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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


迷える夢使い

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0.オープニング

身に着けると、猛烈な睡魔に襲われるブレスレット。
知人から譲り受けたそれを眺めつつ、あたしは微笑。
パッと見ただけで、理解に至る。
このブレスレットには、何かが”憑いて”るんだ。
人間か動物か、或いは…。

まぁ、その辺は、調べてみないとわからないね。
睡魔に襲われるだけで、他に症状は出ないらしいから、
このままでも商品として店に置く事はできるけど、
タチが悪いのが憑いてたら、後々面倒な事になるからね。
何が憑いているのか、個人的にも気になるし。

さて…どうやって調べようか。
やっぱり、着けてみるしかないかねぇ。とりあえずは…。

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1.

「役にたったかい?」
微笑み問う蓮。私は目を伏せ頷いて。
「あぁ。意外とな」
そう返しつつ、カウンターにコトリと短剣を置く。
先日、某人から受けた依頼。
それを解決する為に、蓮から借りていたものだ。
何だかんだで、こいつには世話になっている。
嫌な顔一つせず、協力してくれて。
口には出さないが、感謝している。
「じゃあ…また、何かあったらよろしく頼む」
挨拶をし、店を早々に去ろうとすると。
蓮はカウンターに頬杖をつき、私を見つめて言った。
「ちょっと頼みたい事があるんだけど、いいかい?」
「………」
顔をしかめ、溜息交じりに笑う私。
そんな予感がしたんだ。何となく。
貴様の物言いは、毒味と同じ。
だから、早々に帰ろうとした。
だが、もう遅い。
お前が、そうして頼み事をもちかけたら。
どう足掻いても、断る事ができない。
ものを借りて世話になっているというのもあるし、何より。
こいつは、断らせなくするのが、異常なまでに上手いから。
「…何だ?」
観念し、苦笑して返す私。
蓮は満足そうに微笑んで。
説明を始めた。


身に着けた途端、猛烈な睡魔に襲われるブレスレット、か…。
確かに、気にはなるな。
何故、そのような症状を引き起こすのか。
私はブレスレットを手に取り、ジッと見やる。
元々、いわく付きのものばかりを扱っている店だろう。ここは。
「別に、このまま並べても良いんじゃないか?」
呟くように言うと、蓮は苦笑して。
「原因が、ある程度でも わかってればねぇ」
「…ふむ」
「後々面倒なことになったら嫌だからさ」
なるほどな。まぁ、それもそうか。
原因不明だけど、着けたら眠りに落ちますと言われて、
それでも構わないと購入する客は、そうそういないだろうな。
よほどの物好きなら、或いは…。まぁ、確立は低いか。
「どうやって調べるべきかな」
首を傾げて言う私。
すると蓮はスッと立ち上がり。
「そうさね。とりあえず…」
そう言って、ブレスレットを奪うと私の腕にはめた。
「ちょ、何がとりあえずだ!」
慌ててブレスレットを外そうとする私。
しかし、時すでに遅し。
睡魔に襲われ、私は その場にペタンと座り込む。
「体感するのが、一番手っ取り早いだろ?」
妖しく微笑む蓮。
私は虚ろな意識の中。
「く…報酬は、覚悟しておけ…よ」
そう告げて、目を伏せる。
誘われ、誘われ。夢の中へ―…。

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2.

ヒンヤリと冷たい空気。
肌で感じる、不思議な感覚に。
フッと目を開けると。
「あ…」
見知らぬ少年が、私の顔を覗き込んでいた。
「うわぁっ!」
ドゴッ―
「うっ!」
驚いた私は思わず、渾身の力でベアークロー。
舞い上がり、吹っ飛ぶ少年。
ガバッと起き上がって、呼吸を整えつつ、私は周囲を見回す。
何もない。真っ白な世界。
こんなところに何時間もいたら、気が狂いそうだ…。
ここが、夢の世界なのか…?
そんな事を思いつつ、ゆっくりと立ち上がり。
「いたたた…」
顎をおさえて涙目の少年に歩み寄り謝罪を。
「す、すまん。驚いて」
私の言葉に少年は顔を上げ、必死に笑い、返す。
「いえ、こちらこそ すみません」
妙な格好をしている。道化師のような…。
しかし顔立ちは悪くない。
成長したら、なかなかの男になりそうだ。
そんな事を考えつつ見やっていると、少年はヨロヨロと立ち上がって。
「来てくれて、ありがとうございます」
そう言い、深々と頭を下げた。
来たというか、来させられたんだけどな。
「…待っていたかのような言い方だな」
見下ろしつつ言うと、少年は無邪気に笑って。
「はい。待っていました。自ら、ここに赴いてくれる人を」
来たというか…まぁ、いいか。
嬉しそうだし、言わないでおこう。
「お前だな?ブレスレットに憑いているのは」
問うと、少年は少し首を傾げて。
「うーん…憑いているわけではないんです」
そう言い、事情説明を始めた。


少年の名前はレニ。歳は十歳。
”夢使い”らしい。
夢使いとは、人々に夢を運ぶ存在。
見合った夢を創り、与える事で、その人物の魂を活性化させるそうだ。
非現実的な話だが…ありえないと否定する事はできない。
世界は いつだって、そういうものと隣り合わせだから。
「で…何がしたいんだ。お前は」
問うと、少年は躊躇いがちに言った。
「探して…欲しいんです」
「何をだ」
「黒猫を」
「猫?」
「はい。僕のパートナーです」
「…パートナー?どういう事だ?」
次から次へと浮かぶ疑問を、即座に解決しようと少年に根掘り葉掘り聞く私。
少年は時折切ない表情を浮かべながら、全てに応えてくれた。
少年が探す黒猫は、まさに彼のパートナーで。
絶対無二の存在。
創った夢の微調整を行う、夢使いには欠かせない存在らしい。
本来なら、いつでも傍にいるはずなのだが。
些細な事で喧嘩をし、黒猫は彼から逃げてしまったそうだ。
無二の存在を失った事により、少年は役目を。
夢を創り、人に届けるという夢使いの使命を果たす事ができずにいる。
このままだと、たくさんの人に迷惑をかけてしまう。
そう思った少年は、偶々意識の中に映ったブレスレットに想いを託した。
けれど、協力者が一向に現れず困り果てていた。
興味本位でブレスレットを身に着ける者が後をたたなかったそうだ。
少年が求めていたのは、自らの意思でブレスレットをはめ、
睡魔に襲われる原因を解明しようとする者。
私は、少年が長らく求めていた存在だった。
…どうやら、強制的にここに放りこまれた事は、知りえないようだ。
「わかった。やってみよう」
目を伏せ精神統一をはかる私。
真っ白な この世界には影がない。
それゆえに落ち着かないが…。
形あるものは、皆、内なる影を秘めている。
それを探り追えば、容易い事だ。
「向こうに猫と…他にも何かあるな…扉のようなものが」
探索を追え、呟く私の言葉に少年はハッとして。
「そうですか…」
何ともいえぬ表情で そう言いつつ頭を掻いた。
「行くぞ」
私は少年の手を引き、存在のもとへ。
探していた猫が見つかったというのに、少年の足取りは重い。

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3.

猫の内なる影は、動く事なく留まっていた。
それゆえに、そこに辿り着くのは容易な事で。
辿り着いた扉の前、私は扉を見上げ腕を組む。
真紅の扉。真っ白なこの世界では、明らかに異質なものだ。
扉には何やら不思議な模様が刻まれている。
…この模様、どこかで見た事があるような気がするのは、気のせいだろうか。
「………」
私の背に隠れつつ、チラチラと扉を見やる少年。
扉の前には、黒猫が行儀良く座り こちらを窺うように見やっている。
「何してる。行かないのか」
少年の頭に手を乗せ苦笑して言う私。
少年は困り果てた表情で。
「どうすればいいか、わからなくて」
そう言って、私の服の裾をキュッと握った。
まぁ、気持ちは理解らなくもない。
そのくらいの年齢で喧嘩をすると、
仲直りを躊躇うものだ。意固地になってしまうというか、な。
けれど、そんな事を繰り返していては、
いつまでも夢使いとして復帰する事は出来ないぞ。
「お前が創る夢を、待つ人がいるのだろう?」
諭すように優しく言う私。
すると少年は息を飲んで。
覚悟を決めたかのような険しい顔つきで、ゆっくりと扉の前へ。
向かい合う、少年と黒猫。
絵本の一ページのような、その光景。
少年と黒猫は、互いの想いを探り合うかのように。
言葉を発さず、ただ見つめあう。
仲立ちは必要ない。
互いに無二なる存在ならば。
そんなものは必要ない。
必要なのは、互いを想う気持ち。
それも、無二なるものだ。

見つめあい、しばらくして。
少年は黒猫をヒョイと抱き上げた。
とても、幸せそうに微笑んで。
どうやら、仲直りできたようだな。
私はクスクス笑い、組んでいた腕を解く。
少年は私を手招きして。
「もう、大丈夫です」
そう言った。
歩み寄り、少年が抱く猫の頭を撫でて。私は言う。
「良かったな」
頭を撫でられ嬉しそうに目を伏せゴロゴロと喉を鳴らす猫。
少年は、そんな猫を見やり、ペコリと頭を下げて言った。
「ありがとうございました」
ウンウンと頷き、微笑みを返す私。
「じゃあ…元の世界へ、お戻しします」
少年は、そう言うと扉に手をあてた。
少年の掌に反応するかのように輝き、ゆっくりと開いていく扉。
ブワリと体を包む、心地良い風。
私は本能的に目を伏せた。
「もう、喧嘩するなよ」
そう言い残して―……。




「とまぁ…そういう理由だ」
夢なる世界から現世に戻った私は、蓮に報告。
大した事じゃなくて良かったな。
もし、危険を伴いボロボロで帰還していたらば。
今頃、私に殴られているぞ。
まぁ、問答無用で向こうの世界へ放ったんだ。
それなりの報いは、受けてもらおうか。
「報酬の件だが」
髪をかき上げ話を持ちかけるも。
蓮は携帯を弄りつつニヤニヤと笑うばかり。
「………」
嫌な予感。
私は詰め寄り、問う。
「何してる」
すると蓮はケラケラ笑って。
「あんたのあどけない寝顔、贈ってやったのさ」
そう言って、とても楽しそうに微笑んだ。
「お前…人が協力してやったってのに…」
眉を寄せ低い声で脅すように言う私。
蓮は続けて言った。
「でも、見慣れてちゃあ無意味さね。どうなんだい?その辺」
「ばっ…」
馬鹿と言い掛けて止め、黙りこくって頬を染める私。
それが蓮の好奇心を、更にかきたてる行為だと知っていながら。
「う、うるさいっ!」
苦し紛れに叫んで誤魔化す私。
すると。
ピピピピッ―
蓮の携帯が鳴る。
「おや。彼から返信だ」
ワザとらしく言う蓮。
私は携帯を取り上げようとするが出来ず。
二人揃って、奴からの返信メールを見る形になった。
”甘いな。俺は、もっと可愛い寝顔見たぜ”
奴からの返信メールには、そう記されていた。
「あっははは。お熱いこったねぇ。報酬には、セクシーな下着でもあげようか」
満足そうに笑い、携帯を閉じて懐にしまう蓮。
私は頬を染めたまま、俯き思う。
こいつら…いつかボコボコに殴ってやる…。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主

NPC / レニ (れに) / ♂ / 10歳 / 夢使い


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。
報酬の件は、ひとまず うまくはぐらかされた…かな?
後日セクシー下着を、貰うかもしれません。…え?いらないですか?(笑)
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/08 椎葉 あずま