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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ウタウタイ・タケヒコ

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0.オープニング

無理やり連れてこられて、お兄さんはブツブツ文句。
私はクスクス笑いながら、
お兄さんの背中をポンポン叩いて宥める。
「たまには、いいじゃないですかっ」
「苦手なんだよ…こういうの」
頭を掻いて、溜息を落とす お兄さん。
そこまで嫌そうな顔しなくても…。
私は苦笑しつつ、店の看板を見やる。
何の変哲もない、カラオケボックス。
お兄さんは、柄じゃないって頑なに拒んだけれど、
無理やり連れて来ました。

だって、聞いた事ないんだもん。
お兄さんの歌。
意外と上手だったり…しないかな?

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1.

土曜の正午。
さすがに人通りが多いな…。
日用品の調達に繁華街に来た私。
買い物はすぐに済んだが、人波に揉まれて疲労困憊だ。
身の程知らずに声を掛けてくる馬鹿な男共をあしらうのも面倒だし。
まったく…毎度毎度、嫌になる。
溜息交じりにつく帰路。
いつもと、何ら変わらない。…はずだった。
「あぁっ!!冥月さん!冥月さ〜〜ん!!」
足早に歩く耳に、飛び込む聞き慣れた声。
ピタリと足を止めて見やれば、そこには零と…草間の姿。
…珍しいな。
街中で偶然出くわす事が、というのもそうだが、それよりも。
「…何してるんだ。こんなところで」
歩み寄りつつ問う私。
見上げる看板には”カラオケ”の文字。
二人の立ち位置からして、今まさに ここに入らんとしていた感じだ。
「歌いに来たんですけど。お兄さん、全然ノリ気じゃなくて」
草間を見上げ、困り笑顔で言う零。
…まぁ、それは。見れば理解るよ。
そんだけ眉間に皺寄せて、険しい顔してりゃあな。
「強制連行したんだろ」
苦笑しつつ言う私。
すると零は、プゥと頬を膨らませて、返す。
「だって。一度、ちゃんと聴いてみたいんですよ。お兄さんの歌」
こいつの歌…?私はジッと草間を見つめ、ふと思う。
そう言われてみれば、気にならない事もないな。
いや、寧ろ…ちょっと気になるかもしれん。
ムムゥと顔をしかめて、そんな事を考えていると、
草間がニタッと笑う。
その不気味な笑みに、嫌な予感。
一歩退き、本能的に、その場から離れようとした時。
ガシッ―
草間は私の腕を掴んで言った。
「冥月も一緒なら、入ってもいいかなぁ」
「んなっ…」
思ったとおりの展開だった。
腕を掴む手を振り払おうと必死になる私。
「は、離せっ」
すると零はニッコリと微笑んで。
「やだ、お兄さん。何を今更」
そう言って私の腰元に抱きついた。
見事な兄妹連携というか何というか…。
こういう時の、こいつらのチームワークときたら…。
グイグイと引きずり込まれるように、私はカラオケ店内へ。
「聞くだけだぞ!聞くだけだからな!」
何度も念を押す私に、二人は天使のような微笑みを浮かべた。


カラオケボックス店内。
慣れた感じでサクサクと部屋を決めた零。
最新曲がどうだとか、リクエスト曲がどうだとか…。
さっぱり理解らない遣り取りだったが…。
何というか、あれだな。
彼氏が出来てから、変わったな。零。
別に、悪い事じゃないと思う。
寧ろ、良い事だと思うよ。
今時の女の子って感じがして、悪くない。
反面、少し寂しいような気もするがな。
「よぅ〜し。歌いますよ〜」
マイクを準備しつつ、楽しそうに言う零。
私は草間の隣で、キョロキョロと室内を見回す。
へぇ。こんな感じなんだな…。
話を聞いたり、雑誌やテレビで見たりはしてるものの。
実際に入るのは初めてだ。
なかなか綺麗じゃないか。設備も充実しているし。
テーブルの上に乗っているメニュー表を見る限り、
食べ物や飲み物の種類も豊富じゃないか。
へぇ…酒まであるんだな。
目に入る全てが新鮮で、ただただ感心していると。
突然、大音量で音楽が。
不意の事に、ビクッと肩を揺らし、顔を上げる私。
するとモニターの前に立ち、マイクを持つ零が、
大きく息を吸い込んで、歌いだした。
『あなたに会いたくって♪あなたに会いたく〜って♪』
こっぱずかしい出だしに、思わず吹きだしそうになる私。
けれど、聴いた事があるぞ。この歌。
好き好んでは聴かないが、最近やたらとテレビやラジオで流れてるやつだ。
誰が歌っているのかとか、そういうことは全く知らんが。
歌う零は、とても心地良さそうで。
ご丁寧に、ちょっとしたダンスまで踊っている。
その姿が、とても可愛らしくて。
私はクスクスと笑いつつ、零のステージに見入る。

「ど、どうでした…?」
歌い終え、少し恥らいながら問う零。
私は微笑みつつ拍手を送る。
「たいしたもんだ」
「えへへ…嬉しいです」
頬を掻きつつ照れ、最新楽曲リストに目を通す零。
…歌う気、満々だな。私は笑う。

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2.

来てはみたものの…というか強制連行されたんだが。
私は、歌を聴くばかりで一切歌おうとはしない。
私同様、草間もだ。
入場して、かれこれ一時間。
零しか歌っていない。
私と草間は隣りあわせで座ったまま、
零のリサイタルの観客と化していた。
そんな状況が一時間も続いて、零が黙っているわけもなく。
『冥月さんも、歌って下さいよ〜』
マイクを通して強請る零。
私はフルフルと首を左右に振り”結構だ”のジェスチャーを飛ばす。
『冥月さんの歌、聴きたいです。ね?お兄さん?』
すかさず草間に話を振る零。
お前…そいつに振ったら、どうなるか理解ってて…。
チラッと見やると、草間は案の定ニヤニヤと笑っていて。
「一曲、お願いします」
そう言って膨大な楽曲が並ぶ分厚い冊子を差し出した。
「…断る」
目を逸らして即答する私。
すると零がマイクを持ったまま駆け寄り抱きつく。
『どうしてですかぁ〜』
「う、うるさいっ。マイクを切れっ、マイクをっ」
しがみついて離れない零をグイグイと押しつつ言う私。
草間は分厚い冊子をパラパラとめくりつつ。
「冥月って、どんなん歌うんだろうな」
独り言のように、そう呟いた。
…その台詞、そのまま貴様に返してやる。
入場後、一切マイクに手を着けていないのは貴様とて同じだろうが。
眉間に皺を寄せつつ、依然”歌って”としつこい零を引き剥がそうと試みる私。
私は、ただひたすらに断り続ける。
人前で歌うなんぞ…絶対に嫌だ。
ましてや、こいつの前でなんて。絶対に嫌だ。
頑なに拒み続けるも、じゃあ仕方ないと、この二人が言うわけもなく。
草間と零は、私を挟んで顔を見合わせ話し出す。
「聴きたいなぁ。聴いてみたいなぁ。なぁ?零」
『はい〜。聴いてみたいです』
「早く歌わないと、面倒な事になるってのになぁ?」
『そうですね〜』
ニヤニヤと笑いつつ、携帯を取り出す零と草間。
二人は揃って携帯カメラのレンズを私に向ける。しかもフラッシュ付きで。
こいつら…。
「どうする?冥月。今すぐ歌えば、録画は免れるぞ」
『どうします?』
何なんだ、貴様らはっ。
何なんだ、その見事な連携っ。
打ち合わせでもしたかのようなっ。
「…っくそ。一曲だけだぞ」
やむなく零からマイクを奪い、無愛想に言う私。
モニターの前へ、どうぞと促す零と草間。
『さっさと、しまえ!』
私はマイク越しに二人へ携帯を戻せと叫ぶ。
ケラケラと笑いながら携帯を懐に戻す二人を溜息交じりで確認して。
私は冊子をめくり、迅速に楽曲を選択。
勝手をよく理解せぬまま、リモコンを操作し、楽曲を機械へ飛ばす。
間もなく流れ出す、美しい音楽。
普段は、心安らぐものであるそれが、今は鼓動を速める…。
マイクを持つ手が震え、頬が耳が、どんどん熱くなる。
羞恥に苛まれたまま、私は目を伏せて。
声を放つ。


歌い終え、その場に崩れるように座り込む私。
「う、歌うのは苦手なんだ…」
顔を両手で覆い隠し、声を篭らせて言うと。
「上手いんじゃねぇのか。今の」
呟くように草間が言った。
続けて零が。ハッと我に返って拍手を。
「凄い!凄いです!冥月さんっ!!」
やたらと興奮している零。
草間は首を傾げて零に問う。
「今の、ドイツ語?」
「そうです。”エメリ”っていう…北欧では有名な曲です」
「へぇ〜…子守唄みたいだったな。安らぐっつぅか」
「あっ、まさに、そんな感じですよ」
盛り上がる兄妹を他所に。
私は恥ずかしくて顔を上げることが出来ずにいる。
「…あの人に頼まれても、殆ど歌った事なかったのに」
ポロリと漏れた私の言葉に。
草間は懐から煙草を取り出し、一言。
「誰だよ」
ハッとし、瞬きをして。私は俯いたまま返す。
「べ、別に…」
何だか…妙に嫌な空気が漂う中。
それを払うかのように、爆音。
ビクゥッと、少し大袈裟に肩を揺らす私。
爆音は隣の部屋からで。
次いで、がなるような声がビリビリと壁越しに伝わってくる。
爆音と、がなり声が耳に入った瞬間。
草間の態度が豹変。
「零。マイク寄こせ」
冷たい眼差しで言う草間に、零もたじろいで。素直にマイクを渡す。
マイクを受け取った草間は冊子をバラバラとめくり、
リモコンで楽曲を機械に飛ばすと、
片足をソファに乗せ、だらしない格好のままボソリと言った。
『俺の方が上手い』
しかもマイク越しに。
間もなく響き渡る爆音。
それは、あまりにも聞き覚えのありすぎるものだった。
「と、隣と同じ曲じゃないか…?」
座り込んだままキョトンと見上げると。
草間は大きく息を吸い込んで。
がなる。
脇目も振らず、一心不乱に。
卑猥な単語と、厭らしい言い回しの言葉を、幾つも。

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3.

零の耳打ちによると、隣の部屋から聞こえ、
後を追うように草間が歌った曲は、
十年程前に、ここ日本で流行った曲らしく。
原曲者であるバンドを、学生時代の草間は酷く崇拝していて。
それ故に、下手くそな歌い方に腹を立てているのだと言う。
理屈は理解るがな…ちょっと、やりすぎじゃないのか。
マイクを寄こせと言って、かれこれ一時間。
それまでの零のリサイタルから一変。
室内は今や、草間のリサイタルと化している…。
次から次へと曲を機械に飛ばす為、止める事が出来ない。
いや…止めようものなら、文句を言ってきそうな勢いだ。
意外だな。マイクを持つと、こうも変貌するとは。
心地良さそうに歌う草間に苦笑しつつ、席を立ちトイレへ向かう私。

室外の静けさに、覚える妙な感覚。
あれだけ長時間、がなられちゃあ耳もイカれる。
まったく…あれだけ叫んで喉を潰さんとは。
煙草を吸うくせに、随分と丈夫なんだな…奴の喉は。
いや、元より曲調やキーがハマッているから、それほど苦じゃないのかもしれんな。
そんな事を考えつつ、草間と零の待つ部屋へ戻ろうとしていると。
丁度、隣の部屋の扉が開き、中から頭の悪そうな男が…。
「おっ、とぉ…こりゃあ驚いた。綺麗なお嬢さんだ」
ドアノブに手を掛けたまま、ニタッと笑う男。
男は室内に目配せすると、コクリと頷いて。
私の腕を乱暴に掴み、室内へ引きずり込もうと試みる。
「………」
時と場を考えず、女をあらば見境なしに襲う。
貴様等は、男の風上にもおけんクズだな。
眉を寄せ、鉄拳制裁を下そうとした、まさに、その時。
グイッ―
草間が背後から私を抱き寄せた。
『ここってナンパ禁止なんじゃねぇの〜??』
マイクを通し、大声で言う草間。
その声に反応した店員がドカドカと駆けつける。
頭の悪そうな男達はゲッと顔をしかめるが、手遅れ。
数名の店員にとっかまり、あっけなく御用。
『バーカ』
草間は、その捨て台詞を吐き、私の手を引いて室内へ戻っていく。
…わざわざ、神経を逆撫でする事もなかろうに。
バタン―


「大丈夫ですかっ?冥月さん」
心配そうに私を見上げて言う零。
「あぁ」
微笑み零の頭を撫でて、私は返す。
『お前は、隙が多いんだよ。最近、特に』
ドカッとソファに座り言う草間。
不機嫌そうな口調で言いつつも、
相変わらずポンポンと曲を機械に飛ばす草間の姿。
それが妙に可笑しくて、私は隣に腰を下ろすとクスクス笑う。
『人が心配してやってんのに笑ってる、そんなオバカさんに捧ぐ〜』
少々嫌味な口調で言う草間。
「…?」
何だ?と首を傾げると、草間は肩を竦めて。
それまでの激しい曲とは似ても似つかぬ、優しい曲を。
優しい愛の歌を歌いだした。
「うわぁ…」
照れ臭そうに笑いつつ、ジュースを飲む零。
な、何だ。その態度はっ。
そんな態度とられちゃあ、否応なしに、恥ずかしくなるじゃないか…。
私は咄嗟に頬を染め、草間のマイクを奪おうと飛びかかる。
「馬鹿っ。やめろっ。今すぐにっっ」




疲労困憊の中、強制連行されて。
まさか、こんな長時間いる羽目になるとは思ってもみなかった…。
グッタリしつつカラオケから出れば、空は既に真っ暗…。
一体、どんだけ…。
ハァと大きな溜息を漏らす私の背中をポンと叩き。
草間は誇らしげに言う。
「どーよ。なかなかだったろ?」
私は目を逸らして苦笑し、返す。
「あぁ、少し見直したよ。どんなヘタレでも特技はあるんだな」
「うっわ。何それ。酷くね?」
クックッと笑う私を見て、少し先を歩く零は楽しそうに言った。
「また、来ましょうね〜」
…それは、どうだろう。
私は返答に困る。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/08 椎葉 あずま