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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ウタウタイ・タケヒコ

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0.オープニング

無理やり連れてこられて、お兄さんはブツブツ文句。
私はクスクス笑いながら、
お兄さんの背中をポンポン叩いて宥める。
「たまには、いいじゃないですかっ」
「苦手なんだよ…こういうの」
頭を掻いて、溜息を落とす お兄さん。
そこまで嫌そうな顔しなくても…。
私は苦笑しつつ、店の看板を見やる。
何の変哲もない、カラオケボックス。
お兄さんは、柄じゃないって頑なに拒んだけれど、
無理やり連れて来ました。

だって、聞いた事ないんだもん。
お兄さんの歌。
意外と上手だったり…しないかな?

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1.

零ちゃんの希望により、来てはみたけれど。
ものっすごい嫌そうな顔してるわねぇ。
カウンターで入場手続きをする零ちゃんの背中を見やりつつ、
腕を組んでチラチラと武彦さんの様子を窺う私。
鼻歌とか、口笛とか、子守唄とか…結構、上手なのに。
どうして、そんなに嫌そうなのかしら。
カラオケっていうのが駄目なのかな。うーん。
首を傾げていると、零ちゃんが駆け寄ってきて。
「最新機種のお部屋にしました」
嬉しそうに笑い、私と武彦さんの手を引いた。
ちょっと、意外だな。零ちゃんが、こういうのに詳しいなんて。
ほんと、最近、色んな事を覚えてるのね。
手続きもテキパキ済ませてたし、足取りにも迷いがないし。
彼と、来た事あるのかも?
そんな、武彦さんに聞かれたら面倒な事態に陥りそうな事を思いつつ。
私達は、最上階にある広い部屋へ。
「…ここ、パーティ用とかじゃない?」
笑って言うと、零ちゃんはマイクの調整を行いながら言った。
「ここしか空いてなかったんですよ。最新機種のお部屋」
拘るのね、最新機種に。クスクス笑ってソファに腰を下ろす私。
見回す部屋は、ほんと、とっても広くて。綺麗。
カラオケなんて久しぶりに来たわ。
こんなに立派になったのねぇ、何だかビックリ。
「準備完了ですっ。歌っていいですか?」
マイクの調整を終えた零ちゃんが、首を傾げて問う。
少し前までは、人前で歌うとか、絶対に恥ずかしがったのに。
変わったわねぇ。いい事だと思うわ。
私はしみじみと微笑み「どうぞ」と零ちゃんに、うた本を渡す。
パラパラと うた本をめくり目当ての曲を真剣な表情で探す零ちゃん。
夢中な、その姿がとっても可愛くて。
私はウェルカムドリンクであるウーロン茶を飲みつつ微笑む。
けれど、いくら笑ってみせても。気掛かりは拭えない。
隣でソファに片足を乗せて、退屈そうに煙草をふかす武彦さんが…気になって仕方ないよ。


武彦さんの様子を窺いつつ、手拍子する私。
零ちゃんが入れた曲は、まさに今 大ヒットして音楽チャートの首位に停滞している、
アイドル”YUIKA”の新曲。
この曲の最大のウリは、ラブリーな踊り。
零ちゃんは、それを見事に覚えていて。踊りながら、可愛く歌う。
わぁ、上手ね。っていうか、可愛い〜…。
踊りも、完璧じゃない。凄い凄い。
私は零ちゃんの可愛さにキュンキュンしつつ、手拍子を続けた。
「はふぅ…」
一曲を完璧に歌い上げ、満足そうに息を漏らす零ちゃん。
私は微笑みつつ、零ちゃんにオレンジジュースを渡して言う。
「お疲れ様。ビックリしたわ。すごく上手なんだもの。ね、武彦さん?」
話を振られて、武彦さんは煙草を消して。
「おぅ。そだな」
無愛想に、そう返した。
「お兄さんも、シュラインさんも、歌って下さいよぅ」
喉を潤しつつ楽しそうに言う零ちゃん。
うーん。ここで武彦さんに歌わせるのは、至難の業かもよ?
でも、そうね。武彦さんって雰囲気に飲まれやすいとこあるから…。
二人でたくさん、楽しそうに歌えば、歌う気になるかも?
私は苦笑しつつ、うた本を手に取り、パラパラとめくって。
零ちゃんと武彦さん、二人に問う。
「リクエストとか、ある?」

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2.

演歌、ロック、レゲエ、ラップ。果てには異国の軍歌まで。
零ちゃんと武彦さんのリクエストに応じ、私は次々と歌う。
歌いながらチラチラと武彦さんを見やって、反応を確認したりして。
へぇ、こういうのが好みなんだって把握する余裕なんかもあったり。
「ほんっと、上手ですよね。シュラインさん。ねっ、お兄さん?」
楽しそうに微笑んで話を持ちかける零ちゃん。
武彦さんは、空になった煙草の箱をポイとテーブルに投げやって言う。
「おぅ。聴いてて飽きねぇな」
笑顔だし、さっきよりも口調が緩い。
この調子でいけば、歌ってくれそうな予感…。
同じ事を思っていたのか、バチリと視線が交わる私と零ちゃん。
零ちゃんはニコリと微笑んで「ちょっと、トイレ行ってきます〜」そう言って一旦、部屋の外へ。
これは〜…何とか説得しといてっていう合図かしら。
零ちゃんの笑顔から、そう推測した私はクスクス笑いつつ。
武彦さんに、うた本を差し出してみる。
「………」
差し出されたうた本を見やり、何も言わずに苦笑する武彦さん。
私は首を傾げて。
「どうして、そんなに拒むのよ?」
そう問いかけた。すると武彦さんはガシガシと頭を掻いて返す。
「気分がノらないんだよ」
「可愛い妹が兄の歌を聴きたいって言ってるのよ?応えてあげるべきじゃない?」
「………」
困り笑顔で俯く武彦さん。
んー。何だろ。ちょっと、様子が変な気がする。
そこまで頑なに拒む事ないのに。
気分がノらない以外に、何か理由があるんじゃないのかなぁ…。
そうねぇ、例えば…。
そう頭の中で、予想を立てようとした瞬間。
隣の部屋から、物凄い爆音と、がなり声が。
「なっ、何?」
肩を揺らして驚き、武彦さんにペタリと引っ付く私。
爆音と、がなり声に混じって複数の男性の笑い声も聞こえてくる。
「ず、随分と盛り上がってるみたいね…」
苦笑しつつ顔を上げ、武彦さんを見やると。
「………」
武彦さんは、今まで見た事ない程の、ものっすごい不愉快そうな顔をしていた。
えっ…私?私の所為?急に引っ付いたから?嘘、ごめ…。
咄嗟に、そんな事を思い離れようとすると。
ガタン―
「俺の方が、上手い」
武彦さんは、そう言って ガバッと立ち上がり…マイクを手にした。


何かに憑かれたかのような変貌ぶり。
次々と歌を披露していく武彦さん。
やたらと拒んでいた理由が、やっと理解った。
「…お、お兄さん?」
トイレから戻ってきた零ちゃんも、そりゃあ驚くわ。
さっきまでとは、まるで別人なんだもの。
「シ、シュラインさん。これは一体…」
隣に座り不思議そうな顔で問う零ちゃん。
私は、三杯目のウーロン茶を飲み干して、返す。
「独壇場と化しちゃった」
そう。武彦さんってば、そういうタイプだったのよ。
一度マイクを持ったら、なっかなか離さないタイプ。
本当に、いるのね。こういう人。初めて見たけど。
これ、一種の二重人格よねぇ…。
『そこの二人!ボサッとしてないで、ついて来い!』
マイクを通して、私達を煽る武彦さん。
私と零ちゃんは顔を見合わせて。
揃って笑った後、黄色い声援と手拍子を送る。
「きゃー!素敵よー!武彦さーん!」
「かっこいいですー!」
『っははは!何を今更っ!知ってるっるーの!』
…完全に、ノッちゃってる。自分に酔っちゃってる。
普段からは想像できない、はっちゃけ武彦さんに声援を送りつつ笑う私。

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3.

以降も独壇場は続いて。
武彦さんは、次から次へと歌う。
十年位前に流行った日本のロックバンドから、
今現在、異国で人気のジャズバンドまで、実に多種多様に。
とても気持ち良さそうに歌う武彦さんを見てたら、
何だか私まで楽しくなってきちゃって。
いつしか、私もマイクを手に取り乱入。
彼のジャマにならないよう、彼の歌を立てるように。
ハモッてみたり、ここぞという所でユニゾンしたり。
ちょっと退屈そうな間奏も、楽しめるようにギターソロを声帯模写でアレンジしてみたり。
こうなったら、もう楽しまなきゃ損だもの。
曲の合間に飲み物を飲ませてあげたりして、歌う武彦さんに尽くす私。
武彦さんの選曲は幅広いけれど、
中でも、とある異国のロックバンドが、特に多くて特に上手。
歌詞も暗記しちゃってるし、歌ってて、一番気持ち良さそうだし。
今思えば、武彦さんがマイクを持つ引き金になったのも、このバンドの曲だったのよね。
知らなかったわ。このバンド、好きなのね。
始めは武彦さんの変貌ぶりに驚いて、
キョトーンとしていた零ちゃんも、すっかり砕けて。
今や、タンバリンを叩きながらノリノリ。
いつ終わるとも知れない、武彦さんのリサイタル。
唐突に始まったそれを、私達は全力で楽しんだ。
時を忘れて。


「八時間もいたのね…」
会計を済ませ、帰路につきながらレシートを見て苦笑する私。
「二時間くらいで帰る予定だったんですけどね」
ちょっと嫌味な口調で武彦さんを見やりつつ言う零ちゃん。
頭を掻きつつ「悪ィね」そう言って笑う武彦さんに、私はクスクス微笑む。
まぁ、予想外の長時間滞在だったけど。
すごく楽しかったわ。
零ちゃんは、すっごく可愛くてキュンキュンしたし、
武彦さんは、すっごく格好よくてキューンとしたし。
二人の意外な一面が見れて、大満足よ。
歩きながら会計時に貰ったノド飴を舐める私達。
何の変哲もない林檎味のそれが、とっても美味しく感じられる。
二人とも、お疲れ様。今晩の夕食は、喉に優しいもの。用意するね。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/10 椎葉 あずま