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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


迷える夢使い

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0.オープニング

身に着けると、猛烈な睡魔に襲われるブレスレット。
知人から譲り受けたそれを眺めつつ、あたしは微笑。
パッと見ただけで、理解に至る。
このブレスレットには、何かが”憑いて”るんだ。
人間か動物か、或いは…。

まぁ、その辺は、調べてみないとわからないね。
睡魔に襲われるだけで、他に症状は出ないらしいから、
このままでも商品として店に置く事はできるけど、
タチが悪いのが憑いてたら、後々面倒な事になるからね。
何が憑いているのか、個人的にも気になるし。

さて…どうやって調べようか。
やっぱり、着けてみるしかないかねぇ。とりあえずは…。

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1.

久しぶりに足を運ぶ、アンティークショップ。
最近忙しくって、なかなか来れなかったのよね。
ほら、夏ってやっぱ。稼ぎ時だから。サーカスも。
子供達が夏休みに入ってる今は、逃せない時期なのよねー。
お昼前から夜まで、ほとんど休みナシのショータイム。
楽しいけど、やっぱり適度な息抜きは必要。って事で。
団長にお願いして三時間だけ休憩を貰っちゃった。
どこに行こうか何をしようか、凄く迷った。
買い物も行きたいし、のんびりと日向ぼっこも良いし。
三時間っていう限られた時間。
折角、無理言って貰ったんだもの、有効的に使わなきゃ…。
で、その結果。
私は、アンティークショップを訪ねる事に。
特に目的はないけれど、あの店の雰囲気、すっごく好きだから。
置いてある商品も素敵なものが多いし。
心の休息に、うってつけなんだもの。
カランカラン―
「こんにちはぁ〜」
扉を開け、店内に踏み入る私。
フワリと体を包むちょっと懐かしい、不思議な香り。
カウンターで頬杖をつく蓮さんは、ちょっと驚いた顔をして。
「久しぶりだね」
そう言って、淡く微笑んだ。
あぁ…その笑顔、変わらないですね。
そりゃあ何年も経ってるわけじゃないんだから当然かもしれないけれど。
この”相変わらず”な雰囲気が、私の心を一気に安らぎへと導く。


私は店内をゆっくりと歩きつつ、並ぶ商品を見やる。
配置や品揃えは、色々と変化しているけれど。
独特の雰囲気は、変わっていない。
それだけで、何だかとっても幸せな気分になる。
頻繁に足を運んでいた時は、あまり感じなかったけれど。
今は確かに。私、ここ、好きなんだなぁ。そう実感できる。
商品を見やりつつ店内を徘徊していると、
ふと、目に留まる銀色のブレスレット。
それは、カウンターからこちらを見やる蓮さんの手元にあって。
私はトトトと駆け寄り、ブレスレットを見つめて問う。
「綺麗ですね、これ」
すると蓮さんは苦笑して。
「なかなか、お目が高い。けれど、まだ商品じゃないんだよ。これは」
そう言ってブレスレットを手に取った。
「まだ…?」
首を傾げて疑問を口にすると、蓮さんは目を伏せ言った。
「ちょっと厄介なものが憑いてるみたいでね。着けると睡魔に襲われるそうだ」
蓮さんいわく、デザインが気に入って仕入れたものの、
睡魔に襲われるなんて現象が起こるとは知らなかったそうで。
衝動的に仕入れてしまい、ロクに説明を聞かなかった自分が悪いんだと、
蓮さんは苦笑しながら自分を戒めた。
慎重な蓮さんにしては、珍しい事かもしれないけれど。
それも、仕方のない事のような気がする。
ブレスレットのデザインは、蓮さんの好みそのものだし、
お店の雰囲気にも見事にハマるから。
せめて、睡魔に襲われる原因さえわかればねぇと苦笑する蓮さん。
私はチラリと時計を見やって、時刻と残り時間を把握すると。
「何とかしましょうか?」
微笑んで、そう言った。
私の言葉に蓮さんは肩を竦めて。
「忙しいんだろ。無理しなくても良いんだよ」
そう言って、ブレスレットをカウンターに置いた。
そんな申し訳なさそうな顔で言われて、じゃあ止めますね。なんて言えるわけがない。
ここに足を運んだ事で、私は確かに癒された。
その為に、私はここへの来訪を選んだ。
敢えて口には出さないけれど。
私は今確かに、感謝している。
その御礼として。この事件を解決するのは、当然の事。

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2.

「うーん、と…これは…」
ブレスレットを見つめ、首を傾げて悩む私。
身に着けた瞬間、効果が現れるらしいから、
調査するなら、身に着けるのが一番手っ取り早い。
それはわかるんだけど…。
猛烈な睡魔に襲われてグッスリ眠ってしまうと、
休憩時間をオーバーしかねない。
それは、絶対にいけない事。でも…。
チラリと蓮さんを見やる私。
蓮さんはカウンターに頬杖をつき、私がどう出るかを窺っている。
そんな顔で見られちゃあ、もうどうしようも…。
私は苦笑し、ブレスレットを手に取り言う。
「着けてみるのが、一番手っ取り早いですよね」
「無理するんじゃないよ」
心配そうに微笑み言う蓮さん。
大丈夫。きっと、大丈夫。
パパッと解決させて、戻ってくればいいんだもの。
…どうやって戻ってくるのかとか。
本当に、ちゃんと戻ってこれるのかとか。
そういう不安もあるけれど。
何にせよ、体感しない事には。
私は意を決し、ブレスレットを腕にはめた。
着けた途端、眩く輝くブレスレット。
「きゃ……」
その眩しさに目が眩みキュッと固く目を閉じる。
直後、私の意識は遠のき。夢の中へ―…。




ドサァッ―
「きゃん」
意識が戻った時、私は真っ白な空間に落下。
強くお尻を打った私は眉を寄せてうな垂れる。
「いたたたぁ…」
「だ、大丈夫ですか…?」
すると聞こえる、透き通った綺麗な声。
フッと顔を上げると、そこには道化師…ピエロのような格好をした少年が立っていた。
手を差し伸べる少年。
私は素直にそれを受け取り、感謝を告げる。
「ありがとう」
微笑み言うと、少年は私をジッと見て。
何ともいえぬ不思議全開の表情を浮かべた。
「ん…?何か?」
問うと、少年はハッと我に返り。
頬を掻きつつ可愛く笑って言った。
「あ、すみません。とても不思議な服装なので…」
私はニコリと微笑み、返す。
「それは、あなたもじゃない?」
「えっ…そう…なんでしょうか。わからないです」
少年の、その言葉から感じ取れる”世間知らず”的な一面。
私はウンウンと頷き、歩み寄る。
「えぇと。私は紗枝。柴樹 紗枝。あなたの、お名前は?」
「あ。はい。僕はレニといいます」
それを皮切りに始まる、互いの自己紹介。

包み隠さず己をさらし合い、互いに互いを理解するに至る私達。
ブレスレットに憑いているのは、間違いなく この少年…レニくんで。
レニくんは”協力者”を求めて、あのブレスレットに願いを託していたそうだ。
ここまでは、特に何の疑問も湧かない。
けれど。
このレニくんは、自身を”夢使い”だと言う。
そこが、まだちょっと理解しかねるところ。
だって。まるで、絵本のような展開なんだもの。
そうは思うけれど、疑ったりはしていなくて。
私は、先程からずっと、それを理解しようと試みている。
それをさせるのは、レニくんの濁りのない綺麗な瞳。
こんなに綺麗な瞳をした少年が、
嘘をついたり適当な事を言っていたりするのでは…とは考えられないから。
加えて。
レニくんが協力して欲しい事というのは、猫の捜索。
ペットの猫が逃げたとか、そういう類じゃなくて。
もっと、もっと大きな問題。
「それで…その猫の特徴は?」
「えぇと、黒くて…尻尾が鍵のようになっています」
真っ白な世界で並んで膝を抱えて話す私達。
レニくんが探す、その猫は。
とても賢く温和だと言う。
「そんな猫が、どうして逃げ出したりしたのかしら?」
むぅ〜と考え込む私。
するとレニくんは困り笑顔で言った。
「僕のせいなんです。何もかも」
無理して笑うレニくんが、何だか見ていて とても痛々しくて。
私は無意識にレニくんの頭を撫でやりつつ。話を聞いた。
レニくんが探す黒猫。
その猫は、レニくんにとって、かけがえのない存在で。
唯一の”パートナー”
様々な夢を創り、それを人に届けるのが”夢使い”であるレニくんの仕事。
その、夢を創る、という過程で、黒猫の存在が欠かせない。
黒猫が夢の微調整を行ってくれて、初めて。
その夢は”完成”と呼べ、人に届ける事が出来るそうだ。
けれど、少し前にトラブルが発生。
黒猫が夢の調整をうまく行えなかったが故に、
空間が激しく歪み、レニくんと黒猫は離れ離れになってしまった。との事。
それから、ずっと。
レニくんは黒猫を探して、この真っ白な世界を歩き回っている。
ここは、夢と現実の狭間らしく。
黒猫は、必ずこの空間のどこかにいるそうだ。
けれど、この広さ。
探せど、探せど。一向に見つからない。
そこで、協力者を求めた、というわけだ。
事態を把握した私はスクッと立ち上がり。
レニくんに最高の笑顔を向けて言う。
「動物の事なら、獣使いの私に任せてっ!」

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3.

何もかも、自分のせい。
そのレニくんの言葉を気にしつつ、私はレニくんと手を繋いで猫を捜索。
どういう事なのかしら。
どうして、自分のせいだと思うのかしら。
そうは思うけれど、私は敢えてレニくんに、それを問わない。
時折見やる、レニくんの横顔が とっても寂しそうで。
とても、聞く気にはなれない。
元気のないレニくんを励ますように。
他愛ない話をしつつ、真っ白な世界を歩く。
もう、どの位歩いただろう。
そろそろ、戻らないとマズイな…。そう思った矢先。
巨大な紅い扉が視界に飛び込む。
「わ。何あれ」
真っ白な世界にドーンと構える、真紅の扉。
違和感を覚える、不思議な雰囲気に自然と漏れる素直な反応。
「あれは、夢運びの扉です……あっ」
扉の名前を私に告げながら、ハッとした表情をするレニくん。
何だろう?と扉を見やると、扉の前に黒猫が座っていた。
「もしかして?」
扉から少し離れた位置でピタリと立ち止まり、
レニくんを見やって首を傾げる私。
するとレニくんは繋いでいた手をそっと離し、コクリと頷いた。
良かった…意外とすんなり、見つける事が出来た。
そう思いつつ、私は。とある事に気付く。
捜索を開始してから、レニくんの手を引きアテもなく歩いていたつもりだったけれど。
今思えば、手を引かれていたのは私だった。
レニくんは、迷うことなく真っ直ぐ進んだ。
最初から、この扉の前に猫がいると わかってた…?
疑問を抱きつつ、フッとレニくんを見やる私。
「…やっぱり、怒ってる」
レニくんは黒猫を見つめつつ切ない表情で、そう呟いた。
私は苦笑して、返す。
「本当に、そう思うの?」
「え…?」
私の言葉に不思議そうに首を傾げるレニくん。
「ニャオ」
そんなレニくんを見て、黒猫は一鳴きし。扉に頬擦りをした。
すると。
ゴゴゴゴゴゴ…―
大きな音を立てて、扉がゆっくりと開きだす。
「っ…!!」
頭を抱え、その場に座り込むレニくん。
何かに怯えるような、その姿。
何事かと思っていた私だが、すぐに理解した。
レニくんが、怯える原因を。
開いた扉から伸びてくる、真っ黒な影のような物体。
それは、私達に襲い掛かるように猛スピードで向かってきた。
それまで、真っ白だった世界は一変。
包み込む、漆黒。
「あの時と同じだ…!やっぱり、駄目なんだ…!」
暗闇の中響く、レニくんの声。
「…こ、これは」
マズイ。直感でそう感じるも、何も見えぬ漆黒の世界。
掃おうとしても、纏わりついて離れない”孤独感”が、
判断力や行動力、思考さえも奪っていく。
成す術なし。絶望と呼ぶに相応しい空間の中。
闇を打ち払う、眩き白光。
輝くそれは、あの黒猫の瞳。
汚れ無き白い光に浄化されるように。
私達を包んでいた漆黒がザッと掃われる。
元の真っ白な世界に戻り、フゥと安堵の息を漏らす私。
レニくんは頭を抱えたまま蹲り、カタカタと小さく震えている。
レニくんに歩み寄る、私と黒猫。
そっとレニくんの肩に手を置き、私は言う。
「もう、大丈夫よ」
「…うぅ」
「レニくん。顔を上げて」
優しく言うとレニくんは、恐る恐る顔を上げる。
バチリと目が合うレニくんと黒猫。
バッと目を逸らして、レニくんは今にも泣きそうな表情を浮かべた。


白い光に包まれた瞬間、頭に流れ込んできたレニくんと黒猫、二人の記憶。
それにより、私は唐突に理解した。
二人の関係も、レニくんの想いも、黒猫の想いも。全て。
それは、とても。とても大きく。そして必然なるもの。
レニくんが自分のせいだと言っていた理由は、
トラブルが発生する少し前から自分が夢を上手く創れなくなっていたから。
けれど、そんな事はない。
彼に非はない。全く。夢使いとて、人間。
そう。彼は今”成長”と”変化”を遂げる時期なのだ。
心と体のバランスが取れていない所為で、
夢を上手く創れずにいた。彼は、それに気付かず自分の腕が落ちたと思い込んでいたのだ。
微笑む私をジッと見やる黒猫。
黒猫いわく、あのトラブルは夢使いとして”成長”を遂げる為に必要なものらしい。
黒猫は、怒ってなんていない。まるで。
寧ろ、喜んでいる。嬉しくて仕方ないそうだ。
自分のパートナーである夢使いが確かな成長を遂げる時を迎えて。
とても、誇らしいそうだ。
焦らず、ゆっくりと。全てを話す私。
語られる全てに、レニくんはポロポロと涙を落とした。
安心と謝罪が溶け込んだ、とても綺麗な涙を。




黒猫を抱き、赤い目で微笑み。レニくんは感謝を述べる。
「ありがとう。紗枝さん」
私は首を傾げてフフッと微笑み、返す。
「どういたしまして」
これにて、事件は解決。
もう、あのブレスレットに催眠効果はない。
満足気に笑う私を。
レニくんと黒猫が手を振って見送る。
遠のいていく意識の中、私は思う。
今夜の夢は、あの二人が届けてくれるのかしら。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

6788 / 柴樹・紗枝 (しばき・さえ) / ♀ / 17歳 / 猛獣使い&奇術師?
NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主
NPC / レニ (れに) / ♂ / 10歳 / 夢使い



■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。お久しぶりですね^^ 発注ありがとうございます。

休憩時間の間に見事解決!…できたのは良いのですが。
時間は大丈夫だったのでしょうか?(笑)
サーカスに戻ったものの、ちょっと遅れてしまい、ショーは既に始まっていて、
誤魔化すように、すごくカッコ良く登場して観客を沸かせていたり…とか、
描いてはいませんが、そんなオチを想像(妄想)しながら書き上げました(笑)
色々と想像して頂ければ、嬉しい限りです^^

気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/12 椎葉 あずま