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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


想人鏡

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0.オープニング

想い人を映す鏡。
何の為に、そんな効果をもたらしたのか。
さっぱりわからないが…。
いつも店に来る常連に。
事の真相は告げずに鏡を覗かせてみよう。

面白いものが見れそうだ。

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1.

カランカラン―
「邪魔するぞ」
店内に入り、ツカツカとカウンターに向かって歩く私。
相変わらず、暇そうだな。
まぁ、現在は正午。
この店の繁盛は夜らしいから、
時間的には、暇真っ盛りな時かもしれんが。
それでも、その退屈そうな姿を見ると。
どうにも他人事ながら不憫になってならない。
カウンターで頬杖をつく蓮を見やり、私は言う。
「何か、新商品は入ったか?」
「…何だい、その憐れみの眼差しは」
憐れみたくもなるだろう。
そういう眼差しを向けられるだけマシだと思うがな。
フゥと息を吐くと蓮は肩を竦めて苦笑し。
「これなんかどうだい。綺麗だろう?」
カウンター上に乗る鏡を示して言った。
なるほど。それが新商品か。
まぁ、買う気は更々ないが。
今回は、どんな曰く付きだ?
ヒョイッと鏡を覗き込む私。
すると。
ボンヤリと鏡に懐かしい顔が浮かび上がった。
「な…」
食い入るように鏡を見つめ、言葉を失う私。
鏡に映る、その人物を確認した蓮は目を丸くして。
「…おやまぁ」
妖しく微笑んで、私を見やった。
「な、何だ。その目はっ」
たじろぎ、咄嗟に鏡からパッと目を離す私。
けれど。
懐かしい、その顔に心が惑わないわけもなく。
私の視線は、再び鏡へ向かう。
「それは”想人鏡”って代物でね。覗き込んだ人物の想い人が映し出されるんだよ」
私を見やりつつ愉快そうに言う蓮。
想い人を映す鏡…なるほど。
その事実を聞いた私は、妙な安心感に包まれた。
映し出されたのが、懐かしく愛しい人物で…ホッとしたのだ。心のどこかで。


見入る、懐かしい顔。
僅かに微笑を浮かべる、あの何ともいえぬ優しい表情。
まさに、彼そのものだ。
こんなところで、こんな形で。
まさか、あなたに”逢える”とは。
思ってもみなかった…。
口から漏れてしまいそうになる、彼の名前。
呼びかけても。返事はしないのに。
それでも。抑えきれなくて。
「………」
ポツリと小さな声で呟く、彼の名前。
何年ぶりだろうか。彼の名前を口に出したのは。
いつだって、心のどこかで想ってる。
名前を忘れるなんて、あり得ないこと。
そう、いつだって口に出す事はできた。
けれど、呼んだところで。あなたは、いない。
泣いて、求めても。困らせてしまうだけ。
だから、いつしか。
私は、あなたの名前を呼ぶのを。
呪文のように呟くのを止めた。
いつからか、思い出せない程、昔の話。
久方ぶりに口にした彼の名前は、私の心を惑わせて。
弱く、脆くしてしまう。
「…っ」

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2.

込み上げる涙を必死に堪え、唇をキュッと噛みしめる私。
そんな私を見やり、蓮は苦笑して言った。
「あんたが、あの男以外に、そんな顔するなんてね。それ、誰だい?」
蓮の放った言葉に過剰に反応してしまい、
ギクリと揺れる肩。
まるで、恋人の前で、あんたの浮気現場を発見したよと報告されているかのような感覚。
そんなつもりはないけれど。
動揺してしまって。その心に反応するかのように。
鏡に映し出された、あの人がフッと消えてしまう。
「あっ…」
切なくなり、思わず鏡に駆け寄る私。
すると鏡に、再びボワッと浮かび上がる…が。
それは、あの人ではなくて。
見慣れた、眼鏡のヘタレだった。
「んなっ、何でっ…」
後退りし慌てふためく私。
蓮はケタケタと笑って言った。
「やっと出たね」
やっと、って何だ。その言い方。
まるで、こいつが出るのが当然みたいな。
折角…折角、久しぶりに顔が見れたのに。
写真も、何もないから。
あの人の顔なんて、記憶の中でしか見れないのに。
どうして、こいつが出てくるんだ…っ。
疑問と不満に苛まれ、鏡を見えない位置にずらす私。
すると。
『私は、この人を愛してる』
鏡が、一人でに喋りだした。
私と、まったく同じ声で。
「なっ…何だ、これは」
眉間にシワを寄せて肩を震わせる私。
何故、震えているのか…それは、理解らない。
けれど、それは怒りの類じゃない。
もっと別の、そう…戸惑いのようなもので…。
RRRRR―
軽いパニック状態の中、追い討ちをかけるように店の電話が鳴り響く。
何だ、誰だ こんな時にっ。などと理不尽な文句を抱くも。
「はいはい?…っと、あんたかい。タイミング、良すぎだねぇ」
蓮の、その言葉にヒッと肩が竦む。
電話をかけてきたのが、誰だかすぐにわかったからだ。
何だって、こんな時に電話なんてしてくるんだ。あいつはっ…。
や。そんな事より。もっと重要な事がっ。
『私は、あなたを愛して…もがが…』
バッと鏡を覆い隠すようにして声を塞き止める私。
この鏡め。電話をかけてきたのが奴だと判断したのか、
”この人”から”あなた”に変えやがった。
ただの妙な鏡じゃない。
恐らく、こいつも妖の類なのだろう。
悪戯好きで厄介な。
「っくそ…蓮、電話を寄こせ!」
鏡を抱えたまま飛びつく私。
すると蓮はヒョイッとそれを避けた。
「っとと…」
フラリとよろめく私。
緩んだ腕元。
口を塞がれる事から解放された鏡は。
ここぞとばかりに大声で叫んだ。
『私は、あなたを愛してる!!』
「うわぁぁぁ!!」
再び鏡を覆い隠す私。
もはや、電話の向こうの奴には完全に聞こえているだろう。
先程の恥ずかしい台詞も、この私のパニックぶりも。
もう、どう足掻いても無駄だ。
そう悟った私はバッと蓮から受話器を奪い告げる。
「あ、あのな。これは蓮の馬鹿商品がだなっ…」
必死に説明しようと試みるも…。
『ぶくくくくく…』
電話の向こうの草間は、笑うばかりで聞いてる気配がまったくない。
「っ…き、聞け!」
戸惑いながらも叫んで願うも、それも無駄な事で。
諦めかけてガックリと肩を落とすと、蓮は受話器を奪い返して。
草間に、ありのままを告げてしまった。
覗き込んだ人物の想い人を映す鏡の事を…。
「でもねぇ、あんたが映る前に、あんたと同じ位の歳のイイ男が出たんだよ」
蓮の偽りのない、その報告にビクッと肩が揺れる。
俯いていると、蓮は苦笑しつつ受話器を差し出して言った。
「代わってくれってさ」


おそるおそる受話器を受け取り、息を飲む私。
『イイ男が出たんだって?』
電話の向こうの草間は、あからさまに不機嫌そうな声。
私は躊躇いつつも、必死に誤魔化そうとする。
「だから、それは…」
誤魔化しきれていない。まったくもって、できていない。
それは理解る。嫌な程。
だからこそ余計に焦ってしまい、言葉がうまく操れない。
戸惑い躊躇い、どうしていいかわからず困惑するばかりの私に。
草間は呟くように言い放った。
『お前にとって俺は、そいつの代わりでしかないんだな。いつまで経っても』
その言葉と口調の冷たさに、サッと引く血の気と意識。
自身を制御する事が出来なくなった私は、
ポロポロと子供のように涙を零して。震えながら。
「貴方も、あの電話の妖と一緒なの…?苛めないでよ。私に…どうしろっていうのよっ」
そう吐き捨てて、受話器を蓮の胸に押し付け、
逃げるように店を去った。
溢れる涙の理由がわからなくて、
どうして、あんな事を言ったのかもわからなくて。
わからない事だらけのまま。
夕焼けが綺麗な空の下を、駆けて。

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3.

「…まぁ、何ていうか。ご愁傷様」
苦笑しつつ慰めると、電話の向こうで奴は呟いた。
『…気遣い、ありがとさん』
まぁ、あの子に何を言ったのかは知らないけどさ。
あの子の、ああいう弱々しいところ。
最近、よく見るようになったよ。
あたしが深く突っ込んだり、何かを差し向けたりするからかもしれないけどね。
けれど、ちょっと前なら。
あんな風に我を忘れて泣いたりしなかっただろうさ。
元暗殺者って肩書きもそうだけど、
元より、あの子は自分の感情を隠すのが上手な子なんだ。
けれど、最近、それが出来なくなってきている。
これが、どういう事か。
わからない程、間抜けじゃないだろう。あんたも。
「焦りすぎなんじゃないのかい。あんた」
『…そうなのかなー』
「端から見てて、そう思うよ」
『わかっちゃいるんだけどな。…どうにもカッとしちまって』
「それだけ、あの子を想ってるって事だろうけどね」
『まぁなぁ…』
「一方的過ぎるんだよ、あんたは」
『………』
「一度、話し合ったらどうだい。ちゃんと」
『…話してくれっかなぁ』
「話せるようにするのが、あんたの役目だろ」
『…ごもっともで』


面白いものが見れそうだと思ったのは本音。
けれど、最近…弄って遊ぶって事が出来なくなってきてるね。あの子。
そろそろ、限界なんじゃないかね。
私がどうこう言える問題じゃないけれど。
結局、どれだけ忠告やアドバイスをして促しても、
二人の問題なんだから、二人が向かい合って話さないとね。
どうにもならないのさ。
私は苦笑しつつ、想人鏡を棚に戻す。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/17 椎葉 あずま