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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


迷える夢使い

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0.オープニング

身に着けると、猛烈な睡魔に襲われるブレスレット。
知人から譲り受けたそれを眺めつつ、あたしは微笑。
パッと見ただけで、理解に至る。
このブレスレットには、何かが”憑いて”るんだ。
人間か動物か、或いは…。

まぁ、その辺は、調べてみないとわからないね。
睡魔に襲われるだけで、他に症状は出ないらしいから、
このままでも商品として店に置く事はできるけど、
タチが悪いのが憑いてたら、後々面倒な事になるからね。
何が憑いているのか、個人的にも気になるし。

さて…どうやって調べようか。
やっぱり、着けてみるしかないかねぇ。とりあえずは…。

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1.

ふぅん、なるほど…。
身に着けた途端、強力な睡魔に襲われてしまうブレスレット…ねぇ。
借りた古書を返しに訪れた蓮さんの店で。
いつものように”お願い”をされた私。
ほんと、いつも思うけど。
蓮さんって、上手よね。
人にものを頼むのも、そのタイミングも。
そんな事を考えながら、ブレスレットを手に取り、四方八方から見やる私。
確かに…蓮さんのお店の雰囲気にハマるデザインね。
オシャレで、ちょっと妖しくて。
うん。棚に並べた途端に売れちゃいそうだわ。これ。
お客さん目線で、私がそう思うんだもの。
店主である蓮さんは、当然もっと、そう思ってるわよね。
けど、さすがにこのまんまじゃ、並べられないわね。
原因不明の睡魔なんて、怖いもの。
「どうやって調べよっかなぁ」
呟くように私が言うと。
蓮さんは妖しく微笑んで。
「体感するのが一番じゃないかい?」
そう言って私が持つブレスレットを見やった。
…やっぱり?やっぱり、そうなっちゃう?
そうよねぇ。それしかないわよねぇ。
でも、強力な睡魔か…。
あんまり寝ちゃうと、夜 寝れなくなっちゃうな。
まぁ、いっか…。
そうなったら、誰かさん撫でつつ、一晩中寝顔見て過ごせばいいもの、ね。


「睡眠効果が除去できれば良いの?」
カウンター奥の扉の中、寝心地の良さそうなクラシックソファに腰を下ろして問う私。
蓮さんは頬杖をつき、目を伏せて返す。
「完全に除去できなくても良いかもしれないね。まぁ、原因次第だけど」
ふむふむ、なるほど。
そうよね。
原因が危険なものじゃなければ、それも可能よね。
どっぷり眠っちゃうんじゃなくて、
良質な睡眠が取れるようになる…って位にできれば、ベストかも。
出来るかどうかは、わからないけれど。
よし。じゃあ、そんな感じで。
いってみますか。
「じゃあ、おやすみなさい」
心構えを済ませた私は、そう言ってソファに深く凭れ、
問題のブレスレットを腕に はめた。
カウンターでヒラヒラと手を振る蓮さんの姿が。
まぶたの裏に焼きつく―……。

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2.

ドサッ―
「きゃ」
睡眠に落ちた途端、お尻に痛み。
真っ白な世界に”落下”した私。
「…頭、おかしくなりそう」
私は苦笑しつつ、お尻を擦って。
ゆっくりと立ち上がり、周囲を見回す。
右も左も、上も下も。
真っ白。
綺麗な事は綺麗なんだけど、
あんまり長時間滞在するのは、キツいわね。
さてさて…原因は、どこに転がってるのかしら?
原因を探し求め、あてもなく歩く真っ白な世界。
うーん…どうしよう。
どこに向かえばいいのか、何をすべきなのか。
まったく わからないわ。
歩いてはみるものの、無意味なような気がしてきた…。
こんな広い空間で、原因を探すなんて。
無謀な挑戦かも。
蓮さんに聞いた話によると、
睡眠に落ちて約十二時間が経過すると、目が覚めるらしいから…。
それまでに、何とかしなきゃ。
できなかったら、日を改めて再挑戦、ね。


延々歩き続けて、どの位経ったのだろう。
腕時計の針は、この世界に来てからピタリと止まったまま動かないから、
時間を知る術がない。
結構歩いたと思うんだけどな…。
「…ふー」
歩き疲れた私は、ペタンと座り込み、ちょっと休憩。
本格的に困ってきたわ。
何の変化もないんだもの。
何とかしようとする事 事態が無謀だったのかしら。
疲労から、弱音を吐く私。
心のどこかで、無理かも。そう思った矢先の事だった。
「あ、あの…」
突然、背後から声が。
「はいっ?」
ビクッと肩を揺らし、振り返ると。
そこには、ピエロのような格好をした少年が立っていた。
十歳くらい…かな。あどけない表情をしていて。
小柄だし、声もちょっと高め。
というか、普通に可愛い。
真っ白な世界を、また延々とあてもなく歩くのかと不安だったゆえに、
人と遭遇できて、私は一安心。
微笑む私に、少年は言う。
「ここに来て、どのくらいですか?」
「え? あ、ごめんなさい。時計が壊れちゃって、わからないの」
そう言って腕時計を指差す私。
すると少年はコクリと頷いて。
「自ら、ここに赴いてくれたんですね」
そう言って微笑んだ。
少年いわく、自らブレスレットをはめて眠りに落ちると、
身に着けている時間を知る為の道具が全て壊れてしまうらしい。
効果を知らずブレスレットをはめた人には、その現象が起こらず、
時間を把握する事が可能…との事。
「原因を調べてって頼まれたのよ」
立ち上がり手を差し出して言う私。
少年は私の手を取り微笑んで。
「ありがとうございます。光栄です」
そう言って深々と頭を下げた。
「自己紹介が遅れちゃったわね。私は、シュライン。シュライン・エマよ」
握手しつつ名乗ると、少年は頷いて。
「レニといいます。よろしく、シュラインさん」
そう言って、とても可愛く微笑んだ。




「ずっと、待っていたのかもしれません」
「誰を?」
「あなたのように、自ら この世界へ飛び込んできてくれる人を」
「もしかして、私が初めて?」
「そうですね」
歩きつつ話す私とレニくん。
私達が向かうのは”夢運びの扉”という所。
とはいえ、どこにそれがあるのか当然知らないから。
少し先を歩くレニくんを、私はテクテクと追うだけ。
レニくんの背中を見やり言葉を返しつつ、私は思う。
とても大きな何かを背負っている背中だ、と。
「レニくん。質問してもいいかな?」
「どうぞ」
「夢使い、って…なぁに?」
「そのまんまですよ。その人に合った夢を創って届けるんです」
「へぇ…凄いのね」
「シュラインさんに夢を運んだ事もありますよ」
「ほんとに?」
「はい」
「僕は、まだ未熟なので…覚えていないかもしれませんけど」
頭を掻きつつ言うレニくん。
その言葉から、理解る事が二つ。
一つは、夢使いは他にも存在するという事。
もう一つは、目覚めて夢を鮮明に覚えていたり忘れていたりするのは、
夢を運んだ夢使いの力が関係しているという事。
まるで、おとぎ話ね…。
けれど、疑ったりはしない。
レニくんの目は、嘘偽りなく澄んでいるもの。
「もう一つ、質問いいかな?」
「どうぞ」
「”夢運びの扉”に向かう理由は?」
私の質問にレニくんは一瞬ピタッと立ち止まり。
振り返って、切なく微笑む。
「待たせてるんです。ずっと」
「…誰を?」
「シャラという…黒猫を」
「猫?」
「はい。僕の、大切な…パートナーです」
小さな声で告げて、再び歩きだすレニくん。
その口調と背中から、伝わる切なさ。
何があったのかは理解らないけれど…。ジッとしていられなくて。
私は駆け寄り、レニくんの手を握った。
見上げ、照れ臭そうに微笑むレニくん。
彼の手は熱く火照っていて。
何とも言えぬ緊張が伝わってきた。
私は何度も何度も。
レニくんに優しく告げる。
「大丈夫よ」と。

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3.

到着。目の前に紅い、巨大な扉。
これが、夢運びの扉…か。
真っ白な世界に真紅の扉。
不思議な光景ね…。
扉の不思議な雰囲気に魅入られてポーッとしていると。
「…ニャオ」
扉の裏から、真っ黒な猫が姿を現した。
猫が現れた途端、険しくなるレニくんの表情。
扉の前でレニくんを待つように座る猫を見やり、
私は、ペタンと その場に座り込んだ。
「シュラインさん…?」
「座って。焦らなくてもいいわ」
微笑み、手を引くとレニくんは軽く会釈して私の隣に腰を下ろした。
二人並んで座り、見やる紅い扉。
何も言わず、ジッとしていると。
レニくんが、ポツリポツリと言葉を漏らしだす。
「…怖くて、仕方ないんです」
「何が?」
「あの扉を、くぐる事が…」
「扉の先には、何があるの?」
「夢を待つ人々の家があります。おそらく、数え切れないほど…」
膝を抱えて、抱える不安と背負うものを吐き出すレニくん。
事の始まりは、一ヶ月前。
たどたどしくも慎重に、そして正確に夢を運んでいたレニくん。
失敗や間違いが許されぬ緊張の中、
彼は、一生懸命 使命を松任していた。
順調に幾つもの夢を運ぶ事ができ、皆から期待されて。
使命を楽しむ余裕が生まれてきた頃。
事件は起きた。
パートナーである猫と、大喧嘩をしてしまったのだ。
シャナという、その黒猫は、まさに彼の”パートナー”
届ける夢の微調整を行う、大切な存在。
その存在との間にズレが生じた事で、
彼は、夢を創る事ができなくなってしまった。
それは夢使いとして、決してあってはならぬ事。
けれど焦れど焦れど、夢を創る事が出来ない。
それが何度も続く内、彼は怖くなってしまった。
夢を創る事も、夢使いの使命すらも。
「…ニャオ」
膝を抱えたまま震えるレニくんに、黒猫が一鳴き。
私はレニくんをキュッと抱きしめ、背中を撫でる。
「ほら。呼んでるよ」
「………」
フルフルと頭を振るレニくん。
完全に恐怖に支配されちゃってるわね。…どうしよう?
相談を持ちかけるように見やると。
黒猫は、テクテクと歩み寄ってきて。
レニくんの足に頬を摺り寄せた。
全てを理解し、全てを包みこむ。
パートナーとして当然の事。
「…ニャオン」
催促するような黒猫の声に、レニくんは顔を上げて。
「…できるかな。ちゃんと、できるかな…?」
不安いっぱいの顔で黒猫に問いかけた。
「ニャオニャオ」
動物の言葉なんて、わかるわけないけれど。
私には聞こえた。
”あたりまえだろ”そんな風に。


躊躇いつつ、黒猫を抱いて扉の前に立つレニくん。
私は彼の背中を見守りつつ、微笑む。
振り返り、レニくんは告げた。
「シュラインさん。ありがとう」
「ううん。私は、何もしてないわ。お礼をいうなら、そのコに言いなさい」
笑って言うと、レニくんは黒猫に頬擦りをして。
「ここまで、一緒に来てくれた事…感謝します」
そう言って、扉に手をかけた。
ゆっくりと開いていく扉。
視界に飛び込む、無数の家。
一ヶ月間、サボッていたんだもの。
しばらく、大忙しね。
ペコリと頭を下げて扉の向こうへ駆け出すレニくんを見届け。
私は、本能的に目を閉じた―……。




「…とまぁ、こういう事だったわ」
夢の中で体感した事を包み隠さず報告する私。
すると蓮さんはブレスレットをジッと見やりつつ言った。
「…まるで、おとぎ話だね」
「あはは。私も、同じ事思ったわ」
「で…。睡眠効果は除去されたのかい?」
「うん。多分」
「多分じゃ困るんだよ」
んー…。そう言われてもね。
大丈夫だと思う、としか言えないのよ。
レニくんは、別に”憑いて”いたわけじゃないと思うから…。
ある意味、憑いてたのかもしれないけど、
助けを協力を求めて、偶々そのブレスレットを”入口”にしてただけだと思うのよね。
「つけてみれば、わかるわよ」
私はブレスレットをヒョイと取り上げ、
蓮さんの腕に はめてみた。
「うわっ…ちょっと、あんた…」
慌てて外そうとする蓮さん。
けれど、睡魔に襲われる事はなく。
ブレスレットは、ただキラキラと綺麗に輝いた。
「ほらね?」
笑って言うと、蓮さんは苦笑して。
「ごくろうさん」
そう言ってブレスレットを腕から外した。


そのブレスレットに、どのくらいの値段をつけるのか。
その辺、気になるところ。
明日、また来てみようかな。
物凄く高値だったら、売れたら何割か頂戴?ってオネダリしてみたり?
さて。調査も済んだし、そろそろ帰らなきゃ。
もう、こんな時間。
武彦さんも零ちゃんも、お腹すかせて待ってるに違いない。
グッと伸びをして、大きな欠伸を一つ。
私は店を後にする。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/08 椎葉 あずま