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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


メイクアップ・タケヒコ

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0.オープニング

覚えたての御化粧は。
何だか、くすぐったくて。
何だか、嬉しくて。

覚えたての好奇心は。
誰にも、止められなくて。
誰にも、負けなくて。

ソファで、ぐっすりと眠る お兄さん。
私は、音を立てぬよう化粧道具をテーブルに並べて。
クスクスと笑う。

込み上げるワクワクを堪えきれずに。

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1.

「応答がないので、勝手に上がらせてもらったぞ」
リビングに踏み入り、腕を組んで言う私。
すると、ソファ近くに座っている零が、ビクリと大袈裟に肩を震わせた。
「………」
妙な仕草に、不審がる私。
ツカツカと歩み寄り「何してるんだ」そう問おうとした瞬間。
私は全てを理解する。
テーブルに並べられた数々の化粧品、
ソファにはグッスリと眠る草間。…珍しく不精髭がない。
と思ったら零の手に、電動カミソリが。
私はクッと笑い小声で言う。
「困った妹だな」
零はクスクス笑って、こう返した。
「好奇心旺盛なんです」
それが、困ったものだと言っているんだ。
疲れて眠っている兄に化粧を施そうとするとは。まったく。
でも、止めない。面白そうだから。
「化粧だけじゃ生温い。どうせなら、完璧な女にしようじゃないか」
笑いつつ言うと、零は一瞬キョトンとして。
私の肩をパシンと軽く叩いて言った。
「冥月さん、人の事言えないですよ」
「好奇心旺盛なんだよ」


それにしても、随分深く寝入っているな。
いつもなら、ちょっとした物音で目を覚ますのに。
「…何か飲ませたな?」
苦笑して言うと、零は顔を背け「何の事ですか?」と、笑ってとぼける。
まったくもう…すっかり悪ガキだな。
まぁ、可愛いもんだが。
私は笑いを堪えつつ、零にファンデーションの乗ったパフを寄こせと促す。
「お願いします」
正座で深々と頭を下げてパフを渡してくる零が滑稽で。
吹き出しそうになるのを、私は必死に堪えつつ、
草間女装計画を開始させた。
「わぁ…やっぱり、上手ですね」
化粧を施す私の手つきを見ながら、小声で感心する零。
草間の女装にも興味があるが、そうだな。
折角だから、お前に教えてやろう。
正しい化粧の仕方…いや、男心をくすぐる化粧法を。
いいか。まず第一に ファンデーションの厚塗りは厳禁。
自分の顔立ちと地肌の色に合ったファンデーションを選ぶのも重要だ。
こうして、手首に軽く乗せて、色を確認するといい。
ケチって安物を買うのは、絶対にダメだ。
肌が荒れてしまうからな。
…それにしても、こいつ男のくせに肌のキメが細かいな。
化粧が上手く乗って、難がない。
煙草を吸ったり不規則な生活していたりするのに。
何だか、ムカつくなぁ。
そんな妙なイラ立ちも少々ありつつ。
実際に目の前でやって見せながら、次々と化粧方法を伝授していく私。
「これで、零の彼氏もイチコロだ」
クスクス笑いつつ、何度もそんな事を言って からかうと。
零は、その度にポッと頬を染めて。
「そ、そうですか…」
照れながらも、嬉しそうに そう言った。

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2.

「…可愛いですね」
化粧の施しが済んだ草間を見て、感心して言う零。
うむ。確かに。意外と、イケるな…。こいつ。
でも、まだまだ。ここからが本番だ。
影の中に手を突っ込み、様々なものを取り出してはテーブルに乗せていく私。
ロングストレートのカツラ。
嫌味のない程度にフリルがついた、可愛らしいワンピース。
ハートのペンダントに、ブレスレット、ピアス。
「やる気、満々ですね」
影から出した それらを手に取りつつ笑う零。
私は影から手を抜き、腕を組み頷いて言う。
「やるからには、徹底的にだ」
化粧が、予想以上にキマッているから、
この服もカツラもアクセサリーも、確実に似合う。
確信を抱きつつ、手始めにアクセサリーを着けていく私。
ハードボイルド探偵に、ラブリーなハートのペンダント…。
それだけで、十分に笑い転げることができる。
笑いを堪える私と零の肩が、揃って小刻みに揺れた。
そんなこんなで草間を好き勝手に弄る内、私は不思議な興奮状態に陥ってしまう。
「よし。後は、服を着替えさせて完成だ」
そう言いつつ、草間の服を次々と剥いでいく私。
そんな私を見て、零は苦笑しつつボソリと呟いた。
「…何か、手付きが怪しいですよ。冥月さん」
零の、その言葉にハッと我に返る私。
目の前の草間は、既に下着姿。
自身の手には、可愛らしい女物の下着。
零のツッコミがなかったら、これすらも剥いで…。
「………」
何も言わずに、ただ頬を染める私。
何をやっているんだ、私は。
悪戯に夢中になりすぎだ。
まったく、みっともない…。
そうは思うも、ここまできたら止めるわけにはいかず。
私は誤魔化すようにバッとワンピースを手に取り、草間に着せる。
気恥ずかしさと、未だに治まらぬ若干の興奮に苛まれつつ。


そんなこんなで、ようやく完成…。
完全女装の草間武彦。
これは、もう二度と見られないだろう。
完成した草間の出来は…。
「か、可愛い……」
口元を押さえ、プププと笑いを堪えながら言う零。
可笑しくて笑っているんじゃない。
本当に、可愛いんだ。
ガタイが良いから、少しイカつい感じはあるが…。
それを省けば、完璧。
ストレートロングのカツラも、アクセサリーも、服も。
可愛らしい化粧にマッチして…すごく…。
「…撮ります?」
草間を見つつ、妙にときめいている私に、
零がデジカメを差し出して言った。
私はデジカメを受け取り、苦笑して。
「撮るしかないよな、これは」
そう言って、次々とシャッターを切る。
上から、右斜め下から…色んなアングルで…。
クックッと笑いを堪えつつ、
二人で撮り続ける、草間の姿。
まるで、眠り姫だ。
これ…蓮に見せたら、喜ぶだろうな。ぷぷ…。
我を忘れて、夢中にシャッターを切る。
それを繰り返していると。
「…んー」
突然、それまで微動だにしなかった草間が寝返りをうった。
「…!」
マズイ。そう悟った私と零は、パッと草間から離れて様子を見やる。
「ん…。ん…?」
フッと目を開け、頭を掻いて。
指に絡まる長い髪に奇怪な顔をする草間。
私は笑いを堪え、肩を震わせつつ鏡を草間の目の前に持っていく。
「………」
寝ぼけ眼でポーッと鏡に映る自身を確認する草間。
草間は、職業柄か寝起きが良く。
数秒で完全に目が覚める。
「んなっ…何じゃ、こりゃぁ!?」
興信所に響き渡る、草間の叫び声。

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3.

「お前ら…何て事すんだ…」
眉を寄せ不愉快そうに、且つ呆れて。
パシンとカツラを外して床に投げやる草間。
少し、やりすぎたかな…と不安そうな表情を浮かべ、
私の背に隠れて、草間の様子を窺う零。
怯える零に苦笑し、私はデジカメを草間に見せる。
「どうだ。良く撮れているだろう?」
「…げ」
美麗に映し出されている自身を見て、顔をしかめる草間。
「寄こせっ」
草間は慌てて飛びつくように、デジカメを奪おうとするが、
私はサッと立ち上がり、それを許さない。
「さぁて。どうしてくれようかなぁ、これ」
「寄こせって」
「アトラス編集部にでも持っていこうか。ある意味、怪奇現象だ。碇が飛びつくぞ」
「…勘弁してくれ」
「そうだ、零。こんなのは、どうだ?」
「は、はい…?」
「興信所の宣伝チラシに、これを載せるんだ。千客万来。脱貧乏も夢じゃないぞ」
「…んなワケねぇだろーがよぉ」
デジカメを持ったまま高みで笑い、
様々な提案を飛ばす私。
そんな私と、うな垂れる草間を見て、安心したのか。
零も立ち上がり、草間を見下ろした。
自分を見下ろす私達を見て、もう苦笑する事しかできぬ草間。
私は草間の前にしゃがみ、言う。
「返してやってもいいけど、ただで…というわけにはいかんなぁ」
不敵な笑みを浮かべ、チラリと零を見やる私。
すると零は楽しそうに微笑んで。
私の隣にしゃがみ、私と同じポーズをとった。
目の前に並ぶ、二つの不敵な笑み。
草間はガックリと肩を落とし、観念した。
「わかったわかった。わかったから」
「何が、わかったんだ?」
「そうですよ。何がわかったんですか?」
「………」
「ん?何だ?」
「何ですかぁ?」
「今度の日曜、どこでも連れてってやるから…勘弁してくれ」
小さな声で言った草間。
その言葉に私と零は顔を見合わせてニタリと笑い。
デジカメを草間の前にポンと置いて、二人で盛り上がる。
「楽しみだなぁ、零」
「はい〜。楽しみです〜」
「どこに連れて行ってもらおうか?」
「えっとー…えっとー…」


盛り上がる私達を恨めしそうに見やりつつ、
煙草を咥えて、大きな溜息を落とす草間。
あーあー…折角、可愛いのに煙草なんて吸っちゃあ台無しだ。
まぁ、煙草でも吸わないとやってられない状況なのは、わかるがな。
これ以上、お前を辱めるのは、さすがに少し不憫だから。
口には出さないでおこう。
言いたくて仕方ないが、言ったら取り上げられてしまうからな。
胸元を軽く撫で、眠り姫の姿が眠る携帯を密かに愛でる私。
永久保存、確定だな。っくく…。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/10 椎葉 あずま