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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


異界祭り

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0.オープニング

「ディテクター!早くっ!早くっ!」
手をブンブンと振り、大声で言う萌。
俺は溜息混じりに、おおはしゃぎの萌を追う。

取り乱しすぎだ。落ち着きのない…。
たかが、祭り…。そんなに、はしゃぐな。

まぁ、気持ちが わからん事もないがな。
この祭りを、心待ちにしている者は多いし。
いざこざや事件の絶えない異界において、
この祭りは気分転換には、良いものだしな。

それにしても、何で俺が付き添う事に…。
ガキのお守りなんて、面倒なだけだ…。

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1.

不思議な音楽に誘われて足を運んだ広場。
そこには、人々の笑顔が溢れていた。
この雰囲気…つい最近、向こうで味わったものと一緒だわ。
ここでも、あるのねぇ。こういう催し物。
何の気なしに、テクテクと会場を歩く私。
並ぶ出店、はしゃぐ子供達。
向こうで言う祭囃子にあたるであろう、不思議で優しい音楽。
何ら、変わりないわね。向こうの夏祭りと。
でも、ちょっと騒々しすぎるかもね。
仕方ないか。異界は、向こうより格段に危険と隣り合わせだものね。
こんな時くらい、はじけなきゃ。損ってもんよね。うん。
陽気な雰囲気を楽しみつつ、会場を歩いていると。
「あっ!シュラインさんだぁっ!」
突然、背後から声が。
クルリと振り返ると、そこには浴衣姿の萌ちゃんと…。
仏頂面の探偵さんの姿が。
「あら。二人も来てたんだ?」
ニコリと微笑んで言う私。
萌ちゃんはイカ焼きをモシャモシャ食べながら笑って返す。
「うん。来ないと損だからねー」
「ふふ。そうよね。一緒に来たの?」
首を傾げて探偵さんを見やる私。
すると探偵さんはフイッと顔を背けて。
「…強制連行ってやつだ」
ボソリと言った。
「むりくり引っ張って来ないと、絶対来ないじゃんか。折角のお祭りなのに」
頬を膨らませて言う萌ちゃん。
「義務じゃあるまいし…」
探偵さんは冷め切った態度で返す。
二人の遣り取りを見ながらクスクス笑う私。
探偵さんも、大変ね。
けど、嫌なら嫌って断ればいいじゃない。
って、それができないのが、あなたよねぇ。
「ね。シュラインさんも一緒に回ろうよ」
私の手を掴み、満面の笑みで言う萌ちゃん。
年齢からすれば、珍しくも何ともないんだけど。
普段、やけに大人びてる萌ちゃんが、はしゃいでるのって。新鮮ね。
「えぇ。是非」
私は微笑み、キュッと萌ちゃんの手を握り、返す。


「向こうにも、あるんでしょ?こういうの」
背伸びして出店を見やりながら問う萌ちゃん。
「えぇ。あるわよ」
「行ってみたいなぁ」
「ふふ。お祭り、好きなのね」
「うん。大好きだよ。楽しいもん。あっ…!」
喋りつつ、何かを見つけた萌ちゃん。
萌ちゃんは、とある出店を指差しながら、探偵さんを見やってフフフと笑った。
「…何だ。気持ち悪い」
顔をしかめて返す探偵さん。
ヒョイッと背伸びして、萌ちゃんが指差す出店を確認する私。
へぇ…射的かぁ。本当、出店の種類まで向こうと同じなのねぇ。
「射的、したいの?」
問うと、萌ちゃんはフルフルと首を振って。
「シュラインさんとディテクターで、対決してみてよ」
楽しそうに、そう言った。
「…だって。どうする?」
クスクス笑って言うと、探偵さんは肩を竦めて。
「嫌だって言っても無駄なんだろ」
呆れつつ、そう言った。
その瞬間、成立する私と探偵さんの射的勝負。
私達は射的出店に赴き、テキパキと遊戯勘定を済ませて、戦闘態勢に。
レーザーライフルや射的は、得意なのよ。
反動がないから。
通常の射的でも、小説家や漫画家って上手らしいわ。
使う筋力や集中力、似てるのかもね。
パンッ―
「わっ」
何の前置きもなく、コルク弾を放つ私。
「び、びっくりしたぁ…」
肩を揺らして笑う萌ちゃん。
「ふふ。ごめんね。試し射ち」
大事なのよー。これ。
照準具合の確認が勝利への鍵なんだから。
「よし…じゃあ、いきますか。準備は良い?」
チラリと見やって言う私。
探偵さんは玩具銃を構えつつ「いつでも」一言、そう返した。
その表情ってば、真剣そのものじゃない。
あなたの、そういうところ好きよ。可愛らしくて。
クスッと笑って、いざ勝負。
試し射ちで判明した自分の癖を微調整しつつ、確実に景品を落としていく私。
両手で玩具銃を持つ私とは裏腹に、
探偵さんは片手射ち。
普段から、扱ってるものね。慣れたものだわ。
この勝負、フェアじゃないかも…なーんて、弱音は吐かない。
みくびってもらっちゃ困るわ。
これでも、射的クイーンって呼ばれてた事あるんだから。
…ずっと、昔の話だけど。

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2.

射的勝負の結果は、意外なものに。
「すっごい!すっごいよ、シュラインさん!ディテクターに勝っちゃうなんて!」
ピョンピョン飛び跳ねつつ大騒ぎの萌ちゃん。
そんな萌ちゃんを見て、不愉快そうに頭をワシワシと掻く探偵さん。
私はフフッと笑って。
「戦利品は、萌ちゃんに贈呈するわ」
そう言い、獲得した大量の景品が入った紙袋を萌ちゃんに差し出す。
「わぁ!ありがとう!」
大喜びの萌ちゃん。
良かったわ。喜ばせることができて。
…探偵さんは不満足そうだけど、ね。ふふ。
でも、ほら。
騒がしい所だし、こういう所、落ち着かないでしょ。あなたって。
だから、仕方ないんじゃないかしら。
玩具の銃でも、集中力って必要なわけだし。
まぁ今回は、私の勝ちって事で、一つ。

さてさて。次に萌ちゃんの心を掴んだのは、金魚すくい。
次は、三人で勝負しようと言う萌ちゃんは、気合十分。
けれど力んでしまうと、駄目なのよね。金魚すくいって。
連戦連敗して、ガックリと肩を落とす萌ちゃん。
探偵さんも、どうやら苦手なようで。
未だに、一匹も獲れていない。
私はクスクス笑いつつ、二人に伝授。
「ポイの角度は、四十五度。尾の方から、水抵抗を極力抑えて…掬い上げるの」
チャポン―
説明しつつ実践し、見事に金魚を獲った私を見て、
萌ちゃんは尊敬の眼差しを向けた。
「すごーい…」
「これが極意よ」
ちょっと勝ち誇って言う私。
「たいしたもんだ」
探偵さんがクックッと笑う。


その後も続く、屋台巡り。
べっこう飴に、綿飴、イカ焼き、たこ焼き。
お祭りって不思議よね。
何でも美味しくて、たくさん食べれちゃうの。
鯛焼きを頬張りつつ、小休憩。
「んんっ。美味しいわね、これ」
見事な味に舌鼓を打つ私。
「まぁまぁだな」
淡々と返す探偵さん。
…ほんと、クールよね。あなたって。
こういう時くらい、ちょっと弾けてもいいのに。
そんな事を考えていると、探偵さんは鯛焼きを咥えたまま。
私の肩をポンと軽く叩いた。
「ん?」
首を傾げて見やると、探偵さんは妙な顔つきで。
顎で、私の隣に座る萌ちゃんを示す。
促されて見やると、萌ちゃんは俯いたまま、鯛焼きを頬張っていた。
地面を歩く蟻を見つめながら。
うん。気付いてたわ。
今、突然元気がなくなったわけじゃないのよね。
はしゃぎながらも、時折フッと…切ない表情をしてた。
無理して、元気に振舞ってる気がして。
凄く気掛かりだった。
でもね、どうしようもないと思うの。
萌ちゃんが、自分から何か言ってくれば別だけど。
無理矢理、どうしたの?って聞いても無意味なのよ。こういう時って。
私達に出来るのは、全力で一緒に楽しんであげる事だけ。
それを諭すようにニコリと微笑みかけると、探偵さんは肩を竦めて苦笑した。
あなたって、態度は無愛想だけど。
物凄く、優しい人よね。

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3.

萌ちゃんの手を引いて、満喫する異界祭り。
相変わらず、時折気になる表情を浮かべるものの。
萌ちゃんは、楽しそうに。私と一緒に会場を歩き回った。
「シュライン。時間、大丈夫か?」
少し後ろを歩く探偵さんが、ポツリと言った。
ふと腕時計を見ると、時刻は二十三時。
あらら。ちょっと、夢中になりすぎちゃった。
そろそろ戻らないと、武彦さん達、心配するわね。
「ごめんね。遅くまで…」
食べ物や戦利品を両手いっぱいに抱えて、申し訳なさそうに言う萌ちゃん。
微笑み、萌ちゃんの頭を、ぽむぽむと撫でて。
「さっきの美味しい鯛焼き、お土産に買いたいから…もう少し付き合って?」
私が言うと、萌ちゃんは嬉しそうにニコッと笑ってウンと頷いた。


帰り道、遠のいていく笑い声と不思議な音楽。
手を繋ぎ歩く私と萌ちゃん。その少し後ろを歩く探偵さん。
何だか探偵さん、私達のボディガードみたいね。
そう思いクスクス笑う私。
そんな私をジッと見つめる萌ちゃん。
「ん?どうしたの?」
首を傾げて問うと、萌ちゃんはパッと目を逸らして。
再び俯き、あの切ない表情で呟いた。
「来年もまた…三人で来たいな」
その言葉にキョトンとして、私は問う。
「この三人じゃなきゃ駄目なの?」
私の問いに萌ちゃんは困った顔をして。
恥ずかしそうに呟いた。
「何かね、懐かし…ううん、何でもない」
懐かしい。
萌ちゃんが言い掛けて止めた言葉を、頭の中で復唱する私。
小首を傾げて後ろの探偵さんを見やると、
探偵さんは全てを理解した満足気な苦笑を浮かべていた。
ハッキリと理解ったわけじゃないけれど。
何となく…理解できた気がするわ。
恋しくなってしまったのね、きっと。
そりゃあ、そうよね。
萌ちゃん、しっかりしてはいるけど、まだ子供だもの。
私と探偵さんに、亡き御両親を重ねてしまって…切ないだとしても、おかしくないわ。
何となくの予測だけれど。
きっと、見当違いではないはず…。
私は優しく微笑み、萌ちゃんの頭を撫でて言う。
「来年は、事前に連絡してね。勝負しやすい、動きやすい格好で来るから」
「うん…!」
私の言葉に、萌ちゃんは照れ臭そうに笑った。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / ディテクター / ♂ / 30歳 / IO2エージェント

NPC / 茂枝・萌 (しげえだ・もえ) / ♀ / 14歳 / IO2エージェント NINJA


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/10 椎葉 あずま