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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


異界祭り

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0.オープニング

「ディテクター!早くっ!早くっ!」
手をブンブンと振り、大声で言う萌。
俺は溜息混じりに、おおはしゃぎの萌を追う。

取り乱しすぎだ。落ち着きのない…。
たかが、祭り…。そんなに、はしゃぐな。

まぁ、気持ちが わからん事もないがな。
この祭りを、心待ちにしている者は多いし。
いざこざや事件の絶えない異界において、
この祭りは気分転換には、良いものだしな。

それにしても、何で俺が付き添う事に…。
ガキのお守りなんて、面倒なだけだ…。

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1.

某人から、先日手伝った仕事の報酬を受け取る為に訪れていた異界。
どこに赴いても、今日は随分と人が多く。
一体、何事かと思っていたが。
帰り道、異界にある大きな広場に人だかりができているのを見て、
私は、すぐに事態を把握した。
淡い紫の灯を燈し、ぶら下がる幾つもの提灯。
同じ歌詞を同じテンポで延々繰り返す不思議な歌。
並ぶ黒いテントには、それぞれ扱っている商品の名前が刻まれている。
雰囲気こそ違うものの、これは…祭りだ。
異界にも、あるんだな。こんな夏祭りのような催し物が。
そんな事を考えつつ腕を組み、遠巻きに広場を見やっていると。
「…冥月ぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜」
聞き覚えのある幼い声が、徐々に近づいてきた。
「久しぶりぃっ」
満面の笑みで飛びついてくる萌。
私はヒョイと華麗に、それを避ける。
「っうわっ…」
体勢を崩し、フラフラッとよろめく萌。
私は萌の後襟を掴み、目線まで軽々と持ち上げて言う。
「久しぶりだな」
悪事を働いて叱られる猫のように扱われ、萌は頬を膨らませて。
「相変わらずだね。安心したよ」
そう言って、ジタバタと暴れ私から逃れた。
久しぶり…そうだな。まったくもって、その通りだ。
しばらく、お前とは顔を合わせていなかったな。
先日ディテクターに聞いた話によると、何か大きな任務に就いていたとか。
見る限り、無事にそれは片付いたようだな。
しかし、まぁ…今更というか何というか。
変わらんな。お前。
今、成長期だろうに。
少し目を離した隙に、格段に女になっている。そんな時期だろうに。
…まったく、その兆しが見えんのは、どういう事かな。
萌をジッと見やりつつ、苦笑する私。
すると萌はニパッと笑って。
「ねぇ。冥月も、一緒に回ろうよ。異界祭り」
そう言って私の手を掴んだ。
「…異界祭り?」
首を傾げて問う私。
すると萌は、自慢気に教えてくれた。
この祭りは、年に一度、毎年夏に行われるもので、
事件の絶えない異界に暮らす人々は、これを心待ちにしているらしい。
内容は、向こうの夏祭りと何ら変わりない。
出店が並ぶ会場を、人々が浴衣姿で闊歩する。
出店の雰囲気や商品は少し妖しいが、それもまた異界ならではだそうで。
「祭りか…まぁ、構わんが。少し、はしゃぎすぎじゃないか?」
クスクス笑って言うと、萌は私の腕に絡み付いて返す。
「楽しみにしてたんだから、仕方ないよ〜」
心からの笑顔。一転の曇りもないそれに、私は微笑み。
萌の頭をグリグリ撫で回して言う。
「よし、わかった。何でも奢ってやるぞ」
「ほんとぉ!?」
「あぁ。お子ちゃまの面倒を見るのは大人の役目だからな」
お子ちゃま、という単語に、いつもなら怒り出す萌だが。
今日は相当に御機嫌らしく。食い付く事なく、嬉しそうに笑っている。
…本当に、楽しみにしていたんだな。
そう思いつつ、微笑ましく萌を見やっていると。
「意外と、面倒見いいんだな」
背後から、また聞き覚えのある声。
振り返ると、そこにはディテクターが。
私はキョトンとして、言う。
「…お前が、ここに来てる事のほうが意外だよ」
するとディテクターは溜息交じりに。
「連れてこられたんだよ。こいつに、無理矢理な」
そう言って萌の頭を小突いた。
なるほど。そういう事だったのか。それなら、納得だ。

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2.

異界祭り。
人込みの中を歩く私達。
ほんと、向こうと何ら変わらんな。
無意味な人込みは好きじゃないが、こういうのは別だ。
活気があって、嫌いじゃない。
狭い通路をピョンピョン飛び跳ねるように歩く萌は、
言うまでもなく楽しさ全開。
それに反して、ディテクターは、ずっと眉間に皺を寄せたまま。
嫌なら嫌だと、断れば良かっただろうに。
それが出来ないお前も、お人好しだな。
ウンザリ気味のディテクターに苦笑しつつ、
私は、とある出店に目をつけた。
「萌。たこ焼き食うか?」
「食べるー!」
即答する萌。
私は笑いつつ、たこ焼きを購入。
普通、たこ焼きは丸いもんだが。
異界祭りのたこ焼きは、妙な形をしている。
見ようによっては、ハート型に見えなくもない。そんな、いびつな形だ。
「ほら。あーん」
たこ焼きを一つ、爪楊枝に刺して萌に差し出す私。
すると萌は歩きつつ、バクッと勢い良く、たこ焼きに食らいついた。
「あは。あっつい」
口端にソースをつけて、満面の笑みの萌。
私は苦笑し、懐からハンカチを取り出して、ソースを拭き取る。
「姉妹…いや、母子のようだな」
ボソリと呟くディテクター。
「やめてくれ。私は、こんな 落ち着きのない娘いらん」
クスクス笑い、返す私。


人込みに多少慣れたのか、ディテクターは瓶入りのアイスコーヒーを片手に。
「軽く勝負してみるか?」
そう言って射的を指差し、唐突に勝負を持ちかけた。
…雰囲気に流されやすいのかもな、お前って。
私は苦笑しつつ、返す。
「いい度胸だ。受けてたとう」
勝負成立に、萌はノリノリで。
「どっちが勝つかなぁ?」
そう言って先に射的屋台へ駆け出した。
たかが祭り、されど祭り。勝負は勝負。
やるからには全力だ。こいつには負けたくない。
「萌。欲しい景品言え。全部取ってやる」
私の言葉に、玩具銃を構えて嫌味に肩を竦めるディテクター。
萌は並ぶ景品を真剣な眼差しで見やって。
「あれと、それと、あれ」
欲しい景品を次々と指差した。
「わかった」
私は頷き、即座に玩具銃の引き金を引く。
パン パン パンッ―
コト コト コトッ―
上から順に、パタパタと倒れ床に落ちる景品。
「うわぁ!すっごーい!」
飛び跳ねて大喜びする萌。
周囲の人々も、驚きの表情だ。
フフンと鼻で笑い、勝ち誇る私。
するとディテクターは、フッと笑みを浮かべ。
同じように玩具銃の引き金を次々と引いた。
パン パン パンッ―
コト コト コトッ―

…まぁ、ディテクターは普段から銃を扱っているからな。
出来ないわけがない。
いや、寧ろ射的で勝負を挑むのって…フェアじゃないよな。
大量の景品を抱え、今更ながらにムゥッと眉を寄せる私。
結果は引き分けだったが、私は普段銃なんぞ持たないんだから、
私の勝ちと取れるよな。これは。うん。
一人納得していると。
服の裾を引っ張り、萌がオネダリを始めた。
「ねぇ、冥月。金魚取って?」
萌がチラチラと見やる屋台。
それは向こうの金魚すくいと、同じもの。
…まぁ、泳いでいる魚は真っ黒で、少し異質だが。
私はディテクターに不敵な笑みを向けて言う。
「これで決着をつけようか」
私の申し出に少々戸惑いながらも。ディテクターは了承した。
「オヤジ。金魚は全部もらっていくぞ」
薄網が張られた独特のポイを受け取り、ストンとしゃがみ込んで言う私。
出店のオヤジは「望むところだぁ」とゲラゲラ笑う。
隣にしゃがむ萌の、期待の眼差し。
それに応えるべく。私は見事にヒョイヒョイと金魚を掬い上げる。
目にもとまらぬ、その速さと正確さ。
対照的に、慎重に慎重に金魚を掬うディテクターは、私の出来を横目で見つつ苦笑した。
その笑みは、負けを認めた証。
私は掬い上げた金魚に、満足気に頷く。
「か、勘弁しとくれよ〜…。ねーちゃん」
商品…商売道具である金魚を根こそぎ私に持っていかれ、泣きつくオヤジ。
勝利が確定して満足した私は苦笑を交えつつ、
数匹だけを取り分にし、残った金魚を元に戻した。
「ほら。萌」
掬った数匹の金魚をビニール製の袋に入れてもらい、
それを萌にプレゼントする。
「わぁー…!!ありがとー!!」
萌は満面の笑みで。
小さな袋の中で泳ぐ金魚を目を丸くして見やっている。
「…金魚すくいが特技って、微妙だよな」
ボソリと聞こえる、負け犬の遠吠え。

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3.

髪をかき上げ、チョコバナナを食す私。
その姿に、ディテクターは、クックッと笑いつつ言った。
「ワザとやってるのか?」
「…何がだ」
首を傾げて私が返すと。
「冥月ー!これ!これがいいー!」
欲しい面を見つけた萌が、大声で叫んだ。
萌が選んだ面は、猫とウサギが合体したような可笑しな面で。
私は、滑稽なセンスに笑いつつも、望むとおりに。
その面を買ってやり、萌の頭にポスッと被せた。
嬉しそうにはしゃぐ萌を見やり、つられて微笑しているディテクター。
私は続けて、とある面を買って。
それをディテクターの頭に被せる。
「…おい。何だ、これ」
輪ゴムをひっぱり、面を確認して顔をしかめるディテクター。
ディテクターに被せたそれは、ツインテールでキラキラの目をした可愛らしい少女。
萌いわく、異界で人気のキャラクター”魔法少女 ルルン”の面らしい。
圧倒的な差で、私が勝利したんだ。
このくらいの罰ゲーム、課せられて当然だろう?
「似合うぞ」
私は笑いを堪えつつ、ディテクターに告げた。




祭りを満喫した私達は、並んで歩き帰路につく。
食べ物やら戦利品やらを両手いっぱいに持つ萌。
嬉しそうで、満足そうで。見ているこっちまで嬉しくなってしまう。
しかし、時折。
何とも言えぬ切ない表情を、萌は浮かべる。
気付かれないように、はしゃいで見せているが。
隠し事が、驚異的に下手だ。お前は。
だが、敢えて。私は何も聞かずに。
ただ、萌の頭をグリグリと撫でやった。
遠ざかる祭りを背に。歩きながら、何度も。
すると、途中で萌が小さな声で呟いた。
「…来年も、三人で来れるといいなぁ」
俯きつつ寂しそうに微笑んで言う萌に。
私とディテクターは顔を見合わせて、互いに頷き。
「約束、するか?」
声を揃えて、そう言った。
その言葉に萌はパッと顔を上げ。
私とディテクターを交互に見やって、
「うん」
そう言って微笑み、小指を差し出した。
苦笑しつつも指切りをし、萌と約束を交わす私とディテクター。
気になるところは、幾つもあるが。
今は、聞かないでおこう。
いつか、時がきたら。
教えてくれるだろうから。
その切ない表情の意味を。

歩きつつ微笑み、萌を見やって。
「来年は、浴衣を買ってやる」
そう告げる私。
萌はウンウンと何度も頷いて返す。
「約束だよ!」
「…女らしい体つきに成長したらの話だぞ」
加えた補足に。
萌は苦笑しつつ、返す。
「余裕だよ、余裕っ」
根拠のない、その自信は、どこから湧いてくるのやら。
まぁ、楽しみにしておこう。
心の、どこか片隅で。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / ディテクター / ♂ / 30歳 / IO2エージェント

NPC / 茂枝・萌 (しげえだ・もえ) / ♀ / 14歳 / IO2エージェント NINJA


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/08 椎葉 あずま