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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


落し物六文

「あー、降られたー」
 傘をたたみながら、いつもどおり瀬名 雫がネカフェに入店してきた。
 手馴れた様子でカウンターでの手続きを済ませ、そのまま先に来ていた影沼 ヒミコの元へ向かう。
「今日は嫌な雨ですよね」
「そぉね。パッとしないわよね。降るならもっとこぅ……ザッと降ってくれれば良いのに」
「嵐は嵐で嫌ですけどね」
 そんな他愛のない世間話から始まり、話題はいつもどおり怪奇話の類に移る。
「ヒミコちゃん、先にネットチェックしてくれた?」
「ええ、ですが……今日はあまり情報は来てませんね」
「そう……まぁ、あたしも後で見ておくけど。うん、それなら丁度良いわ」
 そう言って意外にも雫は笑顔を見せた。
 怪奇話が不作だとふてくされもしそうな彼女だが、一体どうしたのだろう?
「何かあったんですか?」
「それがさ。今日ここに来る時、不思議な女の子にあったのよ」

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 雫の話によるとこうだ。
 雫がネカフェに来る途中、通りでおかしな少女を見かけたのだと言う。
 年恰好は小学生ぐらいで、少し生活環境が不安になるぐらい痩せていたという。
 それに加えてこの雨の中、傘をさしていなかった。そんな娘が物を探すように視線をキョロキョロさせている。
 気になって雫が彼女に声をかける。
「どうしたの、何か困ったことでも?」
 この時、もしかしたら雫の怪奇を求める心が発動していたのかもしれない。
 少女は答える。
「川辺で知らないおばあさんに言われたの。『渡りたかったらお前が持っているはずの金を持って来い』って。だから探しに来たの」
「川、おばあさん、お金……川を渡る!?」
 驚きの中にも喜色を隠せない雫。どうやらこの娘は幽霊だろう。
 三途の川を渡る船賃六文銭が現世にあり、それを捜しに来た、と言う所だろうか。
「ね、ね。あたしも探すの手伝ってあげようか?」
「……お母さんが、知らない人についてっちゃダメだって。だから、さよなら」
 そう言った少女はふと煙のように消えた。
「ふ、ふふ、ふふふ。逃がすわけないじゃない!!」
 しとしとと雨が降る中、雫は叫んだ。

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「その娘のアテってあるんですか?」
 話を聞いたヒミコが尋ねる。
 この大都市で女の子一人を探すのは骨が折れるどころの話ではない。それにその娘が煙のように消えれるような能力持ちだったら尚のことだ。
「大丈夫よ。きっと頼りになる助っ人が現れるはずよ! こういう時、あたしって運良いのよねっ!!」
 自信溢れる雫の笑顔。ヒミコも何となくそれに頷いてしまった。
 何となく、誰かが来る予感はあった。

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 そんな雫の見えざる手招きに誘われたのは二名。
 黒・冥月とシュライン・エマだった。
「……私は暇潰しと雨宿りに寄っただけなんだが。手伝うとは一言も……」
「まぁまぁ、良いじゃん、冥月ちゃん! 暇なら良い感じに潰せるはずよ!」
 話を聞いた冥月は不服そうな顔を見せたが、それも雫の笑顔に吹き飛ばされかけた。
「暇は潰せるだろうが、その少女を探しに行くなら雨宿りにはならんだろ」
「細かい事は気にしない! シュラインちゃんだって快く手伝ってくれるって言ってるんだし、一緒にやろーよ!」
「快く、かどうかはわからないけど」
 雫の言葉にシュラインは苦笑を零す。
 店の前を通りがかると、雫の妙に輝いた笑顔が見えたので、何かまた面倒事を起こすのではないかと心配になりやってきたのだ。
 快くと言うよりは、何か義務感に駆られて、と言う方が正しい気がする。
「でも、冥月さんも手伝ってくれるとありがたいわ。もしかしたら私たちだけじゃどうしようもない事もあるかもしれないし」
「……まぁ、別に構わんがな」
 特にやることがあるわけでもなし、手伝ってやるのも悪くない。
 冥月が折れたのを見て、シュラインは笑顔で仕切りなおす。
「じゃあ情報の整理から始めましょうか」

「雫ちゃんから聞いた話だけだと、その女の子の霊に引っかかるような外見特徴は無いみたいだけど……」
 服装もあまり時代じみた物でもない様だし、もしかしたら最近亡くなった娘なのかもしれない。
「気になるのはその……痩せ方、かしらね?」
「話だけを聞いていると、肉体を持ってれば常に腹を空かせてそうだな」
「そうなのよ。あたしも初めはそれが気になって様子を見てたの。もしかしたら虐待とか受けてるんじゃないかな、とか」
 今のご時世、ありえない話ではないので、笑い飛ばす事もできない。
 とは言え、まだそれが決まったわけではない。別の要因で痩せていたのかも。餓鬼になりかけている、とか。
「そんな哀しい話じゃなければ良いんだけどね……。とりあえずまずは雫ちゃんのサイトでその娘の情報がないか調べてみましょ」
 シュラインに言われて、パソコンの近くに居たヒミコがゴーストネットOFFのサイトを開く。
 結構な数の投稿記事があるが、その中にその少女に関する記事は少ない。
「目撃情報は幾つかありますが、他には特にありませんね。その娘が霊になった経緯とかは、私たちで調べた方が早そうです」
「その目撃情報は何時頃のものだ?」
「つい数分前と、その記事へのレスが二つで、内容は一週間前ぐらいに見た、と言うものが一つ、あと三日前に一つですね」
 意外と以前から出現しているらしい、その女の子。
 一週間以上も浮遊霊として存在しているようだ。
「目撃された場所は近くの住宅街付近に集中してますね。その辺りに住んでいたんでしょうか?」
「じゃあその辺りを冥月ちゃんの力で探ってもらえば、すぐに見つかるかもね!?」
「無理だな」
 雫の提案を、冥月は一言でバッサリ斬り捨てた。
「幽霊には実体が無いから影が無いだろ。私の能力は影を操るものだ。影が無ければどうしようもないさ」
「えー、じゃああたし達が歩いて探すしかないか」
「……いや、私の能力ではなく、情報を集めることはできる。ちょっと待ってろ」
 そう言って、冥月は携帯電話を取り出し、どこかに発信し、一言二言交わした後、電話をしまった。
「情報屋に頼んでおいた。しばらくすればその霊の居所も割れるだろ」
「おぉ、ナイス! じゃああたし達はここで待機……」
「違うわよ。その娘が霊になった経緯や、川を渡るためのお金をどうして落としたとか、色々調べないと。その娘と会うだけじゃ意味が無いわ」
「あ、そうか」
 シュラインに言われて、雫は一つ咳払いをして言い直す。
「じゃあ、色々情報集めね! ……ってあれ? それもネットで良くない?」
「ネットだけじゃ細かい情報は落ちてないものよ。さぁ、行きましょ」
「行くって、何処に?」
「図書館よ」

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 そんなわけで、近所の図書館にやってきた四人。
「ここで何を調べるのよ、シュラインちゃん?」
「ここ最近の出来事を新聞で調べておこうと思って。お悔やみ欄なんかを見れば、何か情報が引き出せるんじゃないかしら」
「な〜るほど。じゃあ、早速調べよう!」
 雫が場所もわきまえずに大声で号令を上げ、一行は新聞を調べる事に。

 まずシュラインが手に取ったのは丁度一週間前の新聞。
 目撃情報が一週間前からあるなら、ここから時間を遡って調べるのが良いと考えたからだ。
 とは言え、本当にその霊が死んでいるかどうかも、今の所定かではない。
 生霊、と言うモノもあるし、死んでいるなら船賃を持っていないのは不思議だ。
「事故にあって行方不明の女の子って線もあるかしらね……。これは長丁場になりそうね」
「元々情報も少ないですしね。私もネットの方で調べてみます」
 近くに居たヒミコが図書館にあったパソコンを立ち上げていた。
 ゴーストネットのページも確認して、小さなものでも情報を集めておきたい。
 ただ漠然と新聞を調べるだけなら、今日中に終わるかどうかもわからないのだ。
「これで十年前に亡くなった女の子、とかだったりしたら……。考えるのも嫌になるわね」
 苦笑を零しながらも新聞をめくった。

「あの……シュラインさん、脱衣婆って知ってます?」
 ヒミコがパソコンのモニターを覗きながら尋ねてきた。
「脱衣婆って、確か三途の川にいるお婆さんで、死者の衣を使って生前の行いを量り、川の渡り方を決めるって言う?」
「そうです。今、ちょっとその話題が出てるんですけど……」
 言われてシュラインはヒミコに近付く。
 確かに、掲示板でちょっとした話題になっている。しかも、今シュラインたちが調べている女の子に関連してだ。
「情報の提供を呼びかけたら、結構な目撃情報が集まりまして、それで女の子の発言からこんな話に」
「……そうね、雫ちゃんの話でも『お婆さんに言われて落し物を探しに来た』とか言っていたらしいし」
 となれば、女の子が出会ったお婆さんと言うのは、その脱衣婆だろうか?
「でもこれっておかしくないですか? 考えてみれば、子供は三途の川を渡れませんよね? でも、船賃を探しに行けなんて……」
「子供が三途の川を渡れないのは、親より先に死んでしまって、親を悲しませたから、という理由かららしいわ。その理屈でいくと、親より後に死ねば川は渡れるはず……」
「だったら、その子も親が先に死んでいたんでしょうか? 捨て子だった、とか?」
「そう考えられない事も無いわね。……それにしても、色々と妙ね」
 深く考えてみれば、今回の件、妙な点がある。船賃を探しに行かせたのを初めとしてまだ幾つか。
「脱衣婆と懸衣翁が量るのは生前にどれだけ悪いことをしたか、のはず。小学生ぐらいの子がそれほど悪いことをしたとも思えないし、悪くても浅瀬は渡れると思うけど」
「三途の川の渡り方が船じゃないとしたらそれもわかりますけど、今回はキッパリ船賃を持って来いって言われてるんですよね?」
「そうなると、もう少し面倒になるわね。お葬式の際に六文銭が一緒にされなかったのか……いえ、親が先に亡くなってたのだとしたら、ちゃんと供養されてないのかも?」
「その上、脱衣婆に会っても、生前の行為が六文に及ばないと判断されたって事になりますよね」
 川を渡らせず、お金を探しに行かせたのならそういう事だろう。
 そして、そのお金が現世にあるというのも妙だ。
「どうしてお金を落としたのかしら? 何か理由が無ければそうそう落とさないと思うんだけど」
「本当のお金ではないですしね……。まだ何か知らない事があるんでしょうか?」
「まぁ、わからない事を考えていてもわからないままだわ。確認する手段は無いんだし。今はやれる事をやるだけよ」
 そう言ってシュラインは中断していた新聞の確認作業に戻った。

 そんな最中の事だ。
「おーい、シュラインちゃーん、ヒミコちゃーん」
 場をわきまえない大声が聞こえてきた。
 そちらを見ると、やはりというべきか、雫が。
「見つけたよー、それっぽい記事!」

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 雫が持ってきたのは一家心中の記事だった。
 確かにその中に小学生の女の子も含まれていたのだが……。
「ねぇ、その記事って本当に信じられるの?」
「おぉう、シュラインちゃんはあたしが見つけてきたモノが信じられないって言うの!?」
「そういうわけじゃないけど……」
 何となく勢いに乗って、一行は雫が見つけたという記事を元に、近くの住宅街まで来ていた。
 時刻はもうそろそろ夕方。これが外れならば、次回は明日以降になりそうだった。
「シュラインさんの心配もわかりますけど、一応、目撃情報の場所には近いですよね」
「そうよ。あたしがその辺、調べないわけがないじゃない!」
「第六感云々、って言ってた気がするがな」
「っう、冥月ちゃん。そういうのは言わなくて良いのよ」
 冥月に突っ込まれて、苦笑いする雫を見て、シュラインとヒミコは小さくため息をついた。
 これは本当に外れているような気がしてきたのだ。
「でもまぁ、とりあえずここまで来たなら調べて見ましょうか。目撃情報の場所と近いならその子にも会えるかもしれないし」
「そうだな。何もしないよりはマシだろう」
 そんなわけで、四人は事件のあった家を目指す事にした。

 辿り着いたのは小さな安アパート。
 流石に部屋の中までは入れなかったが、近所の人の話を聞く限りどうやらここで間違いないらしい。
「生活苦で発狂した父親が、母親と娘を殺害、ね。嫌な予感が当たっちゃったわね」
 シュラインは三人が以前暮らしていた部屋のドアを見つめて呟く。
 結局、幽霊の女の子が痩せていたのは、虐待ではなく、食い扶持すら稼げなかったからだそうだ。
 アパートの家賃も半年以上滞納、ガスや電気は当然止められ、生活が出来なくなった所で父親がおかしくなったのだそうだ。
 そうまで至る経緯は聞けなかったが、父親がリストラされた、とかそう言った類の話だろうか。
 再就職も決まらず、結局は……。
「何か、しんみりしちゃったね」
 流石の雫も笑顔が消えている。見知らぬ一家の痛々しい傷口を曝け出してしまったのだ。いい気分はしないだろう。
「でも、それならなおの事、あの女の子は放っておけないよね」
「その娘がこの家の娘とは限らんぞ?」
「それでも、何かしたい! 何かしなくちゃ!」
 雫の瞳に今までとは違った強い光が灯り始める。
 それを見てシュラインは優しく微笑んだ。
「そうね。私たちで何か出来る事を探しましょう。もしかしたらこの近くにその娘の落し物があるかもしれないわ」
「よし! じゃあ、みんなでそれを探そう!」
「そういうことなら待て」
 やる気満々の雫を引き止めて、冥月が言う。
「近くなら私の能力で何かを発見できるかもしれない」
「なによぅ、さっきは無理だって言ってたくせに」
「近くなら、と言ってるだろ。半径五キロ程度なら影を立体展開させて内部の異質な存在を確認する事も出来る。捜索範囲が広すぎると使えないだけだ」
「なら、早速冥月ちゃん、やっちゃって!」
 雫に命じられ、冥月は何となく嫌な気分になりながらも、影を展開する。

「……どう? 何かあった?」
「幾つか発見した。どれがどういう物だか全くわからんが、人以外のモノが幾つか混じってるな」
「だったら、それを目指してレッツゴー!」

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 やって来たのは、何の変哲も無い道。
「……ここに何があるの?」
「私にもわからん。異質な物があるのは確かだが……」
「あっ! これじゃないですか?」
 ヒミコが声を上げて電柱の下を指す。
 そこにはボンヤリとだが、何かが見えるような気がする。
「これは……傘、かしらね?」
「あたしにはよく見えないけど、やっぱ普通の傘じゃないっぽいね」
「え、私は結構よく見えますけど……」
 お守りで抑制していながらも、やはり得意な力を持つヒミコにはこの普通じゃない傘が良く見えるらしい。
「で、この傘がなんなんだ?」
「わかりませんけど……」
「あっ、これってあの娘の傘なんじゃないかな!?」
 幽霊の女の子が傘を差していなかったことを思い出して、雫が発言する。
 だが、彼女が幽霊とわかった今、彼女が傘を差していなかった事に何の不思議も無い。
 関連はあるのだろうか?
「これは外れなんじゃないか?」
「そうかもしれないけど、うーん……」
 一行がどうしようかと悩みながらそこで立ち止まっていると、不意に犬の鳴き声が聞こえた。
「あ、すみません」
 振り返ると小さな子犬とその飼い主が。犬が吠える事に対し、飼い主が謝っていた。
「この子、あんまり吠える事無いんだけど……。ここに来るとどうしても落ち着かないらしくって」
「その犬にとって何か特別な場所なんじゃないの?」
「あ、よくわかりますね。そうなんですよ」
 雫の当てずっぽうがなんと当たってしまった。
「この子、数日前にそこに捨てられてたんですよ。雨の日に凍えそうになってたのを拾ったんですけど……その時、ダンボールの上に傘がありましてね」
「……傘!?」
 ピンと来た。
 その傘はきっと、今もボンヤリと見えるこの傘だろう。どうやら犬の飼い主には見えていないようだが。
「その傘は犬を捨てた人が置いて行ったんですか?」
「いえ、多分違うと思いますよ。その傘、近所の女の子が差していたものでしたから。随分ボロボロになるまで使ってたらしくて、いつも雨の日にはその娘が差していたので良く覚えています」
「ええと……その娘って言うのはもしかして、先日亡くなった……?」
「ええ、一家心中だとか。……この犬もきっとその娘に感謝していると思います。あの娘が居なければ凍えて死んでいたでしょうから」

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「なるほど、大体見えてきたわ」
 飼い主と別れた後、雫が不適に笑って呟く。
「つまり、あたしが会った女の子の落し物はこの傘。そしてこの傘は犬の命を救った。だから善行だったって事で船賃六文に値する、ってことじゃないかな!?」
「あながち間違った推論でもないかもしれないわね」
 シュラインも頷いて同意する。ヒミコも頷いていた。
「ならこの傘をその娘とやらに届ければ一件落着か?」
「と言ってもねぇ……。実体がないこの傘をどうやってその娘に届ければいいのかしら?」
 先程試してみたが、傘には誰も触れることが出来なかった。
 これを持ち運ぶ事は無理のようだ。
「だったら向こうから来てもらえば良いわ!」
「それしかないわね。じゃあ後はその女の子を見つけましょうか」
 今後の方針が決まったところで、丁度よく冥月の携帯電話が鳴る。
「……どうやらその娘を近くで発見したようだ。行くぞ」

 その女の子は、雫が会った時のようにキョロキョロしながら道を歩いていた。
「おじょーさん!」
「……っわ」
 雫が声をかけると、ちょっと驚いた様子で振り返った。
 幽霊のクセに表情豊かだ。
「あ、あなたはさっきの……」
「もう知らない人なんていわせないわよ。一回会ったモンね?」
「でも……お名前を知りません」
「あたしは瀬名 雫。はい、これでお友達ね。よろしく」
 かなり強引な話の進め方に、女の子は逃げるタイミングを失ってしまったようだ。
 雫がよろしく、というのに頷いて答えていた。

「貴方の落し物を見つけたのよ。だからそれを知らせにね」
「ほ、本当ですか?」
 一応自己紹介を終えた一行に対し、女の子は期待の視線を向けてきた。
「多分ね。違ったらまた一緒に探してあげるわ」
「あ、ありがとうございます」
 小学生の割りに礼儀正しい彼女はペコリと頭を下げた。

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 女の子を傘の所まで連れてくると、彼女は傘に飛びついた。
「こ、これです! よかった、やっと見つかった」
 女の子が傘に触れるとそれは一瞬パァッと輝き、その姿を六文銭に変えた。
「これでお母さんと一緒に行ける……」
「……お母さんと?」
 怪訝な顔をした雫が尋ねると、女の子は笑顔で話し始める。
「お母さんは、川原にいたお婆さんに止められたの。船には乗れない、泳いで行けって」
 どうやらそれは父親から子供を守りきれなかった罪らしい。その女の子はよくわかっていなかったらしいが。
「だから私がお婆さんにどうしても、って頼んだら、私の持ってるはずのお金を出せって言って来て……」
「そのお金を渡して、貴方は川を渡れるの?」
「うん、私は船じゃなくて橋も渡れるって言われた。だから大丈夫らしいです」
 どうやらシュラインの読みはあっていたらしい。小学生ぐらいの子がそれほど悪行を積めるわけがない。
 それにこれだけ礼儀正しい子なら、小さな嘘すらつきそうに無い。全く潔白のまま川を渡ることになるのだろう。
「そう。それなら良かった」
「うん。……あの、お姉ちゃんたち、ありがとうございました。落し物探すの、手伝ってくれて!」
 女の子はもう一度お辞儀をした後、ふっと煙のように消えていった。
 どうやらそのまま逝ってしまったらしい。
 それ以降、彼女に会うこともなかった。

「でも、そういうのってアリなのかしらね?」
 彼女が消えた後、シュラインがふと呟く。
「何がだ?」
「他人のお金で三途の川を渡るって、良いのかしら、と思って」
「良いんじゃないか? 誰だって偶には気まぐれも起こすだろう」
 投げやりな冥月の答えを聞いて、そんな事もあるか、とシュラインも納得するのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
【0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

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■         ライター通信          ■
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 シュライン・エマ様、シナリオに参加してくださり、本当にありがとうございます! 『しんみり、しっとり』ピコかめです。
 あまり書いたことの無いような静かな雨の日のお話でした……って、あんまり雨関係なくね!?

 色々と謎提起&解決をしてもらいましたが、どんなモンでしょう?
 ヒミコちゃんと一緒にウンウンと悩んで、ストーリー進行って感じでした。
 こういうストーリー重視だと、頼りになります! 頼りにしてます!
 ではでは、また気が向きましたらよろしくどうぞ!