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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


メイクアップ・タケヒコ

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0.オープニング

覚えたての御化粧は。
何だか、くすぐったくて。
何だか、嬉しくて。

覚えたての好奇心は。
誰にも、止められなくて。
誰にも、負けなくて。

ソファで、ぐっすりと眠る お兄さん。
私は、音を立てぬよう化粧道具をテーブルに並べて。
クスクスと笑う。

込み上げるワクワクを堪えきれずに。

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1.

昨日、徹夜だったものね。
疲れてるんだろうな。
もうすぐ夕方なのに。武彦さん、一向に起きる気配なし。
何度か様子を見に部屋に行ったけど、
とっても気持ち良さそうに、グッスリ眠ってて。
子供みたいな寝顔、すごく可愛いのよね。
心満ちて充実状態で。
私は完成したコーンスープを冷蔵庫へ。
今日も暑いから、冷たい方が美味しいわよね。
なんて事を思いながら。
さて。ちょっと過剰なお昼寝から覚めた武彦さんへの軽食の準備もできたし。
洗濯も洗い物も済んだし。
掃除は朝方、零ちゃんがキッチリやってくれたし。
一通り済んだわね。
どうしようかな。本でも読もうかしら。
それとも、私もちょっと添い寝しちゃう?
髪を束ね直しつつ、フッと覗き込む武彦さんの部屋。
まだ、グッスリかしら?って…あら?
零ちゃん?
ベッドで眠る武彦さんの前に、零ちゃんの姿。
少し、肩が揺れている。
その揺れ方は、まるで泣いているかのようで…。
「零ちゃん。どうし…」
静かに部屋へ入り、零ちゃんに声をかけようとした瞬間。
私の目に飛び込むのは。
ウサギさん縛りされた、武彦さんの髪と。
ベッド横に並べられた、様々なメイク道具。
「ちょ…何してるの?」
笑いを堪えつつ私が言うと、零ちゃんはクルリと振り返って。
「悪戯です」
小さな声で、そう言って微笑んだ。
泣いていたんじゃない。
零ちゃんは、必死に笑いを堪えていたんだ。
私は「んもぅ」と呆れ笑いをしつつ、いそいそと自室へ行き。
自分のメイク道具を持ってきてニコリと微笑んだ。
「シュラインさんの、そういうところ好きです」
口元を押さえつつ、クスクス笑う零ちゃん。
私は零ちゃんの隣に腰を下ろし、
メイク道具を広げて腕をまくる。


寝ている武彦さんを弄り倒すなんて、
起きたらどうなるか。わかったものじゃないけれど。
楽しそうだっていうのは、勿論。
近頃、メイクや御洒落に興味津々な零ちゃんに、
少しでも何かレクチャーしてあげられたら。
一石二鳥ってもんでしょ。
「髪、どうします?一度、解きましょうか」
「あ。いいわ。このままで」
ウサギさん縛り、可愛いし。
こっちの方が、零ちゃんを想定しやすいしね。
「わー。これ、綺麗な色ですね」
私が持ってきた桃色の口紅を手に取り、うっとりする零ちゃん。
そうねー。零ちゃんにも、似合うかもしれないわ。
「ちょっと、つけてみる?」
「いいんですか?」
「勿論よ。はい、こっち向いて」
なぁんて。武彦さんを放ったらかしにしちゃって。
暫く、真剣に零ちゃんをメイクアップ。
思ったとおり、桃色の口紅は零ちゃんの白い肌に映えて。
とっても可愛い唇を生んだ。
「似合う似合う。可愛いわ」
「ほ、ほんとですか」
「あげるわ。それ。彼とのデートの時にでもつけていきなさい」
「え。いいんですか?これ、高価そうなのに…」
「いいのよー。大したもんじゃないんだから」

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2.

思わず脱線してしまって。
零ちゃんのメイクに夢中になっちゃった。
さてさて。仕切り直し。
「崩れにくいファンデーション使いって、重要なのよ。見てて」
ファンデーションをパフにとり、
武彦さんの右頬に そっと乗せて実演する私。
基本だからね、上手なファンデーション使いは。
これがちゃんとしてないと、
他でどれだけ頑張っても残念な仕上がりになっちゃって台無しなんだから。
実演を見つつ、零ちゃんは真剣な眼差し。
うんうん。いいわね、その表情。
女の子、そのものじゃない。
っと…武彦さん、徹夜続きで疲れてるのね。
ファンデーションのノリが、異常に悪い箇所がポツポツあるわ。
煙草を吸い過ぎてるのも、いけないわよねー。やっぱり。
コンシーラーを使って、くすみを消していく私。
「わ。それ何ですか。凄いですね」
「秘密道具ね。一種の」
ま、零ちゃんには必要ないと思うわ。
肌、すっごく綺麗だし。
あ、でもニキビ痕とかには使えるかな。
零ちゃんのメイクを想定しつつ真剣に作業にあたっていた。
はずなのに。
いつしか私は我を忘れて、メイクをしていた。
メイクを施されているのは武彦さんなのに。
マスカラ、ビューラーまで、キッチリと。
途中、ふと我に返り何やってるのかしら私。と思ったけれど。
みるみる変わっていく武彦さんが見ていて楽しくてワクワクして。
零ちゃんも食い入るように見やっているから。
より一層、本気になっちゃって。
完成した武彦さんは、見事な出来栄え…。
買ったばかりの”アデウ”の新色…赤の57で瑞々しい唇。
マスカラとビューラーでピンと上に反り返っているも、乙女チックに揺れる睫。
思わずパクッとかぶりつきたくなるような、薔薇色の頬。
どうよ、これ。完璧じゃない?
フーと満足気に額に滲んだ汗を拭う私。
零ちゃんはパチパチと拍手して、私を惜しみなく称えた。


「こんなに良く仕上がったんだもの。記録しておかないと、よね」
「ですよね」
待ってましたといわんばかりにポラロイドカメラを構える零ちゃん。
その用意周到ぶりに苦笑しつつも、私は阻まない。
カシャ―
ヴィィィーーーーーン…―
にゅーっと出てくるポラロイド写真。
私と零ちゃんは真っ黒なそれが、
色鮮やかに染まっていくのを揃って眺めている。
じわりじわりと映し出される、
可愛らしい武彦さんの姿。
ぷくく…と笑いを堪えていると。
「…何やってんだ。お前ら」
「わ」
「きゃー」
武彦さんが目を覚ました。
ポラロイドカメラを持ったまま、一目散に部屋を出て逃げていく零ちゃん。
ベッド横にあった手鏡を手に取り、自身の姿を見やって。
武彦さんは、思いっきり眉間にシワを寄せた。
「…う」
ず、ずるいわ。零ちゃん。
一人で逃げるなんて…。

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3.

「お、怒ってる…?」
首を傾げて笑い、恐る恐る尋ねる私。
すると武彦さんは手鏡をポンと布団の上に投げやって言った。
「さぁ、どうでしょう」
…怒ってる。怒ってますね。…そうですよね。
「ご、ごめんなさいっ。すぐ戻すから」
そう言って、私はピュ〜ッと逃げるように武彦さんの部屋を去り、
メイク落としの準備を。
いそいそと洗面所でお湯を汲んだり、タオルを用意したり。
せわしなく動く私を、壁に隠れてコッソリ見やる零ちゃん。
鏡に映って、丸見えなその姿に私は苦笑して言う。
「逃げるなんて、ズルいじゃない」
私の言葉に零ちゃんはビクと肩を揺らし探る。
「…怒ってました?お兄さん」
「ちょっとね。ま、大丈夫よ。私が沈めるから」
ホッとした表情で胸を撫で下ろす零ちゃん。
ちょっと、さすがに悪戯が過ぎたわよね。今回は。
ま、言いだしっぺは零ちゃんだけど?
参戦してノリノリだった私にも責任、あるしね。
それにほら。拗ねた武彦さんを落ち着かせるのは、
零ちゃんより、私の方が得意だもの。ね。


まったく…あいつらときたら、何て事しやがるんだ。
こっちは疲れて寝てたっつーのに。
再度手鏡で己の顔を確認し、ハァと溜息を落とす俺。
シュラインじゃねぇんだよな。これ。
言い出したのは、零なんだよ。絶対に。
言ってたからなぁ…昨日から。
ちょっとだけ、御化粧させて下さいって。
嫌だね、って頑なに拒んでたもんだから。
あのやろう、強行突破してきやがった。
ま…実際、そんなに怒っちゃいねぇんだけど。
それにしても何だよ、この顔。この髪型。
こんなんじゃ、絶対に外歩けねぇ…。
ガックリとうな垂れていると、
準備を済ませたシュラインが部屋に戻ってきて。
パタパタと俺に駆け寄り、メイク落としを始めた。
人形のように座ったままの俺はポツリと一言。
「寝起きで座ったままはシンドイ」
俺の言葉にシュラインは苦笑して。
俺の隣に座ると、自身の膝をポムポムと叩いた。
そうそう。それだよ。そんくらいしてもらわねぇとな。
パフッと膝に頭を乗せて満足そうに目を伏せる。
クルクルと規則的に頬を撫でる、冷たい感覚。
鼻に少しツンとくるミントのような香り。
スースーするな。化粧が落ちてるのが、感覚でわかる。
ん〜…。これは、気持ち良いかも。
その後も、蒸しタオルをあてがわれたり、
マッサージをされたり。献身的な謝罪が続いた。
フッと目を開けると、シュラインは真剣な表情で。
俺と目が合うと微笑んで”ごめんね”と何度も言った。
俺は苦笑し、問う。
「いいよ、もう。ところで、どうだ。メイクした感想は」
するとシュラインは少女のようにヘヘッと嬉しそうに微笑み。
「もう、すっごい可愛かった。この写真、録音機と一緒にしまっておかなきゃ」
そう言って、俺の恥が鮮明に記録された写真をキュッと大事そうに胸に抱いた。
「………」
暫しの絶句。
写真とか…撮んなや。
ったく…油断も隙もねぇ。
「反省してねぇだろ、このやろ」
膝の上で見上げる姿勢のまま、苦笑しつつコツンと叩くシュラインの額。
「し、してるわよぉ」
叩かれた額を押さえながら頬を膨らませて言うシュライン。
…どうだか。やれやれ。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/17 椎葉 あずま