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<東京怪談・PCゲームノベル>


限界勝負inドリーム

 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。

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 三薙 稀紗耶の周りには、人影が一つ……どころか大量の人間、人外、その他諸々によって埋め尽くされていた。
 しかもその全てから彼に向けて殺気が放たれており、稀紗耶の味方は一人としていないことが窺い知れる。
「こりゃぁ、全部倒しきるには骨が折れるかもなぁ」
 二振りの太刀を握る手にじっとり汗が浮く。
 自分の腕にはそれなりに自信があるつもりだが、これだけの人数を相手にするのは少し心配もある。
「まぁ、とりあえずパッパと片付けますか」
 周りの敵からジリジリと距離を詰められ始めている。
 このまま近付かれると、一斉に飛び掛られて、何も出来ない内にデッドエンドもありえない話ではない。
 ならば、ここは先手必勝である。

 手近にいた、手ぶらながらも目つきが危険な男を切り捨てる。
 何の抵抗も無く、その男は胴を両断され、地面に倒れた。
「……ん?」
 稀紗耶はその男の顔に見覚えがあるようだった。とは言え、うつ伏せに倒れてしまったので顔が確認できなくなってしまったが。
 そんなことに気を取られている隙に、後ろから人外が稀紗耶に飛び掛ってきた。
 寸前に気がつき、振り返り様に斬りつける。
 脇腹から肩にかけて斜めに切り傷がつくが、人外ゆえにそれだけでは致命傷にならない。
 稀紗耶は更にもう一方の太刀で袈裟懸けに斬りつける。それで胴体が切り離され、人外は一応行動不能になった。
 この人外にも何処か見覚えがある気がする。
 あまりこれと言って個性的な外見特徴がある化け物ではないが……。
 とまぁ、またこんな事を気にしていては不意打ちを喰らう。
 今はとりあえず周りの敵を減らす事を考えなければ。
 幸い、敵はそれほど強くはない。頑張れば一撃一殺も可能だ。
「強気で攻めれば早く終わりそうだな。よっしゃ……」
 気合いを入れなおし、敵に向き直る。

 どうやら跳躍力が自慢らしい妖怪が、随分遠くから稀紗耶の許に跳んでやって来る。
 稀紗耶はそれを遠距離攻撃可能な斬撃、斬波で打ち落とす。
 上に気を取られていると、足元からナイフを構えた男が走りこんでくる。
 突き上げてきたナイフを太刀で防ぎ、敵の首を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた男は敵がたまってるところに飛んで行き、その辺りをドミノ倒しにしていった。
「おぉ、ナイス俺!」
 自分のシュートコントロールを自賛し、それでも気を抜かずに次に移る。
 左右から、見た目が似ている双子のような子供がジャマダハルを握って斬りかかってくる。
 それを少し退いて躱し、追撃してきた双子に対し、そのジャマダハルを受け止める。
「……アンタら……っ!?」
 よくよく見ると、やはりこの双子にも見覚えがある。
 この二人は……稀紗耶に対して襲い掛かってきた暗殺者だっただろうか。確か返り討ちにしたはずだ。
 思い返せば、最初に斬った男も、何時ぞや金を詰まれたので仕方なく殺した男。
 次に斬った人外はその辺をぶらついて、一般人に危害を加えていたので倒した化け物。
「なるほどね……。という事はこの夢は今まで俺が殺した奴の復讐ってことか」
 改めて周りを見れば、そこかしこに見知った顔ばかり。とは言え、全員、今は生きてはいないが。
 稀紗耶はにやりと笑い、力任せに双子を吹っ飛ばす。
「一度負けたアンタらが、何度やろうが俺には勝てねぇよ。潔く永眠しとけ!」
 地面を転がる双子に向けて斬波を放つ。
 衝撃で地面が吹き飛び、双子の身体もついでと言わんばかりに粉砕された。
「ケケケ、静かに寝られないなら手伝ってやっても良いぜ。俺の子守唄は優しくないがな!」

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 豪腕を打ち下ろしてきた人外の拳を避け、その腕を切り飛ばし、顔面目掛けて斬波を放つ。
 頭を吹き飛ばされた人外はその場に倒れ、少し痙攣しながらそのまま絶命する。
 だが、その死に際を眺める事無く、稀紗耶はすぐに次の標的を探す。
 と言っても的は見回せば視界を埋めるほどにある。探すどころか向こうからやってくるのだから、それを捌けば良いだけの話。
 右手から襲い掛かってきた小さめの人外を切り払い、後ろから斬りかかって来た女を躱して蹴り飛ばし、左手上方から飛び掛ってきた人外を斬波で打ち落とす。
 正面から先程蹴り飛ばした女が体当たりしてくるが、それも顔面を縦一文字に斬りつける。ついでに斬波も繰り出し、その奥に待機していた男も爆破する。
 大型で四足の獣のような化け物が真っ直ぐ突進してきたのを紙一重で避け、すぐ後ろに迫っていた人間を振り返り様に斬りつけた。が、傷が浅かったようで致命傷に至らなかったらしい。
 追撃として心臓を突き刺し、太刀を抜くついでにその人間の服で太刀の血を拭き取る。
「……っち、これだけ多いと血振りだけじゃ足りないな」
 太刀に付いた血が切れ味を鈍くしている。度々拭き取らないと死に繋がり得る。
 拭き取っている間に、先程の四足化け物が再び突進してくるので、それを斬波で迎撃する。
 上半身を吹っ飛ばされた化け物は前のめりに伏し、そのまま死んだ。
 次に正面、やや遠くに立っていた男が稀紗耶に向かって銃を構えており、稀紗耶が気付くとほぼ同時に発砲された。
 その銃弾は稀紗耶の右肩を掠めて、後ろに居た男の頭に命中し、彼を殺した。
 稀紗耶は一応直撃は避けたものの、右肩に痛みが走る。
「くそ、ドジった」
 その銃を構えた男を斬波で殺し、自分の右肩を窺う。
 動かすと痛みは走るが、傷は大した事無く、戦闘不能なほどではない。まだまだいける。
「これぐらいはハンデとして許容範囲だな。良いぜ、これでやっと緊張感が出てきた」
 周りを見回すと、敵の数は三分の一ぐらい減っただろうか。
「さぁて、ここからはもう一つギア上げさせてもらうぜ」
 そう言った稀紗耶は義眼である左目を抜き取り、手に持つ太刀に埋め込み、更にその二振りの太刀の柄を繋げあわせる。
 双身刀『修羅』の出来上がり。稀紗耶の準本気モードだ。
「死にたいヤツからかかって来な。全部切り殺してやる」
 そんな脅しにも怖気づかず、周りに居る敵は一斉に稀紗耶に襲い掛かる。

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 剣を構えて突進してきた人間。その剣を叩き落し、もう片方の刃でその人間の顔を斬りつける。
 その後、前に踏み込みながら身体を回転させ、奥にいた人外を斬り飛ばす。
 続けざまに更に奥にいた敵の腹を突き刺し、そのまま脇腹を斬って刃を抜き、とどめに上段から打ち下ろして一文字に斬り殺す。
 一連の行動が終わり、ちょっとした隙が出来たところに、小さめの人外が稀紗耶の背中に飛び乗って来た。
 それとほぼ同時に右足に同形の人外が飛びついて来る。それらの口らしき部分が蚊のように尖っている所を見ると、あれに突き刺され身体の中の色々な物を吸われる事になるだろう。
 稀紗耶は右足の人外を蹴り飛ばし、背中の人外を掴んで地面に叩きつけ、修羅で突き殺す。
 一息つく間もなく、三メートルぐらいの巨人型人外のチョップが稀紗耶目掛けて振り下ろされる。
 稀紗耶はその人外の手首から斬り飛ばし、その化け物に止めを刺そうとしたのだが、その前に近くに居た男が稀紗耶に飛び掛ってくる。
 まずはその男を打ち落とし、更に後ろから飛び掛ってきた別の男も振り返って薙ぐ。
 そうこうしている間に、先程の大型人外がもう片方の腕でまたチョップを振り下ろしてくる。
 それもまた手首から切り離し、今度こそその人外に向き直り、敵の胴の中心を突き刺してそのまま斬り下ろす。
 その傷が致命傷になったらしい人外はそのまま死に至り、動かなくなった。
「……っふぅ! 休む暇なくってか。血の気が多いな、アンタら」
 周りを睨みつけて牽制する稀紗耶。ここらで少し疲れがたまってきた。
 暇を稼いで疲労回復にあてたい所だが、敵の目には殺気の色が消える事はない。
 少しでも気を抜けば、途端に一斉攻撃を始めてくるだろう。
「ああ、面倒だな……。一気に片付けちまうか」
 周りに居る敵の数を十幾つまで数えた所で諦め、一気に大量の敵を殺し得る策を使う事にした。

 精神統一。この技には色々と時間がかかる。
 その時間稼ぎのために稀紗耶を中心とした結界を張る術札を使う。
 硬度重視で範囲は求めない結界のため、危ない目をした人間や見るからに危険な人外が目前まで迫ってくる。
 だがそんな事は気にしない。いつもこれ以上に近付いているのだ。特に気にすることではない。
 稀紗耶は修羅を寝かせて後ろ溜めに溜め、半身を捻る。
 身体全身に力を込め、修羅の刀身に黒いオーラが宿り始める。
 結界内外に稀紗耶の殺気が立ち込め、ピリピリと空気が張り詰める。
 その不穏な空気に敵一行は一瞬動きを止めたが、すぐに何かを感じ取り、結界を破ろうと攻撃を加え始める。
 そして結界にヒビが入り始めた頃、稀紗耶はニッと笑う。
「丁度良いタイミングだ。こっちも準備OKだぜ」
 稀紗耶の赤い瞳が怪しく光る。
 捻られた身体が、今か今かと解放のタイミングを待っている。
 そして人外の攻撃によって結界がバラバラに砕け散った瞬間、稀紗耶はその場で一回転、回る。
「防げるモンなら、防いでみなぁ!!」
 瞬間的な殺劇。
 修羅から発されている黒いオーラが、一撃必殺の刃となり敵に襲い掛かっていく。
 斬波の上位、斬波・黒式と呼ばれる、読んで字の如く『必殺技』である。
 その黒い刃に晒された敵は、触れた瞬間に斬り飛ばされ、斬り飛ばされ、斬り飛ばされ……。
 全方位に向けられた斬波・黒式は、周りにいた敵も、その残骸も区別なく切り裂き、稀紗耶の回転が止まると同時にその黒い刃を納めた。

「ふぅ〜。何とか終わったみたいだな」
 周りを見れば死屍累々。死体の山が幾つか重なり、立っているのはどうやら稀紗耶だけのようだった。
 先程まで殺意と敵意に満ちていたアリーナが、今は死臭漂う戦場後になっていた。
 稀紗耶は修羅を分解し、元の二本の太刀に戻し義眼を左目に戻す。
「いやぁ、疲れた疲れた……。ちょっと一服したいねぇ」
 そう言った稀紗耶は死体の山に腰掛け、疲れたように一息ついた。
 寂しくなったアリーナは不思議なほど静かだ。……にも拘らず夢が終わりそうにない。
 戦いが終わればきっと終わると思っていたのだが、もしかしたら別のスイッチがあるのだろうか?
「やれやれ、それも探せって言うのか? 面倒だなぁ」
 ぼやきながらも立ち上がった時、今まで腰掛けていた死体の山がボロっと崩れる。
 何かと思って振り返るとそこには一人の少女が。そして、その手には小さなナイフが。
 ナイフを握った少女はそのまま稀紗耶に駆け寄り、そのまま胸に収まる。
「……うぉ、マジか!?」
 少女のナイフは確実に稀紗耶の心臓を貫いていた。
 どうやら戦いは終わっていなかったらしい。この少女が原因で夢が終わらなかったのだ。
 だが、これで夢も終わる。稀紗耶の受けた傷は致命傷なのだ。これで戦いも終わる。
 周りの視界もぼやけ始め、感覚も無くなり始めている。
 意識が朦朧としかけている稀紗耶の顔を、少女が見上げる。
「どうして、殺したの?」
 血の涙を零して、少女は問いかけた。

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 寝覚めは最悪だった。
「……仕方ねぇだろ、くそっ」
 頭をガシガシ掻いて、今見た夢に毒づく。
 最後に現れた少女は仕事中に已む無く殺してしまった少女だった。
 その殺しは稀紗耶の望む所ではなく、全く偶然の事故的なモノだった。
 だからと言って、殺したことには変わりない、という事だろうか。
 それとも稀紗耶自身が彼女の事を気にしているのだろうか?
 答えは謎のまま、今日も日が昇るのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7008 / 三薙・稀紗耶 (みつなぎ・きさや) / 男性 / 124歳 / 露店飲み屋店主/荒事師】

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■         ライター通信          ■
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 三薙 稀紗耶様、ご依頼ありがとうございます! 『そなたこそ、万夫不当の豪傑よ!』ピコかめです。
 やっぱり多人数戦は難しいなぁ。それだけ書き甲斐もありますけど!

 敵が群がる、っつーことで、いっぱい居るんだろうな、と想像して書いてましたが。
 思い返せば稀紗耶さんが殺したモノが夢に出てくるんですよね。……そんなにいっぱい殺したのか? とか謎に思ってました。
 まぁでも、百年以上生きてれば色々あります、よね?
 そんなわけで、気が向きましたらまたよろしくどうぞ!