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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


One day's memory


投稿者:no name
件名:思い出をください
本文:自分の記憶は一日しかもちません。
   どんなに楽しいことがあっても
   どんなに悲しいことがあっても
   次の日には忘れてしまうのです。

   一日だけでいいのです。
   一日だけ、自分に付き合ってくれませんか。
   長年付き合った友人ですら忘れてしまう自分は、誰かと遊んだ記憶がありません。
   誰かと、話したり遊んだり…そういうことをしてみたいのです。

   出会い系サイトのような書き込み、失礼しました。



(この人、記憶が一日しかもたないんだ……)
 掲示板に書き込まれた文章を見て、美景雛は顔を曇らせた。
 記憶がもたない、というのがどんな気持ちなのかはわからないが、きっと寂しいだろうと思う。だって、知り合いが誰も居ないのと同じ状態なのだ。とても心細いだろう。
(よし、私が一緒に遊んで元気付けてあげよう!)
 ぐっと拳を握り締めて決心する。
 そうと決まればすぐ行動。早速メールを出せば、驚くほど早く返事が返ってきた。
 幾度かのメールを経て、会う日時と場所を決定する。とは言っても相手は『いつでもいいし、どこでも構わない』とのことなので、実質雛だけで決めたようなものだったが。
(うーん…この人って男の人なのかな、女の人なのかな?)
 やり取りを終えてからちょっと首を傾げる。男でも女でも構わないから訊かなかったが、一人称も『自分』だし判断が出来ない。
「ま、いっか」
 考えても仕方ないので思考を切り替えることにする。
 遊ぶならやっぱりテーマパーク、ということで、場所はもう決まっている。次は渡すものの準備だ。
「えーと、まずはノートだよね。日記書く用の。これは買いに行こうかな〜。それと…」
 呟きながらごそごそと机の引き出しを漁る。
「あ、あった」
 にっこりと満足げに笑う。雛が手にしているのはミニラジカセだった。今はもう使っていない物だが、まだ使えるはずだ。
 記憶が残らないのであれば、別の形で残せばいい――というのが雛の考えだ。日記帳に日記を書くのはもちろん、このラジカセで声日記というのもいいと思う。自分が声優業をしていることもあって、『声』の影響力についてはよく知っているつもりだ。故に考え付いたことだったりする。
「一応ちゃんと録音できるか確認しとかなくちゃね〜」
 上機嫌で鼻歌など歌いながら、テープを用意する雛だった。

◆ ◇ ◆

(ひ、人多いな〜…)
 待ち合わせの時間、とあるテーマパークの入り口で雛は顔を引きつらせた。
 思った以上に人が多い。自分の容姿や服装は相手に伝えてあるが、この状況でお互いをちゃんと見つけられるだろうか。
 相手の特徴も聞いたのだが、なんだか要領を得なかったのでよくわからない。『背が高い』『黒髪』などはまだしも、『目が2つで、鼻と口がひとつで…』などと説明されてもどうしようもない。しかもおふざけではなくて天然だったようだし。
「みかげ…ひな、さん?」
 妙にたどたどしく名を呼ばれたのは、それらしき人物がいないかと周囲を見回していたときだった。
「はい?」
 ほぼ条件反射で声がしたほうを向けば、黒が目に入った。
(???)
 一瞬なんなんだと思った雛だったが、もしやと思って目線を上にあげれば端正な顔が目に入る。
 少々長めの黒髪と、それと同じ黒の瞳。ついでに服まで黒だった。日に焼けていない肌は思わず雛が嫉妬しそうになるほど綺麗だった。
 身長は、157cmの雛が見上げないと顔が見えないところからすると190cm近い高さのようだ。骨格からしても男性のようだが、それにしても綺麗な顔だな、と雛は状況を忘れて見惚れそうになった。
「……まちがって、ますか」
 ぼそりと目の前の人物が言う。なんだろうと思って、そういえば名前を呼ばれたんだったと思い出した。結構な美形の威力で忘れるところだった。
「あ、いえ合ってますっ!」
 慌てて雛が答えると、男性はほっとしたように声を漏らした。
「よかった……」
 その言葉を聞いて、雛は恐る恐る訊ねてみる。
「あの、アナタが掲示板の書き込みの人?」
「そう、です……。自分は久我・朔耶(くが・さくや)っていいます…。今日は…よろしく……」
「よ、よろしく」
 妙にぼそぼそ喋る人だ。しかもスローテンポ。独特の雰囲気にのまれそうになりながら雛は彼と握手を交わす。
「あ……自分、あんまり喋るの得意じゃないので…不快になったら、すいません…」
 朔耶が困ったような顔で言うものだから、雛は慌てて首を振った。
「そんなことないですよ! それより、久我さんってどう見ても私より年上ですよね? 敬語じゃなくていいですよ」
 雛の言葉に、朔耶は一瞬悩む素振りを見せたが、ゆっくりと頷いた。そして口を開く。
「……だったら、美景さんも敬語止めて…?」
「え、でも」
「でも、じゃなくて……ええと、いまの…『年上命令』だから。…敬語、なしだよ…?」
「は、はいっ!」
 まるで子供に言い聞かせるように顔を近づけて言われて、雛はうろたえながら返事をした。というかあんな綺麗な顔を近づけられて平常心を保てる人間はそうそう居ない。
 暴れている心臓を落ち着けようと軽く深呼吸して、改めて朔耶に向き直る。
「改めまして、私は美景雛です。よろしくお願いしますね」
「うん。……それより、敬語……」
 朔耶の言葉に雛はしまった、と思った。初対面なのでやっぱり敬語になってしまう。
「い、今の無しです!」
「また……」
 不満そうに唇を尖らせる朔耶。そんな顔でさえ美人だ。本当に美人って得だ。
「徐々にってことで…」
 言えば、朔耶は仕方ないなぁと呟いたのだった。

◆ ◇ ◆

 その後、他愛ないことを話しながら園内を回った。
 ゆっくりと色々なところを回りながら時々アトラクションを楽しむ。それだけで十分思い出になる。…とは言え、アトラクションを決めるのはもっぱら雛の役目だった。
 と言うのも、最初は雛も朔耶に意見を聞いていたのだ。だが、『美景さんが、乗りたいものでいい…』だの『美景さんが楽しそうなら、自分も楽しいから…』だの言われては、雛が問うことを諦めるのも無理はないだろう。
 まぁそんな感じで一通り回った後。
「そうそう、久我さんに渡すものがあるんだ〜」
「……? なに…?」
「はいっ、どうぞ!」
 そうして雛が差し出したノートとラジカセに、朔耶は目を瞬かせた。
「……?」
 無言でどういうことかと訊ねる朔耶に、雛は笑顔で言う。
「記憶出来ないっていうなら、記録してその分を補えばいいんだよ。久我さんに出会った人は、ちゃんと久我さんのことを覚えてる。アナタが忘れてしまっても、私は忘れないから」
 朔耶は雛と雛の手の上のものを交互に見て――、ふ、と笑みを浮かべた。
「……ありがとう…」
「っ…ど、どうしたしまして!」
 会ってからの短い間でも朔耶が表情に乏しいことは了解できていたので、不意打ちの笑顔に雛はちょっとばかり動揺してしまった。それに朔耶は不思議そうな顔をする。
「…どうか、した?」
「なんでもないよ!」
 慌ててごまかす。朔耶は微妙に納得のいかなさそうな顔をしたが、「……そう?」とだけ言って、雛からラジカセとノートを受け取った。
「大事に、するから……」
 そう言いながらまた微笑む朔耶に、雛は頬が熱くなるのを感じた。慌てて「じゃ、じゃあもう一周しよっか」と言って歩き出す。
(……うぅ、あの顔は反則…!)
 心中で呟く雛の後を、朔耶が小さく首を傾げながらついていくのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7092/美景・雛(みかげ・ひな)/女性/15歳/高校生・アイドル声優】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、美景様。ライターの遊月と申します。
 「One day's memory」にご参加くださりありがとうございました。

 な、なんだか結構好きにやらせて頂いてしまいました…。なんかノリが『ドキドキ☆初デート』っぽい気が。もっとしんみり系が良かったでしょうか…。
 朔耶はかなりズレてますが、本当はとても寂しがりだったりします。なので、美景さんの言葉にはかなり元気付けられたことかと。
 山も落ちもないノベルですが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。