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<東京怪談ノベル(シングル)>


Cigar

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まぁ、相変わらずというか何というか。
来てはみたものの、今日も暇だな。
週末だというのに、大丈夫なのか。
この興信所は。
などと今更な不安を抱きつつ、リビングを徘徊する私。
洗い物も洗濯も掃除も、来た時には、ひととおり済んでいた。
これが意味するのは、”あいつ”は外出していて、所内にいないという事だ。
私はデスク周りに散らばる書類を拾いながら問う。
「いつ出掛けたんだ?」
私の問いに、草間はボソリと。
「一時間くらい前」
呟くように、そう返した。
こいつの不機嫌そうな口調から察するに、どうやらデートに出掛けたようだな。
最近、多いな。まぁ、良い事だと思うが。
それよりも、だ。
「どうやったら、一時間で こんなに散らかせるんだ」
拾い上げた書類をデスクに置き、呆れて言う私。
大体、書類が何故、床に散らばるんだ。
デスクの上は片付けられていて綺麗だというのに。
まぁ、大方想像はつくが。まったく…子供だな。まるっきり。
「散らかす才能があるんじゃねぇか」
苦笑しつつ言う草間。
私は溜息を落とし、キッチンに向かいつつ言う。
「そんな才能、捨ててしまえ」


「ん」
淹れたコーヒーを差し出す私。
草間は「さんきゅ」と笑いつつ、それを受け取った。
自身の為に淹れた紅茶をテーブルに置き、
ソファに腰を下ろして、とりあえずジッと草間を見やる。
来た時からずっと、パソコンを弄ってる。
それも、神妙な面持ちで。
私は素直に、思う事を告げた。
「何してるんだ?依頼か?」
すると草間は一旦手を止め、苦笑して返した。
「だったら良いんだけどな」
違うのか…。じゃあ、何を…。
まぁ、いいか。何をしていようと。関係ないな。
私は何も言わず肩を竦めて、ソファの上にあった雑誌をおもむろに手に取る。
あいつが読んでいたものだろう。
その雑誌は、今時の若い女が読むようなファッション誌だった。
こんな露出の多い服を着るのか…凄いな。
雑誌をパラパラとめくり目を通し、そんな事を思いつつ、紅茶を口に運ぶ私。
すると草間が声をかけてきた。
「冥月」
「ん?」
「腹減った」
「………」
「腹減った」
「自分で作って食え」
目を伏せ呆れつつ返す私。
私の態度に草間はクルクルと椅子を回しつつ言う。
「は〜らへった。は〜らへった」
コールするな。
苦笑しつつも無視を決め込むが、草間はしつこく。
その姿は、駄々を捏ねる子供そのもので。挙句。
「冥月の作った飯が食いたい」
その台詞を交えて要求しだした。
何度も何度も頼まれ駄々を捏ねられ、
ウンザリした私は、溜息を落としつつ再びキッチンに向かう。
甘いな、私も。
けれど、うるさくてかなわないんだ。こうするより他ない。


冷蔵庫の中には、余り物がたくさん。
おそらく、あいつは買い物をして帰ってくるつもりなのだろう。
この食材郡じゃあ、奴が自分で作って食うのは、もとより不可能だったな。
私は苦笑しつつ、余り物の食材を駆使してサッと調理。
「できたぞ」
デスクにコトリと置く料理。
草間は、置かれた料理を見て満足そうに笑って言う。
「いいですね。きのこのソテーですか」
何だ、その口調は。
顔をしかめつつフォークを渡し、再びソファに腰を下ろす私。
「いただきます」
即座に両手を合わせ、そう言って料理を口に運ぶ草間。
こいつに料理を振舞うのは初めてじゃないが。
毎度毎度、気になるんだよな。やっぱり。
窺うようにチラチラと見やっていると。
バチリと交わる視線。
パッと目を逸らし、私は問う。
「どうだ?」
草間は一呼吸置いて。少し声を張って返した。
「んまいっ」
ホッとしつつ「そうか」と目を伏せる私に、草間は何度も言った。
料理を口に運びつつ何度も、美味いと。
「…煩い。黙って食え」
先程目を通していた雑誌を再びパラパラとめくりつつ呆れる私。
まったく…こいつ、日増しにガキっぽくなってないか。
感情表現がストレートというか。わかりやすい…いや、わかり易すぎる程だ。
そうして呆れる私に、草間は唐突に言う。
「やっぱ、結婚するなら料理の上手い女がいいよなぁ。うんうん」
「っぶ」
草間の言葉に、思わず飲んでいた紅茶を吹き出す私。
突然何を言い出すんだ、こいつは。
口元を拭いつつ、目を伏せて言う私。
「なら、とっとと そういう女見つけろ」
何の気なしに放った言葉だった。
奴の言葉に、無愛想ながらも同意してやった言葉だった。
ところが。
「いるよ。もう」
草間がケロッと、そう返した事により。予想外の動揺が私を襲う。
「そ、そうなのか…」
どんな女なんだ?と聞くのも…何だし。
かと言って、この話を ここで自然にスルーするのも何だし。
どうしたものか。この状況。
雑誌をめくってはいるものの、内容なんて、まるで頭に入ってない。
居心地が悪いわけではないが、
息が詰まりそうな。二十秒足らずの、妙な沈黙。


おいおい、どうした。
急に黙りこくっちゃって。
俯いて。壊れた機械みたいに雑誌をめくって。
何つーか、アレだな。
お前も、わかりやすくなったよなぁ。ほんと。
俯いたまま沈黙に戸惑っている冥月を見やりつつ。
俺は料理を平らげ、皿の上にカチャンとフォークを置いた。
その音にビクッと揺れる冥月の肩。
その姿が何つーか、もう、可愛くて。
俺はクックッと笑いを堪えつつ、デスクの引き出しに手を伸ばし。
見つからぬように、そっと宝物を取り出す。


「冥月さん。一服いいですか」
急に言い出す草間。
妙にかしこまった口調で、何を言い出すんだ。
普段、そんな許可なんて取らんだろう。
「好きにしろ」
雑誌を閉じ、ソファの上に置いて返す私。
自然に漏れる小さな溜息。
何だったんだ、さっきの沈黙は。
息が詰まりそうで、苦しかった。
まぁ、もう元通りっぽいから良いんだが…。
そんな事を思っていると、草間がポツリと呟いた。
「ん〜。この葉巻、美味いな」
葉巻?
何でまた、そんな珍しいものを…。
顔を上げてチラリと見やる草間の姿。
草間はデスクに頬杖をついて、煙を吐き出しつつ微笑んでいた。
私をジッと見やりつつ、満足そうに。
「………」
一瞬呆けるも、すぐに気付く。
草間が手にして、味わっている葉巻は。
紛れもなく、あの日、私が…。
カッと熱くなる耳。
すぐに視線を逸らして私は俯く。
何てタイミングで吸い出すんだ、お前は。
いや、別に葉巻を味わうのに良いタイミングも悪いタイミングもないけど。
あぁ、そうさ。そうだ。私は驚いてしまったんだ。
不意の事に。驚いたんだよっ…。
「あんな下手くそな料理の礼に、こんな良いもの貰って申し訳ないね」
笑って言う草間。
顔は見ていないが、理解る。
口調で理解る。どんな顔して、言葉を放っているか。
手に取るように。
「偶々見つけてな。気にするな」
俯いたまま、返す私。
心に、焦り。
喜ばれ、感謝されて嬉しい。嬉しいさ。そりゃあ。
でも、こう…目の前で味わわれると、焦ってしまって仕方がない。
あいつ、ちゃんと告げたんだろうか。
”料理の礼だ”と。
こいつは肝心なところで鈍いから、知らないだろうし気付いていないだろうが。
もしも。
もしも気付かれたら。
”料理の礼”なんかじゃなくて。
”記念の贈り物”なんだとバレたら。
気が気じゃない…。


ゆっくりと葉巻を味わう草間。
時折目を伏せて、酔いしれるように。
ゆっくりと葉巻を味わう草間。
チラチラと見やる度、映るその姿に。
私は、そわそわしつつ照れて。
そして、吸い終わる間際。
バチリと視線が交わる。
目を逸らすと、草間は言った。
「冥月」
「な、何だ」
顔を背けたまま、返す私。
すると草間は、落ち着いた声で問う。
「ところで、これ買ったの、いつだ?」
その言葉にバッと顔を上げて、私は草間を見やる。
葉巻の箱をトントンと指で叩きつつ、頬杖のままニヤニヤと笑う草間。
十分だった。
その姿だけで、全てを理解できた。
勢い余って炎上しそうな程、急速に熱くなる体。
私は慌てて立ち上がり、両手で耳を抑えつつ震えた声で。
「か、帰る!」
そう言って、逃げるように去ろうとした。
しかし。
「おっと。ちょい待ち」
背後から草間に抱きしめられて、私は身動きが取れなくなってしまう。
「は、離せ」
キュゥッと固く目を閉じて乞うように言う私。
けれど草間は離してくれず。
抱きしめる腕の力を更に強めて。
「ちゃんと言わせてくれよ」
耳元で微笑みつつ言った。
力が抜け、その場に座り込んでしまいそうな私を草間は抱き支えて。
私の頭をギュッと押して自身の腕に埋めさせると、
耳元で囁いた。
「改めまして。これからも、よろしく」


いつ言い出そうか。
いつ目の前で吸ってやろうか。
いつ問い詰めてやろうか。
ここ数日、ずっと考えてた。ずっと企ててた。
けど、どーにもタイミングが掴めなくて。
言い逃してた。
自分で、自分をジラしてたってのもあるかもしれねぇな。
だって、理解ってたから。
こうして、可愛いお前が見られる事。
腕に顔を埋めたまま、目を閉じる冥月。
離して欲しいのも、帰りたくて仕方ないのも、逃げ出したいのも。
全部、全部理解ってる。
理解らないわけねぇだろ?
けど、離してやんない。
まだ、見ていたいから。
お前の可愛い姿を。
まだ、見ていたいから。
離してやんない。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵


著┃者┃通┃信┃
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。

気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ 宜しく御願い致します。
いつも、お手紙ありがとう御座います。感謝感激で御座います。

2007/08/01 椎葉 あずま