衝撃と痛み。背面を強打し、一瞬呼吸もままならなくなった。
だが翔子は気合で意識を繋ぎとめ、咳き込みながらも呼吸をする。
まだ、負けてはいない。
「……っち、虫けらのクセに随分やってくれるじゃない……」
頭から流れてくる血を拭いながら、敵を睨みつける。
満身創痍の翔子を見て、勝ちを確信したのか、敵は余裕を見せて空から降りてきていた。
「まだ死ねない……死にたくない。夢の中だからって、アンタみたいな人外に負けたくも無い」
翔子はその傷だらけの姿ながらも、強い光を瞳に宿し、敵を見据える。
そして最後の火符を取り出し、投げナイフを二本構える。
「これで最後にしてあげるわ」
翔子は敵目掛けて火符を投げつける。
敵はその火符を羽ばたいて吹き飛ばす。当然、紙である火符は風に煽られてあらぬ方向へ飛んでいく……のかと思いきや。
火符を追って飛んできたナイフによって軌道修正され、再び敵に向かって飛んでいく。
それに虚を突かれた敵は、また羽ばたく事もできず、その火符とナイフが自分の身体に到達するのを許してしまった。
「じゃあね、気持ちの悪い虫ヤロウ」
翔子の別れ台詞と共に、敵の体は火符によって激しく燃え上がった。
しばらくした後、火はおさまり、後には黒くこげた敵の姿だけが残った。
今度はまた動き始める、なんてことは無く、翔子の完全勝利となった。
「夢魔の類だったのかしら……。なんにしろ、ちょっと危なかったわね。もっと気を引き締めないと」
小さく自戒した後、すぐに目が覚めたのだった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【3974 / 火宮・翔子 (ひのみや・しょうこ) / 女性 / 23歳 / ハンター】
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■ ライター通信 ■
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火宮 翔子様、ご依頼ありがとうございます! 『ガリガリ戦闘! ガリガリ戦闘!!』ピコかめです。
若干久々だった気がするガチ戦闘。楽しく書かせてもらいましたッ!
戦闘技術というか、武器による多彩な攻撃を使ってみました。と言ってもあんまり多くない気もしますが。
スピードを活かすにも向こうのが上、技を活かそうにも攻撃手段が貧相、という事で奇襲的な戦法になりました。
勝敗的には辛勝、でしょうかね。もっとスマートに勝てそうだった気もしないでもないですね。泥臭い試合が好きなライターでごめんなさい。
ではでは、また気が向きましたらどうぞよろしく!
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