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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


思い出になる前に

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0.オープニング

酔い潰れてなるものか。
コイツの目的は、ひとつだ。
絶対に、酔い潰れるわけにはいかない。
酔い潰れて…なるものか…。

「そ〜ろそろ潰れるかなぁ?」
視点の定まらぬ俺を見て、萌は不敵に笑った。

酔い潰れて…なるものか…。

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1.

カチャン―
「………」
チャイムを鳴らす前に、おもむろに引いてみた扉。
鍵が、開いている。
まったく、あいつは…。
銃を盗まれて間もないというのに無用心な。
呆れつつ扉を開け、室内へ踏み入る私。
玄関には、奴の靴に並んで小さな靴が。
萌…だな。こんな時間に、こんな所で何やってんだ。
疑問を抱きつつリビングへ向かう途中。
フワリと漂う…酒の香り。
まさか、酒盛りしてるのか。
ディテクターはまだしも、萌は未成年だろうに…。
キィ…―
リビング前の扉を開けて。
飛び込んできた光景に、私は唖然とした。
ソファに死人のように倒れこんでいるディテクターと、
その隣で楽しそうに笑う萌の姿…。
「何やってるんだ、お前達…」
眉を寄せて問うも、ディテクターは応答なし。
代わりに萌が、ニコリと微笑んで言った。
「冥月〜。いいとこに来たね。尋問中だよ」
「…尋問?」
首を傾げる私に、萌は説明した。
どうやら、この間ディテクターの銃が盗まれた件は、
IO2全体に広まった大きな事件だったようで。
まぁ、IO2エージェントの中でも実力のあるディテクターから、
銃を奪った奴がいる、と聞けば。
どんなに奴に興味がない者でも多少は気にかけるだろうからな。
事に萌は、何かとディテクターの周りをチョロチョロして、
ちょっかいを出してるものだから。
その話を聞いて、食いつかないわけがない。
けれど、萌が食いついたのは”銃を盗まれた”という失態ではなく。
盗んだ犯人から繋がる、ディテクターの”過去”の方で。
もういい歳なのに、女の気配をまるで感じないディテクターが、
過去に心から愛した女がいた、と聞いて。
いてもたってもいられなくなったそうだ。
まぁ、ディテクターも、ああいう性格だ。
聞かれて素直に答えるわけがない。
そこで萌がとった手段が…酒で潰して聞き出すという悪質な尋問方法だった。


止めたところで、聞く耳もたず。
それを悟った私は、阻む事なく。
ディテクターの向かいのソファに腰を下ろして、
二人の遣り取りの、傍観に回る。
尋問に使うには惜しい美味なる酒を舐めつつ、微笑みながら。
さぁて…どこまで本音を吐くのやら。

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2.

私が来た時点で既に潰れる間際だったようで。
傍観して間もなく、ディテクターはグッタリとうな垂れた。
今だ、とばかりに質問を開始する萌。
「ねぇねぇ、その彼女さんの名前は?何歳?」
萌の問いかけに、ディテクターは暫し沈黙。
僅かに残る意識が、そうさせるのだろう。
けれど、人間ってのは元々脆いものだ。
時に、こういう時の酒の威力は、凄まじい。
「…マリ。歳は…丁度…二十歳だった」
うな垂れながら、ディテクターは質問に答えだした。
一度、こうなってしまうと。もう後戻りは出来ない。
緩んだストッパーを元に戻す気力が、もはや完全欠乏しているから。
何を聞いても頑なに拒み続けたディテクターが、
ようやく漏らし始めた過去。
萌は小さくガッツポーズをして、
追い討ちをかけるように次々と質問を飛ばした。
彼女と出逢ったのは、いつ、どこで?とか。
付き合う事になったキッカケは?とか。
好きだとか言ってあげてたの?とか。
核心に触れる事から、
そんな事まで聞いてどうする、といったくだらない野暮な質問まで。
実に多種多様に…。


拒む事なく質問に素直に答えていくディテクター。
俯いている為、どんな表情なのかはわからないが。
口調で、十分に理解る。
どれだけ、彼女を大切に想い愛していたか。
酔っているからといって、ここまで素直に吐くんだ。
その位、誰でも理解る。
一通りの質問を終え、最初は満足そうに微笑んでいた萌だったが。
質問の嵐が止んだ後も、ディテクターが何度も呟く、
”あいつを護れなかった。愛していたのに”
という台詞に、みるみる表情が曇っていった。
もうどうにもならない悔いと、自分への苛め。
己を追い詰めるかのようなディテクターの姿に罪悪感を感じたのだろう。
萌は、ディテクターの背中を撫でつつ、
何度も”ごめんね。ごめんね”と繰り返している。
二人の遣り取りを傍観していた私は、スッと立ち上がり。
萌に歩み寄って頭を撫でながら告げる。
「いいんだ。これで」
「………」
今にも泣きそうな表情で私を見上げる萌。
ほんの出来心。お前の年齢的にも興味が湧いて当然の事だ。
自分を語らないディテクターの恋愛なんて、聞きたくなって当然さ。
事情を知らずに深く聞いて、
苦しめてしまって申し訳ない。
そう思っているんだろう。けれど。
「大丈夫。お前は、こいつの為になる事をしたよ」
「…え?」
「こういう問題はな。口にする事で心が軽くなるものなんだ」
「…そう、なの?」
「あぁ。銃を盗んだ犯人…恋人の妹とも仲直りしてるしな」
「…そうなんだ」
「立ち直るキッカケの一つになるさ」
酔っていて意識は虚ろでも。
こういう話をしていると、自然と醒めてくるものだ。
いつからかは把握し兼ねるが。
途中から、酔いとは関係なしに。想いを吐き散らかしていたに違いない。
感情を押し殺し、内に閉じ込める性格。
私に、とても似ている。
それ故にか。
想いを吐くディテクターを、私は優しい表情で見守っていたようだ。
仲間意識…なのかどうなのか、わからないが。
とても、他人事だと適当に聞き流す事なんて出来なくて。


依然、罪悪感に苛まれてヘコんでいる萌。
私は萌の頭をワシワシと撫でてクスクス笑いつつ言う。
「さっきまでの元気は、どこいった?」
私の言葉に顔を上げて、萌はジッと私の目を見つめて。返す。
「冥月も…何か、あったの?」
やけに落ち着いていたからか、
終始優しい表情をしていたからか。
萌は、何かを察して尋ねてきたのだろう。
私はフッと笑い、萌の額をピンと指で弾いて返す。
「秘密だ」

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3.

想いを吐き散らかし、グッスリと眠るディテクター。
普段からは想像もできぬほど、無防備なその寝顔。
私はクスクス笑いながらディテクターの頬を指で突付き。
携帯カメラに、寝顔を収めつつ言う。
「こいつの寝顔も、可愛いな」
私の言葉に萌は、ふと考え込んで。
暫くしてから目を丸くして。
「そ、そんなに男の寝顔見てるのか…?」
こいつの寝顔”も” と言ったのが悪かったか。
萌は深読みして、恥ずかしそうに言った。
寝顔、か…。
亡き、あの人の寝顔ならば。
数え切れぬほど見た。
子供のような寝顔で、見ていたさに暫く眺めていたものだ。
…そういえば。
あいつの寝顔も、案外可愛かったな。
とても心地良さそうで…って何考えてんだ、私は。
サッと目を逸らして、赤くなった頬を隠す私。
萌は、そんな私を見て大いに はしゃいだ。
「何赤くなってんのさっ!」
何度も、そう繰り返しつつ。
つられて、頬を赤らめて。


後日。
私は、とある少女を呼びつけた。
顔を合わせるのは、あの事件以来だ。
「あの…どうして私を呼んだんですか?」
不思議そうに私の顔を見やる少女…カナ。
あれから、そんなに時間は経っていないが。
この間とは、まるで別人だ。
表情のせいだろうな。
あの時と違って、とても柔らかく優しい表情をしている。
元々、可愛らしい顔立ちなんだ、
あんな追い詰められた険しい顔なんて、似合わない。
「これを渡したくてな」
そう言って私が、スッと少女に差し出したもの。
それはMDと、プリントアウトしたディテクターの寝顔写真。
MDは、あの想いの嘔吐を録音したものだ。
小型録音機で録っていたから、萌も気付いていないだろう。
「あの…これは…」
MDと写真を受け取り、一層不思議そうな眼差しを向けるカナ。
私は手を振り、その場を去りつつ告げる。
「何かあったら、それをネタにしてやれ。多少の我侭なら、喜んで聞いてくれるさ」
あれから、お前とディテクターが会っているのかは知らないが。
あいつの事だ。おそらく、会おうとしていないだろう。
不器用だからな。どう接していいか、まだわからないはずだ。
そして、お前も、似たようなものだと思う。
憎しみは消えたけれど、そこからどうすればいいのか、わからず動けずにいる。
ディテクターの寝顔を見た瞬間、
気まずそうな表情をしたのが、何よりの証拠だ。
まったく。揃って不器用なんだから、困ったものだ。
それは、そんなお前達に、贈呈するささやかな気配り。
話すキッカケには、十分過ぎる代物だろう?
部屋でゆっくりと。
その寝顔を眺めつつ、聞くといい。
奴の想いを。
そして歩み寄ってやれ。
あいつが歩み寄ってくるのを待っていたら、
いつになるか、わかったものじゃないぞ。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / ディテクター / ♂ / 30歳 / IO2エージェント

NPC / 茂枝・萌 (しげえだ・もえ) / ♀ / 14歳 / IO2エージェント NINJA


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/17 椎葉 あずま